September 30, 2015

第92回サラウンド寺子屋 ハイト・サラウンドへの可能性 - 名古屋での最新サラウンド制作

                                      by Mick Sawaguchi

92回目のサラウンド寺子屋塾は、8月の恒例となりました、名古屋音ヤの会の呼びかけで開催されました。今回のテーマは、9月11日から13日まで開催される“AESジャパンコンファレンス2015名古屋”のテーマでもある3D-AUDIOについて現在名古屋で取り組んでいる制作や実験の現状を中心に開催されました。

日時:2015年8月6日 テレビシティ MAスタジオ
講師:夏原  拓朗  () テレビシティ
斉藤  元  () 東海サウンド
日比野正吾 () CTV  MID ENJIN 
林  和喜  名古屋テレビ放送 ()
Mick Sawaguchi UNAMASレーベル 沢口音楽工房
司会進行:  安藤 正道 () CTV  MID ENJIN







安藤:みなさんこんにちは!“名古屋音ヤの会”の安藤です。今年は、来月開催されます“AESジャパンコンファレンス2015名古屋”を前に多忙な中、名古屋での3Dオーディオに対する取り組みをテーマに開催することができました。

これもひとえにテレビシティの夏原さんの熱意によるおかげです。夏原さんが制作したフィールドロケーション映像「Try Height!!」という9CH制作ビデオと同じ映像を既存素材だけでデザインして9CH MIXしたデモをメインに、加えて今回は、メ~テレがこの夏制作した「高校野球愛知大会決勝」のサラウンドと、中京テレビの「THE ICE 2014」の素材を使ったハイト・サラウンドの実験、そして塾長のUNAMASレーベル最新作「The Art of Fugue」の9CH制作デモという内容です。では、はじめにメ~テレの高校野球愛知大会決勝のサラウンド制作について、林さんから解説とデモをお願いします。


1 高校野球愛知大会決勝のサラウンド制作
林:メ~テレの林です。メ~テレでは、高校野球を2005年からサラウンドで制作しており今回で10回目となります。例年と異なり、球場工事のために屋根の上にサラウンドマイクを設置できなかったため、スペースに制約のある屋根の下に設置しています。
マイク配置図で説明します。

昨年まで使っていたW-MSに変わり今回は、CSS-5L-Rにしてリア用は、ECM-77 × 2という組み合わせの4CHサラウンドにしています。各スポットマイクも図を参照してください。
   




今回は、新たにベンチ用にMKH-416を設置しましたが、これは制作からも好評でした。

ラウドネスについては、サブ受けで管理し、CMNHKさんとのラウドネスを違和感ないようにしています。ダウンMIX係数は、-3dbで実施。映像・音声は、IS素材としても使うのでセンターCHは、ハードセンターとしています。
では、映像を再生します。

安藤:林さん、どうもありがとうございました。では、今回のメインテーマとなりますハイト・サラウンドへの取り組みについてテレビシティの夏原さん、そして同じ映像に既存音声素材で作りこむサウンドデザインを行った場合の検証につて東海サウンドの斉藤さんからお願いします。
夏原さんは、この実験制作のために9CH再生環境を設置したという力のいれようです。


2 9CHハイト.サラウンドデモ「Try Height!!」の制作とデモ

夏原:テレビシティの夏原です。今回「Try Height!!」という9CHサラウンドのための映像を制作し、9CH音声は、すべてフィールド録音しました。現在没入感サラウンドの実現方法としては、Dolby社の提唱するDolby Atmos、ベルギーのAuro3D、アメリカのDTS X-1、そしてNHKの提唱する22.2CHなどがあります。

ハイト・チャンネルをどう使えば有効なのか?は、実際にやってみるしかないと決断して今回制作してみました。



映像は、サラウンドの基本デザインとなる6つのデザインを体験できるようなシチュエーションを想定しています。

9CHの構成は、ベースとなるチャンネルが、5.1CHでそれにハイト・チャンネル4CHを加えた9.1CHとしています。モニターレベルは、76db/chで調整しています。



各デザインにふさわしいフィールド録音は、以下のロケーションで実施しました。

️飛行機の頭上通過
️森
️流れ
️足音
️体育館でのバレーボール
️地下駐車場

2-1録音機材の構成と録音場所について
単独行動なのでマイクスタンド1本につきベースとハイト用のマイクが取り付けられるような工夫を考え、X-Y方式とオムニ方式で音場にどういった違いがあるのかも、検証してみました。名付けて「QUAD-XY」「OMNI-CUBE
個人的にQUAD-XYでは、定位の明快な3D音場ができ、OMNI-CUBEでは、空間再現に立体感を感じる音場ができたのではないかと思います。







 体育館でバレーの収録を行いましたが、足音がハイト.チャンネルにも飛び込んできますので、こうしたシチュエーションでの高さの距離は、かなり高くするか、ハイト.チャンネルは単独でさらに高い位置へ設置するといった工夫が必要なこともわかってきました。「もっと高く!」というキーワードそのものです。

ロケーションの最後は、地下駐車場での録音でここでの再現音場は、もっとも私が、気に入った3D音場が出来上がったと思っています。



2-2使用した9CH音楽について
映像では、9CH MIXした音楽も2曲使用しました。一つは、名古屋芸大の長江先生が録音した飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラの9CH録音です。


写真でもお分かりのようにメインマイクと別にハイト用のマイクも4CHで設置され録音されておりメインマイクとの距離差は、1.8mとのことです。今回の「Try Height!!」には、まさに最適でした。






もう1曲は、やはり在名古屋の大坪さんの作曲、制作による楽曲を9CH RE-MIXして使用しました。


お二人のご協力に改めて感謝申し上げます。











2-3 まとめ
今回初めて映像からサウンドまで一人で制作してみましたが、ハイト・サラウンドが持つ可能性に大いに挑戦意欲が高まったといえます。
ハイト・サラウンドの可能性については、TAC INFOにも塾長が以下のように述べています。


次回は、ぜひ実際の仕事でこの3Dサラウンドを実現してみたいと思います。では、制作したデモ作品「Try Height!!」を再生します。(TryHeight VIDEOは、以下のリンクから視聴できます。http://kazuyanagae.com/20150810TryHeight!.mov






安藤:
夏原さん、すばらしい挑戦作ですね。映像もCGもテロップも全てを一人でやったと聞きまして、一層感動しました。では、この同じ映像に全く初めから既存音声素材を使って9CH デザインして比べてみようという挑戦作を制作しました、東海サウンドのサウンド・デザイナー斉藤さんからお願いします。


3 「Try Height!!」の既存素材だけによるサウンド.デザイン

みなさん、こんにちは。東海サウンドでサウンドデザインをやっています斉藤です。


私の方からは、夏原さんが制作した「Try Height」映像に同録やフィールド9CH音声素材を使うのではなく、ライブラリー音声を使って、どういったアプローチができるかを検証した結果を報告したいと思います。

私が、今回やってみたかったことは、
 



といった点を検証してみたいと思いました。また実際のワークフローにおいては以下のような点に留意しました。




今回用意した素材の分類は、以下のようになります。







 意図的な効果音については、以下のようになります。





 こうして各素材が揃った時点で以下のような流れで制作を行いました。
トラックとしては、114トラックとなっています。



Final Mixは、ここテレビシティで夏原さんとMIXを行っています。完成した9CH MIXを振り返って言えることは、以下のようになります。



使用するレイヤーが多くなるので素材のS/N比が良い素材が重要です。

私も、今回初めてハイト・サラウンドをデザインしてみましたが、サウンドデザインという立場から表現の拡大が可能な方式だと思いました。
なにかこれを仕事に結びつける機会も探っていきたいと思った次第です。
では、サウンドデザイン版「Try Height!!」を再生します。

安藤:
斉藤さんどうもありがとうございました。斉藤さんは、東海サウンドの中でも澤田さんと並びもっともサラウンドの経験豊富なデザイナーですが、そうした経験が、9CHMIXに十分反映できるという前向きなコメントが聞けて私も安心しました。
2人のアプローチについて質問があれば、お願いします。



Q-01:
LFEを作るのは、どうしたのですか?
A:DBX社のサブハーモニックシンセサイザー120XPを使いました。
Q-02
どんな違いを感じたか、皆さんからのコメントをお願いします。
A:
自然さという点でオール・ロケーションにメリットを感じましたが、表現という点では、デザインした音場にインパクトがあったと思います。
包まれ感は、フィールド録音のほうが大変よくわかりました。
名古屋でこれだけできるのだという勢いを感じました。

Q-03デザインした時の「上下の包まれ感」の表現はどうやったのですか?
A:
できるだけ同じようなアンビアエンス素材を使っています。それでいけると思いました。



安藤:では次に、弊社 CTV  MID ENJINの日比野から、9CH MIXを紹介します。彼は、夏原さんの制作した「Try Height!!」に刺激されて急遽“THE ICE 2014”の素材を使って9CH MIXを行ったという経緯です。

THE ICE 2014”のマルチチャンネル録音素材を使ったハイト・サラウンド

CTV  MID ENJINの日比野です。


ハイト・サラウンドに感動したのは、昨年のNHK名古屋で行った「サラウンド寺子屋塾2014 in名古屋」でNHK名古屋(現:渋谷放送センター)チーフエンジニアーの緒方慎一郎さんが制作した“秋の高山祭り”22.2CHデモです。他にもソチオリンピックでのフィギュアスケートの会場の雰囲気が素晴らしかったと思います。もう一つは、昨年のInterBEETC-グループジャパン社がデモした9CHサラウンドで入交さんの音源を聴いて、立体的な音場の再現に感動しました。それで機会があれば9CHMIXをやってみたいと考えていましたが、今回ちょうど良い機会ですのでTHE ICE 2014の素材で実施しました。昨年のTHE ICE 2014は、会場トラスからサラウンドマイクを設置していましたので、ハイトの音が有効に使えるのではないかと思ったからです。この仕上げは、仕事の合間をみて半日で仕上げています。



マイクは、図に示すようにトラス設置したメインマイクと各スポットマイクがあります。トラス設置したマイクは、間隔が20mあり空間を捉えるには、十分な距離です。これらをどう9CHに配置するかを事前に考えてからMIX ROOMに仮設で4CH分のスピーカを設置しました。中京テレビMAルームのSTUDER VISTA-7のメインバス5.1CH+AUXステレオバス×2でハイトCHとしてそれぞれに配置しました。モニターレベルは、78db/CHです。天井からのPAは、ハイトCHとし、各SPOTマイクはメイン・ミッド・トップの3層に振り分けました。センターは、解説のみです。




MIXしてみて感じたのは、次回会場の反射音を捉えるようなマイク配置も検討してみると有効かなと思いました。ではデモを再生してください。


これで3ヶ所広さの異なる環境で再生したことになりますが、どこでも印象が同じだというのがハイト・サラウンドのメリットではないかと感じました。

安藤:
日比野君、どうもありがとうございました。次回作での9CH MIXを楽しみにしています。
では最後に、沢口塾長の制作した9CH音楽アルバム[The Art of Fugue]を聴いてみることにします。

5 The Art of Fugue 9CHサラウンド

沢口:

名古屋でのハイト・サラウンドへの意欲的な取り組みを聴いてとても心強い思いです。最後になりますが、ハイレゾ9CHサラウンド制作のアルバムを聴いてください。この録音は、今年2015年2月に軽井沢の大賀ホールで行いました。昨年の「四季」に比べて今回は、メインマイクにノイマン社KM-133Dデジタルマイクを使用し当初から5CH4CHの計9CHハイト・サラウンドでの制作を前提に実施しました。録音システムは前回と同様で、192—24制作です。
2CH5CH版を6月にe-onkyo musicからリリースし、9ch版は、HPLというヘッドフォンでのサラウンド再生コーディングを行って8月にリリースしました。では3曲ほど再生します。





Q-01 デジタルマイクを使用した感想はありますか?
A:デジタルマイクをホールで使用してみるというアイディアは昨年の四季で長江さんが提案してくれました。いきなり、メインマイクに使うほど使っていませんので前回は、アンビエンス用で使用しましたが、その解像度の良さに感心しましたので、今回メインマイクとしました。ホールのような響きの豊かなところでは大変良い結果のでるマイクだと納得しましたし、なによりアーティストのみなさんが「弦の音がする」と気にいってくれたのが、良かったと思います。


Q-02
今まで聴いたことのない音場が出来上がっていますが、これはどういった意図ですか?
A:音楽におけるサラウンド表現をどうすればリスナーが納得してくれるかを考えた結果です。従来は、ホール音のみリアの臨場感サラウンドか楽器が単独で配置される創造型サラウンドという2種類で、それぞれメリット・デメリットがありました。
それで、私は、この両者を融合した3つ目の音楽サラウンド音場を作ろうと思い臨場感もあり各チャンネルにも独立した定位の楽器配置という意図でアーティストの配置やマイキングを検討した結果です。

安藤:
みなさん、長時間にわたりそれぞれから名古屋発のハイト・サラウンドの挑戦を解説していただきました。この続きは、ぜひ9月の名古屋芸大で開催されますAES名古屋コンファレンスでまたお目にかかりたいと思います。



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