May 23, 2014

第86回サラウンド寺子屋 〜 サラウンド フィールド録音を応用した空間演出の実際


By Mick Sawaguchi サラウンド寺子屋塾主宰

テーマ:サラウンド フィールド録音を応用した空間演出の実際
講師:OKADA TAXI (3rd Method Music)
期日:5月10日() 13:00−15:00 目黒TAC 4Fセミナールーム



沢口:第86回目になりますサラウンド寺子屋塾を始めたいと思います。今回取り上げたのは、フィールドサラウンド自然音とDJ選曲音楽を組み合わせたユニークな取り組みをカフェ等で行っている岡田さんに講師をお願いしました。
カフェやクラブでの空間演出とその実際、施行例や調査効果またフィールド録音した自然音のポスプロにiZotope社のRX3を活用しているのでその使いこなしなども紹介していただきます。

岡田さん、よろしくお願いします。毎回会場を提供していただいていますTAC山本さん、はじめみなさんにも感謝申し上げます。











岡田:みなさん初めまして。3rd Method Musicの岡田です。
簡単に自己紹介をしたいと思います。20代まではDJ・アーティスト活動をしていましたが、その後レコード会社で法人向けの部門や市販の制作部門に在籍し、パッケージを売ることの過酷さを経験しました。そこで別の方法で音を届ける方法はないかと考え、業務機器を扱う会社に勤務する傍ら、DJや選曲、イベントの企画などを行っています。本日は、昨年9月に神田・岩本町にあるカフェで開催したイベント「失われた『静寂』に包まれる音楽会」の内容と、サラウンドによる自然音の制作とポストプロダクションについてデモを交えて紹介したいと思います。このイベントでは、90分を1ユニットとして5ユニット分、計8時間の音源を4CH自然音サラウンドとステレオ2CH BGM音楽で構成し、営業時間内に再生しました。


        


1 自然音の魅力
私が、自然音に惹かれるのは、以下にあげる6つのポイントがあります。
   リラックス効果が万人に受け入れられる。リラックス効果は、音楽でもで 
きますが、個人の嗜好が影響します。その点自然音は、誰がきいても受け入れられるというメリットがあります。
   人間のDNAのなかに人の起源である熱帯雨林の森の音が記憶されており、
都会の音は、ストレスに感じている。
   自然音では、サラウンド音場が有効
   収録現場の写真を組み合わせることで会場の臨場感が高まる
   ハイレゾ収録することで可聴周波数以上の高周波を記録再現でき、それが快適さを生んでいる。
   こうした音源を都会で再現したい。
日本人が好む音という調査結果、常に上位3つに入っているのが、小川せせらぎ、虫の音そして鳥のさえずりですので、私の自然音収録もこれらをテーマに定点収録しています。

2 収録機材の紹介
当初は、TASCAM DR-680レコーダとAKG C451Bペアを基本とし明確な音源を狙いたい時はRODEのガンマイクを併用し3CH録音していました。単一指向性のサウンドは、明快ですが、私の空間表現には、もう少し柔らかい音が必要だと判断しEarthworksの全指向性マイクQTC40mp 2ペアという構成に変更。レコーダも音質向上と192-24ハイレゾ録音を考えてTASCAM HS-P82へ変更しました。



Earthworksのマイクは、もともと測定用マイクから始まっていますので、全周波数にわたって大変フラットな特性をしている点が気にいって使っています。





参考にDPA4006との指向性比較図を紹介します。



風防は、徒歩による単独行動なので機動性を優先し、籠は使用せず、ウレタンフォーム&ミニジャマーを使用しています。三脚は、ステレオバーで使う場合と、4本を個別で使う場合の2タイプを用意しています。




ロケ地では、今後の参考とイベントでの映像プロジェクション素材として写真撮影し、データをアーカイブします。ロケ前には、その周辺でなにか祭り等の地元行事や、現場工事等がないかをチェックし目的音が有効に録音できることを確認します。

実際の録音状況を写真で紹介します。ロケ地は、御岳山と日光の戦場ヶ原です。






3 編集とポストプロダクション
編集のメインDAWは、PTです。4CH自然音とは、別にBGMを仕込むためPreSonus Studio One 2というDAWへ音楽を仕込みます(マスタリング機能を使用)。
ポスプロでは、ノイズの整音や素材間のラウドネスを統一するためにiZotope 社のRX3INSGHTプラグインを使っています。
風音や水滴、暗騒音などもありますのでRX3を活用しています。低域に集中するグラウンドノイズや軽度の吹かれ、飛行機のノイズ等は、ハイパスフィルターで整音するほうが有効です。INSGHITを活用しているのは、様々な素材を長時間再生する場合のラウドネスの目安をみるためと、ハイレゾ音源の周波数分布をチェックするために使います。最終的には、耳で判断しますが、まずラウドネスを揃えておけば、迅速な工程で完成させることができます。完成マスターは、モノーラル単独ファイルとインターリーブ ファイルの両方を作成します。





4 再生システム
再生環境は、店舗の形状が長方形であることが多いのでスクエアーなスピーカ配置を前提にお客様が聞いていて気持ちのよいサウンドと選曲を心がけています。ハイレゾ自然音とBGM音楽、そして臨場感を高めてもらうためにロケ現場の風景をプロジェクターで投射しています。
再生例を紹介します。機材は、お店の方が手軽に操作でき、長時間運用でも安定して稼働できる機材で構成しました。







5 iZotope RX3による自然音ノイズ除去のデモ
すでにみなさんもお使いだと思いますが、本日は自然音特有のノイズの除去についてデモを交えて紹介します。



   雨だれがぽつりと落ちた例
マイクや付近のものに雨だれが落ちた例です。
RX3 スペクトラムリペアーを呼び出して、該当部分を取り込みます。
ノイズ部分を選択ツールで選びます。リペアコマンドで実行し、それでOKであればレンダリングをして完了です。RX3は、基本2CHまでの対応ですので、私のように4CH録音したデータでは、同じような工程をもう2CH分行います。

   虫の羽音
虫がブーンと音をたてている例です。虫の羽音は、中低域にありますのでキャプチャー後その部分を慎重に選択します。後は同じ手順でOKならレンダリングして完成となります。これも4CHですので同じ工程を繰り返します。






   ヒスノイズの除去
ロケ状況によってS/N比が良くない音源でも、使いたいといった場合があるとします。この場合は、デノイズというプロセスを呼び出し、除去したいノイズ成分部分を切り出して、プロフィールで分析します。その後プロセスを実行しますが、RX3の特徴は、ノイズ成分とトーン成分を別々にコントロールできる機能があり、リンクをはずしてノイズは多めに 主要な成分のトーン部分は、控えめにといったコントロールをすることで原音の音色にあまり影響を及ばさずにノイズを低減できます。実行したデータは、セッション内へセーブします。

   SRCなどのバッチ処理用にも活用
RX3の活用で私が気に入っている点のひとつにSRCの品質の良さがあります。例えば、素材は96-24ですが、納品は、44.1-16でといった場合にこのバッチプロセスを使うと品質を落とさずにサンプリングレートの変換をすることができます。
比較表を参照してください。他社にくらべ変換精度の良いことが分かると思います。





6 イベント時の調査結果から
神田で行った1週間のイベントでお客様へアンケート調査を実施しました。その結果を紹介します。今後の自然音サラウンドやハイレゾ音源とBGM音楽といった関連を企画制作する上で、有益な結果が得られたと思います。


   結果データ






7 考察
   BGM無しのシンプルな自然音だけを聞きたいという感想があったので、次
回は、そうした構成でもやってみたい。
   アンケート結果から相互の相関をとってみると、サラウンドとハイレゾの相乗効果があるとは必ずしも言い切れず、どちらかがあれば十分にアピールできるという結果が得られた。
● BGMに自然音を応用することは、効果がある。
● 再生環境も店舗に限らず、くつろぎを必要とする病院、美術館、ホテル等で有効
● 今後再生システムをグレードアップすれば、一層お客様への効果は高まる

7 デモ試聴
それでは、最後に本日用意しましたデモクリップを5つほどお聞きいただいて終わりにしたいと思います。

   小川のせせらぎ
   湿原の流れ
   野鳥のさえずり
   渓谷の流れ
  





沢口:岡田さん、ありがとうございました。ハイレゾ収録の自然音と楽曲をDJスタイルで組み合わせて店舗で再生するという新しい試みを紹介していただきました。今後の展開も楽しみにしたいと思います。(拍手)


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