April 19, 2017

9.1CH没入感サラウンド音楽制作 - A.Piazzolla by Strings and Oboe

UNAMASレーベル「UNAHQ 2011 A.Piazzolla by Strings and Oboe
没入感サラウンド9.1CH制作

By Mick Sawaguchi UNAMASレーベルC.E.O
はじめに

UNAMASレーベルの9CH没入感サラウンド表現への取り組みは、2014-06にリリースした「Four Seasons」から本作で6作目となります。毎回異なったハイト・チャンネルのマイキングを行うことで、様々な高さの情報が持つサウンドの違いを検証することができています。2016年にケルンで行われたドイツ・トーンマイスター・コンファレンスでも大きな話題は、没入感サラウンドとバイノーラル・コーディングによるサラウンド再生環境への取り組みでした。
本作は、タンゴの異端児「踊れないタンゴ作曲家」と言われたA.ピアソラの名曲をストリングスとオーボエでアレンジしたアルバムで192-24 9.1ch制作した舞台裏を紹介します。


1アルバムコンセプト

UNAMASレーベルは、個人経営のブティックレーベルですので筆者が企画から制作まで稟議書をかいくぐることなく実現できる点が大きな強みです!!
今回は、2016年6月にリリースした「Death and the Maiden」の次回作として以下のようなコンセプトで取り組みました。
2016年に、Astor Piazzolla生誕95周年を迎えました。元々JAZZの好きな私は、彼の音楽からタンゴの伝統を踏まえながらもヨーロッパのクラシックとニューヨークで過ごした子供時代のJAZZのエッセンスが融合した「SOUL」を感じるのです。JAZZが元々ダンスの伴奏やクラブでのBGMとしてスタートしその後独立した鑑賞のための音楽へと発展したように、きっと彼もタンゴの昇華を追求した結果、現在でも聴く人に「SOUL」を与えているのだと思います。

Piazzollaの音楽は、華麗さよりも力強さが必要だと考え、まず表現に最適なレコーディング場所を探すことから始めました。これまでのクラシック・ジャンルの録音は、軽井沢・大賀ホールをホームベースに実施していますが、本作では、あまりに華麗なサウンドになるのではないかと思い、まず候補に浮かんだのは、2010年7月の深町純UNAHQ 2003REIMEI」でピアノソロをレコーディングしたNihon Onkyo Engineering Sound Lab (AGS studio)です。実現すれば6年ぶりとなります。ここは、柱状拡散体AGSという「森の響きを再現する」目的で開発されたディフーザーを全面に採用した研究施設で録音スタジオではありませんが、力強いサウンドが必要な場合に優れた録音結果を得ることができます。Piazzollaのタンゴは、リードがバンドネオンですがUNAMAS流でそれを実現するために彼の楽曲を弦楽アンサンブルとリードにObを起用し、楽曲によってはVnもリードを担当する構成としました。

UNAMAS A.Piazzolla Septetの皆さん



Vnリード曲
Premavera Portena
Liber Tango
Tanguedia
Fugata
参加アーティストは、
Vn:竹田詩織
Vn:田尻順Va: 大角彩Vc: 西谷牧人Vc: 小畠幸法Cb:北村一平の皆さん。

                  Obリード曲
Oblivion
Adios Nonino
Soledad

Ob荒木奏美
Vn:田尻順Vn: 竹田詩織Vc:西谷牧人Vc: 小畠幸法Cb: 北村一平の皆さん。







というSeptetです。大賀ホールでのクラシック・シリーズとは異なる力強さがこのスタジオでどのように反映されるのかが、レーベルとしても大きな挑戦となったアルバムです。Piazzollaのオリジナルスコアーがなかなか完璧に残っていない状況ですのでアレンジの土屋氏は、現存する色々なスコアの収集や時にはオリジナル楽曲からの耳コピーで仕上げてくれました。


2 実現のためのTECHNOLOGY

UNAMASレーベルが現在導入しているメインシステム構成は、本作でも同様でデジタルマイクをメインマイクとし、アンビエンスやハイト・CHをアナログマイクとしてスタジオ近傍に設置したRME-デジタル・アナログマイクプリから光MADIケーブルで16CH分をモニタールームへ伝送し、そこでMADI信号を2分配しメインDAWA Pyramix ver10MAGIX Sequoia DAWで録音という系統です。また2016年リリースしたUNAHQ 2009Death and the Maiden」から導入したオールバッテリードライブやEMCノイズ対策や機材の防振も同様に行っています。



今回は、AGSが全面に設置された空間で弦楽器を録音するということで
Nihon Onkyo Engineeringの崎山さんをはじめとした皆さんのアイディアでアクリル反響板を周囲に設置していただき高域の響きを補強していただきました。








3 収録モニタールームとハイトマイキング

いつもの楽屋室の改造モニタールームと異なりここには専用のモニタールームスペースがありますのでモニタリングも実に快適、正確に行えました。





今回の音響条件は、大賀ホールとは異なり豊かな響きがハイトCHで再現できるわけではありません。スタジオ空間でのハイトCHをどうとらえようかと検討し、天井ぎりぎりまでスタンドをあげてそこへSANKEN CUW-180 XYペアを左右にセットしました。ハイトCHだけを聞けば、ホールに比べてドライなサウンドですが、MIX時に少し4CHリバーブ(FLUX IRCAM VERB 3)を加えました。

4 MIXからマスターまで

編集が終わりますとリリースフォーマットに応じて
*2CH(通常の2CHMQA 2CH
*5.1CHサラウンド
*HPL-9Auro3Dサラウンド
*MQA-CD

そして今回は、世界初のMQA-CDもOTTAVA RECORDからリリースとなりました。
RED BOOK規格で44.1KHzの整数倍に当たるハイレゾマスター音源がCD-デジタルアウトにMQA-デコーダを接続すればハイレゾ音楽がCDディスクから再生できるのは、まさに驚きで「OLD BOTTEL NEW WINE」を実感しました。



各MIXは、別々のPyramix編集画面を設定しそれぞれに最適なMIXを行いますのでいわゆるDown MIXは使用していません。

あとがき

PCM記録とTPについて
Pyramix v-10からFinal Checkというラウドネスやダイナミックレンジ、そしてデジタルPCM記録では、歪みの防止に有効なTP(ツルーピーク)の表示などが2CH5CHMIXでモニターできるツールが導入されました。
現在AES Recommendations AES TD 1004.1.15-10 の勧告でストリーミング音楽配信やインターネット音声の運用企画が出されていますが、この中でもTP=-1.0を 上限としています。この勧告に適合させるとこれまで筆者などが行っていたMIXのピークレベルは-1.4dbほど低くしないとTP overとなってしまうことがわかりました。参考にJ-POPや他社レーベルの様々な音楽をこれでチェックしてみましたがハイレゾ・クラシックなどでもTP=-0.2といったMIXも見られています。

本作は、2016-12月に2CH/5CHサラウンド版を、そして2017年1月にHPL-9MQA版をリリースしました。また2017年1月よりドイツを拠点としてハイレゾ配信サイトHRAでワールドワイド配信も実現することができました。
リスニングの環境は、SPOTYFYI-TUNE MUSIC からTI-DALNATIVE DSDそしてリニアハイレゾ配信やヘッドホンリスナー向けなどめまぐるしく変化しています。マスター音源の多様性は、これからも拡大していくと思います。



February 6, 2017

第94回 サウンドイン・スタジオのサラウンド配信の実情とその背景


by Mick Sawaguchi  サラウンド寺子屋塾主宰


講師:浜田純伸
日時:2016年9月28日(水)
場所:シンタックスJAPAN 5F


沢口:前回のサラウンド寺子屋塾ではHD-Impressionレーベルを立ち上げた阿部さんの講演を行いましたが、今回は、音楽スタジオ・サウンドインが立ち上げたハイレゾ・配信のためのサウンドインレーベルでサラウンド制作を行っている浜田さんの講演を9月28日(水)シンタックスJapan mExLoungeにて開催した内容をレポートします。今回も会場を提供いただきましたシンタックスJAPANの皆さんへ感謝申し上げます。


プロフィール:浜田純伸 (株)サウンドイン・スタジオ  録音部長

1984年九州芸術工科大学(現、九州大学)芸術工学部音響設計学科卒業。
学生時代の専攻である空間音響を具現化すべく、映画を始めとしたサラウンド作品を数多く手掛ける。特に作曲家久石譲に関しては、宮崎駿監督作品、北野武監督作品など数多くの作品において録音を担当するなど、長年にわたりその制作活動を支えている。最近では、サウンドクリエイターREVOが主催する音楽集団”Sound Horizon,Linked Horizon”等の活動において録音を担当、また、ゲーム、TVドラマ、映画など、映像と関わる音楽の制作に多く参加している。2014年、サウンドイン・スタジオに入社後、自社レーベル”Sound Inn Label”主宰。その全作品においてミックスを担当。2chのみならず5.1chサラウンドでもハイレゾ配信を行っている。
現在、株式会社サウンドイン・スタジオ技術部長。学校法人HAL東京講師。日本ミキサー協会監事。日本音響学会会員。

浜田:みなさんこんにちは。本日は、サウンドイン・スタジオが取り組んでいますハイレゾ・配信レーベルの現状と私がサラウンドにどう取り組んできたのかを紹介したいと思います。


本日の内容は、
パート−01で私の経歴とサラウンドに関わるきっかけを述べ、
パート−02では映画音楽とサラウンドの取り組みについて、
パート−03では現在のサウンドインレーベルの現状について

紹介したいと思います。

最初にハルモニア アンサンブルの合唱曲「コンダリラ」を再生します。
再生−01



合唱曲には、シアターピースと呼ばれる、空間を利用した楽曲が多く、特に宗教音楽では、教会の空間を活かした立体的な音場を前提にした曲が中世からあります。このアルバムは、サウンドイン・スタジオでの録音で合唱の各パートに設置したスポットマイクとサラウンドメインマイクの組み合わせで仕上げています。





パート−01 経歴とサラウンド制作へのきっかけについて


私は、1980年に当時の九州芸術工科大学へ入学し、北村音壱先生の空間音響という分野に魅了されました。1981年に64CHの立体音響スタジオというのがあり、これをどう使っていけばいいのかを研究するために「空間音楽研究会」という部活を作り、取り組みました。


この原点になったのが1970年に企画された立体音楽堂プランだったと先生からお聞きしています。

参考にこの時に制作した6CHの音楽から、今日は、4CH再生でデモします。楽曲は、S.ライヒの「PHASE」というシリーズにヒントを得て、1台のピアノ演奏を組み合わせたものです。

再生−02 New Phaseより
ここで私が、興味を持ったのは、モノーラルの音源が4CHから再生されるだけですが、空間内で合成された時にできる和声のサウンドに興味を持ち、以来宗教音楽や声明といった分野に注目するようになりました。

パート−02 映画におけるサラウンド音楽制作



卒業後にっかつスタジオセンターへ入社し、ここで映画における音楽制作というジャンルを経験することになります。当時フロント3CHリア2CH5CHモニター環境が備わっていた関係で、Dolbyステレオ方式によるアナログマトリックス3-1方式のサラウンド音楽制作に関わることができました。現在のディスクリート方式に比べれば様々な制約もあり、特に音楽サラウンドでは、マトリックスエンコード・デコードによる制約からなかなか思うような空間ができなかったという経験をしました。この時にレベル差だけによる定位でなく時間差も利用したマイキングがサラウンド音楽では、有効ではないかというヒントを得ました。

その後映画音響もアナログマトリックス方式からデジタル・ディスクリート方式になり、自由な定位を作ることができるようになりましたが一方でアナログマトリックス方式の欠点でもあったクロストークの多さが、逆に空間再生に寄与していたのではないかということも気づかされ、新たなマイキングを検討する時代になりました。ここで映画音楽のサラウンドを幾つか再生します。



再生−03 ハウルの動く城。崖の上のポニョ
ハウルの動く城・ポニョ・風立ちぬ・を再生します。いずれも私が永年録音を担当している久石讓さんの作曲です。
この当時は、サラウンド全チャンネルを使い切る、そしてLFE CHはどう使えばいいかを模索した時代です。

再生−04 かぐや姫の物語
この当時は、前作のような模索からL-C-Rのフロントメインでリアはアンビエンス程度というオーソドックスな空間としています。



再生—05 未公開映画より
これはスタジオ録音の例として紹介します。録音は、ビクター青山スタジオ301をフルに使ってオーケストラスケールで録音しています。スタジオの場合は、ホール録音と異なり、広さの制約などから想定したサラウンド空間を前提にしたマイキングや配置ができにくいので、MIX時には、空間表現のための工夫が必要になってきます。


パート−03 サウンドインレーベルとハイレゾ配信

経歴でも述べましたように2014年にサウンドイン・スタジオに移籍し、何か新規事業を展開したいと思いハイレゾ配信をスタートさせました。この前提は、サウンドイン・スタジオで録音制作を行い、基本はサラウンドも視野に入れたマスターを制作しリリースするというコンセプトです。現在までで13アルバムをリリースしました、年内で15作をリリース予定です。今後は、月1アルバムのペースで制作しタイトル数を増やしていこうと思っています。


みなさんの参考にビジネスという点から見てハイレゾ配信は、どんな現状かといえば、同じアルバムをCD販売した場合の配信は1/10といった割合です。まだまだビジネスという点からは、厳しい現状ですが、諦めないで継続して取り組んでいきたいと考えています。では幾つか再生します。





再生—06 JAZZ 林正樹トリオよりHeatstroke
スタジオで3人がopenな配置で録音したものです。



再生−07 明日へ 
ビオラ奏者の萩原薫さんのアルバムから再生します。



ピアノとクリスタルボールによるデュエット録音です。クリスタルボールの出すサウンドが、実にサラウンドに向いていると思い制作したアルバムでヒーリング系のリスナーの方々から支持されています。

再生−08 ト長調ミサ曲—キリエ・サンクトゥス



ハルモニアアンサンブル プーランク宗教曲全曲より再生します。これはサラウンドMIX2CH MIXを用意しましたので聴き比べてください。
こうした楽曲は、空間再現という点で、サラウンドの表現が有効だと感じています。





沢口:浜田さん、ありがとうございました。では参加の皆さんから質問などあれば、お願いします。


Q-01 どこで入手でき、どんなフォーマットでリリースしていますか?
A:ハイレゾ配信としては、e-onkyo musicからのダウンロードです。フォーマットは基本96-24wavまたはflacそしてe-onkyoTruHDにして配信しています。

Q-02 録音のフォーマットは?
A:現在までは、96-24を基本にしてきましたが、近作では192-24も採用しています。この選択は、使用チャンネルが多いとか使用するプラグインの対応などで決めています。

Q-03 ハイレゾでは時間分解能が良いというお話がありましたが、何か先行研究といったものはありますか?
A:個人的な経験から時間軸分解能が優れていると感じていますが、研究レベルのところはあまり詳しくありません。今日参加の濱崎さんなどは、何か情報がありますか?
A:今年春のAESパリで、これまでのハイレゾ研究を総括した論文が出ましたが、これも実験方法や年代など統一した実験結果ではないので今後統一した評価事件の方法を確立しようという動きがありますが、学術的な研究はこれからといったところです。

Q-04 2CH5CHMIXを経験してどんなところに相違があると感じていますか?
A:奥行き感や空間の表現にサラウンドは優れているという感触です。開放感もサラウンドでは優位な点だと思いますのでこうしたメリットを生かした音楽をサラウンドで制作していきたいと考えています。

Q-05 アーティストや作曲家はこうしたサラウンド制作にどう関わっているのですか?

A:2タイプありまして、音楽を2CH前提で考えている場合は、主に定位やリバーブを重視し、サラウンドを前提に考えている方は、空間をどう表現するかに関心を持っています。

沢口:浜田さん長時間ありがとうございました。(拍手)