September 14, 2008

第54回サラウンド塾 実践Foley録音とそのアプローチ 長谷川有理、染谷和孝

By. Mick Sawaguchi
2008年9月14日 ダイマジックスタジオ&Foleyスタジオにて
テーマ:実践フォーリーレコーディング(Foley Recording)
講師:長谷川有理(SONYPCL)染谷和孝(ダイマジック)

沢口:今日のテーマは、みなさんがあまり馴染みのないフォーリーレコーディング(Foley Recording)です。フォーリーとはどういうものなのでしょうか? 日本ではCDの効果音ライブラリーが沢山あり、これから使えば十分という風潮でフォーリーの評価が低いですが、海外ではフォーリーアーティストという職業やフォーリー録音専門のスタジオもあり、非常に価値の高いものです。今日は国内でそうしたフォーリーの重要性を認識して仕事をされているフォーリーアーティストの方に、その目的やデモ映像を使っての録音パフォーマンスをして頂き、同じ素材を使って塾生のみなさんにも体験して頂きます。それでは講師のみなさんよろしくお願いします。

染谷:ダイマジックの染谷と申します。日本ではその必要性を理解してもらうことが難しい部分もあるフォーリーですが、だからこそ逆にチャンスが多いのではないでしょうか。今回は僕たちが日頃どういうことをやっているのかデモをご覧頂き、進めさせて頂きます。今日は、スタジオにフォーリーアーティストをお呼びしました。ソニーPCLのサウンドデザイナー長谷川さんです。僕はフォーリーミキサーとしての視点で、長谷川さんにはフォーリーアーティストとしての視点でのデモとプレゼンテーションという形で進めたいと思います。

■フォーリーの実際をデモ映像を使いながら録音

フォーリーという作業は、映像を流しながらマイクの前でリアルタイムで映像と同じような動きをして音をあてていくアフレコのような作業行程です。お配りしたキューシートは、この映像に対してこの音をあててくださいとフォーリーアーティストとミキサーにお願いをするものです。ではまず録ってみます。登場するキャラクターはひとりです。

-デモ-
 

音を録る前には必ずキューシートを作成します。キューシートは登場人物の動作の音、装備品の音、そしてプロップ順に書きます。言い方が正しいのかわかりませんが、今回の作品では、足音、衣擦れ(着ている着物の裾などが擦れ合う音)、装備品以外の音をすべてプロップと呼んで記入しています。海外での制作も多いのでキューシートは英語表記にしておきます。
複数本のマイクを立ててフォーリーを録ることもありますが、フォーリーアーティストはひとつの演技に集中したいので、基本的にはマイク1本で、複数の音が必要な場合は、それぞれ音をパーツごとに分けて録ります。例えば、倒れる動きだと、Fs+Body Fall+Hand Touchというふうに分けて録って後でこれらを合成してひとつの動作を完成させる方法です。キューシートもそういうふうに書きます。

●Q&A
Q.キューシートはフォーリー担当者自身で作るのですか?
A.スタッフで手分けします。キューアップした人間が演技か収録に関わっていた方が映像を覚えるという意味でいいです。また、キューシートを書いた人がフォーリーのエディットをします。

Q.キューシートなしで作業する場合はありますか?
A.よっぽど単純な場面ではないとキューシートなしで録ることはありません。キューシートで拾い忘れると音を録り忘れるということなので、キューシートを書いた人が責任を持ってエディットするという意味もあります。

Q.今の1分程度の映像のキューシートを書いたとき、時間はどのくらいかかりました?
A.恐らくこのロールだと1時間。一度に色々なものを見ることができないので、シートを書くときは、まず足だけをみる、
足以外の音は何があるかをみて大体3回再生してキューシートを書きます。登場人物が増えると試写する回数も増えます。

Q.カバンを使って衣擦れを表現していましたが?
A.そうですね。カバンの中身を変えることで、人の体重の表現ができます。中身がないと重さが現れないです。

Q.靴の選び方はありますか?

A.靴は以前履きつぶしたものなどが多いので、大体どんな音がするかわかっています。

Q.実音と録音した音の違いはどうするのでしょうか?
A.録音の前の日に、EQで調整したり音のデザインをします。録音当日はそれで決まった音で録ってます。

Q.女性の足音を表現するときのポイントはありますか?

A.理想はやはり女性が歩いた方がいいですね。でも、ローカットしたり、足がつく面積を小さくすると女性っぽくなります。固い革靴で歩くとピッチを上げることもあるし、ビッグサイズのハイヒールを買ったこともあります(一同笑い)

Q.歩き方が普通とは違うようですが?
A.普通に歩くと、本当みたいな足音がしません。足音を出すためにカカトから着きたくなるのですが、カカトから着くとカカトの音がしなくなるのです。私の経験則でいえば、横に歩くと体重がかけやすいですし、リアルさを出しやすいのです。

Q.オンで録るか、オフで録るかはどういうふうに決めますか?

A.ミキサーが扱いやすい方にします。フォーリーアーティストから見るとS/Nを気にしてオンで録りたいのですが、ミキサーから見ると近過ぎてどうにもならないこともあります。マイクは、足音はガンマイクで録るケースも多いです。足が動くと裾の音がするので、ガンマイクを使うと周りの音を録らないから便利です。

Q.音を録るとき、どうしても時間がかかり過ぎてしまうのですがアドバイスはありますか?
A.体つきに対する自分が思っている音をイメージして、そこに近付けるようにしています。録音して聴いてみる反復作業で、どうやればいいのかがだんだん見えてきます。



Q.距離がある場面だと、マイクも離せばいいのでしょうか?
A.オフにして録ってトラックが重なったらS/Nがすごく悪くなりますね。ケースバイケースですが、距離感を出すところはフェーダー操作をしながら録ることもありです。フォーリーアーティストとフォーリーミキサーとフォーリーレコーディストがリンクすることで、優れたフォーリーサウンドが生まれるのです。



Q.ほふく前進の場面の音はどうやって録りました?
A.難しかったのですが、パーツごとに別々で録ったものを混ぜました。膝、手、肘、ボディ、爪先で分けました。

Q.ゲーム中のインタラクティブな部分の音付けのポイントはありますか?
A.ゲームはユーザーが動かして主人公が動くという感じで、足音を左、右、左、右の4歩分の音をコンピューター上のメモリーにおいておきます。ユーザーが主人公を動かしたとき、プログラムが足音を呼び出すのです。ユーザーはカメラも動かすので、カメラ位置に対するプレイヤーの位置をプログラムで認識させて音を出しています。しかもサラウンドですので、定位、音質、距離演算、リヴァーブ感などを全部プログラムしておけば、ユーザーの操作によってインタラクティブにミックスした音を出します。

Q.インタラクティブ部分と映像の部分のフォーリーを録るのに注意点はありますか?

A.そうですね。インタラクティブなところはユーザーがいつ動かすかわからないので、音を素材として考えて、1個1個録ることにしています。

Q.収録の段取りで、録るときの分け方は?
A.できるだけ一気に、切りのいいところまでやります。時間がきたからといって、足音の途中でやめることはまずないです。日が変わるとコンディションも変わるので、少なくとも切りのいいところまで収録します。

Q.モニターするときの注意点はありますか?
A.フォーリーをやってる最中はタイミングと強さを気にします。音色をチェックすることまでは頭が回らないので音色に対してはミキサーに任せます。

Q.環境音を入れることで、フォーリーサウンドに影響はないですか?
A.環境音はフォーリーより後にできる場合が多かったので、考えたことはありません。そしてフォーリーで録ったものはフェーダーを上げれば出るものであるというのが自分の考えです。画面で主人公の音は上げれば出る音でないといけないと思いますし、環境音がそれに勝ってしまったら、むしろ環境音がおかしいのではないかと思います。
A.フォーリーの音は帯域を解析すると、高い周波数にまとまっています。環境音はミッド、ローに分布しているのではないでしょうか。ですから、あまり影響がありません。

Q.音をどうやって創り込んでいけばいいでしょうか?
A.フォーリーするときは自分が出したい音のイメージをはっきり頭の中に置いて、それを目指して音を創った方が早いです。いろいろな音を聴いて、現実音を多く知っていれば、サウンドデザインが楽にできます。
デモは、以上です(一同拍手)。

■ フォーリーサウンドとは?

染谷:フォーリーサウンドは2つの意味があります。ひとつとして、各キャラクターの動作音(足音、衣擦れ、アクセサリー、etc)、もうひとつとして、その他の動く音(水中音、岩、火事、etc)です。フォーリーはアイデアです。今まで見た中で一番面白かったのが、ハンカチを使ってEQ等で補正し大砲の音を創るというものでした。(実際にやりながら)このようなアイデアがフォーリーサウンドに良い結果をもたらします。

●フォーリーが担っている目的について
1 不足している動作音を補うことで演技をわかりやすくする
2 各キャラクターの特徴、存在感を音で表現する
3 フォーリーサウンドを作成することによってシーンとシーンの自然な流れを創り出す
、大切なのは、優れたサウンドトラックを創る上で、フォーリーは非常に重要な役割ということです。
フォーリーというのは陰の役者です。
フォーリーと業界で呼ばれているのには以下のような背景があります。

Jack Foley氏/1891年アメリカN.Y.生まれ、カリフォルニアに移住し、高校生活はこちらで過ごします。金物屋で働きながら、映画の脚本を書いていました。またその傍ら、自分の町を映画に使ってもらおうと誘致の仕事もしていたようです。それが認められ、ロケーションスカウトとして映画業界に入ります。『SHOW BOAT』という作品の制作でサウンドマンのキャリアをスタートしました。彼が注目されたのは、「映像をプロジェクションしながら効果音をレコーディングする」というスタイルを確立したためです。足音に関して異なる材質を用意し、映像にあった効果音を創り出しました。以降、1960年までたくさんの作品にサウンドマンとして携わります。1967年の他界。彼の功績が評価され、映像を見ながら効果音を創り出すことを、「Foley Sound」と呼ぶようになりました。詳細を知りたい方には以下のURLが参考になります。
The Story of Jack Foley 

Foleyとは?

http://hw001.gate01.com/mick-sawa/terakoya/mick_news_data/jackfoley.html




●ハリウッド版フォーリー作業の流れ
1 フォーリーアーティスト(映像を見ながら音を発して演じる役割)
2 フォーリーミキサー(音質やマイクバランスを変化させ良質なフォーリーサウンドを創りだす役割)
3 フォーリーレコーディスト(創り出された音を録りこぼしの無いように録音する役割)
 
+フォーリーエディターこれらの役割でフォーリーサウンドは支えられています。

●使用機材について
 
マイクは、「Sennheiser MKH416/MKE2/Neumann U87Ai」などを使います。これらの中で、作品ジャンルによって変えています。実写の場合は、同録の台詞と同じようなマイクを使って音色を揃えます。

●エフェクター
 
HAは、微細な音ばかりなのでS/Nが良くタフなものを選びます。EQは、S/Nが良く感度が良いもの、効きが良いものを選びます。コンプレッサーは、S/Nが良く、音色変化の少ないものを選びます。

●マイクポジションについて
 
ピンマイクでアタック感や低域成分を創り、「U87Ai」で全体の輪郭を創っていきます。EQの目盛りはあまり気にしてはいけません。8dBくらいはざらにあります。気にしてしまうと良い音は創れません。また、ハーモナイザーで音色を変えるのも良いかもしれません。

●フォーリーセッションについて
 
フォーリーREC用にキューセッションを作成し、使うSEを並べ、すべてに空リージョンをくっつけてしまいます。それを塗りつぶすように細かく録音していくことで収録漏れを防げます。

●Q&A
Q.マイクゲインの目安を教えてください。
A.ピークでオーバーしない程度にし、アナログのコンプをかけます。また、卓のEQは一切使っていません。

Q.いくつか重ねたひとつの音を創る際、全体のバランスを見込んでひとつひとつで録るのですか?

A.ケースバイケースでひとつずつバランスを取ることもあるし、見込めるなら全体に下げてバランスを取ることもあります。



Q.素材はモノですかステレオですか?
A.後々扱いやすいので、基本的にはモノです。集団などではステレオにしたりもします。パンニングはその後にすることも多いです。

Q.土などの上ではピンマイクはどうしているのですか?
A.土に直接つけてしまうこともありまが、さすがに水には濡らさないようにしています。ダイマジックでは、フォーリーで使用したものはフォーリー専用にして、セリフ用と区別しています。



Q.実写やアニメーションでのマイキングは変えていますか?

A.同録に合うように素材を録ります。いかに馴染むかが大切です。アニメーションの場合は録音のプロセスとしては自由度が高いかも知れません。

Q.音に対するイメージは事前にエンジニアとフォーリーアーティストで擦り合わせておくのですか?
A.打ち合わせで決めることもありますが、やってみて意見を出し合うことも多いです。やってみないとわからないことも多いですから。



Q.ハーモナイザーを使った場合は、高域をカットしますか?
A.今日はカットしていません。当然低域は下がりますが、アタック感もなくなります。ハーモナイザーにコンプをかけることも大切なことです。

Q.できるだけオンマイクで録るとのことですが、画面に合わせて距離感を出すときはプリミックスで調整するのですか?

A.アニメーションなどの時はもう少しルーズに多めに録ります。会社のエントランスでみんなが喋っているようなロングショットシーンでは、ガンマイクで遠目に録ったりもします。あとはフェーダー操作で変えながら録ったりすることもあります。

Q.最終的なソフトになる場合、圧縮する訳で音質が変わってしまいますが、ファイナルを予想しながら創るのでしょうか?
A.素材は素直に録っていきます。

■ フォーリーアーティストの考え方

長谷川:私からはフォーリーアーティストとして、演じる側の考え方をお話します。



●フォーリーアーティストが考えること
 
どのような作品なのか理解すること。チャンネルフォーマットを確認する。(仕上げがどうなるかによって、パンニングも変わる)そのシーンが同録なのか、アフレコなのか、同録なら馴染ませることが必要ですし、アフレコでも同録されたものを聴いてイメージすると馴染みが良くなります。ゲームやアニメーションは映像に乗らせるために、実写よりわかりやすくキャラクティブな音にします。実写の場合は空気感を出すために少しオフで録ります。すべてが同じより雰囲気が出るから少しずれても良いときもあります。エンジニアと話合うことも大切です。

●録音のポイント
 
素材の選定が大事です。コンクリートだけで足りなかったら、砂を足したりして調整します。砂に草を蒔いて草原を表現することもあります。鉄板の使い方は、浮かせるか、置くか、抑えるかなどの工夫します。

●靴、小物などの選定
 
やってみて、出してみて決めます。靴は3種類くらいお気に入りを見つけるとほとんどがまかなえます。いくら機械を使って補正しても出音が悪かったらダメですから、素材を選び、出音を良くすることが大切です。自分が録りたい音を明確にし、エンジニアと同じ目標を持って録ります。

●タイミングを合わせること
 
長編の作品などは分量が多いので特に重要です。切り刻んだりエディットで合わせることも可能ですが、そうすると、フォーリーの味が出ないです。布ずれが入ってしまっても、それも味だと思っていますので生かしてしまったりもします。音の強弱は、役者と同じ気持ちになって演技すると上手くいくことが多いです。「Pro Tools」での補正でできることではないので、そこが楽しいところです。大胆に、そして繊細に。キレがあるところ、優しいところの差を付けること。場面によっての変化、エフェクターを使っての調整も必要です。音を単調にしないようにする。そのために、少し動いてみたりして変化を付けたり、エンジニアに頼んでフェーダー操作をしてもらうこともあります。いつも全部同じように歩いている人はいないですから、少し離れても効果的です。

●まとめ
 
フォーリーとは映像との馴染みが一番重要です。タイミング、演出、音質などはエンジニアによってやり方が違います。フォーリーは効果音の一部でありフォーリーと気付かれてはいけません。(音が)付いていて当たり前。しかし、ないと薄く聴こえるから音を厚くし、演出を引き立てる大切な要素です。ひとりひとり工夫して録ってみてください。とても面白いと思います。

■フォーリー実践編
 
ではいよいよ実践編です。希望者がブースに入り、映像を見ながら実際に足音をフォーリーしてみるという実践です。まず長谷川さんが見本を見せ、その後参加者が足音に挑戦しました。

参加者の実践後の音を聴いての講師の講評をまとめると、


・自分で出している音は、ヘッドフォンを外して耳で聴いてみることが大切。出音を把握しておくこと。
・イメージしている音を出すことは、本当に難しい。
・映像を見て先を読みながらやるようにすると、動きが読めてくる。
・普段歩いているときの足音を録音してみる。
・どうすれば、どんな音が出るかというイメージを持つこと。
・キャラクターらしさや雰囲気をどれだけ出せるかを考えること。
・立ち止まる姿勢に来るには何歩必要なのかを考えてみる。
 


◎慣れ(トレーニング)が必要です。

沢口:今日は、日頃なじみの無いフォーリーの意味となかなか体験できない実践を交えた盛りだくさんのプレゼンテーションでした。スタジオを提供していただいた染谷さん、そして実践編での講師役を担当していただきました長谷川さん、本当にありがとうございました。終了後も参加者からは、初めてFoleyの大切さを実感したとか、映画 ゲーム ドラマなどで当たり前のように感じていた音がじつはこうして作られていることがわかり今後聞き方も変わる。大変細やかな仕事でアイディアと根気のいる仕事だ。といったコメントが寄せられました。機会があれば次回はSFXの素材となるFoley録音編も企画したいと思います。(了)


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