December 19, 2009

2009サラウンドワークショップ芸大編

By Mick Sawaguchi 沢口真生 >> Download(PDF)


「サラウンド制作情報」 Index にもどる
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

December 17, 2009

作曲家、音楽制作者のためのサラウンド入門


By Mick Sawaguchi 沢口真生(サラウンド寺子屋 UNAMAS-JAZZ 主宰)

はじめに
2009年9月25日に音楽制作者をターゲットにしたロックオンセミナー「サラウンド制作」の第1回目が開催されました。第2回目は、11月27日に24トラックPOPS音源から参加者が自由にサラウンドデザインを実践するという「仁義なきサラウンドMIX」をやりました。
20代を中心にした参加者は、ステレオ制作からSOMETHING NEWを求めての参加だったことがアンケート調査でも明らかになってきました。ここでは当日使用した資料を交えながら音楽制作,特に作曲を生業にする方々へ「熱いサラウンドラブコール」を送ります。

現在中心となっているサラウンド方式は、通称5.1CHサラウンドと言われ。前方フロントにセンターCHを加えたL-C-R CHそして後方にサラウンドCHとしてLs Rsの2CHが,最後に120Hz以下の重低音専用のLFE CHが加わりトータルで5.1CHサラウンドと呼ばれます。




1 サラウンドVsステレオの世界観の相違
現在2つのスピーカと2CHの記録伝送再生媒体によって 2CHのステレオ音響が一般化しており皆さんはなんの抵抗もなくこれを楽しんでいます。私たちの耳は2つだから、2CHの情報で十分だ!と考えるのは実は早計と言わなくてはなりません。たしかに耳は2つですが、私たちは完全立体縦横360度のリアルな立体音を関知しその自然さを聞いています。
「そうなのです。2つの耳で立体〜サラウンド〜の音を私たちは自然に検知認識しているのです」これを考えれば「ステレオが最高!」というには不足している情報がたくさんあることにお気づきいただけるでしょう。サラウンドという空間表現は、DAWとプラグインをメインとする今日のデジタル制作ツールの発展と平面音場にあきたらない人々にSOMTHIN NEWとして注目され始めています。

2CHステレオとサラウンドの世界観の相違をまとめれば、以下に述べる4つの優位性をあげることが出来ます。

我々が日常聞いている聴覚の立体聴取能力「自然さ」
作曲家やアーティストといったクリエータのツールとしての360度のサラウンド キャンバス、
ミキシングエンジニアからみたマスキングのない解放された音質の優位性
音に浸ることによるヒーリング効果

1−1 聴覚検知という観点からみたサラウンドの優位性
我々が日常様々な生活環境音を捉えている様子とそれが2CHステレオに閉じ込められた場合の比較を示しました。聴覚検知という側面でみても2CHステレオで表現される世界観は、圧縮された世界といえるでしょう。これがサラウンドで表現されると聞いていても「自然」な感覚として耳が受け入れてくれます。
2CHステレオが持つこの凝縮感と高密度が好みだ!という声も聞こえますが、純粋な空間認識という観点からは2CHステレオは、「歪んだ空間」なのです。少なくとも今日の5.1CH(6CH)や7.1CH(8CH)等といったチャンネル数は、こうした空間情報再現能力を持っているという点で従来の2CHステレオに比べ優位性を持っています。


1−2 表現者にとってのサラウンド空間の優位性
2つ目に作曲家やアーティスト サウンドデザイナーといったクリエータからみたツールとしてのサラウンドの優位性を述べてみます。音響表現はモノーラルから1950年代になり2CHステレオへそして今後マルチチャンネル サラウンドへと発展しようとしている途上に我々はいるという時間軸の捉え方ができます。モノーラルと2CHステレオ両者に共通しているのは、観察者すなわち客観視という前提に立った表現手法だと言うことです。これを観察者中心に360度取りまくようなキャンバスの拡大を行うとどうでしょうか?観察者は対象と一定の距離をおいて観察する客観視から、自らもその世界の一部となり得る主観視の世界へと新たな表現の場へと変化します。
客観表現としての2CHキャンバスに限界を感じていた新感覚のクリエータにとっては、用いる道具の数が増えるサラウンド空間を手にすることで新たな表現世界を構築することが可能になる訳です。




1−3 ミキシングから見たサラウンド音響の優位性
3つ目にミキシングという技術面から見たサラウンドの優位性について述べます。
作曲家の意図にもとづいて出来上がった音楽空間の要素を全て2CHのステレオ空間で表現しようとすると、楽器のなかには、マスキングという現象によってかき消されてしまう楽器が生じます。あるいは2次元空間のなかでの奥行感を出すためにメインの楽器や歌とバックを支える楽器群とでは音色や距離感を加工しなければなりません。こうしたマスキングをいかにバランス良く整えステレオ空間を作るかが「腕のいいステレオミキシングエンジニア」と言われてきました。しかしこれは、「スパイス過剰の食材」と言われかねない側面ももっています。これを5CHのサラウンド空間へと拡大した場合は「産地直送の食材」を味わうことができ、無理の無い自然なサウンド空間と本来持っている音質が再現できる点にエンジニアからみた優位性を見ることが出来ます。

1−4 心理面からみたサラウンドの優位性
ここではサラウンド音響が聴取者に与える心理面での効果について経験をふまえて述べてみます。サラウンド音場にいると「音に浸っているようで気持ちいい」といった反応があります。サラウンド空間は、まさにこの音に浸っている「音浴—Bath tab sound」を提供することができます。豊かなサラウンド空間に包まれることで我々はリラックスし、心が解放されるというHi-F指向とは違った新たな効果もサラウンドは持っているのです。

2 サラウンドが空間表現に応用された「ふりかえり」から今を見ると
サラウンド空間を意図的に使用したのは、宗教音楽や説教といった宗教空間です。早くは4世紀のローマカトリック教会建築、そして中世に建築されたキリスト教会や仏教寺院、その他多くの宗教で見ることができます。こうした儀式を執り行うメイン会場の建築音響は高い天井とドーム状のデザイン、生の声や楽隊が明瞭度と豊かな響きを調和して信者に厳かな空間を提供し立体的な空間の持つ特徴を信仰高揚に応用したわけです。
16世紀ベニスのBASILICA SAN MARCOには向かい合う2台のオルガンが設置され、これを効果的に利用して音楽長ADRIAN WILLAERTは合唱と音楽を複数配置する「VENETIAN MUSICAL方式」と呼ばれる音楽手法を確立しています。
17−18世紀はこうした動きが停滞していましたが、19世紀にはいりまた復活の動きが出始めました。みなさんがお馴染みの楽曲としては、1837年BERLIOZのREQUIEMこれは、4ヶ所のブラスパート配置や1874年GIUSEPPE VERDIのREQUIEMのステージ背面のブラス配置、そして1895年のG.MAHLER S-05 へとひきつがれてきました。こうして宗教というジャンルから拡大し純粋な音楽として作曲演奏され、立体的な音楽の再生が全周囲から行われる形式をとる楽曲ができあがりました。これらはコンサートホールのステージ以外の各所やステージ背面に演奏者を配置するといった形式でサラウンド空間を応用しました。
1908年C.IVESはTHE UNANSWERED QUESTIONという楽曲でストリングスをオフステージに、正面にはTp ソロと木管群といった異なった配置の作曲をまたH,BRANTは1953年にANTIPHONYという楽曲で5つのオーケストラを異なった配置で演奏する楽曲を作曲しています。作曲が電気録音技術を応用し始めたのは、1950年代になってからで電子音楽とマルチチャンネルが融合し始めました。J.CAGEはそうした技法をメディアに応用しようと1951 年にLANDSCAPE-NO4を12のラジオ局を使って実験放送しています。
1957-59年にはサンフランシスコにあるプラネタリュームMORRISON でVORTEX が宇宙の映像とコラボレーションした音楽を36−40チャンネルの再生スピーカで上映し1958年のブラッセルワールド フェアで招待上映されています。この動きはのちに70年万博展示会場でのマルチチャンネル音響パビリオンの先駆けとなったといえるでしょう。70年に入るとマトリックス方式をLPレコードに応用した4CHステレオが登場しましたが、メーカー主導と方式の乱立、クリエーターの不足から数年で市場から姿を消していましました。ここでの教訓は、ユニバーサルなサラウンド制作.再生方式とクリーターの必然性やスキルが伴わないものはユーザーにそっぽを向かれるという点でした。

21世紀に入った今日、状況は変わったのでしょうか?
方式は世界共通の規格が出来ています。
そしてメディアはLPレコードではなく、デジタルメディア。
ツールは、手頃なパソコンDAWからすでにサラウンド制作機能が搭載されています。機材も手頃な価格でホームスタジオでもサラウンド環境が構築できるようになりました。そうです「インフラは整ったのです!」
では肝心のクリエータの皆さんは?モノーラルー2CHステレオときた道筋をワンステップ上るタイミングでは?というのが私の熱いラブコールです!

3 音楽表現が2chステレオで停滞しているのは作曲家の怠慢だ!
3−1 作曲をする場合の頭の中が2スピーカで鳴っていないか?

360度のキャンバスを手に入れても肝心の作曲家が音世界を作曲するときに頭の中に浮かぶ音が360度、まさに上下左右で鳴っていなければ本当にサラウンドを活かした作曲をしているとはいえません。ここが肝心なところで作曲の仕事が依頼されたときにすでに2つのスピーカから鳴ることを前提に音を組み立てていないでしょうか?360度で考えるには少しの訓練が必要です。しかしすぐれたサラウンドの楽曲が生まれない限りいくらおてごろなサラウンド機器やツールが登場してもユーザーは真のメリットを享受することはできません。「2CHステレオの仕事しかこないからね」といって思考回路を遮断しているのは、まさに作曲家の怠慢としかいいようがありません!オーケストラのコンサートをサラウンドで録音する.もちろんこれもすぐれた臨場感が楽しめます。しかしこれは楽曲がサラウンドしてる訳ではなくコンサートホールがサラウンドしているだけです。360度のキャンパスを十二分に使い切ったスコアが提供されない限り、サラウンド音楽は「臨場感サラウンド」の領域をこえることはできないのです。クリエータとは、常に新たな課題に挑戦してこそその名前に値するといえませんか?

3−2 クラシックの臨場感サラウンドだけで十分か?
〜ISAO TOMITAとトミタメソッド〜

現状楽しめるサラウンド音楽を作曲する意欲をもったクリエータといえば冨田勳氏をまずあげなければなりません。現代音楽などで「マルチチャンネル音楽」を作曲するクリエータは世界的にもいますが、「楽しめるサラウンド」というエンターテイメント性を核にした作曲という点ではここ日本に大きなコーナーストーンがあるのです。氏は、そうした永年の経験とアプローチを後進へ伝えるべく「トミタメソッド」と呼ぶ作曲.制作手法を大学で教授しています。ここには意欲ある若者が集まり少数精鋭でサラウンド立体空間の作曲に取り組んでいます。その成果のひとつは2009年10月21日に発売された「交響詩ジャングル大帝」のディスクで聞くことが出来ます。そこに提示されたスコアは、まさに360度の世界を作曲の段階で考えた配置や楽器群が書かれています。リアは、音楽の響きだけあればよい!という臨場感サラウンドを超えた360度のキャンパス。これこそが立体空間の構築といえます。
交響詩ジャングル大帝COZX-411-2で是非その意図を確かめてください。

3−3 2009年第51回グラミー賞サラウンド部門にノミネートされた
「コーネリアス」SENSURROUNの先進性に学ぶ

今年の2月に開催された第51回グラミー賞のサラウンド部門に日本からのアーティアストとして初ノミネートされたのはコーネリアスのSENSURROUNDというアルバムです。映像とサラウンド表現に取り組んだ大変意欲的なアートでもあり、エンターテイメントでもある作品です。制作は、ほとんどサンプリング音源とコンピュータツールを駆使しており制作環境という点では、何ら特別の設備は使っていません。みなさんが普段使っているツールとおなじです。では何が違ったのか?といえば2CHステレオ音楽でなく新しい表現としてのサラウンドという領域に飛び込んで挑戦をしたという点にあります。人のやらないことに先駆的に取り組んでみるという先進性、これこそが「クリエータ」の本質ではないでしょうか。アメリカの選考委員は、そこを評価したわけです。

4 サラウンドは難しい?面倒なだけで仕事がない?仕事を待ってはいないか?
4−1 ここができればあとは難しくない!モニタリング環境の構築
5.1チャンネルのモニター環境構築のためミキシングする部屋の大きさに応じてモニタースピーカのサイズを選ぶ。音質優先主義で小空間に大きなサイズのスピーカを無理に設置するとサラウンド空間が十分得られない。
モニターレベルを部屋のリスニング点であるスイートスポットにて全チャンネルで適正値に調整する。
モニター環境は、響きの少ない部屋を選択。
使用スピーカは全チャンネル同一仕様が望ましい。
LFEスピーカの適正設置とレベル設定(部屋の定在波の影響を低減した場所に設置)状況によっては部屋の不平行面をモニターのフロント面にするなど。

4−2 5.1チャンネル サラウンド制作でのスピーカ配置
モニタースピーカ配置については、国際的な規格であるITU-R BS-775と呼ばれる推奨規格があり、これを前提にそれぞれの環境に応じて補正を行っていけばモニター条件ができあがります。図— 参照。この規格は従来の2チャンネルステレオとの互換性を重視しながらリアのサラウンドチャンネルは、アンビエンス空間を再現することに重点をおき純粋音楽からHDTVなど映像を伴った場合の配置を推奨しているもので映画音響とは配置が異なっています。

センターを中心にL-Rの開き角が60度と45度の2タイプあるのは、60度が音楽やHDTVなど放送での仕様、45度は映画などスクリーンと音像が一致した配置での仕様となります。リアのサラウンド開き角は、ITU-R規格では110度+/-10度と側方よりの配置ですが、これはアンビエンス空間を認知しやすい我々の聴覚特性から推奨された角度です。逆にPOPS音楽など明確なリア側での後方定位には不向きで、また音像を360度パンニングするといったデザインではスムースなパンニングとなりません。それをメインに考えて配置したのが110度より後方配置となる135度や150度といったオプションです。(アメリカ NARAS委員会の推奨配置)



4−3 配置とモニターレベルの測定簡易ツール
これらの適正配置を部屋の中で行うには、測定ツールがあれば便利です。一つはITU-Rの配置角度を記入したスケール。そして適正モニターレベルを全チャンネルで揃えるためのサウンド レベルメータ。さらに正確さを期すにはレーザー距離計や周波数特性を測定できる1/3OCTバンド リアルタイム アナライザーがあれば完璧です。測定用信号源は広帯域ピンクノイズやバンド幅を制限した狭帯域ピンクノイズを使用します。

4−4 測定のための基礎知識
● 音圧測定のフィルター特性

5.1チャンネルのモニターレベルをメインチャンネル5本とLFEチャンネルで測定する場合の説明に、レベルメータの測定特性はC-ウエイトでSLOW特性にして測ることと規定されていますので、その意味を解説します。これは測定する音の大きさに応じて我々の耳の特性が異なっていることを補正する目的で付属している特性補正フィルターです。

F:特性 これは何も補正を行っていない大音量レベルの測定時。
A:特性 これは60dB以下など小さい音量を測定する場合に使用。
C:特性 これは70−90dBといった平均的な測定で使用

通常のミキシング環境を構築する場合にはこのC-特性を使用し、レベル表示が読みとりやすいSLOWと言うモードで測定するというわけです。

● オールパスレベルと1/3OCTバンドレベル
これもよく混乱しますが、調整手順説明書などでメインチャンネルのレベルを各チャンネルで85dBに設定した場合LFEチャンネルは+10dBに調整と説明している資料をみかけます。これをそのまま理解するとメインチャンネルの85dBに対してLFEは95dBに調整?と受け止めらますが、この記述の前提となっているのは1/3octバンドレベルで測定した場合の1/3octバンドレベル値で、メインチャンネルのレベルに対して+10dB高く設定という意味です。サウンドレベルメータで測定する値はこれとは異なりオールパスレベルと呼ばれます。

すなわちバンドレベルという値は1/3octリアルタイムアナライザーで測定した各周波数別の値を示し、それら全体の値を示しているのがオールパスレベルと呼ばれる値です。すなわち基準値のピンクノイズをミキシング位置で測定したとして、1/3octバンドレベルで測定した結果が各周波数バンドで71dBであった場合、LFEはこれよりも+10dB 高く設定するとバンドレベルでは81dB 。
これをオールパス レベルで見るとメインチャンネル値は85dB となり、LFE値は4dB高い89dB となります。

● 基準レベルとピンクノイズ
皆さんのミキシング環境での基準レベルとはコンソールに基準信号をいれた場合のレベル基準値をどこに設定しているかを意味しています。         
(例:1KHz-18dBFSで0VU設定等。例えば映画や放送、音楽などによって基準値が異なり現状ではデジタルレベルで-20dB/-18dB/-14dBFSなどそれぞれの制作環境で異なっている。これら基準レベルと適正モニターレベル調整は、ピンクノイズをその基準レベルで入力して必要なレベル(例85dB/CH オールパスレベル等)に調整すればよいことになります。

4−5 モニターレベル セットアップと配置の許容度

部屋の環境によって理想的な配置とはならない場合が多いので、それらの許容度を見込んでおいて問題はありません。
私の経験で言えば特にアンビエンス感を重点とする場合は、リアチャンネルをフロントより高めにセットすると良い感じです。
モニター距離については、広い方が理想ですが通常は2.5-3m前後あれば問題ありません。半径が2m以内といった狭空間になると少しの頭の移動で定位や音質が変化するのであまりおすすめはできません。

モニターレベル設定については、映画など大画面大観客から放送、家庭環境再生など目的に応じてそれぞれの最適モニターレベルを目的に応じて設定してください。(私の場合は-18db基準でチャンネルあたり65dbです)

5 サラウンドでエンターテイメントできる作曲スキルを武器にできるか?
  〜21世紀の音楽表現に期待する〜

制作環境や機材 ツールは何も特別のものが無くてもサラウンド制作ができる時代にあるということが、これまでの解説でおわかりいただけたとおもいます。
あとはみなさんのやる気とくじけない気力です。おっと!もう一つ肝心なことがあります。それは何事にも現状維持派という大きな関門が横たわっていることです。会社人間でしたらよくお分かりでしょう。直接の上司や社長そして仕事の上でつきあう制作や営業と行った方々。これらの方に自作を体験してもらい、そしてうなずく瞬間を見つけたらすかざず「やりましょう!サラウンド」と説得することです。

2009年度JPPA AWARDミキシング CM部門で見事シルバー賞を受賞した、札幌のスタジオ UP LINKを経営しているYさんは、札幌制作の初サラウンドCMがシルバー賞を受賞したことにこうコメントしています。

「いつものように電話の前でオーダーを待っているだけでは、今回の受賞はありませんでした。クライアントに攻めの姿勢で行動したことがこの結果につながったとおもいます」と。

2CHステレオでやれることは、ほぼみなさんやり尽くしているのでは?それなら新たな冒険の旅はサラウンドです。21世紀の音楽表現をエンターテイメントのジャンルで提供していくパイオニアに期待しています。(了)

以下のサイトは、音楽が音だけでなく映像も伴いかつ高品質配信というツールを使って、ワールドワイドにビジネスを展開しようとしている例です。今後こうしたメディアが音もサラウンドで提供していくことは遠い話ではありません。

http://dch.berliner-philharmoniker.de/#/en/

http://www.metoperafamily.org/met_player/


「サラウンド制作情報」 Index にもどる
「実践5.1ch サラウンド番組制作」 Index
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

December 1, 2009

第67回 長野朝日放送の7時間サラウンド生番組・前編:実践5.1ch サラウンド番組制作


By Satoshi Inoue 井上 哲



“毎年、「信州の大自然の素晴らしさ」をサラウンドの音声でどう表現出来るか、試行錯誤しながらの番組制作であるが、毎年多くの反響を頂き、番組のサラウンド制作もレギュラーとして定着してきた。スポーツでも音楽ライブでもない生番組のサラウンド化も十分にメリットがあるという、確固たる信念が筆者に生まれたのも、この番組のおかげである。(中略) 今年はまた予想以上にハードルの高い企画が制作サイドから提案された。番組テーマは「信州探検」。”
月刊FDI 2009/(PDF)より

長野朝日放送の7時間サラウンド生番組・後編 >>>

「実践5.1ch サラウンド番組制作」目次へもどる
「Let's Surround(基礎知識や全体像が理解できる資料)」
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

November 1, 2009

第66回 SVS・サラウンドヘッドフォン:実践5.1ch サラウンド番組制作


By Satoshi Inoue 井上 哲



“そもそもヘッドフォンでサラウンドを再 生するということ自体、かなりむりのある話ではある。なので、筆者もサラウンドヘッドフォンに関しては、現行のもので技術的 にもそろそろ限界であろうと、今後にも過 度な期待はしていなかった。(中略)驚いたことに本当にスピーカーから音が出ているように聴こえるのである。これまでのサラウンドヘッドフォンのような、センター定位とか、リアの分離とか、そういった点を議論する余地は全く無く、限りなく5本のスピーカーから音が出ている感じなのである。” Smyth SVS (Headphone Surround Monitoring) のレビュー 月刊FDI 2009/11(PDF)より

Smyth Researchのサイト

「実践5.1ch サラウンド番組制作」目次へもどる
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

担当サラウンド寺子屋サポーター:Go HaseGawaKazuki KobayashiNSSJP

October 18, 2009

第63回サラウンド塾 交響詩ジャングル大帝のサラウンド制作と大学の取り組み 冨田勳、野尻修平

By.Mick Sawaguchi
日時:2009年10月18日 14:00 - 17:00 音響ハウス 第3スタジオ
テーマ:交響詩 ジャングル大帝2009年版のサラウンド制作について
講師:冨田勳、野尻修平

<
沢口:2009年10月のサラウンド寺子屋は、冨田先生の交響詩 ジャングル大帝2009年版のサラウンド制作についてお願いしました。大学と冨田研究室生徒さん達、そしてレコード会社がコラボするという新しい制作方法も、皆さんには参考になると思います。21日にリリースされる直前に寺子屋でお話いただけるのも何か得した気持ちになりますね。リリース記念の記者発表会が10ー02日に水道橋にある尚美ミュージックカレッジで開催され多くの取材陣が参加しました。


今回は、PART-02として音響ハウス田中さんのご好意でサラウンドマスタリング ルームでの石井さんによる解説とデモもありますのでそちらもお楽しみください!
それでは、制作の概要を野尻さんに、そして制作意図などを冨田さんからお願いします。

野尻:初めまして野尻です。まず最初にジャングル大帝の原盤制作をどういう形でやったかを説明させて頂きます。2009年の4月に尚美総合芸術センターという研究機関が、シンクタンクとして設立しました。これは、産学共同プロジェクトの推進、主に我々はオンザジョブラーニング、現場教育というようなスタンスを今後展開していこうという事で、教育の柱としては教養教育、専門教育生涯学習と言うような支援をしていこうという風に立ち位置を持っています。尚美学園は、冨田先生が2000年から大学で指導されていて、2006年から大学を設立して研究室があります。その指導法が、やはり実践に即した方法で、レコード用マスターデータ原盤をアーティストが作って、それをアレンジするという手法です。この研究室の指導方針は冨田メソッドと言ってるのですが、その冨田メソッドを軸に今回尚美総合芸術センターの原盤制作プロジェクトチームを尚美学園が立ち上げて今回のアルバム制作に至りました。制作スタッフは総合芸術センターの研究員で、私も研究員という立場を取っています。その他に客員研究員という形でプロジェクト単位で年間もしくは半年、外部から研究員を招くという事をしています。今回のアルバムでは、コロムビアのプロデューサーである岡野博行さんを客員研究員としてお招きして、チームとして一つのアルバムを作るという形になっています。大学の中では冨田研究室、または録音で活躍される千葉先生石橋先生の研究室に協力を頂いています。学内においては合唱サークルが参加しています。

大学、もしくは学校法人がこういったアルバムを作る事においての目的は、レコード制作におけるすべてのプロセスを研究教材にすること、尚美学院における原盤データの教材活用。これは今回サラウンドでアルバムを作るという前提にしてますので、オーケストラを出来るだけマルチの素材で録音しています。例えばそのマルチデータの素材を尚美学園の録音専攻のコースの人がリミックスをするというような授業が可能性としてあり得ます。学外においては商品、レコードを小学校や中学校で、このアルバムを聴いて鑑賞教材として使って頂こうというアプローチの研究展開をしています。その他にはマスターデータがあるので、それらを、例えばオーケストレーションを学ぶ上で管セクションだけ聴くとか、木管と管の関係性をその木管と管のミックスだけを聴いてその関係性を探るという様々な鑑賞補助、作曲の研究補助のコンテンツというものが作っていけるだろうという形で進められました。今回のアルバムは、実は1966年にLP盤が出ています。同じコロムビアミュージックエンターテイメント(当時は日本コロムビア)だったんですが、その時のアルバムのコンセプトが、手塚治虫さんのイラストと冨田先生の音楽を鑑賞するという方法で、この曲のメロディーモチーフ楽曲の使い方という楽曲解説が付随している物になっていました。そういうアルバムコンセプト、そのアルバムそのもののコンセプトを子供達に向けてオーケストラの楽器を身近に感じたり、楽しんでもらうというような要素を非常に多く持っていたので、大学としては、是非やろうということになりました。演奏は日本フィルハーモニー交響楽団、これは1966年版も日本フィルハーモニー交響楽団が演奏したこともあり、今回もお願いしました。合唱は尚美学園の新音楽集団「匠」というサークルが担当しています。パーカッションは梯郁夫さん、藤井珠緒さん参加し、ナレーションは綾戸智恵さんにお願いしました。

では、冨田先生から本作品の趣旨をお願いします。

冨田:冨田です。今日は、日曜日にも関わらず、来て頂いてありがとうございます。まずこれは、子供達向けのサラウンドなんです。実際に川越とか近所の小学校へ行って、校長先生と掛け合って、とにかくサラウンドを聴かせたい、子供達の表情を知りたいという事でパイオニアの25,000円くらいの簡易サラウンドシステム、結構な(いい)音なんですね。25,000円ですよ。凄いの作ってるんですね。それを持って、和田中学校で70人の生徒に聴かせたんです。だからスピーカーがある所、子供達みんな気がつかない、中学生が気がつかない。だけどその音はかなりのものでした。これはもう本当に。サラウンドのPRにはもってこいの物ですね。そういう風に実際に学校を回って、子供達の表情を見て非常に敏感ですから、パッと向こうから音が出るとむこうからパッと目には映らないんだけれどそっちの方を見る。それで逆にそっから子達にサラウンドは、こういったもの好むんだというような物だと逆に割り出していって、今回の物を作りました。かなり(時間が)かったのかな。
野尻: 10ヶ月位ですね。

冨田:(このところ)サラウンドというのが、実は下火になってきちゃったんですよ。レコードにおいても、放送においても。驚異のサラウンドとかいって以前は宣伝にもそう書かれて、また、ジャケットにも5.1サラウンドってのは書かれたのが、最近レコードではそういう書き方をすると逆に売れなくなる、サラウンドというのはなるベく表記しないようになりました。これはレコード会社や放送局の怠慢ではなくて、やったんだけれども全く効果が出ないから、その上サラウンドの印象からして、あの面倒くさいものかとか、ああ一時期のあれかみたいな感覚に捕われてしまうっているという広報とか宣伝の方の話でした。
今回も残念ですがあまりサラウンドって載っていないんですよね。それはやっぱり作り手の方にも責任があって、いわゆるお金を出してレコードを買ってくれる層、やっぱり家庭のお母さん方、子供達、学校関係ですよね。やっぱりその人達をターゲットにしていない。つまり結局ないがしろにしてきた。その素晴らしいサラウンド、もの凄くこれ、エジソン以来の凄い発明だと思うんですよ、さっき野尻君が言いましたけれども、これは大学として制作しました。尚美学園が制作費を負担しました。これは全ての出演者のギャラ、オーケストラ、写譜代全部そうですけれども、それで学校は支出をして、それで研究員に作らせたんですが、結局学校はそれでどうするかというと、売れた場合の原盤印税でもって回収していくという形なんです。だから売れてくれないと、これはそれこそ大学の責任者も大変な責任がかかってくると状態になってしまいます。まあその方はかなりの腹をくくるというか、そういうつもりで今回のプロジェクトを決断して、それで今回に至った訳なんです。ただやり方によっては学校で教科書に載るとか、そういうような進展をしていけば、そんなに赤字を出さないで済むんじゃないかという風に、私も言い出しっぺなので非常にその辺は責任を感じている訳です。

冨田:レコード会社も作る所までは素晴らしいもの作るけど、その結果どういう風な聴かれ方をサラウンドでしてきたかって事には割と無関心。たぶん放送もそうだったと思うんです。じゃあそれを一般の人が聴いているか、という所まではたぶん行き届いていないみたいなので、これじゃあ駄目だと。まずは子供達が子供心本当に感激するサラウンドを聴いた、これは一生忘れないと思うんですよね。だからと言う事で、今回しかも子供だからといってチャラチャラしたものではなくて、もちろんそう所も出てきますけれども非常に重厚ないわゆる普通のコンサートでも出来るような音、聴けるような音を作って、しかも手塚さんの持つ手塚イズム、もうこのストーリー御覧になれば、まあ私が色々な説明する必要はないと思います。この映像は静止画です。なぜ静止画にしたかといいますと、私らが子供の頃テレビアニメとかゲームとかいった物は無かったですから、紙芝居なんです。紙芝居のおじさんが子供達が遊んでいる路地に自転車で来て、それで戦時中でもそのおじさんの話とそれで絵だけで、その世界の結構イマジネーションが広がった、色々なものを想像していたんですよ。それが最近のアニメはきっちり出来ちゃう、音もきっちり出来ちゃうとそれ以上のイマジネーションが私達に湧かない、これはアニメにしようという計画もあったんですが、とにかく静止画の方がいいんじゃないかと、静止画にしたのはそういう意図です。綾戸さんの説明は紙芝居のおじさんを私の子供の頃を思い出して、大阪弁丸出しのすごい肝っ玉おばさん、話し方でぎょっとするかもしれませんが、まあでもなぜ綾戸さんかといいますと、いわゆる東京弁のお上品な方のアナウンスですと「さあ、みなさん」てな感じだとなんか通り過ぎちゃうんですね。で、やっぱり大阪弁、お笑いもそうですけれど、大阪弁てのは面白いですよね。「はい、みなさん!」から始まりますよね。みんなハッとなる。つまり、あなた方1人1人に私は問いかけているんですよっていう喋り方。綾戸智恵さんの場合は老人老後施設なんかに行ってそれでピアノ弾いて歌を歌って老人相手の事、また、お母さんの介護をされているって事もあるんですが、したがって範囲が非常に広いんですよね。だからいろんなナレーションの候補も挙がりましたけれども、結局綾戸さんでいこうと、まあ最後も「みんなも頑張らなあかんで」みたいな言い方、これがもの凄く子供の印象に残ると思うんです。

野尻:次に、具体的な商品の内容について説明させて頂きます。作品は、2枚組になっています。高品質のハイクオリティCDの2chステレオ、これは綾戸さんのナレーションの入った状態のシンフォニーが入っています。もう一つがDVDになっていまして、こちらは2chステレオと5.1chサラウンド、これはドルビーデジタルとDTSで入っています。もちろん音声切り替えでナレーションのオンオフの切り替えが出来るようになっていて、静止画が付いている。字幕をつけていまして、いわゆるナレーションをOFFにした時のそれに変わる簡単な物語への導入を役割で入れています。英語と日本語両方入れていまして、メニューはこういう形で本編、DVDを再生すると形になっていますが、チャプターが切れていて1曲につき1枚の絵が書いてあります。これは冨田先生がジャングル大帝というアニメに音楽を作曲された後に(ジャングル大帝)交響詩を作るという事で、(ジャングル大帝)交響詩に対して今度手塚さんがイラストを描いていくっていう事をされた。物語は第1部と第2部に分かれています。作品はステレオ再生がナレーションなしとあり。5.1サラウンドもナレーションなしとありっていう二つのバリエーションが入っていて、基本的にナレーションがあるものはDolby Digital、ナレーションが無いものはPCMかDTSという形です。交響詩だけを聴きたい方は音質優先という事でこのエンコードを選んでいます。字幕がオンオフもちろん出来ますので、これだけ単純に考えても12通りの試聴方法があります。特典メニューにはですね、ブックレットには先ほども御説明しましたが、1966年版には楽曲解説が載っています。その解説と連動したフレーズがここで聴けるようになっています。これは35個のフレーズが入っていて1曲、1つ選ぶとこういう形でメインテーマの弦のセクションだけ聴くというような特典を入れています。ここにブックレットのサンプルがあるのでご覧下さい。

冨田:つまり今の音はストリングスのパートのみを聴くことができます。他のホルンだとか打楽器、ティンパニーは入っていませんよという。
野尻:最初のメイン曲の重要なモチーフだったり、メロディっていうのをセクションの楽器であったり、特定のパートのみを聴く事が出来るという形になっています。例えばその具体的にキャラクターを演じているシーンがある場合ですね、その音だけを聴いて頂く事によって作品の構造なりを理解して頂く事が出来るかなと。例えば「のこぎりざめ」とか、これはファゴットだけの音が聴く事が出来ます。特典メニューに、子供達やご家庭の方達が分かりやすいようにですねサラウンドのチェック音声というのも入れています。これは普段我々が使うのはピンクノイズとか、そういうテスト信号が多いと思うのですが、これはご家庭の方が分かりやすいように、楽器の音、今回はパーカッションの音を使ったんですが、こういった形でチャンネルチェックが出来るようになっています。早送りして頂くと、どんどん飛ばしていけるというような形になっています。今日はマスターデータを持ってきていますので、DAWから圧縮していないシンフォニーと綾戸さんのナレーションが入ったものを試聴して頂きたいと思います。

(デモ)

野尻:ここまでが第1部という事でです。(一同拍手) 物語の境目なのですが、いかがだったでしょうか。
冨田:子供達だとね、ここで休憩入れないと。(一同笑い)
野尻:小学校で子供達に作品を見せた時には、このパンジャの死っていうのがインパクトが非常に大きかったです。感想文を書いてもらったんですがそのパンジャの死の曲の部分が印象に残ったっていう感想を多く貰いました。それでは後半を再生します。

(デモ)

野尻:以上で本編再生となります。(拍手喝采)
では、制作過程を説明したいと思います。企画自体が最初に立ち上がったのは、おそらく2009年1月とか2月位です。大学で予算執行が決まったのが、2月、3月位で実際に動き始めたのは4月です。その4月から始まってオーケストラのスコアの新たな編曲を加えるという事がありました。

5月
1ー2日 オーケストラ録音
15日 音場演出担当決め
20日 効果音屋外録音
26日 試聴会

7月
3日  ラテンパーカッション録音
11日 合唱録音−01
16日 小学校鑑賞会
31日 字幕版試写会

8月
20日 オーケストラ追加録音
29日 合唱録音−02
31日 ブックレット制作

9月
1日  ナレーション録音
12日 字幕翻訳
14日 マスタリング
18日 DVDオーサリング

10月21日 リリース

冨田:裏話をしますと45年前にこのスコアを書きました。それでコロムビアで録音をしたんです。この時は石丸寛さんの指揮で同じ日本フィルハーモニーで。その直後に虫プロダクションが、あっちこっちでコンサートをやった訳です。忘れもしない赤坂の都市センターホールですね。あの時は秋山さんの指揮だと思うんですけれど、私はもう忙しくて他の仕事をやってますから、それに立ち会ってられない。その後、色々な団体からあの譜面を借りたいという依頼があって始めてあっそういえば、どこいったかなっていうような感じなんですね。結局都市センターホールにそのまま忘れていっちゃったのでパート譜を含めて掃除のおじさんが廃棄しちゃったんです。それをもう一回書くっていうのは、いや書かなくちゃいけないっていうのは思っていたんですけれども、やっぱり他の仕事もあるし、どんどん先の事やりたいので、書く気はあったんですが結局譜面なしで(今まで)きちゃったんです。今回の尚美学園の話があったので、今年の1月から書き始めました。若い頃は3日位徹夜しても平気だったんですがね、で、徹夜をやったんですよ。そうしたら肺に水が溜まってきちゃって、集中治療室に入れられて点滴だなんだってやっているうちに最後のパートが終わっちゃいました。(一同笑い)
野尻:先生が退院されたのがオーケストラ録音(5月)1日の3日前という事でかなり緊張感のある中で、このアバコスタジオでオーケストラを録ってきたんですが、もちろん非常に体調優れない中でも先生には現場にいらして頂いて音の確認はして頂きました。実際の録音ですが、これがスタジオのマイクの配置です。

アバコスタジオの301、302の2つのスタジオを使って録りました。というのは、この作品はサラウンドで音を動かしたりするので、(音の)分離が必要になるものが絶対的に必要で、音量の大きいもの、例えば打楽器とか金管楽器っていうのは、どうしても音が入ってきてしまうので、完全に隔離するような状態を最初にイメージしてやっています。楽器の配置を見て頂くと、ここには弦楽器と木管楽器と打楽器がいます。ここの真ん中の部分が弦楽器で、この真ん中にコンダクターがいます。で、この遮へい板の後ろに木管楽器がいるという配置になっています。こういう余った所はですね、まあブースに入りきれなかったので、これはシロホン、マリンバ、チェレスタっていう打楽器の鍵盤なんですけれど、それも遮へい板で分離して入れるっていうような録り方です。基本的にコンダクターの指揮の映像を見ながら、イアモニ(イアーモニター)で他の楽器の音を聴いて、みなさんに演奏して頂くという方法になっています。これは藤岡さんに振って頂いているシーンなんです。藤岡さんの後ろが遮へい板になっていて、ここに木管楽器がいると。このビデオモニターを見ながら木管(楽器)を演奏して頂くと。イヤモニ(イヤーモニター)はこういう小さいものをして演奏しています。金管楽器やその他はどこにいったかというと、隣のスタジオ連動して録るという形をとっています。もう1つのスタジオのフロアにはトランペット、トロンボーン、チューバがいます。ホルンは基本的にレオのテーマ、パンジャのテーマという、いわゆる主人公格のキャラクターのメロディを演奏する事が非常に多いのでホルンのブースの中に入れています。その他にコントラファゴットは独立した音で聴けましたけれど、そういうは事前に、こういう感じでマトリックス(予定表)を組んで、この楽器はブースで録りたいので301スタジオの一つのブースだけ常に開けておいて、この曲はこのソロ楽器そこ行ってやりますっていうような形で随時配置換えをしてやるという方法をとっています。これがホルンですね。2日間かけて録音したんですが、だいたい1曲に掛かっている録音時間、収録時間っていうのは1時間程度でやっています。

野尻:今回の作品には効果音が非常に多く出きますが、港の音などは大学院の研究室の(大学)院生が実際に港に行って、その音を録ったものを使っています。録音できるものは出来る限り録って作ろうという事だったのですが、急ブレーキ音だったり、ジープが沼に落ちるようなシーンっていうのはなかなか収録方法が難しかったので、ライブラリー(効果音集)を使っています。効果音録音も実際に横浜の港に行って、Holophone H2 proいうワンポイントでサラウンド収録できるマイクにローランドのR-44 の4chレコーダーを2つ連携(シンク)させて8chで素材を録っています。マルチ(チャンネル)で録るものと、マイクを2本だけ持っていって、水のチャプチャプした音とかもっと素材を細かくは録っています。それを持ち帰って冨田研究室にあるサラウンドで試聴出来る、ミックスダウンが出来る環境があるので、そこでミックスをしたものを実際のシンフォニーの中に入れているという風な流れになっています。この汽笛の音も、毎回船がどのタイミングで汽笛を鳴らすかっていうのが分からないので、基本的に1日張り付いて、下見の時にだいたいこのタイミングで鳴るっていうのと、フェリー乗り場の人に聞いて、鳴らすタイミングっていうのを確認して、でも鳴らなかったりていうのはあったんですが、2日間かけて録っているので基本的に良い音は録れ、港の音は非常にうまくいったと思います。

ミックスとオーケストラもそうなんですけれど、24bit、48KHzのwavファイル形式で、録音は基本的にPro Toolsで録っていますが、ミックスはNuendoで全てやっています。今回1部と2部、16曲のシンフォニーがあるんですけれど、ミックスダウン、サラウンドミックスについては尚美総合芸術センターの研究員と、大学院生が3名で、割り振った状態になっています。ミックスの割り振りというのをも、オーケストラが最初に録音されて、された時点で、冨田先生からこの箇所、この箇所、この箇所っていう最初にお題が出まして、それを全員がミックスしていって聴いてじゃあ君はこれだねっていうような雰囲気の判断、コンペ(コンペティション)っていうと大げさですけれど、担当者を決めています。

沢口:3人ともNuendoでそれぞれミックスして持ち寄りということですか?
野尻:はい。自宅なり研究室を使ってミックスしたものを毎週冨田先生に確認して頂いて、3ヶ月位かけミックスをしました。先ほどのオーケストラでパーカッションが完全に中に入ってるんですね。いわゆるラテンパーカッションのコンガとかボンゴとか、それに加えてトライアングルとか金物系も全部混ざったブースの中に入っているので、なかなかパーカションをバラバラにするっていうのは難しかったんですね。最初のハンターが来たというシーンでパーカッションから始まる曲なんですけれど、バラバラに四方からいきなりハンターが飛び出してくるっていうイメージを実現する為に、パーカッションは録り直しています。これも録音はコロムビアの方にお願いしているんですが、その冒頭の部分のジャングルの朝のテーマの冒頭に部分と、ハンターが来たの部分のラテンパーカッションをマルチで。で、これもオーバーダビングでやっているので、一つのパートが全部モノラルでバラバラで録っているという状態になっています。こういった過程を踏んでいって、徐々に徐々にあのオーケストラが録れて、パーカッションがバラバラなものがそろってっていう風な素材が出来て、ミックスも毎週金曜日に冨田先生が監修される中で作られていった訳です。この制作過程の中で色々な人に聴いて頂く機会を学内で設けています。制作過程で尚美学園大学の授業の中で、今ジャングル大帝の制作をこういう形で進んでいるという事と、音楽のデモをして、その印象を制作にフィードバックするというような手法をとっています。高城西小学校という川越にある大学の近くの小学校でも鑑賞授業をおこないました。この時はまだ映像制作であったり、字幕であったりナレーションだったりというのは、まだプランとしては固まってはいなかったのですが、漢那研究員は、実際にイラストを拡大したものを印刷し、それを見せながらシンフォニーだけのサラウンドの音を聴いてもらって、子供達がどういう反応をするか、よりジャングル大帝であったり、サラウンドが描いているような空間をイメージする為に補助するものは、どういう要素が必要かっていうので字幕がどれくらいの量が必要であるであったり、ナレーションがどれ位の量必要であるっていうような判断など、検討を進めていきました。こういうことも大学であるからこそ可能なのかとは考えています。もちろん学内の音響に詳しい方とか、あるいは音響機器メーカーの方がスピーカーをご提供頂くって機会があって、その方に来て頂いてサラウンドで試聴会を開いたりだっていうような外部の方を招いた試聴会も合わせて行っています。この時は、終曲が出来ていなくて製作中ですって言った試聴会でした。こういった過程を経て、字幕を作っていく形になります。一つの曲の中でだいたい3、4回のキーワードの字幕の入れ方なんですが、基本的に物語のストーリーを補助するような形で綾戸さんのようにこう、ぐわっといく感じではないんですけれど、今のシーンがどういう感じでっていうような事が分かるような字幕を入れています。この字幕は冨田先生が自ら考えられて、オリジナルの原稿になっています。
野尻:終曲の録音が杉並公会堂で、さっき先生がおっしゃったように、日本フィルハーモニー交響楽団の通常の練習するお昼休みを使って機材をガッと持ち込んで、1時間30分くらいで録り終えたセッションです。これも一応マルチでは(マイク)立てています。アバコスタジオの場合はマイクは40本以上立てトラックも40トラックから42トラック位をミックスしています。セクションごとの若干のバランスは取れる録りました。ですが基本的に金管楽器と打楽器はすごく音が大きく、全てにかぶってしまいます。なのでOnの金管楽器入れずにまわりから拾っている金管楽器の音を主体としたミックスにすると全体のバランスが非常に良くなるのですが、先ほど言いましたようにOnの音が少し遠くに聞こえてしまうというのは、バランスのサジ加減という風にようにして、私がこのミックスは担当しました。それが終わった後に最後の曲にも合唱が出てくるので、合唱はオーケストラを録った後ではないとレコーディング出来ません。なのでオーケストラ録音の後に合唱を録っています。これは、尚美学園の新音楽集団「匠」というサークルの人にお願いをしました。そこで、尚美学園大学のスタジオを使って学生によって全ての合唱を録るという事をしました。もちろん指導教授が監修と言う形で学生の横にいてフォローアップするという形ですが、基本的に学生主体で合唱パートの全てを行いました。これも大学の中では実践指導と言う形で位置付けをしています。ミックスは、スタジオに行っては冨田先生がスコアを見つつ聞いてもらうというような感じでした。

それからナレーションについては原稿が全てのシンフォニーの音が録れて音が固まった状態で、綾戸智絵さんにサラウンド版の音源をお渡しして,実際の打ち合わせでもサラウンド版を聞いて頂いてからナレーション原稿をお渡しして、それを元にある程度アドリブが付くようにナレーションをして頂きました。CUE出しは冨田先生が、実際に綾戸さんがしゃべっている目の前にいらっしゃって、ここで話しだすというようなCUEを出すように行いました。もちろんリアルタイムでその台詞を使う訳ではないので後で前後してミックスを調整するという風にしました。このナレーションもコロンビアの塩澤さんに録音をお願いしました。ナレーションの整音まで含めて塩澤さんにやって頂いて、そのモノファイルを尚美学園大学に持ち込みミックスしました。これで全体の形になってマスタリングを終えて作品になっていった訳なのですが、DVDのメニュー構成から字幕をOn/Off、ナレーションのOn/Offという風にどういう形で作品をパッケージに落とし込むかというのは、ずっと制作過程の5月からオーケストラを録って、とりあえず録った音を聞いてからまたそのどういったものを盛り込んでいくかというのを考えながら作っていきましたので、非常に長い期間をかけて行っています。5月1日の録音から最終が9月18日までかけて制作したということです。
ホームページを今研究員が作っていまして今回の作品制作の一連のプロセス、本日お話ししました事もそうですが、より詳細なものをそこに掲載していこうと考えております。そのホームページというのが2つあるのですが、背景が黒い方が紹介サイトという事でクリエーターやスタッフのインタビューだったりプロダクションノーツだという事で制作過程を細かくレポートでプロデューサーのコメントみたいなこの箇所はこのように録ったという風に書いています。あとサラウンド鑑賞のための教材として学校の先生がこのサイトを見て頂いた時や、学校でホームシアターセットを購入した時にどういうしたら良いですなど、最初にお聞かせしたパーカッションの素材も載せていますので、そういう素材を使って子供たちと楽しくサラウンドスピーカーのセッティングをしてくださいというコンテンツを配信していければ良いなと思っています。それからもう1つの明るい方のホームページは鑑賞教材としてテストで作っているというものです。現在小学校と中学校の2つの学校で鑑賞授業の事例として、冨田先生や研究員が学校に行って学生に聞いて頂いて感想文のようなものを書いてもらうようにしても良いですし、ジャングル大帝の手塚先生の絵を見ずに子供たちに絵を描いてもらうという授業を行ったりしています。なのでそういったものを2つ目の鑑賞教材としてサイトに載せて行こうと思っています。

(2009年)10月21日に「ジャングル大帝」が発売されるわけですが、これからの予定と致しましては、コンサート用のスコアを発売する事になっていますので、それを尚美学園大学もしくは写符関係の人たちに作って頂いて、ジャングル大帝のシンフォニーのフルスコアをレンタルするということと、あとはポケットスコアのような形で小さいフルスコアを尚美学園大学で制作して発行していきたいと考えています。冒頭にもお話し致しましたがマルチデータの教材化ということで、例えばミキサーを志す人が今回アバコスタジオで録った約40トラックのオーケストラのマルチ音源をどのようにミックスするかというように実際の商品になった素材を使ってミキシングを学ぶというようなものです。これを学校に配りますと色々なところに流出していきますので、どこまでやるのかというのは、これから検討課題です。あと指導者がその素材を使って実例として学生に見せるというのでも良いと思います。鑑賞家用材という事で、今回サラウンドで「ジャングル大帝」の世界をイメージしてもらい、子供たちの想像力を養ったりまた、音楽コンテンツとしてのサラウンドの魅力というのも伝えていきたいという事で、やはり若い子供たちや、一般家庭のお母さんや、中々オーディオに興味がない方が、音楽のサラウンドというものに少しでも興味を持って頂ける展開として小中学校での鑑賞授業、生涯学習コンテンツとして例えば楽器ごとの素材でより楽しんでもらえるようなパーカッションの音だったり、マルチチャンネルで録っているのでミックス出来ると思います。最初にお話ししましたように、木管楽器と管楽器のバランスを自分でミックスするとか、そういうインタラクティブなものも出来るかも知れないですし、大学の中で色々な研究室がでいろんなものをそれぞれやっていますので、応用してもらえればもっと面白いものがでてくると思っています。それらがコンテンツの配信というような形です。

沢口:それでは、みなさんたくさん質問もあると思いますので.質問タイムです。

Q:学校の先生方は指導要綱を見ていると思うのですが、その中にサラウンドの鑑賞という項目を新たに入れるようにするにはどうすれば良いのでしょうか?
野尻:そうですね、実際に1966年のLP版は鑑賞教材として文化庁から奨励賞かなにかをもらっていましたので、今回の作品も出来れば推薦を受けてより多くの子供たちに届くような流れを作っていけるようにしたいとは思っています。

Q:スコアを作った場合にオーケストラの楽器では無い音例えば、先ほどの港の音ですとか鍵の音ですとか回想シーンのフェードアウトフェードアウトみたいなものはどういう表記にするのでしょうか?
冨田:一応スコアがコンサート用のスコアとして今作っています。それはすでに関西フィルハーモニー管弦楽団で藤岡幸夫さんが8月にコンサートを行っています。それは完全なスコアではなかったのですが。その時にこの回想シーンのところの音は良く、ワーグナーやヴェルディで楽屋で楽器を演奏させてそれが廊下などに漏れて聞こえる効果を狙っていますよね、そのつもりなんです。ですからそれをステージでやる場合は全部金管楽器にミュートを付けて。私はうまくいくかなぁと思ったんです。でも、結構これもうまくいくんですね、弾き方にもよるんでしょうけど。なので一応コンサート用としてスコアは出すつもりです。その部分というのはその時に指揮をされる先生の考えでこれは舞台裏から聞こえてきた方が良いと思えばそのような効果なりますし、要するにあれは舞台裏の音です。なので、基本的な事はスコアに起こし、アレンジはそれぞれの先生方によって変わるということです。それから今回ナレーションが入ると分かりやすい、伝わりやすいということに気がつきました。なのでスコアにこれはどういうところにどういうナレーションがというのをスコアに入れようかなと思っています。だからあそこの部分は結構苦労しました。
野尻:そうですね。回想シーンはやはり異次元になるように作っています。

Q:前回(1966年)の石丸さん指揮の時は、どのような方法でしょうか?
冨田:あの頃はマルチトラックレコーダーというのがなかったので、いきなり2チャンネルにダイレクトレコーディングなんです。まだノイズリダクションがなかった頃で、1回ダビングすると(テープのノイズ)が増えちゃうんです。それは途中ですり替えると、どうしてもそこでノイズの段差が付いてしまうので、それはしょうがないという事で割り切ってやったものなのです。それにしてはステレオフォーマットが出来て間がない頃ですが、良くやったなという気がします。

Q:ネズミのシーンのところで、エレキギターのミュートはどのようにしているのですか?
冨田:研究員の漢那君が(エレキ)ギターを弾くので新たに録音しました。
野尻:エレキギターでスライドバーでこするような感じで演奏しています。
冨田:せっかく苦労して入れたんだけれども最近の子どもってネズミの鳴き声って知らないんですね。(一同笑い)かつてはこういう動物がいたんだっていう感じでした。

Q:小中学校で作品制作の途中や終わった後で授業を行っていますが、サラウンドで聞いてどのようなコメントがあったかというのを教えて頂けますか?
野尻:特徴はまず音が動くことに感動する子どもたちが非常に多かったことです。例えば、さっき話題に出てきましたネズミのチュンチュンという音はエレキギターの音色だけを動かして、それはどこにいるか、みたいなゲーム感覚みたいなサラウンドの音を先に聞いてもらってから、今度はシーン音を聞いてもらったりという工夫をしていて、単純にパンジャが迫ってくるような弦の合奏が動くとやはりイメージに近いものに感じるという感想が非常に多かったですね。

Q:拒否反応みたいなものはなかったですか?
野尻:それは全くありませんでした。乳井研究員は実際に見学されていますので、詳しくご説明出来るかと思います。

乳井:初めまして、尚美学園大学で野尻とともに尚美総合芸術センターで研究をしております。私は音は全くの素人なのですが、今回このプロジェクトに関わらせて頂き、小学校や中学校の授業に同伴をし、その時の子どもたちの反応を見て参りました。2、3、6年生にを対象に何クラスかに分かれまして3,、40人ずつ音楽教室にサラウンドスピーカを設置し、いろいろなデモンストレーションをしたり作品を聞いてもらったりしました。みんなスピーカから出てくる音に寄っていくようにして「こっちから音が出た!あっちから音が出た!」というように好奇心旺盛に聞いていました。それから小学生と中学生では授業の進め方を変えました。小学生にはホルンのパートのみのサラウンド音や音場表現として楽器に担当させた色々な動物の音を出し、これは何の動物を表しているかというクイズを出したりしました。この時点では綾戸智絵さんのナレーションは入っていなかったのですが、やはり子供たちに集中して聞いてもらうには紙芝居のようにお話を見せていったら良いんじゃないかということで、1枚ずつ手塚治虫さんの絵を子供たちに見せながら音を聞かせました。それから小学校の授業の出来事で大変私が感動した事がありました。小学生に鑑賞が終わった後に感想文と時間があればジャングル大帝の絵を描いてもらったのですが、パンジャの絵をすごく上手に描いた生徒がおりまして、校長先生とその授業の後懇談をさせて頂いた時に「すごく上手ですね。」と言いましたら、その生徒は授業の中で自分から手を挙げたり、発表する事がなかったそうです。しかし、その子が感想文を書くだけではなく動物の音クイズをした時に真っ先に手を挙げて自分の声で発言をしたそうです。それを音楽の先生や校長先生がご覧になって本当に授業1つ、音楽1つで子供の心は変わるのだなという事を感動されていました。
その後、和田中学校へは冨田先生ご自身がいらっしゃいました。2回授業が行われ、その中の1度がNHKの「課外授業ようこそ先輩」を取り得れた形で実際先生のヒストリーをお話ししながら作品に至るまでの話を講義形式で体育館で行われました。その後70人くらいの授業に分かれて音のみの状態で聞いてもらった後で絵を描いてもらい、そこにイラストレーターの方がアドバイザーで入られて、彼女自身も音を聞きながらどんどん描いていくというスタイルの授業をしました。その授業も実験的なのですが、それは和田中学校というのが杉並区の民間の先生を校長先生に招くという、すごくラディカルな教育スタイルを取っているところでもありますので、そういう環境の中でこの音を聞いて頂いたという事です。授業自体も実験的でこれから色々な展開を考えていく事になると思います。

Q:色々オーケストラを録音されたりしたり、スケジュールとして色々な方が動いてブッキングなども大変だったと思うのですが、それは研究員の方が調整したのでしょうか?
野尻:はい、そうです。
冨田:野尻君が原盤制作の総合プロデュースでした、それから私は作曲者という立場と(プロデュースを)どうするか、作曲者の立場から監修するということでした。良く聞くと、ミックスダウンの仕方がそれぞれ3人とも個性があって違うので、違って良いと思うので、ただ手塚治虫さんの思想というのを壊してしまうといけないんだけども、それはみんな理解していたんで良くまとまったんじゃないかと思います。
野尻:原盤制作と教材展開と大きく柱は分けていて、原盤制作あっての教材展開なのでレコードをちゃんと商品として制作するというのを大前提にしています。その部分を私はメインとしてやらせて頂いて、漢那研究員は原盤制作ではクリエーターとしてミックスもして関わり、その後の子供たちに伝えるための試行を考えて、ブックレットの解説もその後授業に使うためにどういう言葉でどれくらいの優しさで、あまり幼稚じみたりし過ぎると大人が読んだ時に物足りなかったりしてしまうので、今回プロデューサーの岡野さんが尚美の客員研究員という形で入っていますので、一緒に相談しながら決めていきました。
すごくチャレンジなプロジェクトで大学の実践と言っても(大学の)授業の中に組み込むというのは出来ません。やはり土曜日、日曜日を使って有志の先生に協力をお願いして行うという形を取ったりしました。尚美総合芸術センターが、こういう大きな作品を発表出来た訳ですから、通年の1つのプロジェクトとして毎年継続出来れば良いなと思っています。

Q:制作途中でお子さんを含め色々な方に視聴して頂いて、そのフィードバックによってミックスを変えたり作品に何か変化が生じたことはありましたか?
野尻:はい、ありました。例えばエライザの話のシーンで後ろからチェロの音が鳴っていて前からは回想の音が鳴って音質が変化していて音が動いてしまうようなシーンは音質にこだわる人によっては「なんでそういう音質なの?」というような発想の方もいらっしゃるんですね。なのでそれはうまく工夫しました、少し音質によってイメージが良くなかった場合は、もう少しイコライザで変えるのではなく、リバーブなり音像で変えるなりというのは工夫しました。回想シーンは割と実験的なところで特徴を持っているので、そのミックスは漢那君がやったのですが、彼も非常に苦労をしてミックスをしていました。後はホールトーンに関してもリバーブの使い方や色々な意見があったのでそういうものは参考にしました。

Q:主にオーディオなどそういうものを視聴される方の意見を聞いた事が多かったのでしょうか。お子さんの意見で大きなところの意見を変えるというよりも専門家などそういう方の意見をお聞きになりましたか?
野尻:何と言いますか、自分で言うのも何なのですが子供たちの評判は非常に良かったんです。(一同笑い)このままで良いんだなというか。

Q:3人の方が長時間ミックスされたとおっしゃっていましたが、3人の中ではどのくらい共通項があったのでしょうか?3人でミックスすると(全体では)バラバラになると思うのですが。最初どうで、最終的にはどのようにしたのかという事と、3人でミキシングをして良かったのか、それとも大変だったのでしょうか?作品のミックスは大変素晴らしいです。
野尻:私も本当にミックスを3人バラバラに行って一本に繋げた時に、ちゃんとした作品になるのかなというのは心配していたのですが、結論から言うとお聞きいただいたように、違和感はなかったと思います。で、今回は院生も(ミックス担当者に)いて経験値の浅い学生もいたんです。サラウンドの作品を常に作っているような学生ではなかったので、その部分はやはり割当を工夫しました。例えば、16曲ある内の半分以上は私がやっていて、4曲ずつ漢那君とその学生が担当して、例えばハンターのシーンなどは学生がミックスをやっていたんですけれど。あれは1ヶ月かけてミックスをしました。それを冨田先生が実際に研究室で指導されて、それがそのまま作品になっていくというような形を取っています。それぞれ3名が数ヶ月間他の人の曲も聴いていますので、前後でどういう音があってどういうリバーブが使っていて、その曲のつなげ感は最後の部分で1ヶ月かけてやっています。
7月の後半から全曲通して常に聞いて、ここはリバーブが深いのに次の曲に移ったら、いきなりデッドになって音が変わっちゃったという事がないように調整し、両方のミックス者で相談しながらやっています。で、効果音も私の部分で同じ嵐のシーンなんですけれど、違う人がミックスしたり音を作っていたりするので、それも音が合うような整合性というのは後半で取っています。

Q:3人でミックスを行って、これは面白かったというのことや、ミックスのすごいアイデアが出来たというのはありますか?
野尻:ミックスに関しては冨田先生のスコア自体が完全にサラウンドになっていて、奇抜な新しい世界がドンと来てしまうというものではきっとないと思います。
冨田:君(野尻さん)だって経験していると思うだろうけれど、例えばハンターが来た場合の音も、やたら音を動かしたから良いわけじゃないんです。私がオーケストラのスコアを描く時に、ここへホルンが来て、ここに木管が来て、ここにコーラスが来るというように、スコアを色々配置をする延長として、この移動を考えてくれたので、子どたちもシンクロして気持ちが乗っていたと思います。だけれども、その辺の兼ね合いというのが非常に難しく(音の)移動をやたらすると、確かに音が動いているのは分かるんだけど、その必然性というのが我々が判断するのではなくて、聞く側がそれに気持ちがシンクロしていかないと意味がないので、なおかつ、スコアの雰囲気がそれによって良く分かるという感じで。というなところで苦労はしたと思うんですけど、ちょっと動かし過ぎだって私は言ったんだけれども。(一同笑い)
(音の動きを)止めるとつまんないんですよね。その兼ね合いというのは、これから色々と手がけて勘というのか、やはり妙味というヤツですよね、理屈じゃない部分というのはあってそれをうまくつかまないと、例えばレオがエライザのところへ行こうとした時の音ですがあれを右と左と弦で分けたら全く面白くないと思うのです。なのであの辺りも色々試行錯誤した部分だと思うんだけれども、要するに私は妙味の部分を使っています。理屈じゃないところをね。これは全てに共通すると思うんだけれども、なぜココから音が出たんだ?というのは説明出来ないですよね。だけど、何かそこはかなっているところがなくちゃいけない。それは「妙味」だと思うんです。

Q:色々な動物の特徴を捉えた音楽あったなかで、モグラをイメージしている部分がすごく印象に残ったのですが、あのファゴットはどのようにモグラを表現しようという流れになったのですか?
冨田:私がナレーションの原稿を書いたんですが、要するにあそこで誰もいなくなっちゃった、迷っちゃった訳ですよね。ナレーションの綾戸さん自身が。実はこれは曲の方が先で、特に何も考えてはいなかったのですが、あのような表現が良いなと思いモグラにしました。

Q:今回の作品を学校の教材に出来たら良いなという話がありましたが、具体的な計画はありますか?
野尻:やはり学校の授業として教科書に載るというという、実際に音楽の教科書に楽器紹介として掲載された経緯も過去にあるので、今回の作品はサラウンド作品なので、そういった要素も含めてやはり学校の教科書に載るというのが1番理想的かなと思っています。
冨田:あの時(1966年のLP版)のはちゃんと出来る先生がいなったんです。というのは、LP(盤)だから音楽がスタートと同時にストップウォッチを押して、何秒目に何の楽器が出てくるかという書き方だったので、いくつものポイントが出て来た場合にそれは指導しきれなかったと思うから、その点は今回の作品は、きちっと、もうフルートというところをクリックすれば、そこの音が聞けるので、それで指導はしやすくなったし、野尻君たちが苦労したんだけども。あれが(以前教科書に載ったものが)文科省の推薦を受けて学校の教科書になったのであれば、今回のものはもっと(教科書に)載りやすいと思うだけども、具体的な方法はまだです。
野尻:小中学校で持ち出しで授業を行ったように、事例が増えていって学校の先生同士のホームページのコミュニティのようなものの数が増えれば、サラウンドのスピーカセットとサラウンドソフトのレンタルだけで、先生方がチャレンジしてみるという流れが出来ることを期待しています。やはり現場の先生方が楽しんでそれをやってみようかなと思うような流れの蓄積が、文科省に通りやすいのかなと思います。学校など色々なところで鑑賞をしてみるという事例をとりあえずこの数ヶ月活動を致しまして、そこからこの商品がパッケージになりましたけども、それにもう1つ何か加える事によってもっと授業が出来るというようなものがあればそれを作るということも大学として考えるべきだと思います。

Q:それは例えばどのようなものですか?
野尻:それは授業を行った時のフィードバックによって、そういう展開があるのかもしれませんということですね。厳密なプランは今はないのですが多くの子どもたちに聞いてもらうという事が1アーティィストとしてもこれからサラウンドで音楽を作るという事においては非常に重要なアクションだとは思っています。

Q:学校でサラウンドを再生した時はどのようなスピーカを持ち出したのでしょうか?
野尻:Pioneerの3万円くらいのものです。基本的に(スピーカは)3万円以上のものは使わないと思います。

Q:小学校にはサラウンドを聞く設備はないと思うのですが、そのレンタルという形ですよね?
野尻:はい。

Q:小中学生が初めて5.1サラウンドを聞いた子もいれば、もしかしたら家のサラウンドホームシアターを組まれている家庭もあると思うのですが、その経験の差は音が周りで動いたりする事にありましたか?
乳井:今回の小学校と中学校では事前に、ご家庭にホームシアターがあるかどうかというのは確認をしないまま行いまして、ただみんな小学生に関しては大体見るからに音を探すというか初めて聞くというような感じでしたので多分そのような環境にはほとんどないのではないかと思いました。
冨田:ホームシアターがあっても、子どもをあまり入れさせないでしょ。(一同笑い)
乳井:両方公立の小中学校だったりというのもあると思いますし、そうですね。あと反応の仕方は家庭環境の問題もあるかもしれませんが、学年で全然カラダでもってワッと驚く学年と小学生でも5、6年生とか中学生になると、どっちかというとロジカルに考えるようになりますので、反応の仕方はどちらかというと年齢差が大きかったように思います。

Q:鑑賞は音楽の教材として小中学校でやられたという事ですか?担当してくださった先生は音楽の先生が主ですか?
野尻:そうですね。鑑賞は授業としては音楽ではないかもしれないです。

Q:ストーリーもしっかりしていますし、国語でも図工でも色々なところで、音楽以外でのアプローチなどでも、すごく広がるのではないかと楽しみです。
乳井:実際この手塚治虫さんのジャングル大帝の話は道徳の授業で、子どもたちが既に親しんでいたそうで、ジャングル大帝を知っているという小学生であっても、それが前提(道徳の授業で知っていた)であるみたいでした。ですからストーリーは割と知っていて、それから音楽を聴いたのが小学生ではそのような反応でした。

冨田:これは私の想像なのですが、実は手塚治虫がこのジャングル大帝を描き始めたのが1950年。となると昭和25年かですね。実はその2年前に南アフリカのアパルトヘイトが始まりました。要するに白人が全部牛耳ってしまい、しかも白人が乗っている電車に黒人がうっかり乗るとそれでもう逮捕されたり人種隔離政策を法制化してしまったわけです。なのでタイミングからするとジャングル大帝のなかの動物狩りなどに対する何か。レオは何かというとマンデラですね。つまり結局マンデラの努力によってアパルトヘイトがなくなった訳ですよね。多分そこに手塚さんが問題提起をはっきり出すんではなく、それを匂わせるような出し方だったんじゃないかと思います。手塚さんの作っているものというのは、ブラックジャックでも、ブッダでも、何かそこにあるんですよね。私が最後に手塚さんに会ったのは、日仏の文化サミットでお互いの文化を交流させるというもので、手塚さんはアニメで、私は電子音楽で行ったわけですけれども、その時に手塚さん、奥さんを初めて(フランスに)つれてこられてもう亡くなる前でしたね、それでこれからベートーベンの伝記を書くんだと大作を。それで12巻くらいになるということでそのために奥さんと一緒にウィーンへ行ってベートーベンの生家を見てくるんだと言ってました。なので相当そのウィーンには手塚さんとしては意気込みがあったと思うんです。ところが2巻目でガンにかかってしまい、発見された時にはもう手遅れだったということで、入院してもアニメを描いていたらしいのですが、家族の皆さんの話によると寝ててもアニメを描いていたと言います。それが手塚イズムというか、是非に及ばずという、自分がもう死ぬと分かっていてもアニメで自由な発想が浮かぶというのはすごいと思いましたね。なのでそのような思いが今回の音楽の中にもあって、結構書き直した訳ですけども、基本的には同じですが音の厚みなどはかなり前のものとは違うと思いますが、その手塚イズムというものが表れていればみんなが何かそこにあるものを読み取って聞いてくれるんじゃないかと願っている訳です。これは私の思い込みなのでいかがなものでしょうか。そしてそれは子どもたちにものすごく必要なところだと思います。

Q:2チャンネルのミックスと5.1チャンネルのミックスとあったんですが2チャンネルの方はオーケストラの(コンサートでの)配置を考えてミックスしたのですか?
野尻:いえ、それはしていません。基本的には(2チャンネルのミックスは)ダウンミックスで作っているので、LRで動くようにそういう効果が得られるようなミックスになっています。

Q:そうすると、オーケストラの5.1チャンネル放送の時とかは、やはりコンサート会場というものがベースになっていると思うのですが、それはこの2チャンネルでも、5.1チャンネルでも、特に今回はそういう意識はなかったのですね。普段作曲家の曲をスタジオでレコーディングするためのスコアを書いたりという仕事をしている立場で聞きたいのですが、その時は作曲家さんの意図を表せるようにスコアを上書したりパート譜にする時もすぐ見て吹いて頂いたり出来るように割と慎重に書いたりすると思うのですが、今回の場合は一応これが別録りになるからということで空いているブースにソロの方に入って頂いて録ったという事だったんですけども、それは楽譜の時点でこれは別録りになるという指示が奏者さんのほうにはあったのですか?
野尻:奏者の方にはなかったです。現場でお願いしました。

Q:クレッシェンドなどの強弱はオーケストラをそのままレコーディングする時は細かい表現になってくると思うのですが、その後にミックスをするという事で、またその強弱が違ってくると思うのですが、これはまたコンサート譜にこれからなるという時には例えばレコーディングの時はフォルテだったけどコンサート譜ではフォルテッシモになることありますか?
冨田:あんまりこれはフェーダ(でレベルを)上げれば良いという事を期待してしまうと、強く吹いている音と弱く吹いている音は違うので、それ(録音時に)はずいぶん配慮したつもりです。そのマンガ的なものはレオが小さい窓から外へ飛び出していくところは、あれは少し誇張しましたけども、基本的にはなるべく演奏上の楽器の強弱を尊重したつもりです。要するにマンガ的な表現のところは別として、特に金管楽器などはフェーダーで操作すると間抜けな音になってしまいますので、それはあまりしませんでした。

Q:音の定位決めなどはどのようにやっていったのですか?
野尻:基本的にはミックス者3人がラフミックスを作ってそれを冨田先生に聞いて頂いて、その方向性が間違いでなければその形を詰めていくというような流れでした。

Q:そこで問題とかは発生しませんでしたか?冨田さんの音の定位のイメージは伝えられたのですか?
冨田:あまり前とか後ろとかそういう考えではなく、私が基本的に考えているサラウンドというのは自分たちが町へ出た時に四方八方から音が聞こえて、例えば銀座で時計台がありますけども、時計台があるほうが必ずしも正面とは限らない訳で、なのであまり定位は考えていません。ただやっぱり子どもたちが聴く場所という意味では、ナレーションは前から出るようにはしていますけども、ただそれもおまかせだと思います。今回の作品では後ろのスピーカから出てくるエライザの音もあります。
野尻:作曲の意図、このモチーフがどこに繋がっていて、どのように動くからこう言う表現だったり情感だったりというのを作っているんだと言うのを先生に伺うなり、自分でイメージするものをミックスをして聞いて頂いて、明らかに作曲者がイメージしない楽器の音こんなに後ろから出てきて動き回ったらアンサンブルも壊れますし音楽そのものが死んでしまいます。それは聴いて頂くだけでも分かるのでそのような積み重ねで詰めていくというような感じですね。また、オーケストラを録る時点でこの音は完全に独立して録っておかないといけないということである程度構成というか、ハンターなどは完全にバラバラにして、あっちこっちから逃げ回るというようなシーンという土台がありますのでそれはこの1枚の絵から連想される情景であったりなどがフォローしてくれるというようなことでしょうか。
冨田:今回出来るだけ子どもたちの反応で、何が正解かというような、私の方からこう言うやり方というようには、あんまり皆には言いませんでしたね。それよりもお母さん方や子どもたちが、どう感じるかをターゲットとして進めました。なので小学校へ行って子どもたちの反応を見たりしました。
野尻:制作期間は非常に長く丁寧に作業しましたので、そうした意図が十分出来たと思います。例えばこれがもっと短く2週間くらいでそれぞれバラバラにミックスしてすぐにスタジオ入って繋げるという風になっていればつながりが雑になるかもしれませんが、ミックス担当者も作曲者自身も3ヶ月くらい聴きながら反応を見ながらということを、ずっと続けていたので1番ベストな形を取れたのかと思います。

Q:それに関して(1966年)石丸さん指揮の2チャンネル版などは参考に聴いたのでしょうか?
野尻:それは各担当者に聞かないと分からないですね。私は聞いていません。ただ同じものを作っても意味がないのでそこはオリジナリティーをどう作るかというのはこだわって、それぞれ頑張ったと思います。

Q:先ほどステレオは基本的にダウンミックスとおっしゃっていましたが、前と後ろの表現はダウンミックスするとステレオで音が出なくなる事があると思うのですが、その辺りはどういう風にしましたか?
野尻:基本的にダウンミックスはセンターだけ少し下げるように、基本的にイーブンで作っていてダウンミックスするという風にしました。普段も常にサラウンドスピーカを並べているのではなく、ダウンミックス状態で聴いてミックスもしてます。なのでサラウンドだけ作り込んでから最後にダウンミックスというようにはしませんでしたので、ステレオにした時のイメージのずれはもちろんないですし、リアの音がダウンミックスされたからといってバランスが崩れたというような事はなかったです。例えば前のLと後ろのLは全く同等のものとして扱っています。

Q:(ダウンミックスすると)よく前のスピーカと後ろのスピーカの音を掛け合いする時に、サラウンドでは後ろに広げても掛け合いが分かるのですが、それをダウンミックスすると舞台上のトランペットと後ろでなっているトランペットが混ざってしまったりするため、そステレオにした場合、定位を左と右に振ったりしますがそのような事は最初から作り込んでいく上で問題が起きないように考えていたという事でしょうか?
野尻:そうです。ミックスもそれを意図してやっています。
冨田:基本的にオーケストラの配置というのは私はあまり信用していないんですね、大事なのは作曲者の意図がどう観客に伝わるかということですね。

沢口:冨田先生、野尻さん、そしてサラウンドセクターのスタジオを提供して下さった音響ハウスの田中さんスタッフのみなさん、今日はどうもありがとうございました。(拍手)

熱心な質疑応答の後、2チームに分かれて音響ハウスサラウンドマスタリングルームの解説とデモをマスタリングエンジニアの石井さんからお話いただきました。現状のシステム構成や作品毎のコンバータやケーブルのこだわり。そして最近のブルーレイへのオーサリングプロセスなどをデモを交えて体験しました。


[ 関連リンク ]
「源氏物語幻想交響絵巻・完全版」「惑星(プラネッツ) Ultimate Edition」サラウンド制作について 冨田勳 2011-07-10
トミタメソッド研究室
交響詩「ジャングル大帝」2009年改訂版(DVD.CD付)
野尻修平 公式サイト
音響ハウスサラウンドセクター

「サラウンド寺子屋報告」Index にもどる
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

October 1, 2009

第65回 サイトウキネンフェスティバル・スクリーンコンサート:実践5.1ch サラウンド番組制作


By Satoshi Inoue 井上 哲 + 鳥羽 正生氏(エピキュラス)


“これまでに様々な演目機が生中継され、また2007年には当日に台風が直撃、開催が危ぶまれたものの、関係者の熱意ある対応でなんとか開催、レインコートで雨に打たれながら映像に食い入る観客の姿は今もスタッフの目に焼きついているという。(中略) 日本でもSHOWとしてのオーケストラPAが認知されて行けば、確実に機会が増えて行くと思います。”
月刊FDI 2009/10(PDF)より

「実践5.1ch サラウンド番組制作」目次へもどる
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

August 30, 2009

第62回サラウンド塾 夏休み特別講座実践編 家庭で作るサラウンドデモDVD 堀芳彰

By Mick Sawaguchi
日時:2009年8月30日
場所:SONY PCL 405st
テーマ:夏休み特別講座 実践編
ホームスタジオで制作するサラウンドDVDのオペレーション
講師:堀 芳彰氏(SONY PCL)

沢口:2009年8月のサラウンド寺子屋は夏休み特別講座として、自宅でDVDサラウンドのソフトなどを簡単に作れるものは何があるのか、また、どうすれば良いのかを実践講座として取り上げました。これは以前寺子屋のアフター5の席で「プロモーションやデモで簡単に制作できるサラウンドDVDソフトないですかね?」という話題がきっかけで「それならPCLの堀が得意だからやらせよう」という喜多さんの発案で実現しました。それでは本日の講師堀さんよろしくです。

堀: 今日お話させて頂きます、ソニーPCLの堀といいます。よろしくお願い致します。私は、2008年から発足しておりますサラウンドCM研究会の方に参加させて頂いておりまして、サラウンド寺子屋の方には昨年の5月にサラウンドCM研究会と合同開催された時が初参加です。今日お話しするのは「自宅で簡単にサラウンドDVDを作成するには」ということなのですが大まかな内容は

「DVDに収録出来るファイル形式について」
「実際のやり方」
「AC3の作り方」

この3点を話していこうと思います。このきっかけは、サラウンドCM研究会で体感イベントというのを昨年から何度か開催しておりまし て、第1回は音響ハウスさんの第3スタジオで行われました。第3スタジオではプロユースのスピーカーを使ってサラウンドCMのプレビューと説明をしアナウンスブースでは家庭環境において聞かれるであろうシステムを用意致しまして視聴して頂きました。その際はヤマハさんやダイマジックさんのご協力のもとフロ ントサラウンドシステムをお借りしてDVD再生を行いました。それに使うDVDをどうしようかというのがその時課題でした。自分もサラウンドCM研究会のメンバーなので何か出来ないかなと思い今回お話をさせて頂きます。

「DVDに収録出来るファイル形式について」
堀:映像のファイル形式は、解像度が720x480 (525/60)がNTSC、720x576 (625/50)がPALということになっております。データ圧縮方式はMPEG2で最大ビットレートが9.8Mbpmです。オーディオに関しては主にリニアPCM、ドルビーデジタル、DTSの3通りがあります。リニアPCMとドルビーデジタルはDVDの規格として必須なの で必ず入れなければならないです。リニアPCMが48KHzか96KHzか選べまして16,20,24bitで選ぶことが出来ます。1番大きい転送レートが6144Mbpsです。それからドルビーデジタルのAC3が48KHzで16,20,24bitで選べまして転送レートが224K~448Kbpsまでです。そして通称DTSと言われているものが48KHzか96KHzで16,20,24bitで選べまして750Kbpsか1.5Mbpsという数値でエンコードされるということです。

1 今回必要な機材
Final Cut Studioに付属される「Final Cut Pro」「DVD Studio Pro」。「出来上がったものをディスクに書き込むソフト(Toastなど)」です。Final Cut Studioに付属されるこのDVD Studio Proというのがどうしても必要になってきますのでFinal Cut Studioの購入は必要だと思います。

Q:DVD Studio Pro単独では販売していないのですか?
A:調べましたところ、付属という形で書いていますのでどうも出来ないようです。Appleが出している同梱ソフトでFinal Cut Studioという製品に4種類くらいの別のソフトが入っておりまして、その中でDVDを簡単にオーサリング出来るソフトとしてDVD Studio Proというのが入っています。
Q:値段はいくらですか?
A:約10万円で販売しております。
Q:Windowsで使うにはどうすれば良いですか?
A:Final Cut ProはMacのみ使用出来ますので今回はMacユーザー限定です。フリーソフトで結構オーサリングという文字は見るのですが、今日紹介する所まで出来るのかというのは疑問です。
A:今回のやり方は比較的Macで簡単に製品版に近い画質に出来ると思います。
堀:一応使っているバージョンを言いますと私のFinal Cut Proが6.0.1でDVD Studioがバージョン4です。
Q:それは最新ですか?
A:いえ、1年前に入れたものなので少し前のものです。それからToastはこのMacに入っているのはバージョン8です。

2 「Macに映像を取り込む方法」

堀:まず映像の話からしますと今回完パケが例えばHD-CAM SRだと仮定した場合、それをMacで作業出来るように画を変換します。方法としましては4つありまして1つ目はMacでFinal Cut Studio Proに画を取り込む方法です。やり方はHD-CAM SRなどからDV-CAMやminiDVに1度内容をコピーします。画はアナログコンポジットでやったりDV-CAMでしたらSD-SDIになり、若干画質が落ちてしまうという話はあります。この方法に関しましては後ほど実際にやりながらということで次に行きます。

2つ目はコンポジット出力なので1度民生機器のDVDレコーダーで書き出しまして変換ソフトを使い変換するという方法です。ソニーPCLでサラウンド体感イベントを行った時に1階で流していたDVDがこのソフトでやった映像です。これはWindows用のソフトです。ここに書いているようにファイルをドラック&ドロップをして入れてしまえばDVDの盤の中にVOBファイルというMPEG2の映像のデータが出てきます。それをMacに持ってきまして変換をすればFinal Cut Proで使えるようになります。この方法は、フリーソフトということで1番画質が落ちてしまいます。

Q:1つ目を行うのにはMacにどのような基盤が必要なのですか?
A:Final Cut Proとケーブルが1本あれば行えます。
Q:両方ともコンポジットにするのか、アナログ出力で1回出すのかは?
A:結局コンポジットですね。DV-CAMでしたらOptionでi-Linkのモードが付くらしいです。それを使えばコンポジットではない映像で取り込めるのかという感じです。DV-CAMの画質として。
Q:自宅にDV-CAMを持っている人はあまりいないですよね。
A:そうですね。会社にあればという話です。ソニーPCLにもDV-CAMがあるのですが、それは対応していませんでした。

3つ目が1番簡単です。オンライン編集時にQTファイルを作成。オンライン編集が終わって直後の画なので1番データが大きくきれいな画像かなと思います。サラウンドCM試写用ということでは。その変換をして頂いている間にMA側としてはAC3を作成していれば時間短縮に繋がると思います。

4つ目としましてはトムソン・カノープスという会社のコンバーターで取り込む方法があります。これはもっとも画質を優先して考えた時にHD-SDIコンバーターなどを使ってFireWireケーブルを使いFinal Cut ProにダイレクトでQTにすることも出来るのですが、一般家庭では、大きなコストがかかってしまいます。取り込むためにはMacにHD-SDIを取り込むためのボードが必要ですが相当高価だと思います。

Q:Decklinkではいけますか?
A:DecklinkやAJAでいけます。ビデオのHD-SDIとSDIの入出力カードをさすと言う感じで、Final Cut Proのオペレーションでどこから取り込むのかというのを選ぶことが出来ます。プロユースでオフライン環境で言いますとスタジオの方はご存知かと思いますがFinal Cut Proでオフライン完パケする時はそういう環境で行っているそうです。取り込むためにMac本体のスペックというのもHD-SDIを取り込むためには相当なスペックがいると思います。HD-SDIで取り込むということの補足なのですがおそらく6ch分のオーディオも一緒にFinal Cut Proに取り込むことは可能なのですがこのあとFinal Cut ProでAC3を作るにあたって1回Final Cut Proから1chずつのデータを書き出さなければいけなくてですね、その書き出しが実験した結果どうしてもステレオで1chだけ選んでもステレオ2chで出力してしまうので、もしかすると出来ないのではないかということです。最終的にミックスしたデータがProToolsなどにあると思いますのでもしくはそのSRからProToolsも一緒にチェイスさせておいて抜いてしまってこのMacにもう1回WAVEファイル別々として写し込む方法の方が早いかと思います。その際Macに取り込む時にファイル名をL、C、Rというようにしっかり付けておくと確実かと思います。

3 実際の画を使って実践します。


(Final Cut Proを立ち上げ)
堀:これがFinal Cut Proを立ち上げたときの最初の画面です。ここがプレビューの画面でここがProToolsでいうところの編集ウィンドウです。
Q:音声の表示は?
A:このトラックを増やせるのですが下の部分です。
Q:どれくらい(トラックは)増やせるのですか?
A:聞いたところ24chまで出来ます。でここが素材置き場みたいなところです。
Q:1番パソコンの能力の低いものだと最低どこから使えるのですか?Intel Macは大丈夫ですか?
A:Intel Macでないと動作しません。
Q:Power Macだとどうですか?
A:動作しません。

堀:私の今使っているもの(MacBookPro)も1世代前のものなのですが問題なくサクサク動作します。先ほど言ったように直接画を取り込む時に結構スペックが高くないとコマ打ちしたりするらしいです。で話を戻しますと直接取り込むやり方ですがFireWireの4pinと6pinを使いまして 6pinをパソコンにつなぎ、4pinをmini DVの本体にDV入出力という表記のところに挿しまして、本当は Final Cut Proとしてはハンディーカメラなどから取り込むつもりだったと思うのでそういうケーブルを使い取り込みます。操作説明としましてはこの切り出しと取り込みという表記が出るのですが本当につながっていましたらこの「今すぐ」というボタンを押せば取り込むことが出来ます。取り込む時にどういう画面が出るかと言いますとこのようなプレビュー画面が出てきます。この画面はあまり正確ではなく、取り込んだ後に全編プレビューしないと確実ではありません。それで取り込んでしまえばここにファイルが出てきますので名前を設定し後はこっちに持ってきまして作業するという感じです。取り込む時に気をつけて頂きたいのはこのシステム環境というところで最大セグメントをこれにするというところだけチェックを外しておけば要するにデータ制限なく取り込むことが出来ます。これをチェックすると圧縮をかけて限界サイズで取り込みが行われると思います。この場合は2GBということなので今見た30秒のCMで非圧縮でQTで書き出しますと1.1GBなので1分くらいかなと思います。それからこの制限時間というのもチェックを外しておくと途中で中断されることもないです。
Q:素材は音と映像と一緒に取り込めますか?
A:はい、FireWire1本で取り込めます。ただし2chまでだと思います。
Q:サラウンドで撮れるビデオカメラで録ったファイルはどうなりますか。そのときは5chでファイルが出来ますか?
A:最初の2chしか来ません。言わゆるi-LinkというかIEEE1394はオーディオは2chという規格しかないので。

堀:では取り込んだものがこれです。ここからいらない余白をきっていこうと思います。大体映像の頭は、たとえばAC3の頭1時間から2秒前という風に画と音を決めておくと後で作業しやすいので今回も59分58秒でとりあえず切ろうかなと思います。

(Final Cut Pro操作デモ)

Q:それはなぜ2秒なのですか?
A:特に決まりはありませんが再生する時にいきなりバッサリ画が切れるより2秒くらい間を置いてから画が始まる方が良いと思うからです。
Q:特に決まっている訳ではないのですね?
A:はい。

喜多(ソニーPCL):ソニーPCLのオーサリングの話を少ししますと、AC3ファイルを映像オーサリングする所で何秒目からオーサリングをエンコードするのかということを決めておりませんので私たち側はプログラムスタート2秒前というのを約束事としています。理由は後で映像ファイルとオーディオのエンコードファイルのタイミングを合わした時にトリミングが出来るんです。このトリミングを行うのに2秒あれば大体画も音も自由に張り合わせタイミング調整がしやすいというのがオーサリングのスタッフの意見があったためでした。
Q:他のスタジオはどのような感じですか。
A:伺ってはいませんが音響ハウスさんのプログラムスタートの何秒前というところは映像と音声のチームでそれぞれに約束事を持っているという話です。あと HD-CAMにAC3を入れ込んだ時にサーボロックするまでの間はノイズになります。なのでショータイムに音が始まっている時にショータイムでエンコードしてしまうと始まった時に「ブツッ」とノイズになってしまいますのである程度のゆとりがある方が良いと思います。という感じです。

4 書き出しの仕方

画の頭にいきましてINという意味だと思いますがキーボードの「I」キー、OUTのキーボードの「O」キーで書き出す範囲を選択します。
Q:書き出しのフォーマットは決まってますか?
A:色々あります。
Q:今はDVDにするのにどのようにしていますか?
A:Final Cut ProからDVD studio Proに認識出来るようにQuickTimeで書き出します。それからファイルに名称をつけ、書き出し先を決めます。それから設定というところで色々な形で書き出しが選択出来ます。

堀:一番下の「カスタム」のところでこの「圧縮プログラム」のチェック欄のチェックをはずします。これは要するに非圧縮で書き出せるものです。データを軽くしたければビデオのみでも良いと思いますが今回はオーディオも書き出します。

Q:オーディオは今どのようなフォーマットで書き出していますか?
A:これはWAVEファイルです。QuickTimeの一つとしてデータが出来ますので、WAVEだけを書き出すことは出来ません。ただProToolsなどでQuickTimeをWAVEだけ書き出すことは出来るので取り出すことは可能だと思います。

Q:書き出したデータというのは今映像がQuickTimeで音声がWAVEで2chで書き出しているのですか?
A:はい、それがエンベデットされたファイルを今書き出しているとことです。

Q:ということは家にProToolsがないとだめということですか?
A:はい、WAVEファイルだけ欲しいということになりましたらそうなると思います。

Q:ビデオのみにするともう少し早くなりますか?
A:はい、若干軽くなりますので。

Q:例えば,30秒の5.1ch音源のCMのマスターがあるとすると、音は元々ある場合、映像の部分だけ書き出せば良いのですね?
A:はい、Final Cut Proは映像編集ソフトなのでDVDを作るにあたっては画だけ書き出すだけが必要な場合が多いと思います。

Q:下のオーディオトラックにわざわざ5.1chの音声のマスターを一回貼付ける必要はないということですね?
A:はい。貼付けれたとしても5.1chの書き出しが出来ません。音が2ch MIXで書き出しがされます。

Q:モノファイルには出来ないということですか?
A:はい、常にインターリーブになります。モノトラックの1ch、2chという書き出し方が出来ません。

Q:ではそれが6本あれば良いということですか?
A:元々ミックス済みのファイルを持っている状態じゃないと駄目だと言うことです。

5 5.1ch音声のAC3ファイル作成
堀:今これで書き出したので1回Final Cut Proを閉じます。これは4GBで書き出しに3分かかるようです。とりあえず画の準備は出来ましたので、つぎは5.1ch音声のAC3ファイルを作ろうと思います。AC3はまず1chずつモノトラックを用意します。
Q:それはマスターですか?
A:そうです。

堀:これは事前に前後2秒ずつ空けて各チャンネル書き出したデータになります。この辺りは皆さんProToolsを使われていると思いますので詳細は省きます。先ほどの書き出しが終わりましたらFinal Cut Proに戻ります。トラックを選択をしましてAC3を使うにあたってはCompressorというソフトを使います。今ここの「サラウンドサウンドの追加」ボタン。これを押し、各チャンネルにL、C、R、Ls、Rsの音源を割り当てていきます、この配置を間違えると再生チャンネルが異なり大変なことになりますので注意が必要です。

Q:たとえば4chのマルチ音源でも大丈夫ですか?
A:はい、可能です。LFEがないものでも可能です。で今選んだだけなのでこの「設定」という項目の「DVD」に必ず「Dolby Digital Professional」というのがありますのでこれをドラックすると認識をします。

Q:それをDTSでしたい時はどうすれば良いのですか?
A:DTSはこれは対応していないようです。DTSのエンコーダーはのっていないので。

Q:DTSのエンコーダーを買うとFinal Cut Proでも読めるようになりますか?
A:対応したプラグインがないとダメかもしれないですね。Final Cut ProとしてはDolby Digitalはスタンダードで同じソフトウェアの中でオペレーション出来るようになっていると思います。DTSの場合はDTSのエンコードソフトを買いエンコード済みのビットストリームをこの後説明するところで一緒に張ると言う形になると思います。ただその書き出しがDTSのコヒーレントという形で作られてくると思いますのでそれはAC3ファイルではないのでもしかしたらファイルがあっても書き出せないかもしれないです。

Q:どのみちDVDはAC3がマストなので、それはそれで作っておきその上からまたビットストリームを貼付けるようにしないといけないのでしょうか?
A:DTSマスターのDVDの場合は、要するに音のない(AC3の)2chのファイルを貼れば良いということですよね。

堀:でここのファイルを何で書き出すかという設定をします。AC3に設定し、LFEを使いますのでここのLFEを使う欄にチェックをいれます。

Q:LFEのチャンネルがあってもまたそこにチェックを入れなければいけないのですね?
A:はいそうです。

堀:ビットレートは640Kbpsまで大丈夫なのですがこのファイルは448Kbpsまでしかいけないので448Kbpsにします。それからこのダイアログ正常化という項目がダイアログノーマライゼーションのことです。Final Cut Proはプレビューが出来るので試聴しながらこの値を決めます。

Q:それ(ダイアログ正常化)は絶対入れないといけませんか?バイパスは出来ませんか?
A:ダイアログノーマライゼーションはマストです。

Q:その上のビットストリームモードというのは何ですか?
A:これはダウンミックス係数をどうするかということがありまして、それも聞きながら設定するのが本当はベストです。

Q:要するにリアルタイムエンコードが出来ないということですか?
A:そうです、1回書き出して視聴しないといけません。

Q:何かハードウェアが繋がっていれば聞けますよね?
A:ソニーPCLの408スタジオにこれが入っていましてアウトがDolby Digitalで出すことが出来ればプレビューというところで聞けると思います。

Q:ということは5.1chのマスターをミックスで作る段階である程度そういうことを予測して2chのことも考えて(ダイアログノーマライゼーションの)数字のメドを付けておけば視聴出来なくてもある程度大丈夫だということですか?
喜多:そうですね。私はProToolsのサラウンドスコープでLeqAが見れますのでセンター、ダイアログの要素が歪むなり歪まないなり音質が変化しないところで1番最大レートにいくところから逆算して決めるようにしています。

Q:それは何で決めるのですか?
喜多:LeqAで最大何dB振れているかサラウンドスコープ上で表示されるのでその値をダイアログノーマライゼーションに反映させています。東京テレビセンターの井上さんが手がけたスカイクロラを見ていますと見事に-25dBのところでピタッと止まっています。アニメーションスタジオでやっているものを見ますと最大でも-15dBなのでそうしますとAC3上10dB下げないといけないという風になります。それから下げていくとインプットレベルがどんどん下がっていきますので出来上がりのDVDのレベルが小さくなります。

堀:画面に戻ります。この前処理という項目にいきますとダイアログノーマライゼーションに関係してくる圧縮は何でしますか?と聞いてきますのでこれはとりあえずなしにします。それからこの辺りはミキサーの判断なのですが基本全部なしで良いと思います。

Q:それ以外はどういう項目があるのですか?下のチェックが外してある項目は何ですか?
A:これは各トラックにローパスフィルターを入れるかという項目です。

Q:その下は何ですか?
A:サラウンドのフェーズシフトさせると書いています。これはダウンミックス用だと思います。あとは-3dB減衰させるなどです。

Q:なにをチェックしていれば良いのかというのを教えて頂けますか?
A:これは入れなくても良いと思います。製品情報なのでメタデータでしょうか。105SPLと書かれています。

喜多:105SPLというのは、言わゆる映画系のリファレンス-20dBのスタジオの時のSPLが85の場合、最大ピークが105だよというのを表示するためのものです。デコーダでこのSPLがいくつのスタジオで製作したかインフォメーションを再生して見ることが出来ると言うことです。それのビットフラグを立てるか立てないかということだけなのであってもなくてもというところだと思います。オーディオのところは?

堀:オーディオのところでLFEを使うか使わないかは必ず入れなければいけません。
Q:5.0chで作りたい時や、(LFEが)ない時は入れなくても良いんですよね?
A:はい、大丈夫です。

堀:このビットストリームモードというのは他にも細かいものがたくさんありますが本編というのを選んでおけば間違いないです。

Q:ダイアログノーマライゼーションはFinal Cut Proのデフォルトはいくつでしたか?
A:先ほどの数字です。

Q:デフォルトの設定は特に出てこないのですか?
A:はい、ダイアログノーマライゼーションの数字は出てこないですね。ものによって変えるので。
喜多:最近テープでオーサリングに出すと-31dBを使われることが多いです。-31dBはマックスなのですがなぜかというと入力と出力のレベルがイコールになるからですが、コーデック的にはあまり良くなくて音は悪くなります。

Q:そのようなノウハウはどこが1番持っているのですか?
喜多:ソニーPCLもそうですね。私たちはAC3も作りますのでその時にエンジニアさんにリアルタイムで1回聞いてもらってオススメはこのくらいですけどどうですかというのでダイアログノーマライゼーションの値を決めてエンコードを作ります。

Q:値はソフトによって全然違うのですか?
喜多:大体の値はありましてドルビーさんが平均的だと言っているのは-27dBです。それは必ずしもデフォルトではなくてエンジニアが変えても良いです。メタデータの中にそういう情報が入るのでそれをメタデータとして再現される時に音として変じゃないところを探してくださいというのがダイアログノーマライゼーションの正規の考え方です。

堀:では画面の説明に戻りますと、音源を聞いてみようと言うことになりましたらこのプレビューというボタンを押せば聞くことが出来ます。でも細かいところは2chなのでまだ分かりません。準備ができましたのでこの下の実行というボタンを押しますが、その前にファイルネームですがこのようにたくさんの名前が付いていますので削った方が後々楽です。これで後は実行ボタンを押します。

Q:これで今AC3にエンコードしているということですか?
A:そうですね、これで8.8MBです。
Q:拡張子もAC3になっているのでそれで確認すれば良いということですね?
A:はいそうです。

堀:これで画と音がふたつ揃いました。

6 DVD制作
堀:ではDVDの形にしていこうと思います。このDVD Studio Proを使っていきたいと思います。初期画面がこのような画面でこれがDVDのメニューを作るところです、トラックというところが中身です。ここに何かを埋め込んでこれとつなげるという作業になります。まず素材を読み込みボタンをクリックして素材を読み込みます。先ほど書き出した映像で作業するところにきます。先ほど作ったAC3を取り込みます。これで素材は揃いましたのでトラックのところにこれを置きますとセッションスタートタイムにトラックが置かれます。これで映像とAC3を、これが最初の頭2秒空けておくと同期するのが楽だというところです。もしスタートが揃っていない素材同士でFinal Cut Proを立ち上げなくても(DVD Studio Pro上で)多少トリミングを出来ます。ただこれはオーサリングソフトなので15フレーム単位しかトリミングが出来ません。あとはチャプターも作ることが出来ます。例えばこういう風に1番上の細い画面を押すとチャプターが打てます。タイムライン上の奥にいけばいくほど数字が増えていくように置いていかないと後々面倒なので

Q:それは画を見ながら打っていけますか?
A:チャプターも15フレーム単位で入れることが出来ます。なのでこのように動かしていくと15フレーム単位で画も動くので程よきところにチャプターを打っていきす。
Q:前後から圧縮しているので1フレーム単位でしようと思うともう一度圧縮をほどいてからやらないといけないんですね?
A:そうですね。

堀:ここでは画頭にチャプターを打ちたいと思います。トラックの中身はこれで出来たと仮定し今度はメニューからこのチャプターボタンを押して再生出来るようボタンを作りたいと思います。そのためにはこのパレットというのを持ってきましてAppleのボタンというところにいきこのような画面の中から好きなボタンを選びます。ちなみにこのカスタムというのは自分で作れる機能だと思います。ここでは私がよく使うこのボタンにします。このメニュービューを構築とありますので必ずこのメニュー画面にいきましてこれを押します、すると名前を変えることが出来ますので「PLAY」などでも良いと思いますが例えばCMの試写用でしたら「○○編30秒」など別々でチャプターを打つことが出来ます。今日は本編の最初に「PLAY」というチャプターを作ります。で画面上にラインが引かれていましてここが真ん中だとかを示してくれます。今日は真ん中に置きたいと思います。どのようにこれをくっつけるかというと右クリックもしくは controlキーを押しながらクリックでも良いですが、ターゲットというところでトラックなどを選ぶことが出来ますので画頭にしたければこのチャプタになどに飛べますのでこれでもう再生が可能になりました。シュミレートというところをクリックしますとこういうDVDのメニュー画面が出まして先ほど貼付けたチャプターをボタンをクリックしますと画頭から再生が出来るようになります。ではスピーカから音を出したいと思います。

(DVD Studio Pro プレビューデモ)

堀:このような感じです。このようにボタンを増やしていけばターゲットというところでメニューでチャプター1、チャプター2にしておきますとすぐに見たいところに飛んで再生出来ます。

Q:トラック2を作るとファイルが分かれますか?
A:サブチャプターのように2-1、2-2、2-3という風にそのサブチャプターがここでういうところのチャプターでその大きい2という数字はこのトラックという割当です。
Q:では基本的にはトラックていうのは1つで良いということですか?
A:はい。良いと思います。
Q:トラック1で色々なファイルを繋げていったらそこにノイズは出ませんか。
A:それはアタマ2秒で繋いでいますので大丈夫です。間空けずに直結だとそうなるかもしれないです。ここにそのCM商品の画を出したり背景をJPEGとして貼付けることも出来ます。

堀:DVDが出来上がりました。このソフトでも書き出しは可能ですが私の経験上このドライブで必ずエラーが出たり、DVD StudioはライティングソフトではないのでToastを使った方が安全だと思います。
Q:出来たファイルはどこにどういう形で入っているのですか?
A:DVD Studio Proで出来たものを今からファイルにします。構築というところをクリックしまして、書き出し先を決めます。例えば、これがこういう内容なのでこういう箱に書き出してねという指令を出しますと処理の内容はここに出て、終わったというのが出てきますので今書き出したところにいくとこのようなファイルが出てきます。これが動画変換ソフトの時に話しましたVOBファイルです。いっぱいありますが1番データが大きいのが中身の本編のものです、この辺りはすべて MPEG2だと思います。なのでこれをドラッグ&ドロップすれば中身だけMPEG4になるのですがそれで変換が出来るということです。今度はToastを立ち上げてこのデータというところの中のUDFというフォーマットを選びます。ここに丸ごと書き出します。こんなに圧縮されます。これでいつでも書き出し OKな状態になります。あとはパソコンにDVDのディスクを入れます。

7 DVDディスクの書き出し
堀:ではToastを使って書き出します。16秒で完成するようです。書き出している間にAC3の音源をを聞いて頂きたいと思います。先ほどFinal Cut Pro上でも言いましたようにこの90度フェイズさせるものや3dBアッテネートというところもここにはあります。これらの機器は自宅には持っている方がいないと思いますのであまり細かくは説明しませんがL、C、R、で取り込むのかL、R、Cで取り込むのかという設定などが出来るようになっています。でこのタイムコードを入れるか入れないか、でこれがダイアログノーマライゼーションで最大-31(dB)まで、最低は-1(dB)とあります。

Q:それは数字が上に行くほど音はどのように変わりますか?
A:まずマイナスが小さくなればなるほどデコーダの入力レベルが低くなります。圧縮に関して言いますとダイアログノーマライゼーションはダイアログの聞こえ方をコンテントごとに平均化してコンテントごとの音量差をなくそうというのが考え方です。ダイナミクスコンプレッションをフィルムスタンダードというのを入れておきますと映画をDVD化する時にこのレベルを超えた場合にコンプレッションしなさいというビットフラグがDVD上に立ちます。でNONにしときますとユーザーが自分でダイアログレンジコンプレッションを設定するかしないかというのを選択出来るようになります。なのでここに何か入れてしまうと何かしらのダイアログノーマライゼーションの値にリンクしてコンプレッションがかかるようになってしまうので必ずある程度のところでレベルが落ちるような聞こえ方しかしなくなります。DVD Studio ProやFinal Cut Proにない設定はタイムコードくらいですね。これはさっき言いましたようにシナリストなどでビデオファイルのタイムコード情報が生きている場合にAC3 にもタイムコード情報を生かすことが出来ます。それを合わせましてフレーム処理を出来るようです。それで頭に2秒ほど空きを入れておけばトリミングもしやすいということです。


8 「エンコード違いの比較視聴」

堀:事前に同じようにエンコードしたのがFCPっていう方で、上がDP569で、何も書いていないのがDP569でやったやつで、下が沢口さんに言ってお借りしたマツダCX7という海外の30秒CMですね。じゃあきれいな方から、DP569の方から聴いてもらおうと思います。DP569だとSMPTっていうのが出るんですけれど、Final Cut Proだとタイムコードが入れられないので、フレームカウントというものしかいません。

9 完成品視聴デモ
Q:初期投資にはいくらかかるのですか?
A:Macが例えば20万円だとしてFinal Cut Proが10万円でtoastが3万円だと考えて33万円ってところでしょうか。

沢口:堀サン、丁寧な実践講座ありがとうございました。では今日の参加者から何人か実践してみましょう。一番最初から是非やってみて下さい。そうすると覚えますから。

(一人目実践)

Q:これを何分で作るのですか?
A:だいたい、AC3などが揃ってしまえば見た通り1分2分で出来るようになるので。

Q:ノートPCで焼く時にtoastの方が良いですか?
A:焼く時はtoastの方がお勧めです。

Q:さっきの映像と音声の二つのフォルダが出来ていればもうtoastで焼けるということですか?
A:そうです。

Q:Toastはバージョン低くても大丈夫なんですか?toast7とか6でも。
A:全然大丈夫です。

Q:ビデオのファイルの名前をもう一度お願いします。
A:TSというファイルですね。

Q:TSというファイルになっていないとtoastで焼けないのですか?
A:はい。DVD-Videoになりません。

(二人目実践)

Q:QuickTimeで変換するソフトってFinal Cut Pro以外に他にないのですか?
A:iMovieでも、無料で付いてくるのでできます。toastでも実は出来るんですよ。DVDを焼いてそいつの中のさっき言ったVOBファイルというのDVXっていう方式でDVファイル形式で書き出す事が出来るんですけれども、やっぱりこのFinal Cut Proでやるのが一番非圧縮に近い形です。

Q:じゃあQuickTimeに一旦はき出さないで、そのままCompressorにいくことは出来ませんでしたか?
A:出来ますが、データ量が大きくなりますね。

堀:AC3を作るのでしたらFinal Cut ProやDP569以外に調べたらProToolsのプラグインがあるんですよ。それはちょっと実機が無いので試していないんですけれども、おそらく音の専用機のプラグインなのでDP569に近いものになるんじゃないかなと。

Q:やっぱりビデオの書き出しが一番かかるんですね。サイズも大きいので。
A:HDになったらもっと掛かりますよね。

Q:ちなみにH.264が取り込めたとしてH.264てHDサイズのものもFinal Cut Pro上でスクイズして出せるのですか?DVD Studio Proの時はDVDだからSDで4対3のサイズになりますよね。HDログって16対9も対応してるじゃないですか。それをFinal Cut Proでギュッとスクイズ出来ますか?
A:書き出しで4対3とか16対9ってあるので多分出来ると思いますけれど。

(3人目実践)

沢口:参加者の実践講座も無事終了です。堀さんそして喜多さん今日は、どうもありがとうございました。(拍手)

[関連リンク]
Apple Final Cut Studio
Dolby
ソニーPCL

「サラウンド寺子屋報告」 Index にもどる
「サラウンド入門」は実践的な解説書です