November 9, 2011

第73回 サラウンド寺子屋 in 名古屋 Part.2 サラウンド番組のデモと解説

By.Mick Sawaguchi サラウンド寺子屋塾 主宰


日時:2011年8月22日
場所:東海サウンド本社
講師:池田勇人(ハイポジション音声)
   遠山 寛(岐阜放送)
   宮下弘靖(NHK名古屋)
   日比野正吾(CTV MID ENJIN)
テーマ:名古屋制作 サラウンド番組のデモと解説
幹事:安藤正道(CTV MID ENJIN)澤田弘基(東海サウンド)USTREAM SRSサラウンド配信のみなさん




沢口:2011年8月のサラウンド寺子屋は、名古屋勢の最新サラウンド制作の報告となりました.今回の企画とお世話役は、名古屋音の会の安藤さんと澤田さんに大変ご尽力いただき感謝いたします。またSRSエンコードでのLIVE U-STREAM配信というすばらしい企画も実現し、名古屋のみなさんの意気込みと熱気の感じる寺子屋となりました。

寺子屋塾は73回ともなると関東近辺では、ほぼやりつくしたというぐらいやりましたので、私は、関東以外の所で広めていきたいなと考えています。実は春に札幌でやろうと企画していたんですが、ちょうど東北の大地震がおきましたので札幌は延期しました。今回名古屋で「安藤」さんが、こうして機会を作っていただきました。


ほんとにありがとうございます。(一同拍手)

安藤:どうもありがとうございました。この寺子屋塾開催にあたって、会場を提供していただきました東海サウンドの梶野さんにもお礼申し上げます。今、東海サウンドの梶野さんが見えましたので一言。(一同拍手)


梶野: 東海サウンドの梶野と申します。今回この機会をいただきすごく光栄です。「安藤」さんとはこじんまりとやれればとお話をさせていただいたんですけども、中部圏にも同じ業界の皆様方がこれだけいらっしゃるという、身近に感じて非常に光栄でございます。本日は限られた時間かもしれませんが、沢口さんがこちらにいらっしゃっているということで、ホットな情報ですとか、発展的なお話ができればと思います。ありがとうございました。(一同拍手)

安藤:ありがとうございました。それでは早速ですが、岐阜放送さんの高校サッカー選手権岐阜県大会の決勝戦を説明していただきたいと思います。岐阜放送さんお願いします。制作を担当したハイポジションのミキサー池田さんからお願いします。

池田:はじめまして。岐阜にありますプロダクションでハイポジションの池田と申します。今回は、岐阜放送さんのサラウンドミックスをさせていただける機会をいただきまして、岐阜放送の遠山さんにはたいへん感謝しております。昨年の2010年11月13日に岐阜の長良川球技メドウ競技場で行いました、岐阜県高校サッカー選手権大会の決勝を岐阜放送さんが初めてサラウンドミックスを行うということで、こういう機会をいただきましたので少しお話をさせていただいて、そのときの収録素材を後ほどお聴きしていただこうかと思っております。ではデモを聴いていただく前に簡単ですけども、今回の中身について説明させていただきます。


今回サラウンドを収録するにあたって、サラウンド環境がございませんでしたので、無理を言いましてYAMAHAさんから機材提供をしていただき、サラウンドの環境の構築までご面倒をみていただきましてありがとうございました。また以前に、音ヤの会で議題としてありましたサラウンドのモニタリング環境の構築をたいへん参考にさせていただきまして、また中京テレビさんがサラウンド中継を初めて行ったときに、仮設でトラックにサラウンドミックス環境を構築したとお伺いしておりましたので、それらもたいへん参考にさせていただきました。


今回、当日仕込の数日前にですね、サラウンドモニタリング環境を事前に構築いたしました。狭い環境ですが、リアにディレイを入れたり、ベースマネージメントを行って整えました。このように、2tトラックの中のコンテナ部分に構築しました。


こちらがフィールド全体の集音用マイクアレンジなんですけども、各マイクの横にサラウンドサークルがありまして、その中の赤い丸っていうのがサラウンドのパンニングを表しております。本来はフィールド手前の客席にオーディエンス用のマイクを立てLSとRSにパンニングしたかったんですけども、素材が高校サッカーっていうのもありまして、予想以上の観客数がいなかったので、どうしようかと思いましたのが、向かい側に各学校の応援団席がありまして、そこにオーディエンスマイクを立てその応援団席のオーディエンスマイクをLSとRSに持ってきました。
これらをふまえて3分程度ですけれども編集いたしました素材がありますのでお聴きください。 NUENDOベースで今回再生させていただこうと思っております。

[ 視聴 ]

ありがとうございました。(一同拍手)今回、サラウンドミックスをさせていただきましての感想なんですけれども、個人的にスポーツ中継の実況解説といいますのは会場が盛り上がってもしっかりと聴こえていたいです。普段ミックスしておりますサッカーでJ2の試合、FC岐阜の2chステレオ放送の場合ですと、フィールドノイズと実況解説のそれぞれ、マスキングしている周波数帯をイコライジングしたり、またはパンニングしたり、後はフィールドノイズにわからない程度ですがうっすらだけルーム系のリバーブを乗せて、フィールドノイズと実況解説の前後感を作って聴きやすくしたりしております。しかし、サラウンドではセンタースピーカーが実況解説のみで使用できましたので、実況解説の抜けがよくフィールドノイズに余計なイコライジングをしたりすることなくミックスできました。

原音をそのまま出力できるというのは、なるほど、サラウンドでのアドバンテージなのかなと思いました。とにかくミックスをしていて物凄く楽しいのと、また色々なミックスアプローチの可能性があるなというのを思いました。前回の名古屋芸術大学での音ヤの会で冨田 勲先生の講義がありましたけれども、サラウンドの普及がいまひとつなのを嘆いていらっしゃいました。それで、日本のテレビや音楽には魅力的なサラウンドコンテンツがたくさんあるのに、それが日本の住宅事情だったりコストの問題だったり色々あるみたいですが、これらを打破する商品がなんとYAMAHAさんから9月に、フロントサラウンドシステムの型番YAS‐101、予想実売価格26000円前後で(一同笑い)発売されます。なんとワンボディで7.1chのバーチャルサラウンドを実現する2.1chスピーカーシステムです。YAMAHAさんの回し者じゃないので。(一同笑い)これらの普及が日本のサラウンド事情を変えるきっかけになると思いますので、YAMAHAさんには頑張っていただきたいのと、私たちもサラウンドの普及に努めるのが宿命だと思って、個人的に小遣いが貯まったらぜひこの商品を買おうと思っております(一同笑い)ご清聴ありがとうございました。(一同拍手)

Q:うちもサッカーをサラウンドでやっておりまして、なかなかお客さんがいない中でサラウンド感を出すにはどうしたらいいかっていうところで、うちも実はフィールドのマイクはサラウンドでやっているんですよ。そこで色々経験的な問題がありまして、まず各マイクの距離が広いので位相差、まあディレイが結構大変なので、特に鳴り物なんかになりますとタイミングが合わないのですごく大変だと思うんです。その辺りの対策を教えていただきたいのですが。
A:結果的にという部分が大きいです。今回は初めてだったというのもあるのでなるべく自分でコントロール可能な範囲でサラウンドミックスをしようと思いまして。なので、少しだけフェーダーのつき上げつき下げっていうのをやっているんです。それをもう少し映像にシンクしたフェーダーワークを今後相談してやっていきたいなと。その機会が岐阜放送さん。サラウンドコンテンツがやっていただくのが大前提ですので、この場をお借りして岐阜放送さんにはよろしくお願いしたいと思います。(一同笑い)

Q:マイクを増やせば増やすほど、サラウンドの音場作ったら手がつけられないというかいじれなくなるんですよね。上げると変わってしまうので。なので、そこって良い面と悪い面とあるので難しいかなと思うので、ぜひ次回はその辺をクリアしていただければ。
A:逆に今後参考にさせてください。

Q:これは、どういうきっかけでやろうと思ったのでしょうか?きっかけは大事だと思うので、その辺のお話をお聴きしたいです。
A:それは、岐阜放送の遠山さんに答えていただこうと思います。

遠山:岐阜放送の遠山です。きっかけはですね、うちも積極的にやりたいという気持ちはあったんですが、なかなか機材面、お金の面的に厳しかったので、実を言いますとこの次の日にFC岐阜のサッカー中継がありまして、ほとんど同じスタッフでやりますと、機材もほとんど一緒だということがありまして、 ハイポジションさんにもお願いしまして、機材同じなので安くしてくださいよ。(一同笑い)そこからまず入りました。それで、じゃあやってみようかという話になりまして、そこから機材なり5.1chのサラウンドの勉強なりっていうのを急遽始めまして。それで、どういう風にマイクをアレンジすれば良いのかということで始めていきました。うちもそんなに機材が豊富ではありませんし、先ほどお話に出たようにマイクを多くすればするほど難しくなるっていうのもよくわかっていましたので、できるだけ少ない本数、いつも使っているマイク+何本かでなんとかできないかということを考えました。人もたくさんいないので、ミキシングも大変になってくると、そういうことも考えまして。実を言うとこのミキサー以外に中継者の中にアナログ用のステレオミックスしている者もおりました。その者に実況解説のミキシングをしっかりやってもらいまして、その実況解説のミキシングの音を、実況ミックスマイクというのに返しています。少しでもシンプルに。良い放送ができるようにということを池田さんとも何度か話させていただいてこういう風になりました。きっかけ的には場所も一緒だったというのもありますし、機材も一緒ですし、スタッフも一緒だというところでやってみようという話になりました。

Q:放送が終わった後に局内で関係者と視聴会とかはやられましたか?そのときの反応などがあればお聞かせいただきたいと思います。
A:すみません、先ほどこれは収録だと言ったんですが生放送でやっております。それなので、生放送中にマスターにいっぱい集まっていたみたいです。うちの技術の部長から局長などがマスターに集合しました。マスターに5.1chの環境を作っておりましてので、そこで聴いていただきました。後でこれを確認したというのは僕と池田で。本番中も聴いていたんですが、その後も聴いてみましたというのはあるんですけど。その感想としては良かったんじゃないかというのがほとんどで、すごく広がりがあって実況解説もクリアに聴こえてきて、やってよかったんじゃないかという反応はありました。編成たちの皆さんにも聴いてもらって、面白いというか、音的に発展したやりかたでやれてよかったんじゃないかという反応はあったんですけど。どこが悪いかとかというのは特に無かったんですが、うちの上の者が言うには少し、バランス的なところはよかったんだけど、ここをもう少しというのは後ろの音が強すぎたとか、ノイズがもう少しあった方がいいんじゃないかという、そういう反応はあったんですが、良かったという反応が多かったです。

安藤:前回の音ヤの会で建築音響の基礎というのをやったときに、一番熱心に聞かれていたのが池田さんなんですね。なのですごいサラウンドに対する熱い思いというのをすごく感じまして。それで作ったということを聞いたので、やってくださいとこちらからお願いしたんです。最初ということもあるので、ぜひ今後、自分も含めてなんですけれども色々な作品を聴いて次につなげてほしいと思います。岐阜放送の池田さんでした。ありがとうございました。(一同拍手)

安藤:逆に、皆さんに聞いてみたい事はありますか。
池田:サラウンドミックスをするにあたり、一番気をつけていらっしゃる事はありますか?メーテレの中瀬さんいかがですか?


中瀬:突然ご指名頂きまして。ええと、僕もそんなに数をやっていないのですけれど、ダウンミックスした時に変な風にサラウンドの音を作るとシュワシュワシュワみたいな音がするので、なんて言うのですかね、前の音と後ろの音を作る時に、例えば二本のマイクから、こう無理に後ろの音を作ったり、位相で作ったりするとダウンミックスかけた時にシュワシュワいう事があります。で、サラウンドだけ聴いている場合には全然気づかないんですけれど、家帰ってみたら何かシュワシュワいってた事があったりするので、技術的には位相操作で後ろの音を作り出さない方が良いかなという気がします。

安藤:はい、ありがとうございました。岐阜放送さんもYAMAHAさんから機材を借りて全面的にやられたといいますが、私もですね、サッカーのサラウンドをやった時は、全面的にYAMAHAさんに協力して頂きましたので、これは感謝するしかないですね。あとは塾長のやっておられる寺子屋塾に、数多く参加して欲しいって僕は思いますかね。(笑い)

安藤:次は、NHK名古屋放送局、大相撲名古屋場所サラウンド制作で、発表は宮下さんです。

宮下:皆さんこんばんは。NHK名古屋放送局技術部の宮下弘靖と申します。

名古屋では、毎年恒例となっております、大相撲名古屋場所のサラウンド制作をご紹介したいと思います。これは、我々のスキルアップを目的として毎年実施している制作です。まずは後半の取り組み幕内の最後三番位を聴いて頂いて館内の迫力、熱気とか盛り上がりをお楽しみください。


その前にマイク配置を先にご紹介します。正面がこちら。画面を見て下手の方にあります。向こう正面があちら側にあって、東、西という配置になっています。それで館(やかた)が真ん中にありまして、その館を囲むようにして東、西、それぞれ天井から二本ずつマイクを吊るしています。同じように正面側の方にも二本吊るして、東と西の花道通路の上の方ですね。これも同じく天井から二本吊るしております。真ん中の館なんですけれども、ここにL、C、Rと3本ありまして、Sennheiser MKH-816を使っております。土俵のちょうど房(ふさ)の位置なんですけれども、あそこにSennheiser MKH-416を忍ばせています。だいたいSEマイクはこんな感じで立っています。サラウンドマイクは、DPA 5100を、館の丁度真上の位置に上から落ちないように吊るしております。

Q:これは天井に近い状態の場所ですか?
A:そうですね。ブームスタンドの丁度首の部分が、こう出るという長さでやっています。今までDPA 5100というのが名古屋局に無かったものですから、今年からの取り組みです。
先程言った館の中の吊りマイクなのですが、センター寄りに三本あります。その両脇にあるのはですね、PAさんのやつなので、うちのではなく、(Sennheiser MKH-)816がこのようにL、C、Rを録る為に三本吊るしてあります。もう一つ房マイク。赤房と白房の中に(Sennheiser MKH-)416を、丁度こう真下を向く形なんですけれども、そういう感じで仕込んでおります。

名古屋場所はですね、他の場所と違って、ちょっと愛知県体育館の作りが特殊になっていまして、支度部屋が、一カ所しか無いんですよね。なので東の力士が西の方に戻ってくるっていうそういう特殊な形になっていまして、ちょっとそこが名古屋場所の特徴ですね。

[ 視聴 ]

宮下:サラウンドイメージですが、正面、リアの方、Ls、Rsの方は正面のL、Rの40Pを後ろに持っていって、東に吊っている二本の40Pを左に持っていって、西の吊りの方も同じく右に持っていくデザインです。
後は(DPA)5100をその間と言いますか、ブリッジのように持たせるという。で、PAは後ろから聴かせるというサラウンドイメージで創っています。



Q:場内から通路に切り替わった時のカメラマイクへの切り替えはマニュアルですか、タリー連動ですか?
A:タリー連動です。
まずは通路の方はタリー連動で、その通路にある(Sennheiser MKH-)416があるんですけれども、そちらのマイクが活きる。場内の方は逆に手動で上げるという切り替えをやっています。

Q: LFEの使い方っていうのはどのようにされたか、お願いします。
A:LFEは館に吊ってある(Sennheiser MKH-)816のセンターだけを送っています。なので、立ち合いのぶつかりのガツンッっていう、あの音だけを送っているという設計になっています。

安藤:僕は以前相撲を観ていた時にですね、吊ってある(Sennheiser MKH-)816三本で行司の移動がはっきりと判ったんですね。これは面白いなと感じました。

Q:これはサラウンドでミックスしているけれど、本線はステレオで出しているっていう事ですか?
A:はい、そうです。

Q:凄く実況のダイナミックレンジが広いと思うんですけれど、今ハードセンターだったと思うんですけれど、結構ヘッドルームが厳しいんじゃないかと思うんですけれど、その辺っていうのは何か気をつけてらっしゃる事とかありますか?
A:コメントのマスターのフェーダーを作って、そこにNeve 33609を入れて、持ち上げて叩いているっていう感じで負けないようにっていう作りにはにしています。

Q:IS International Soundは卓の中で全部作ってダウンミックスで3、4chに送られていますか?
A:そうですね。

Q:サラウンド的に言えばセンターは、ヘッドルームギリギリで創っている感じですか?
A:コメントマスターにはNEVE33609がかなりガッツリいく様には創っています。

安藤:続きまして、弊社中京テレビの作品なのですが、地球オーケストラという、ついこの間5月1日に放送されました、自然の音を収音してですね、クラシックの曲にその音を乗っけて奏でるハーモニーという事で創りました。

安藤:次のセットチェンジに少し時間が掛りますので、その間に今回 USTREAM サラウンド配信の機材システムをご紹介したいと思います。今回、USTREAM中継の為に、かなりの機材を持ってきて頂きましたので、それを紹介したいと思います。今回本格的にですね、カメラもプロ用機器、それと今回スイッチャーがPanasonicの百何十万する簡易スイッチャーなんですけれども、それを使い、後スーパーも何枚か入れていると思うんですけれども、まあちょっとした簡単な中継の際にはこのような機材で出来てしまうという、ちょっとUSTREAM中継にしては大げさな機材を持ってきて頂いて、こだわりを持って中継させて頂いています。


SRS CSE-06PでサラウンドUstream

では、担当の日比野から紹介させていただきます

日比野:CTV MID ENJINの日比野と申します。「地球オーケストラ 日本の美し音を探す旅」という番組を担当しました。この番組自体が、サラウンド番組で、1時間半の全編ロケの番組です。これは、実は2回目で、1回目は世界各国の音を集めて、ボレロの曲を作るという内容でした。今回は、日本国内で、美しい音を探そうという番組です。

ロケのスケジュールとして、小笠原諸島に9月中旬から2週間、次に知床に2月27日から3月4日までの一週間、次に屋久島に1週間くらい。私自身は、知床と屋久島に行きました。小笠原諸島は、旧、中京ビデオセンターの谷川さんが録音したデーダーを頂いて、最後の音響仕上げまで担当しました。仕上げのスケジュールは、1時間半の尺に対して、撮ってきた絵に、音を貼り付ける作業で約1日半、これは、ぼほ寝る間もなく続けたという感じで、この仕上げの段階で、白素材をもらってから、2日後にMAを完成させるスケジュールでした。

MAは、東京の五反田のイマジカ様で一日ナレーション録り、ミックスがイマジカ赤坂で1日のスケジュールです。この、ナレーション録りの最中に、私が音を仕込みました。実際のロケは、技術としてカメラマンと音声兼VEの2名、ディレクターが一人です。サラウンド収録の機材が、とんでもなく多くなり、一番多くなったときに、トータルで20kgくらいで雪の中を歩いたりして、知床は2月なのですごく寒く、マイナス15度くらいでした。そのサラウンド機材をもって新雪にズボーッとコントのよに、はまり動けなくなりました。(一同笑い)
屋久島は、1ヶ月に35日雨が降ると言われている島で、基本的に登山ロケです。そのとき一度20kgので登ってみたんですが、到底登れる重さではないので、最終的には13kgくらいの重さにしました。オープニング前をご覧ください。

[ 視聴 ]

知床はでは、いろんな動物がいて、エゾシカ、鷹、フクロウの音も狙え、まさにフィールドレコーディングです。それをお聞き下さい。

[ 視聴 ]


知床でのロケを説明します。使った機材は、Sigma Systems Engineering KS-342とSS-6002のEQとコンプレッサーのユニットを演者とのロケに使用しました。ある程度EQとコンプレッサーをかけて収録しました。SS-302は予備で持って行ったミキサーです。レコーダーは,Tascam DR-680で4チャンネルのマイクプリがりファンタム電源も供給できるものです。SDカードに収録でき、とても軽く持ち運びも容易でした。小型のZoom H2も使いました。ロケ現場にDAW(CuBase)も持って行って、ちゃんと音が録れているかとか、ディレクターとの反省会に使いました。背負子とDVCAM用アングルです。サラウンドマイクを背中に付けて、機動力を考えました。サラウンドマイクを背負子に付けるためにはカニのハサミのオバケのよう、DVCAMのアングルを使いました。VEも兼任しているので、カメラのバッテリーやテープなども後ろに積んで動けるようにしました。サラウンドマイクはDPA5100、水中マイクはDPA-8011、生産を完了したものですが、ヒビノインターサウンド様よりお借りしました。水中での会話を録音するために水中用咽喉マイク、ゼンハイザーMHK416、816。

木の中の音を録るために、MHE104とDC-78のファンタム電源を聴診器につけたものを用意しました。演者用にECM-77とSonyのワイヤレス、COS-11にRAMSAのワイヤレスを使いました。演者ロケをしながら、サラウンドでも収録できるシステムを考えました。

フロントのバックに4chミキサー、ワイヤレス、レコーダーを入れて、背中の背負子にDPA5100を付けました。システムとしては、演者のワイヤレスがKS-342に入って、SS-6002を1,2にわけ、MHK416、816の音は、タイムコードと合うようにCAMコーダーの音声トラックにも送りました。3チャンにボビーさんのオンリー、子供のジョイ君をクロストークした場合、使えるように単独受信機を付けました。4チャンはカメラガンです。あとは、DPA5100の1~6まで入れましたが、センターチャンネルにはMHK416、816などの、芯を拾うようなものを入れておかないと、DPA5100はベース音には優秀ですが、インパクトのある音を収録するために、このようなシステムにしました。演者の2人にも聞いていもらいたいので、SS-302でヘッドフォンでモニターしました。私も、収録時にはDR-680からモニターし、マイクを持ちながらクロストークを確認しました。

インサート用の収録は少しコンパクトです。 流氷の音(流氷鳴き)は、水中マイクをKS-342を通して、カメラとは別行動で収録しました。カメラ側はステレオにして、1、2chはマニュアル3、4chはオートにして、大き音で音が歪んだ場合に3、4chが使えるようにしました。

[ 視聴 ]

この後、樹齢3000年以上といわれるの屋久杉の木の中の音を取りたいと、ロケの4日前に依頼があり、NHKが制作したブナの木の音を聞かされ、こんな音が録りたいとリクエストがありました。どうやって木の中の音を収録しようかと悩んでいました。聴診器を途中で切り、単一指向のピンマイクを管の中に入れることにしました。この発想を思いついたのは、私の家族が看護師をしていまして、朝起きたら目の前に聴診器がぶら下がっていいて“これだ!”と思いました。屋久島に持って行っていいかと聞くと、“壊したらxxx!"と言われましたが、屋久島で半分に切ってしました。(一同笑い)オンエアーを見た、家族は激怒して、新しい聴診器を買わされました。医療関係のものなので、聴診器はちょっと高価です。でも、聴診器はクリアーに振動を伝えてくれるので面白いと思いました。


縄文杉までは、片道11kmで往復22kmの道のりなんですが(一同笑い)、演者さんと1日12時間かけて登って一泊して、私たちはインサート撮影中のためにもう一度行きました。最終日には体がボロボロで、今まで使っていた背負子は、使わずに軽量化しました。

ものすごく過酷なロケでした。しかしロケで、音を作るのは楽しいと思いました。屋久島での機材は、演者担当者から、ドキュメンタリータッチでロケをしたいとリクエストがあり、カメラがZ5Jで、音声もなるべく軽い機材を使いました。背中に、ワイヤレスマイク、自分の寝袋など私物を入れて、前には4chミキサーだけ出して、動きやすいものにしました。演者の方は6名でしたが、付けれるワイヤレスが3人だけだったので、ガンマイクを振りながら、カメラが凄い勢いで動くのについて行きました。結局ワイヤレスで送信せずに収録しました。その日のロケが終わって旅館などに帰ったときに、素材を編集するのにはCuebase5を使い編集、マルチチャンネルで書き出すときには、後でわかるようにキャプションを書きました。

また、これが厳しいスケジュールで知床ロケが終了した次の日に、CDの音を作りたいので、すぐに素材を送る必要がありました。飛行機で名古屋に帰り、120テイクくらい収録してもので使えるものを編集し、次の日の昼には、メール便でディレクターに送りました。屋久島の時も厳しくて、二日後には宮城へ中継の仕事がありましたが、行った先で300テイクくらいを編集し、ディレクターに送るなどと、ロケの後も過酷な作業でした。


音響仕上げは、中京テレビのMA2を使い、白素材をもらって、MAまでの時間ギリギリまで仕込むことを考えてPro Tools HD 7.4を使用して、映像を取り込んで作業しました。Cuebase5の書き出しのスピードは非常に早く、素材の編集にも助かりました。1~6chの頭のキャプションを付けたファイルが、そのままPro Toolsのトラックに、貼り付けることができ便利でした。最終的に、東京のイマジカさんへ持って行く時に、プラグインが再現するか不安だったので、サラウンドのAロールBロールにトラックダウンをして持込ました。4月23日にMA、5月1日に無事オンエアーになりました。いろいろな方の支援でロケができ大変感謝しています。(一同拍手)

Q:低温での機材トラブルや、また対処方を教えて下さい。
A:素晴らしい質問ですね。(知床ロケでは)とても寒く、Tascam DR-680の動作保証温度が0度までだったので、本体をウインドジャマーのようなもので包んで、USBカイロ使ってバックの中を温かい状態を保つようにし、快適に収録できました。ただ、電池の消耗が激しく1時間程度で切れ、予備バッテリーをいつも以上に用意しましました。屋久島は雨で、ヘッドフォンがショートしダメになったり、342が湿気でランプがいきなり点滅し本線が切れましたが、たたいたら直りました。(一同笑い)

Q:チャネルアサインは、何か工夫がありますか?
A:基本的に同録部分は、自然音なベース音を使い、(カメラの)同録したものとナレーションはハードセンターです。選曲さんの音楽やSEはLRです。MAで、不必要なものを検討しながらミックスしました。正直、何箇所かは同録の音を切った方がいい部分もありました。

Q:制作的には、サラウンドとステレオのバランスはどうされましたか?
A:最初のベースノイズは、同録をメインでサラウンドで包み込まれるように、「みなさん聞いて下さい」の部分は、ドーンとサラウンド感がわかるようにしました。聴診器の部分は、モノなのでCにアサインしました。

Q:水中マイクの部分はサラウンドですか?
A:プラグインでサラウンドにする方法は避けて、時間軸の違うOKテイクを、4方向に並べました。やってみると、同じ音ですが違うように聞こえ、包まれたような感じがあり、水の中にいるようでした。屋久島や知床でも使い、DPAの水中マイクはいいものだなと思いました。

Q:フクロウのリバーブは、後で足したものですか?
A:はい。本当に雪の中は無音で、録れているフクロウの音は大変小さく、プラグインのノーマライザーでレベルを上げてEQを使いました。リバーブを加えました。

Q:LFEはどのようにしていますか?
A:この番組では、ドンとアクセントになるようなもや、現場の雰囲気が伝わるようなものに付けてました。流氷鳴きの音は、ゴゴゴッと低音がありLFEを使いました。また、冒頭の花火の部分もLFEに送りました。逆に、屋久島の部分はLFEに送ると、低音鳴りのようになり、気持ち悪いのでほとんど使っていないと思います。小笠原では、船で移動する部分が多くあり、LFEを使いました。

Q:オンエアーを見て、違いはありましたか?
A:中京地区でのオンエアーでは、マスター(送出)のリミッターの影響があるのか、今後はそれを考えながら、サラウンドを作る必要があると感じました。

Q:音作りは、ご自身でロケをした生の音に近づけようとしたのか、それとも、それからイメージを広げようとしたのでしょうか?
A:非常に有難い質問です。屋久島の最後からの2日目のインサートの収録では、ヘッドフォンを忘れてしまったんです。(一同笑い)ヘッドフォンを使わずに収録したほうがいい音で録れていました。(一同笑い)そのときに感じたのが、やっぱり生音(現場の音)を聞くことが重要だなと思いました。最後の仕込みでは、生音に近づけようとしました。ただ、エフェクトが効果的な部分は、(生音にこだわらず)使いました。現場では、音声がヘッドフォンを忘れたことを、誰も気づきませでした。(一同笑い)

安藤:このロケに行くにあたり、サラウンド寺子屋のフィールドレコーディングについての報告、とくに高木さんや土方さんのレポートは大変役立ちました。ロケから帰っても、再度参考にして収録の方法を検討しました。

沢口:どうもありがとうございました。名古屋地区での出前サラウンド塾でした。こうしてさまざな機会を利用してサラウンド制作に取り組んでいる姿勢は、きっと全国でなにかやりたいけど、どうしたらいいのか分からないと悩んでいる潜在サラウンド派にも、大変刺激になると思います。あらためて今回の機会を作っていただきましたみなさん、そしてU-STサラウンドという試みに参画いただいた皆さんに感謝いたします。(一同拍手)

安藤:会場を提供して頂いた東海サウンド様、USTREAM機材及びstaff(3カメ・スイッチング)の全面協力して頂いたテレビシティーの夏原様、SRS CSⅡポータブルエンコーダーを提供して頂いた SRS Labs Japanの橋田様、Nuendo5のレクチャーをして頂いたヤマハ 山本様 この場をお借りしてお礼申し上げます。



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下書き担当サラウンド寺子屋サポーター:Go HaseGawa, Takeshi Nasuno and NSSJP

October 2, 2011

第72回「源氏物語幻想交響絵巻・完全版」「惑星(プラネッツ) Ultimate Edition」サラウンド制作について 冨田勳

By.Mick Sawaguchi サラウンド寺子屋塾 主宰
日時:2011年07月10日
場所:株式会社ソナ 試聴室
講師:冨田勲
テーマ:「源氏物語幻想交響絵巻・完全版」「惑星(プラネッツ) Ultimate Edition」サラウンド制作について


沢口:2011年7月のサラウンド寺子屋は、冨田先生の新作ついて、制作の舞台裏なども含めて試聴とお話をいただきたいと思います。本日の内容にふさわしい素晴らしいサラウンド再生環境ということでソナさんの試聴室を提供して頂きました。いつも有難うございます。では冨田先生にじっくりとお話とデモをしていただきたいと思います。


冨田:冨田勲です。私の念願の「源氏物語」と「プラネッツ(惑星)」の両方の曲をアルバムにしてサラウンドにしてリリースをしたかったのですが、ご存知のようにレコード会社はサラウンドはもう取り上げないという傾向になっています。だから源氏物語のサラウンドが出来ましたと言って沢口さんのお宅までスーツケースに入れて、まだレコードになる前ですよね、Nuendoに入れて聴いてもらったのがもう二年位前です。それから色々レコード会社の人達に聞かせたのですが、プラネッツは、以前出したのも覚えている人もいるし、これは是非出したいけれどもサラウンドは追って考えましょうといった状況でした。私は、最初からサラウンドで出してくれる所ではなければ嫌だという事で時間が経っていましたが、最終的にDENON系のコロムビアがやりましょうということで発売になったといういきさつです。今レコード会社は歌モノが主体になっているのですが、インストゥルメンタルなアルバムというのは余程でないとCDでも取り上げてくれない。その上サラウンドという条件が付くとなおのこと。非常に難しい状態でこれは一体どういう現象なのかやっぱり皆さんで考えないとこのまま行きますとサラウンドっていうのは没落してしまう。過去の一時期の流行った一つの方式みたいな事で忘れられてしまうような気がしますので、今までサラウンドにかなりこだわってきた私としてもこれじゃちょっと忍びないものがありますので今日は、皆さんにも私はこういった形で作りましたというのをお聴き頂いて色々ご意見などを頂けるとありがたいと思っております。


私のサラウンドの音の組み方というのは、人為的なところが非常に強いと自分では思っています。映画館で聴かれる音というのは結構微妙な音でも、防音された部屋の中でお客さんに囲まれている。しかも料金払って来ているので払った分だけ吸収しようという気持ちがあるわけです。だから聴く気構えが違うのと、それだけに集中させるような場になっていますけれども、一般家庭ですと外に車も走るし子供が騒ぐ。そういう中でドラマが観られているという事を平均的な観られ方として考えなくてはいけないなと私の考えが自然になってしまった訳ですね。それはサラウンドにしたってそうだと思います。この(試聴室の)ような装置で聴いてくれる人っていうのはほとんどいない。勿論ホームシアターで凝った人達がいますからそういう層の人もいるのですが、ただその人達だけを相手にしていたらレコード会社は儲からない訳です。

● 源氏物語の制作

平安朝、このスピーカーに囲まれたこの中が1000年昔の平安朝時代の王宮の日々、庭園のある王宮である宴がそこで催されているというような雰囲気をこの場の中に創るという事。つまり音場演出ですね。「桜の季節、王宮の日々」という2番目の曲あるのですが、シチリキが後ろの方で聴こえてだんだんそれが移動してきて、結局正面のスピーカーの所まで来るというような移動もしています。これにはナレーション坂田美子さん。琵琶奏者でおられるのですが語り部もされるので、一般のナレーターにやってもらうよりもミュージシャンですから背景のオーケストラとの兼ね合いをよく考えて頂けるのではないかということでお願いしました。原作は中居和子先生、最近亡くなられましたけれども、京言葉で源氏物語を綴った本があるのですけれども、いわゆる京都の雰囲気。まあ雰囲気があるんですね。そういうような京都の雰囲気でポツリポツリと語り始めるところからこの音楽は、このサラウンドは始まるような雰囲気にしました。最初が源氏の誕生のところ。桐壺が本当のお母さんなんですけれど、帝にものすごく可愛がられる。可愛がられたんだけれども身分がそれほど高くないので周りからいじめられる。そうこうしているうちに神経衰弱になっちゃって出家をするのかな。まあ早くして亡くなっちゃうんですね。それで藤壺があとから来るお母さんなんですが、年は自分と近いので源氏は初恋の人が藤壺で。それが2曲目「桜の季節、王宮の日々」です。庭園で宴が行われていて源氏が藤壺に惚れたきっかけでもあるんですね。結局藤壺は源氏の子供を宿してしまう。これはひどいものですよ。帝が親父さんですよね。その同じ運命が女三の宮の時に自分が、葵上が早くして亡くなってしまったので二番目の后に女三の宮を迎えるのですが、実は同じ目に源氏も遭うんですね。非常に好色な柏木に寝取られてしまって。その生まれた子供を自分の子供として認知しなくてはいけないという。そこの部分も音楽にありますけれども、そこまでかけていますと日が暮れちゃうので、出だしの所を。このナレーションだけ聴いていると京言葉ってストレートに英語みたいに言わないから、あまり意味が分からないと思うのですが、ただ雰囲気が物凄くあると思います。じゃあ聴いてみましょう。


[ 視聴 ]

冨田:冒頭の部分を聴いて頂いた訳ですが、これは、深田さんに録音をお願いして愛知万博の前夜祭の時に名古屋フィルハーモニー交響楽団によって1時間半のものを、高橋恵子さんの朗読で、名古屋の芸術劇場でコンサートをやりました。その時はまだ曲そのものやオーケストレーションがあまりよく出来てなかったのと、ホールが非常にデッドでこういうものを演奏するにはあまり相応しくなかったという事もありまして。でもヒビノ音響さんと放送の方は深田さんがいい状態にしてくださいましたけれども。それから少し作り直して今回に至った訳です。5年前ですかね、愛知万博でしたから。これはナレーションの伴奏音楽ではないと思っているものですからもっと音楽と同化してオペラで言えばその中に出てくる歌を歌う歌手のようなつもりでナレーションをやってくれる人を探していたところ、やはり琵琶奏者の坂田美子さんはミュージシャンですからその辺はよく心得ておられると思うのと京言葉がまたなんとも言えない雰囲気を醸し出していますので非常に良かったかなと思っております。これはあの帝、源氏のお父さんですよね。この事実を知っていながら感情の表に一切出さないで、それで藤壺の生んだ子供を自分の子供として非常に可愛がって、勿論認知はしてるわけですね。この辺が大変大人というか。でも皇室のスキャンダルですね、これは。(一同笑い)大変ですよ。やっぱり紫式部の文才ですかね。400年前、織田信長の時代ですよね。ヨーロッパで色々な文豪が出ました。さらにその600年も昔。世界中に文豪なんていない頃にこれだけの小説を書くということは。まあ日本に文字が入ってきたその後だからこういう小説が書けたんでしょうが、世に不思議ですね。それで美しいんですよね。この後六条の御息所が源氏の二番目の后、藤壺は亡くなってしまうんですけれども、二番目の妃に女三の宮を迎えて、それでそこで源氏はかつて親父にした事と同じ事を柏木にされるわけですけれども。でもそれは自分の子供として認知しなくちゃいけない。それは絵巻に載っていますね、源氏が赤ん坊を抱いているところの有名な絵があるわけですけれども。
あの頃は印刷という技術はないから書き写した訳ですけれども、書き写す人もストーリーが面白いからストーリーに引きづられながら模写と言うんですか。書き写したものが何冊もあってそれを抑えたところで今で言うYouTubeみたいなもので。こっちを抑えた所でこっちが残っていればそっから出てきちゃうという所があって、おそらく抑えきれなかったんじゃないかと勝手に想像するわけです。


次にお聴かせするのは「生霊」。これは葵上に六条の御息所という、いわば愛人ですよね、わかりやすく言えばそういったものです。葵上は本妻で、六条の御息所が愛人ですね。普段から引け目を感じている上にそういうしぐさを葵上は六条の御息所にされるので。だけれどプライド高いでんですよね、六条の御息所っていうのは。自分は教養のある人間だと。そういう関係でずっと続いてきたのが葵の行列、これ今でもありますけれども光源氏が馬に乗ってその行列に加わるという晴れ姿。これを六条の御息所は一目見たいと、愛しい源氏の晴れ姿なので一目見たいというので早くから牛舎でお供を連れて良い場所で待っていたわけです。そしたら三々五々、色々な牛舎が来て賑やかになってきたわけですが。その最後に葵上のお妃の行列がドーンときて。こともあろうに六条の御息所の牛舎の前でふたをしちゃったわけですね。むしろ奥のほうに追いやってしまって家来同士の喧嘩になって、これが有名な車争いですけれども。一昔前の花火見物の車の良い所を最初から陣取っていたのに、後から来て見えなくしちゃったみたいな。今は、係りがいて、そうゆうところには車を入れないし、駐車場には係がいてそうゆうことはないですが、昔は結構あったんですね、多摩川の花火大会なんかも。(一同笑い)それと似たようなことなんだと思うんですよ。後から来て何だって言うこととですが、多勢に無勢ですし、向こうは位も上ですし、家来の数も違いますからね。この車争い、互いの家来が喧嘩している有名な絵巻があります。ただ、あのころの源氏物語で気がつく点は、刀で相手を傷づけた話が一箇所も出てこないです。車争いのとき、どうやっていたのか調べると、木の棍棒なんですね。それで殴りあったんですね。危険な物を、持ち歩かない時代だったんですね。ところが、腕力は相手の方があり、牛車を追いやり柄をおられちゃって、ひっくり返され、公衆の面前で大恥をかかされたわけです。これがねちょっと読んでて、六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)も、ちょっとこれは収まり付かなかったと思うんです。また、腹が立ったのが、源氏の君がその前を素知らぬ顔をして通りすぎて行ったとあります。でも、収まりきれなくて、ついに生霊となって葵の上の寝室で殺しちゃうわけです。そうゆうシーンでも、なんか美しいんですね。これはいったい何なんですかね。ここは、サラウンドならではの、エフェクトをしたいと思って、坂田美子の建前のほうのナレーションが前の方から出ます。ようするに、一生懸命自分でこらえている、相手を憎むことなんてはしたないと、一生懸命こらえているんだけれども、自分の生霊、魂が出ていってしまうんですね。「抑えきれまへん」と言ってますけれども。それで、本音のほうが後ろのスピーカーから出てきます。「髪の毛をつかんで引きずり回し、打ちのめし」これが同じ坂田さんです。優しい顔をした人なんですよね。それが、、、お聴きになった方が下手な解説よりいいですね。(一同笑い)それでは、「生霊」のところをお願いします。


[ 試聴 ]

これが、六条御息所の生霊のところです。このような、描き方をしてみました。もっと、後ろから出る声を天井から聞かせるために、全部同位相にして、頭の中から聞こえるようにした方がいいのかとか、色々考えましたが、結局後ろから出したほうが、前に対して後ろですね、この方が効果があるかと、こうゆう形にしました。それから、もう一つ、六条御息所が死んだあとに死霊となって、紫の上は正式な后にはなれなっかのですが、一番長く源氏仕えて、このストーリーで一番長く登場しているんですね。その、紫の上が亡くなったわけです。それは、源氏が女三宮を新し后としてむかえ、そこから急に衰弱してしまった、ようするに、今まで長く源氏に仕えてきたのですが、これで自分のやることは無くなったという思いになったのではないかと想像するんですが。大変な仕打ちを源氏から受けているんです。仕打ちというのは読者から見てで、源氏は感じていないんですね。それを、耐えに耐えて耐えてしたのが紫の上だと思うんですが、紫の上が亡くなってから源氏がそれに気づくところが出てくるわけです。雪の降る日なんですけども、鳥辺野というところが今でも京都にあるんだそうですけれども、そこが葬儀場です。非常に錆びれた所で、その時、源氏が紫の上を思い出すわけです。紫の上は10歳のときに、雀を逃がしたと泣きじゃくる子、まだ、藤壺の面影が紫の上にあり、その子をみそめて、どうにも誘拐して。今から思うとひどい話なんですね。自分の理想の妻に育て上げるんだと、でも身分からして后にはなれなっかた。そこのところで、ずーと源氏に仕えたきた。そこで、源氏のご乱行はひどいものですよ。いろいろあったんだけれども、結局は紫の上をこころの拠り所にしたようなところがあって、それで、葬儀の後に源氏が、ガックリときちゃって、それからどんどんどんどん年老いちゃって、しまいに亡くなるわけです。その思い出の中の一つに、女三宮、后の所へ行って泊まるわけですけれども、結局は紫の上の所へ、ときどき忍び帰って来るわけですね。そのときに、雪の朝に、朝早く紫の上の玄関の前で、雪が降っているんだけれども、なんが入りづらい。そうやって立っていたら、紫の上が察して、迎え入れてくれた。もう、何事もなかったように源氏を迎え入れたんだけれども、その(紫の上)袖を見たら涙で濡れていたと言う部分があるんです。結局のところ、この物語は、死霊になって六条御息所が紫の上を襲って死んだと言うふうな書き方をしているんですが。葵上の場合は理解できるんですが、なんで紫の上なのか、私もよく分からないですが。それでは、「御息所の死霊」のところをお願いします。シンセサイザーで音を作った部分です。


[ 試聴 ]

● 質問コーナー

この後まだ終曲「平家の世へ」までありますが、今日は、「プラネッツ」もありますので源氏物語はこのあたりまでで、何かご質問はありますか?

Q:初演のときと比べて、シンセサイザーとか楽器構成が違いますか?
冨田:あの時は、コーラスを呼ぶことができなかたので、キーボードでコーラスの部分を篠田君が演奏したんですが、そんな程度(の違い)です。それと、生霊の部分、これ名古屋でやった場合そうなんですけれども、やはりどうしても、前もって用意する必要があって、それはメモリーに入れて、篠田くんが押さえると、あらかじめ作ったナレーションが後ろから聞こえると。今回は、全くシンセサイザーは入っていません。東京交響楽団と和楽器奏者だけですね。

Q:ナレーションと音で表現された部分の構成は、どう考えましたか?
冨田:ナレーションは音楽効果の一部だと思っています。ただ、やはり言葉として中井 和子さんの人格権もありますから、原作者とよく話をして、打ち合わせてやりました。だから、原作者も納得の上で、一つの流れを作ったわけですね。

Q:明珍火箸のさらさらと雪が舞っている音は、どうやって録られたんですか?
冨田:あれは、5人スタジオの中で、4本ばちの、だから一人8本ですね両手で持つから、こうやって持つとチリンチリンと、あと5人同じように。

Q:マイクアレンジどのような方法ですか?すごく、綺麗に聞こえたので。
冨田:マイクはどうやって録ったかな。いい加減だったと思うんですが。(一同笑い)さらさらと雪の降る、冷たいんだけれども、その中に物語性を持ったような感じの音のつもりで入れたんですがね。この前の名古屋の時も明珍火箸を入れましたし、結構、毎回登場します。明珍火箸は今でも、姫路城の売店に行くと売っていますよ。これは鋳型に流しこんで作るんではなく、出雲の砂鉄が棒みたいなやつを、叩いて丸くしているんですね。本当に昔からの鍛冶屋の工房ですね。それを、今だにやり続けている。息子さんが、その後を継いで、明珍さんはすごく喜んでいました。息子さんが3人おられて、その内の一人が、ハリウッドのラストサムライの殺陣(たて)をやったんですね。すごい人がいるわけです。

Q:この作品でサラウンド的に、一番こだわたことはありますが?
冨田:とくに、この次のプラネッツなんかは、実時間で演奏していないわけで、組み立てて行く感じですね。この、源氏物語も、アバコスタジオで、2部屋使いセパレートして録ったんです。となりの部屋でも、ヘッドフォンから音が聞こえ、なおかつ、テレビモニターで指揮者の様子がわかる形でセパレートして(パートごとに)録ります。なので、結局その後の作業は、私がシンセサイザーを使って、いろいろな音源を、最終的にサラウンドミックスダウンするのと同じような手法で作りました。基本的には、センタースピーカーから、ナレーションが出てきますが、あまりセンタースピーカーは信用しいないんです。(一同笑い)それで、サラウンドでベストポジションはここでよと、テープが床に貼ってあって、ここで聞いてい下さい、ここが一番良く聞こえるんですよと。これだから、(サラウンドが)普及しないんだと思うんです。それで、すごい装置をそろえたと、買った人は思っているんですよ。でも、)ベストポジションがそれしかない、ってゆうのは。やっぱり、僕はテレビと同じように、家族でみんなで聞くとか、そうゆうふうでないと普及しないと思うんです。僕は基本的には、4面ステレオです。特に、プラネッツの場合は宇宙ですから、前後や横もないわけで4面ステレオ、源氏物語もそうです。やはり、ナレーションとか、前らしき所にくるものは、ときどき、真ん中にきています。サラウンドでしか出ない効果を、一般の方にも楽しんで頂きたいんです。

交響詩ジャングル大帝、これは私が指導します尚美学園(大学大学院・冨田勲研究室)の研究生たちが、学校の予算でプロのオーケストラ、日本フィルハーモニー交響楽団と藤岡幸夫さんの指揮で、アバコスタジオで、自分たちが現場を持って、サラウンドに組んだんです。


どうやってサラウンドに組むかとなったときに、そのとき私が言ったのは、コンサートホールの音は、コンサートホールに行かないと聞けないんじゃないか、オーディオで聞く場合は、そのの特質を生かした音でないと意味が無いじゃないか。さっきお話しした、音までは、バイロイトのワーグナーが作った劇場にしても、ドレスデンにしても、すごい響きがすると思うんですが、それが収まったとしても、聞く側がちゃんとした装置で聞いてくれないと、少なくともコンサートホールと同じ音量で聞いて、それこベストポジションで聞いてもらえないと、効果がでないと思ったわけです。それで、いっそのこと一般的にするならば、子供たちがどう聞くか、尚美学園の近くに小学校がありますから、ちょうど夏休みでしたので理解のある先生にお願いして、パイオニアの簡易サラウンドセットを持って行って、これが結構いい音するんですね、ウーファーも付いて。そのときは、ハードディスク(DAW)から再生し、子供たちの反応を見ながら作ったんです。やはり、サラウンドが低迷してきた、放送も少なくなっていますし、レコード会社もほとんど取り上げてくれない、今回、本当に苦労したんです。なぜ、このような状況になったかと、サラウンドって言うとみんな口をそろえて、何百万もするようなスピーカーをそろえなきゃ本当の効果がでないのではと。結線が素人にはめんどうだとか。なんとなく、サラウンドが聞いてみたいと思っても、厄介なんじゃないかと思うのが、一般的の認識になってしまっているのではないでしょうか。それで、サラウンドもコンビニ感覚でやらないと、コンビニで子供とお母さん方を無視したものは売れませんよね。だから、まず子供が喜ぶ、お母さん方も喜ぶと言う部分も、もちろんそればっかりで困るんですが、そう言う部分も必要なんじゃないかと。

● 次世代のクリエータについて

僕も5歳の頃、北京の天壇公園で聞いた、不思議な音の聞こえ方、記憶に残っていて、いまこう言う仕事をするようになったのは、父親が連れて行ってくれて、それがきっかけじゃないかと思うんです。そうすると、サラウンド子供たちが興味を持って、サラウンドって素晴らしいと言う気持ちを持てば、彼らが成長してもっと凄いものを聞いてみたいとなります。それをやらないで、いきなり子供たちを無視して、放送局もレコード会社も、今のような結果になりますよね。なので私も、尚美学園、神戸電子専門学校ここがまた熱心でやる気のある人たちが多く、名古屋芸術大学でもやりました。ようするに、どこまでが録音で、どこまでが作曲と言う区分けが、いろいろな機材が発達して安くなり多様化してきたので、区分けが付きにくくなりました。逆に才能のある人間は、非常に発揮できる時代になってきたと思います。学生たちにも、今何を持って作曲と言うのか、僕らの頃は、和声学、対位法、楽式論をやって、おそらくハイドンあたりが築いた理論を今だに音楽学校で教えていますし、それは、無難だからで(一同笑い)、いや僕は否定していませんし、基礎として大事だと思います。でも、逆は真ならずで、モーツァルト達がそれで素晴らしい曲を書いたからと言って、それで名曲が書けると勘違いする人たちがいると。そこに、自分のクリエイティブの独自性をどんどん出して行かないと。それをやるには、今がチャンスじゃないかと思うんです。と言うのは、就職先がないと、作曲ですとゲーム音楽、ゲーム会社とは契約があるが他にあまりない。録音も、今どんどん録音スタジオがなくなっているから、就職先がないと。いま、アメーバのように訳がわからなくなっていますでしょ。今、そんな時代じゃないですか、全てに対して。だけどしたたかに自分の生きる方法を見つけて、生きていく。自分でツボを捕まえてそこに住むこと、自分自身のマネージメントもしなくてはなりません。それには、腕があるからと、通り一辺倒に売り込んでも仕事は来ませんからね。仕事はたまに、一回や2回は来ますが、それが一生のしごとにはなりません。どうですか?僕は最近の仕事をみてそう思うんです。だから、サラウンドだってはっきりしない。最終的には、多く層のリスナーの方が面白いと思ってくれることが結局正解かな。これは作曲も編曲も演奏もそうです。それはこうゆうものだと定義がこれだと定められないような時代で、だから面白いだと思うんです。

冨田:それじゃあプラネッツの方を。これはもう完全なアニメ、漫画です。前作と多少形が変えてあります。RolandのJUPITER-80などの音が入ってかなり音がしっかりしてきました。1曲目からいきます。


[ 視聴 ]

冨田:その次はマーキュリー。3曲目です。

[ 視聴 ]

冨田:これはMOOGシンセサイザーの素材音を76cm/sのスピードで録っておいた訳です。これは非常にややこしい事をやっていますのでNuendoで何年か前に組み直しました。そのNuendoには96kHz対応とあるのですが、あちこちややこしい事をやるとどうも対応できなくなってしまうようで、それで源氏の時は48kHzにした訳です。本当は(源氏物語と)その逆のほうが良かったなと思っているんです。というのはMOOGシンセサイザーというのは原音との比較がないわけですよね、だからやっぱり楽器や自然の収録は96kHzがいいと思います。シンセサイザーの場合は比較がない訳ですよ。96kHzにしたから音が良くなるという物ではなし、やっぱり聴いて音を自分で判断するわけですから、判断した時のその時の状態でいいのです。それと今の宇宙との交信は、よく宇宙船で地上の小学生とかとやりとりをする時の音がもう本当にすぐそこで喋っているような、あるいはラジオと同じようなクオリティで会話ができるのでつまらなくなってきています。(一同笑い)やっぱりあのころのトランシーバーの音とか短波放送の音というのは歴史に残る音なのでやっぱり使いたいなと思って僕はそのまま使ってます。それからロケットの飛び立つところは東名高速で録りました。マイクを風に当てるとバリバリバリという音がしますよね。あの頃のロケットの発射の音はだいたい歪んでいたんです。歪むと逆に迫力があるのでどこのテレビ局もそういう録り方をしたのかもしれないですね。そんな風にシンセサイザーだけでなくて色々やりました。だから音の素材になるものはなんでもなれという感じで。その後のJUPITERなんですが、これは有名なメロディーで、だいたい今まではJUPITERのメロディーまでくると針を上げちゃって、その後が聞かれないんです。実はライナーノーツにも書きましたけれど、糸川さんに対するレクイエムの気持ちがその後にあるのでその後も聞いて頂きたいなと僕は思います。

● 糸川英夫さんの思いで

糸川英夫さんになんで僕が興味を示したかというと、僕が小学校5年生の時にあの人はハヤブサ戦闘機というのを設計しました。僕はその設計者にものすごく関心がいきました。今回の川口淳一郎先生のはやぶさはリハーサルもなしに小惑星イトカワの粒子を地球へ持ち帰って来ました。やっぱり運のいい人もいるんですね。非常にびっくりしたのは、このプラネッツをカセットに入れて貝谷バレエ団に売り込んだんですよ。もしよかったらバレエに使ってくれと。まだレコード会社が取り上げると言ってなかった頃で。そしたら貝谷八百子さんから電話が掛かってきて、今度帝劇で貝谷バレエ団の会をやるんですがその時に是非使わせてくださいと言われた。それで実はご存知でしょうけど糸川博士がうちのバレエ団に入団されて俺に踊らせろとおっしゃるんですよ、僕にとっては願ってもないことでした。貝谷さんはそれほど糸川博士の事を評価されてなかったのか、わからなかったのか、有名な科学者だからと優遇せず上から5クラス位下のクラスに入れたんです。それでも糸川先生は一生懸命になって、足が10センチ上がるようになったとか耳まで届くようになったとか、中学生や高校生のまだ習いたての子達と一緒のクラスですよ。そのクラスで僕のプラネッツを聞いたそうです。そしたら是非俺に踊らせろと。JUPITERの後のエマージェンシーじみた所があってそこで時計のような音が聞こえてくる、そこは土星に入る前の、僕が一番つまらない所じゃないかなと思うところをわざわざ糸川さんが選ばれて、あそこを俺がやりたいと。そしてそこに盲目の科学者というタイトルを付けて欲しいと言うわけですよ。いや、僕は小学校5年生の時の空を飛んだハヤブサのイメージがあるんで…。糸川さんに最初にお会いしたのが帝劇の楽屋だったんです。レコードの中に糸川さんが踊られてる写真が載っているんですが、盲目の科学者とはいっても、成功しない科学者で乞食の格好です。それを踊られたわけです。これがかの人かという感じがしました。小惑星にイトカワという名前が付いたというのは、日本だけでなく世界的に糸川さんの業績が認められたからです。じゃあそのJUPITERを。エマージェンシーの後に惑星とかハヤブサという部分があります。これはやっぱり糸川さんのレクイエムの意味もありますけども、やっぱり夢ですね。

[ 視聴 ]

この後も旅は続くわけですけでども、長くなりますので今日はこのへんで。このあと原作では天王星にいく、当時は遙か彼方離れたところの星というイメージだったんでしょうけれど、(さらに遠い)冥王星なんかが発見されているんですが。最近冥王星は太陽系の一族ではないという話まで出てきて。まあいずれにしてもこの後も遥か遠くを描いているわけです。これくらいで終わらせていただきますけれども。なにかご質問ありましたらどうぞ。

● 質問コーナー

Q:シンセサイザーで大変表情豊かに演奏されていたのを聴いて感動しました。表情豊かにするというのでヒューマンインターフェースが非常に重要じゃないかと思うのですが、フェーダーやツマミやエクスプレッション・ペダルなど、このように表情豊かに演奏されるために冨田さんはどのようにされたのでしょうか?
冨田:実はずいぶん早くからコンピュミックス、クォードエイト、それはただボリュームだけでしたけれども、それをメインに使っていました。ペダルだとどうしてもレベルが曖昧になってしまうんですよね。 コンピュミックスだとレベルがはっきりしますので。ただしアナログ・テープレコーダーの1チャンネルはそのデータで、「ケロケロケロケロ・・・」という音でとられてしまうので。ところがアップデートして直したいなと思うときにはもう1チャンネルいるわけですね。となりのチャンネルに入れながらそれを修正したり、他とのレベルを合わせるにも何度も何度も入れて。でそれを入れておくとタイミングが遅くなっていくんですね、なぜかわからないのですが。例えば妙なノイズがあったところを一瞬引っ込めたいとき、うまくいったと思って何回もやっていると隠していたものがずれて出てきてしまったり。なので何度もアップデートは出来なかったですが それを使ったためにかなり正確に行ったと思います。まあ今のPro ToolsやNuendoはオートメーションを書いたらその通りに再現してくれますがそんなものはなかったですからね。いやあ苦労しましたよ、思い出すのももう。(笑い)ひどかったですよ。仕事部屋に寝袋を持って行って、とにかく睡眠時間はなかったです。それで海岸で日光浴するような木の椅子を持ち込んで寝るんですよ。それで寝ていると2時間くらい経つと体が痛くなってくるんです。それが目覚ましになって起きて次をやるっていう。だけど不思議なのは病気しなかったことです。(一同笑い)

Q:プラネットはマルチの音源を持っていらしたとおっしゃっていましたが?
冨田:付け加えたのもずいぶんありますが、今回は全てNuendoで一からミキシングし直しました。そのまま使えるところはそのまま使いましたが音のクオリティは良くなっているはずです。

Q:かつてクォードエイトでやられていたフェーダーワーク、例えばダイナミクスの盛り上がり方とか そういうのも今回はマウスでやられたのですか?
冨田:そうです。もう一つはマウスだとジグザグしてしまうので不安感があるので、数字で入力しています。あれはもう確実ですよね。無機的のようには思えますがそうとう細かく出来ますよね。それから篳篥のようなもの、この作品は実際の篳篥を使っていますけれども、それ的な表現をする場合に、ピッチコントロールのコントロールを書いています。どこの数字のところで半音になるとか、一音になるとか、そういう表を作ってそれに基づいてやっています。でも大変な手間です!でこれはやっぱり自分でやらないとだめですね。
他の分野の場合はもちろん学生たちと一緒にやる場合もありますけど、この「源氏」と「プラネッツ」は自分だけでやってみたいと。それとレコード会社がもう経済的に、売れる歌ものは一生懸命やるけれどもこういうインストゥルメンタルっていうのは、しかも新しいものはほとんど取り上げなくなりましたよね。本当に今回苦労しました。これからはサラウンドってドバーッと前に出るようにしましょうよみなさんで。どこのレコード会社も「(サラウンドと)表記すると売れなくなる」って言うんですよね。その売れなくなった原因というのはつくる方にも責任はありますからね、放送もどんどん無くなってしまって、なぜですかね?

Q:音を耳元で聴こえるようにするサラウンドのコツはありますか?
冨田:それは愛・地球博の前夜祭コンサートの時は、ローランドのRSSをつかってやっていました。その時僕は指揮をしていたのでその場にはいられなかったのですが、RSSをいくつも使って位相の関係でやって席にいた人が生霊が自分の頬を撫でていったという方がいたようです。ただそれも全員じゃないんですよね。干渉が起きたひとだけなるという。そういう人がいるとすごいことになったということになりますよね。個人的にはあまり積極的にはやってない手法ですが、やってみたいなとは思います。スピーカーのあるところから近づいてくるというのはRSSなどを使う以外ないのではないですかね?あれだと映像の3Dとも合うような気がします。ただ視聴ポジションが限られてしまうのがどうでしょうかね。一人で楽しむ分にはいいと思います。

Q:僕も「プラネッツ」をレコードで聴いてきまして、完璧とずっと思ってきたわけなのですが、今回ローランドのJUPITER-80などで差し替えがあったじゃないですか。それは当時は(今回差し替えた)その音をイメージされていたのですか?
冨田:当時は技術的な面で仕方が無いと思ってOKしていた部分があります。というのは低音が、MOOGシンセサイザーが低音にいくほど芯がないんですよね。例えば鋸歯状波を元にベースみたいな動きをした場合、もちろん効果的に使っているミュージシャンもいますが、今回のあの低音はMOOGじゃ出ないんですよ。なぜかというと低音といっても一周期が複雑な波形になっているのが、鋸歯状波だと一発だけ。あれが低い音にいくにつれてペカペカな音になってしまう。それで僕はアナログシーケンサーでこういう風にして、コントロールインプットが1ボルト/オクターブ、なんでスピードをそんな風に手間かかるのにモーグさんが設計したのかわかりませんが、つまりキーボードで演奏したようにピッチが変わるのです、周期が。あれで低音を作ると充実した音になるので。だから僕の今まで作ってきた物もMOOGシンセサイザーで作った割には低音がしっかりしている部分はそれなんだけれども、やっぱり満足な低音じゃないんですよね。特にパイプオルガンの低音なんていうのは出なかったですね、リバーブかけて広いホールで出したような効果は試行錯誤やりましたがシーケンサーの繰り返しを使っても出なくて。今回JUPITER-80を使ってはじめてまあこういう物かなと。そういうことが随所にありますね。昔は機材がこんなに並んで一つしか効果はありませんでしたが、今はJUPITER-80ひとつとっても色々出来ますからね。面白いですよ。これからの若い人達は幸せですよね。あれはアナログと、必要なところはデジタルにして。あれは工夫すると結構な表情が出てくると思いますよ。人間の声が歌っているようなのも出せるでしょう、下手な歌手呼んできてスキャットさせるよりも全然。(笑い)

沢口:どうもありがとうございました。源氏物語幻想交響絵巻完全版とプラネッツのUltimate Editionを聴きながらの冨田さんのサラウンド制作に対する変わらぬ情熱を、熱く受け止めたことと思います。是非次ぎにつなげていく責任が我々には、あるということです。冨田先生そしてスタジオを提供していただきましたソナの皆さんに感謝申し上げます。(一同拍手)

[関連リンク]
交響詩ジャングル大帝のサラウンド制作と大学の取り組み 冨田勳、野尻修平
ISAO TOMITA PROJECT
源氏物語幻想交響絵巻 完全版 [Hybrid SACD]
プラネッツ Ultimate Edition [Hybrid SACD]

「サラウンド寺子屋報告」Index にもどる
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

下書き担当サラウンド寺子屋サポーター:Go HaseGawatomomiMUSHnemoto, Tsubasa Sato and NSSJP

August 24, 2011

Surround Sound Ustream 第73回サラウンド寺子屋 in 名古屋 Part.3 サラウンド・スケープのコンセプトと試聴


By Mick Sawaguchi 沢口真生(UNAMAS-HUG)

「サラウンド スケープ」の制作ノウハウの全てはこちらです。


日時:2011年8月22日(月)

場所:東海サウンド本社 MA1スタジオ
主催:名古屋「音ヤの会」



「海竹山竹」より M-2 Evening call


「Southern Island」より M-2 Sun Shine


会場を提供して頂いた東海サウンド様、Ust機材及びstaff(3カメ・スイッチング)の全面協力して頂いたテレビシティーの夏原様、SRS CSⅡポータブルエンコーダーを提供して頂いた SRS Labs Japanの橋田様、Nuendo5のレクチャーをして頂いたヤマハ 山本様 この場をお借りしてお礼申し上げます。 安藤 正道(CTV MID ENJIN)

サラウンドの日 名古屋体感イベント報告 ~サラウンド録音を体感しよう~ 2010年5月1日
第2回名古屋サラウンド勉強会報告 ベイヤー社5.1chサラウンドヘッドホンなど
第1回名古屋サラウンド勉強会報告 ヤマハ・ポストパッケージ、サラウンド番組制作について

「実践5.1ch サラウンド番組制作」 Index
「Let's Surround(基礎知識や全体像が理解できる資料)」
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

サラウンド寺子屋 フェイスブック

August 20, 2011

フィールド・サラウンド録音における音源別最適マイキングの究明 Field Surround Microphone Techniques


By 代表研究者 土方 裕雄、フィールド・サラウンド録音研究グループ代表




この評価実験で使用した6種類マイクと音源集DVDを希望者へ実費頒布(送料込み¥1,000)します。 希望者はまでメールで問い合わせて下さい。

PDFダウンロード:フィールド・サラウンド録音における音源別最適マイキングの究明

概要
2003年からの地上デジタル放送開始に伴いサラウンド番組制作は、2010年時点で年間1300番組が放送されるまでに成長してきたが、その多くは、スポーツや音楽といった番組である。NHK-BBC共同制作「プラネットアース」シリーズや「世界ふれあい街歩き」サラウンドシリーズ 「里山」等の番組に見られる紀行やドキュメンタリー番組では、ロケーション現場でいかに臨場感や存在感のあるサラウンド音を限られた機材とマイクアレンジで行うかが世界的な課題となっている。本研究では、こうしたフィールド・サラウンド録音において、音源ごとに適切なマイキングを見つけるため、6種類のサラウンド・マイクアレイを同一素材同時録音し、それらを主観評価実験によって検証する。録音対象は、日本の代表的な季節を感じさせる音及び自然環境音を選び、通年で最適場所を選択し実施する。録音素材は、定位(移動感を含む)、臨場感、包まれ感、距離感(広がり、奥行き)、迫力の5種類の評価語に適した音源とし、移動感を得られる波音では、マイクロホンを持って海の中に入り、前から後ろへ通り抜けるような効果を狙った。 成果は、2011年7月の完全サラウンド化によって全国的な推進が期待されるサラウンド番組制作者に、参考となる提言を行うとともに、比較試聴DVD−Rを制作配布することでフィールド・サラウンド録音の普及に貢献することとした。



(中略)


8 本実験結果をふまえたフィールド・サラウンド録音における考察
今回フィールド・サラウンド録音の代表的なマイクアレイ6種類の評価を行った。これはフィールドサラウンドのマイクアレイでは初めての体系的な実験であるといえる。これらの結果と、これまでの研究会メンバー個々による経験則をふまえ、以下に述べるような音源別、目的別の適切なマイクアレイの選択を提言することができよう。

1 滝のような点音源音場での録音では、指向性のあるマイクロホンを用いたアレンジメントの方が目的音源の音像が浮かび上がってくる。

2 迫力や定位感を優先しないバックグラウンド・ノイズを収録する際には全指向性を用いると、背景音の定位がそれほどシャープにならず、マイルドな雰囲気のアンビエンスが得られ、各マイクのかぶりによって、つながりの良いサラウンド効果がある。

3 移動感を求める場合は、指向性のあるマイクロホンを利用すると、音像の動きがシャープに出る。

4 ガンマイクロホンは、離れた音源を明瞭に収音するため、手前の音と奥の音がブレンドされた独特の音色になる。清流の音では、他のマイクアレイの音とは一線を画していた。指向性の延長線上にない限り手前の音は強くならず、奥の音と合わさった時にも圧迫感のない音になる。

5 本来、コンサート・ホールでの収録を目的としていたFUKADA TREEをCO-100KとCU-44XIIを用いてフィールドで試してみたところ、特に「包まれ感」において良い効果を感じた人が多かった。しかし、このマイクアレイは大がかりなセッティングを要するため、機動力を求める収録では現実的ではない。評価実験ではFUKADA TREEが優位な条件では、IRT-Xも同様に包まれ感で高い評価を得ていることから、マイクロホンの間隔をある程度離したマイクアレイは、スムースな包まれ感を必要とするベース音に有効なマイキングと言える。今回IRT-XではSCHOPES CCM41を使ったが、 指向性が緩やかなCCM4を利用することで、さらなる効果が期待出来る。

6 現場でサラウンド録音された音源は、作品の質と立体的な表現力を向上させる上で有効であることが認識できた。

(後略)



長野県戸隠高原にて収録


千葉県銚子市屏風ヶ浦にて収録

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August 6, 2011

フィールド サラウンド録音と音楽の融合「サラウンド スケープ」の制作


By Mick Sawaguchi 沢口音楽工房 UNAMAS-HUG代表

はじめに〜サラウンドスケープのコンセプト
まずは,サラウンド スケープというコンセプトを解説しておきます。(「サウンド スケープ」という分野は、以前から存在し、学会レベルでも活発な活動がなされています。)ここで紹介する「サラウンド スケープ」とは、題材を自然のフィールド サラウンドに求め、その出会いの中から一つのストーリーを構成し、さらにそこに共鳴する音楽を組み合わせた表現方式です。(と私が勝手に定義していますが)。完成した作品は、96KHz-24bit のロスレスFLACサラウンドデータとして配信し、ダウンロードされます。

サラウンド音響といえば、放送を始め、映画やゲーム、音楽特にクラシック等で多くの作品が制作されてきました。私は1+1で3以上になる可能性を探求し、その結果音楽とそれ以外の音全般がコラボすることで作り出される表現力として、自然音とのコラボレーションに大いなる可能性と今日性を見いだしています。環境音や自然音もダミーヘッド録音やステレオ音源で多くの制作が行われていますが、私は、同じ音源でもサラウンドで音場を捉えた場合、その表現力は2チャンネルを超えた無限大の力を感じます。なにより心地よさを感じるのです。まさに自然が持つ力です。この力と音楽をコラボし、且つ、サラウンドという表現領域を用いれば「人のリズムではなく自然のリズムを味わう空間」が出来上がります。ここでは、その制作から配信までの制作舞台裏を紹介したいと思います。

1 ワークフロー
制作ワークフローの全体を紹介します。この流れは、ドラマやドキュメンタリー番組のフローに大変似ています。違いは、映像が無いだけです。
● 企画 テーマの設定とロケ地選択
● フィールド サラウンド 録音
● 素材編集とPRE-MIX
● 音楽録音と音楽MIXDOWN
● 全体のPRE-MIX
● FINAL MIXとマスタリング オーサリング
● リリース 配信
と言った流れになります.以下フローに沿って詳細を述べます。

2  テーマの設定
まずは、テーマ設定と言う企画の検討から始まります。今回 事例として紹介するのは、すでにリリースしている熊野幻想 山河幻想そして海竹—山竹Southern Islandという4作品の制作を例に紹介していきたいと思います。

1作2作では、世界自然遺産やパワースポットといった場所を選定しました。熊野幻想では、以前BS-TBSで何度もオンエアされた「熊野 神々の響き」というサラウンド ドキュメンタリーに大いに啓発されました。なにか日本の原点のような雰囲気を感じたからです。どんなところだろうか、どんなサラウンドストーリができるだろうか?というところが企画のスタートでした。
また山河幻想では、熊野を調査している時に日本のパワースポットという情報を読む機会があり、今まで全く知らなかった世界でしたので、大いに関心を呼び起こされこのテーマ設定となった次第です。「気」をアピールしたCDがたくさん出ておりそれなりに人気があるというので、それなら96KHz-24bitサラウンド録音ならもっと「気」が入っているだろう。と考えたわけです!
第3、4作目の場合は、フィールドで録音していて出会った竹林を吹き抜ける風音がきっかけになりました。竹にそよぐサラサラという音は、聞いてなんとも心地よくきこえましたので、海竹—山竹とSouthern Islandでは、この竹の音をテーマにしてフィールド録音することにしました。

3 フィールド録音
サラウンドでフィールド録音を行った方ならもうすでにご存知ですが、現状フィールド サラウンド録音を行うためのサラウンド マイクやマルチチャンネルのポータブル録音機は、十分充実してきました。あとは、チーム編成や行動、期間などからどんな機材が最適なのかを各自判断すれば良いわけです。私の場合は、基本単独行動、あるいは、コーディネータと行動という条件下で、軽量な機材選択とセンターチャンネルに音楽が定位するということを考えて、ロケは、4チャンネル録音としています。国内外でフィールド録音を多く手がけている土方さんのように映像を伴った場合は、センターに記録する音源の役割が、重要になりますので、あとでズーム可変できる工夫をしたサラウンド記録を行っている方もいます。


写真01:土方方式のマイキング


図−01:土方方式の録音系統例

3−1フィールド サラウンド 録音〜一期一会の音
一般的なステレオでのフィールド録音とサラウンド録音の大きな相違は?といえば、まずロケ地についてからの場所の選定にあります。ステレオ録音の場合は、目的とする音源が一カ所で決まればそこを狙って録音すれば良いわけです。サラウンド録音では、360度でバランスの良い音源ポイントを探さなくてはなりません。前方にだけ欲しい音源があって、それ以外は静か?といった場所では、ステレオ録音とさほど変わらない録音になってしまいます。そのため私は、以下の2つのサラウンド音場を想定して場所を決めています。

● 空間が立体的に成立する音場
これは、閉空間を構成できる音源で有効です。特に木立に囲まれた森や洞窟、竹林、雨などは、こうした空間に最適で、特に上方にも十分な音源が有る場所を選定します。不思議なことに適切なポイントで録音した音は、例え4チャンネルサラウンドでも高さの情報も感じることが出来ます。


写真02:森の閉塞空間録音例

● 水平に展開しOPENな音場
これは、海岸や川の岸辺、視界が見通せる草原など。ここでは、上方が抜けた音場になりますので極力水平面で均等なレベルで録音できるポイントを選択します。特に海岸では、通常打ち寄せる波音は前方からのみ寄せてきますし、後方は、防砂林などがあるだけでリアの成分が少ない場合が通常です。こうした場合は、スポーツサラウンドで良く使われる前方4チャンネルマイク配置にして波音を録音します。また、機材ごと波の中に入ってマイクの周りに波が通り過ぎていくポイントで録音することもサラウンド音場を楽しむ方法です。


写真03:波の中へ入っての動きを意識したサラウンド録音、手持ちで近接ねらい

写真04:珊瑚礁での前方4CH録音例

どちらにしても、360度で均一なレベルがとれる、または別々な音がしているといった場所をロケ地に着いてからこまめに探してポイント選びをしなければなりませんので、録音前の入念な場所決めが効果的なサラウンド録音の要といえます。ステレオ録音になれていると、ついつい耳が前方にだけ注目しがちですが、常に全方向で適切なレベルの音源がある場所を選ぶと言うことが、大切です。
前方しか音源が無い場合でも、後方に反射がある場所を利用すると、耳で聞いている場合より以外にリア音があることに気づきます。
例えば、海岸でも後方が、防砂林といったロケーションでなく、切り立った断崖があるとか、滝音でも、後方に岩場があるロケーション、花火では、後方にビルや壁などがあり反射音が存在するロケーションなどです。


写真05:銚子海岸 屏風ヶ浦。ここは波打ち際から後方が切り立った崖で反射音がある。

写真06:秩父 滝の録音例。ここも滝の周りが岩で囲まれ反射音が多い。

自然は、生き物なので、同じロケーションといっても日々音は、変化しています。「また今度録音に来よう」といった気持ちは、あとで後悔する何者でもありません。一期一会の気持ちでその時に巡り会って、「これだ」とおもった音源は、録音しておくことが良いと思います。

3−2 使用機材
私の場合は、単独行動が多いので、機材は、極力軽量かつ高品質を目標に現在は、以下の機材を基本にしています。

● マイクロフォン
SANKEN CUW-180X2 フロント90度 リア120度角
マイクハンガー:AEA ステレオハンガー、マイク取り付け部間隔:32cmマイクヘッド間隔:46cm。SANKENでは、専用のハンガーがついた風防も用意していますが、私の場合は、マイクを常に平行にして録音するという基本だけでなく、音源によって上方や、逆に下に向けて録音したいというニーズがあるためこうした組み合わせにしています。事実その方が、様々な現場で大変柔軟に音源を録音することができるからです。


写真07:CUW-180水平基本セット

写真08:CUW-180上方空間を重視した設定例

写真09:CUW-180下方空間を重視した設定例

● マルチトラック レコーダ
SONOSAX SX-R4レコーダ
これに60GBマイクロHD内蔵。96KHz-24bit録音で28時間録音できます。これは、1日4時間録音したとして、6日分です。私の場合は、1回のロケを1週間単位で行動していますので、これでいけます。希望としては192KHz-24bitなどでも録音したいところですが、外部にバックアップしなければならなくなり、機材も増えるため96KHz-24bitとしています。またPre-mixの所でもふれますが、私のDAW Pyramixは、96KHzまでは、プラグインでG-EQが使えますが、192KHzになると4ポイントのP-EQしか使えないので、整音に不便なことも影響しています。


写真10:SONOSAX SX-R4録音機

長期ロケで皆さん悩む一つにバッテリー管理があります。このレコーダも基本は、単3X6の9V駆動ですが、連続で1時間しか持ちません。なにかいい外部バッテリーはないかと探したところ、2009年のNAMM-SHOWでSANYOがミュージシャン向けのENELOOPバッテリーをだしたと言うニュースを読み、早速これにしました。KBC-9V3Jというバッテリーで出力は9V-2A(価格は1万くらいです)これですと、3時間ほど持ち切れれば内蔵単3へ切り替わりますので、1日4時間は大丈夫です。宿に戻って充電しておけば、翌日も安心。なにより海外ロケに重たい単3電池をたくさん持参しないで済みます。ミキサーケースの横にワイアレス受信機をいれるポケットがあるのですが、ここにぴったり収まるのもラッキーです。


写真11:SANYO ENELOOPバッテリー

写真12:SONOSAXケースへの取り付け例、ワイアレス受信機ポケットにぴったり

この録音機には、ハイゲインというマイクプリの切り替えがあり、これも草原や竹 葉のそよぎといった低レベルの音源をS/N良く録音するのに有効です。ヘッドホンアンプも、どんなヘッドフォンでもばりばりドライブするのでモニターにも困りません。レベル管理は、レベルマーカーをフルビットから-9dbのところに設定してありどんな素材もここまで降らせておけば十分なレベルで録音することが出来ます。HPFの特性は、135Hz -6db/octの緩やかなフィルターですので私は、常にこれをONで録音しています。

● マイクスタンドなど
マイクスタンドは、軽量にとはいかず、低くも高くも自由度が必要なのでカメラ用のSLICK PRO ACT-2という三脚です。これはたためば、60cm最大で、1m40まで自由度があり頑丈なので、風が強くてもマイクが倒れることはありません。これにアタッチメントをつけてワンタッチでマイクハンガーが取り付けます。
マイクハンガーとの間には、防振用としてAMBIENT社のFloater QPF-Mというショックアブソーバをいれています。これは、もともとブームマイクの防振用に出している製品を応用しました。ヘッド部は小さくてクランプもしっかりしたManfrotto 329に交換しています。


写真13:マイクスタンドに取り付けた全体。ホルダー下部の円筒形のものがAMBIENT社のショックアブソーバ

4  ロケーション素材の編集と構成
ロケーションが終了すれば、素材をDAWへコピーし、ストーリーを構成していきます。これも映像編集のアプローチと全く同じです。音を聞きながら、どういった起承転結を作ればいいのか考えていきます。
このサラウンド スケープは、基本20分前後で一つの構成を考え、それが3部構成となった60分で全体を構成しています。なぜ20分もあるのか?それは、今までの経験から、それくらいの時間、音空間に浸っているとまるで座禅をしているような無我の気持ちになれるからです。ですから20分を1単位とした起承転結を構成します。

PRE-MIXの手順は、
● SONOSAX SX-R4 USB経由でPyramix HDへWAVデータをコピー。
● Pyramixで編集画面を作成し(通常8トラックA-Bロールで作成)シーン毎に使える音源をチェックし整音(G-EQを使います)。
● 使える音源の整音データをMIXDOWNしてクリップにまとめる。私の場合は、短いクリップをループしてアンビエンスにするのではなく極力録音した時間軸を大切にして同じような音でも現場の時間の変化を維持するようにしています。
● 整音したクリップとノートを見ながら起承転結のできるサウンドストリーを構成します。
● これを3部構成の60分にしてPRE-MIXは、終了です。


写真14:筆者MIX ROOM全景 PYRAMIXコントローラはTANGOで構成

一例を紹介します。海竹山竹篇では、伊豆 稲取海岸での絶壁に吹き上げる風に吹かれる竹と丘の上で風に吹かれている笹をストーリーにしました。
ここでは、海竹の20分の流れをみてみます。
海岸の絶壁に打ち寄せる波の波頭をイントロにして、次にこの海岸のややロングショットとなる潮騒にクロスフェードします。情景が見えたところで、ゆっくり潮風に吹かれる竹林の音が入ってきます。これがメインの音ですので、極力変化のある部分を選んで構成します。そしてラストは、またロングの潮騒でゆっくり終っています。ロケ地での録音は、音場のサイズを考えて録音しておきます。これは、撮影と同じで音源が決まれば、ロングの素材、中間くらいの素材、そして音源に近接したクローズアップと距離をかえて30分から40分は、最低録音しておきます。


写真15:稲取灯台下の岩場波

写真16:岸壁の上にある竹林内での録音

Southern Island篇は、フィリプンの本島から西にあるPALAWAN島という世界自然遺産に指定された小さな島でロケーションしました。


地図:フィリピン西部 パラワン島

ここでは、パークレンジャーのイテックさんにガイドをお願いして、様々な波音、マングローブ林の野鳥、珊瑚礁、草原の風やココナツ林を吹く風、竹林の風、そしてスコールなどを録音しました。


写真18:パラワン島 サバン村でのロケーションでお世話になったパークレンジャー イッテクさんとコーディネータのアリ君

第1部SUN RISE編では、まず島の広い浜辺のロングから入り、マングローブ林の河口付近のベース、そしてメインのマングローブ林で鳴く野鳥となります。当初ここは貴重な録音ができたので、色々な鳥の音を聞かせたいとトラックを重ねて大変にぎやかな情景を作ったのですが、あとで音楽を入れてみるとあまりに隙間がなく慌ただしい感じになったので、1トラックだけにしました。そして終わりは、珊瑚礁に打ち寄せる波です。珊瑚礁に波が打ちよせるとすぐ海水を吸収するのでシューという高い音がします。


写真19:マングローブ林内での録音

SUNSHINE編の静かな波は、大変ひろい浅瀬の砂浜に機材毎入り周囲から波が行き交う音としました。また背後の森からは小さいですが鳥がなくという立体的なスケープができました。次に丘を流れるように吹き抜ける草原の音、そして岩場のくぼみに円を描いて流れる潮の動き、ココナツ林を吹き抜ける風、最後は、岩場に打ち寄せる静かな波音です。


写真20:浅瀬の波音録音

写真21:ココナツ林を吹き抜ける風音の録音

写真22:竹林内での風音録音。このあとスコールがきて貴重な雨音もゲット

写真23:草原に吹き渡る風音の録音

こうして自然音で60分のストリーができあがると、それを音楽家とサラウンドできいてイメージをつかんでもらい音楽制作となります。

5 音楽家との出会い
サラウンド スケープは、自然音だけで構成するのではなくアコースティックな楽器とのコラボを基本にし、いわゆる電子楽器での楽曲は、つかいません。自然の音に上手くなじまないと感じているからでもあります。ここでどんな音楽かいいかということと、そうしたコンセプトに理解のある音楽家がいるのか?が課題です。今までの経験では、通常音楽が99%のバランスで、自然音は、あってもまさにBGM程度、それもどこかの一部で付け足しのように使われる場合がほとんどでした。音楽家は、自分の音だけで勝負したいのです。しかしサラウンドスケープは、自然音と音楽が50:50のバランスでお互いが補足し、共鳴することを理解してくれる音楽家でないとこのコンセプトは、成立しません。第1作.2作では、今年芸大卒業で作曲を勉強し自らも音楽以外のサウンドとのコラボに興味がある村上史郎さんと出会いました。彼が芸大のアートパスという大学祭で自ら録音した雨音を再生しながらピアノを演奏しているイベントに遭遇したのがきっかけです。また、第3作4作では、尺八の原点と言われる法竹という尺八を使い江戸時代から口伝で伝えられてきた「本曲」という楽曲を演奏している奥田敦也氏と出会いました。法竹は、正式名「地なし 延べ管 尺八」と呼ばれ自然の竹を一本そのままで、中も節をくりぬいただけの素朴な尺八です。大きな音は、出せませんが細かな演奏者のニュアンスは良く出るので個性を発揮しやすく、海外の愛好家が多い楽器です。
現在法竹で本曲を100曲以上演奏できるのは、奥田氏だけという存在です。彼は、これまで、CDでアルバムを出しましたが、そのサウンドは、十分表現を捉えていないと感じ、それ以降CD制作は、やめてきたそうです。今回マスターを192KHz-24bitで録音し、そのサウンドの生々しさに感動していました。元々邦楽器は、自然の中で演奏されてきた歴史があるので、こうした自然音とコラボするのは、面白いということで実現しました。

6 音楽録音
6−1ピアノ録音(熊野幻想 山河幻想 編)
まず構成が出来上がったサラウンドの自然音を聞いてもらい、タイミングやテンポを考えた作曲のアイディアを相談します。その後作曲用にサンプルCDを渡して、作曲となります。今回は、50:50のバランスを活かすために間の多い作曲(Fragment Music)としました。
録音は、千葉の日東紡音響AGSスタジオです。ここは、AGS拡散体のおかげで響きが大変整った波面を捉えることが出来るので録音に適しているだろうというもくろみです。マイキングは、
L-RにSANKEN CO-100K LowパートにBrauner ファンタム クラシックそしてサラウンドにSANKEN CUW-180というシンプルな構成です。マイクプリは、Low パートをTL-Audio A-1それ以外は、RME-OCTMIC-2です。このアウトは.RME Fireface UCへ入力されUSB-OUTをPyramix Native+Macbook proで96KHz-24bit録音しました。


写真24:日東紡スタジオでのピアノ録音

写真25:作曲と演奏を行ってくれた村上史郎氏

6−2 法竹録音
「さわり」とか「遠音」と言われるように法竹の演奏は、大変レンジが広く録音にはS/N比の良い環境が必要でしたので収録は、音響ハウス第1スタジオを使用しました。邦楽の演奏では、音が吸収される音場では、演奏自体がやりずらいので、それをスタジオで解消すべく、日東紡音響のAGS拡散体で取り囲むような配置としました。さらにこれには、崎山さんの一工夫がいれてあり、通常のAGSの背面に反射板が下げられています。これで疑似邦楽堂の音場を作ることが出来ました。どこで演奏してもらうかあらかじめチェックし、位置決めをしてからAGSをセット。今回は、床にも並べて床の波面を整理するようにしています。


写真26:音響ハウス1スタジオでのAGS位置決めを行う日東紡音響のみなさん。AGSの背後の反射板に注目

マイキングは、感度の高いマイクが必要だろうと思い、かつピーク成分を適度に滑らかにしてレベルをとれることを考慮した結果、Gefell UM-900とRoyer R-122をメインに、サラウンド用マイクは、やはり感度の高いSANKEN CO-100kとしました。UM-900は、国内では、あまり見かけませんが、ラージダイアフラムのチューブマイクですが、専用電源が入らない、ファンタム電源供給というユニークな設計です。


写真27:奥田氏の法竹録音マイキング

写真27−b 奥田敦也氏

この時は、1スタジオのSSL 9000Jのマイクプリ ダイレクト アウトをFireface UCへ接続してPyramix NATIVEで録音です。マスターは、今後のアーカイブも考えて192KHz-24bitで録音しました。


写真28:コントロールルーム内録音機器

写真29:録音中の筆者

音楽部分は、OKテークを選ぶと、5チャンネルのマスタークリップを作ります。
今回は、192KHzサラウンドまで対応したircamのサラウンド リバーブを使用しました。大変ナチュラルな音質で音源に馴染むことができます。CPUパワーをかなり使うためCPUの性能は、最新版をお勧めします。


写真30:今回使用したサラウンドリバーブ IRCAM VERB

7 PRE-MIXとFINAL MIX ~ 5CH MASTER 4CH MASTER 2CHMASTER-iTune Music Storeまで
自然音の構成が出来上がったPRE-MIXに今度は、音楽パートをペーストして生きます。ここで、自然音との微妙なタイミング調整を行います。これもトータルで起承転結が、音で見えるようにするためで、いわゆる「ぶつかり」をなくしてメリハリがでるようなタイミングとします。
私のスタジオのモニターレベルは、ピンクノイズ-18db基準で、チャンネルあたり65dbに決めてmixし、小さいレベルでチェックする時は、さらに6db下げた59db/ch—Cウエイトと固定です。これで、これまで様々な環境で再生しましたが、バランスが崩れると言う経験は、ありません。


写真31:筆者MIXルーム

これで、OKであれば、
● 5チャンネル マスター 96KHz-24bit(L-R-C-LFE-Ls-Rsレイアウト)
● 4チャンネル マスター 96KHz-24bit(L-R-C-LFE-Ls-Rsレイアウト)
● 2チャンネル マスター 96KHz-24bit
● 2チャンネル i-tune用マスター 44.1KHz-16bit

の4種類をmix-downします。2チャンネルのmixは、ダウンMIXではなくステレオバスでのモニターで別に行います。本作では、自然音と音楽のバランスがサラウンドで良くてもステレオでは、自然音が大きいと言った場合があるので、個別に調整するためです。クリプトンでのHD配信フォーマットは、ダウンロードの時間短縮と既存音楽愛好者でサラウンドを楽しむ方々にフロント既存ステレオ+サラウンド追加2チャンネルという聞き方が好まれていることを考慮しました。これを可逆圧縮FLAC形式として4チャンネル60分で2GB相当となり光回線であれば15—20分でダウンロードできます。

7−2 サラウンドをダウンロードで再生するには?
現在、ダウンロードでサラウンドを再生できる方法は、どんなものがあるのでしょうか?無料ソフトではWINDOWSにFOOBER2000と言うソフトがあり、これはDVD-Aも再生できます。また国産では、ulilithというソフト、またMac対応では、VLCやPLAYといったフリーソフトでサラウンド対応です。しかしD/A変換するツールは、まだステレオ対応がほとんどのため、業務用のオーディオインターフェースを使うのが、確実です。RME Fireface UCといったインターフェースには、192KHz対応で、6チャンネルのアナログ出力があります。
また、リスナーのなかには、無料ソフトではなく業務用のDAWソフトをパソコンへインストールしてオーディオインターフェース経由でサラウンド再生する方もいます。AVアンプは、もともとサラウンド対応ですので、これらのデジタル入力が、こうした対応となれば、映画ソフトを楽しむことからさらに世界が広がっていく可能性もあります。


図−2 サラウンド再生例

おわりに
インターネットという流通も、最近は、品質へも注目できるようになりました。アメリカでは、HD-TRACKSやi-traxsそしてヨーロッパでは、2Lやリンレコード等、国内ではクリプトンHQM-STOREとe-ONKYOが現在高品質配信を手がけています。しかし大部分は、2チャンネルステレオが主流で、2Lやi-traxsがサラウンドを提供しているのについで国内では、このサラウンド スケープが、初のサラウンド配信となります。始まったばかりなので、今後どういった展開が可能なのかは、未知ですが、少なくとも今までのDVD-AやSA-CDでのサラウンド制作にくらべ、よりフットワーク良く制作できる環境が、整ってきたことは事実で我々コンテンツ制作側も多様な可能性にトライできる、状況が出来たと言えます。(了)

関連リンク
HQM STORE
Hotchiku + Surround Scape, Atsuya Okuda × Mick Sawaguchi


「実践5.1ch サラウンド番組制作」
「Let's Surround(基礎知識や全体像が理解できる資料)」
「サラウンド入門」は実践的な解説書です