June 8, 2008

第52回サラウンド塾 SACDプラネットアースのサラウンド制作と最近のサラウンド録音クラシックアへのプローチ
 入交英雄

By. Mick Sawaguchi
2008年6月8日 株式会社ダイマジック Mix-Aにて
講師:入交英雄(レーベル主宰)、京田真一(TC Electronics)協力:染谷(ダイマジック)



沢口:2008年6月の寺子屋は、ここ秋葉原に2007年11月にOPENしました素晴らしいスタジオをDiMAGICの染谷さんと谷口さんに提供して頂いて、クラシックのサラウンドをテーマにしました。2月に横浜パシフィコでAVフェスタがあったときに、会期中の一日をクラシックのサラウンドというテーマで企画してやりました。なぜかというと、クラシックを聴く多くの人たちは「クラシックはステレオで十分」と頭の中にすり込まれています。それをなんとか変えたいと思い、その時、適任の講師として大阪からわざわざ入交さんに来て頂きました。なんと大入り満員で、ステレオとサラウンドの聴き比べをしてもらって皆さんその違いに納得されていました。そういう地道な活動をして、クラシックファンにもサラウンドにとけ込んでもらいたいということで、今月はSA-CD「プラネットアース」を制作した入交さんと、SEを担当したTCエレクトロニクスの京田さんを講師にお迎えして開催したいと思います。

入交さんの本業は大阪の毎日放送という放送局のエンジニアですが、一方でクラシックのサラウンドに情熱的に取り組んでいる方です。去年もAES日本支部入交さんがリーダーとなりオーケストラのクラシック録音について膨大な研究をやりまして、ウィーンとニューヨークで発表しました。ソフトもちょうど発売になったところです。自分でレーベルもやられています。その中から私も非常に感銘を受けた「プラネット・アース」という作品がどうやって作られたかというお話をしてもらいます。この作品はSEも大変素晴らしいので、その制作者のTCエレクトロニクス京田さんから紹介をしてもらいたいと思います。

ここのスタジオは去年の11月にできたばかりで、ソナの中原さんとDiMAGICの染谷さん谷口さんの共同作業による、世界でもトップクラスのポストプロダクションスタジオです。詳細は、PROSOUND2008年4月号と6月号に載っていますので、3人の情熱をぜひ紙面でお読みください。せっかくなのでスタジオの見学ツアーとダイマジックの解説を、メインのワークショップが終わったら染谷さんにお願いします。ではよろしくお願いします。

[ ヨハン・デ・メイ/プラネットアース ]

入交:はじめまして入交と申します。
放送局の社員をしておりますが、クラシックの録音もやっております。
サラウンドに関しましては、中学生の頃に4チャンネルというのに出会ってそこからやっています。今日紹介しますプラネットアースというSACDが出たんですが、これを大阪市音楽団で録音しました。これは吹奏楽の作品なんですが、ヨハン・デ・メイという人が作った50分ぐらいある非常に長い曲です。

「PLANET EARTH 」

・演奏団体:大阪市音楽団(Osaka Municipal Symphonic Band)

・指揮者:ヨハン・デ・メイ(Johan de Meij)

・2007年6月8日 大阪/ザ・シンフォニーホールで録音

・コーラスやサウンドエフェクトが使用される
今回の収録のキーポイント
*大編成の吹奏楽団 70人〜

*効果音のPAがサラウンドで行われる

*コーラスのPAがある
*作品自体をサラウンド録音する

・コーラスは本来100人程度必要だが、予算の都合上20人でやらなければならなかった。

→PAを入れる。しかもサラウンド。録音にとっては難しく、工夫を要した作品。

入交:作曲者からこの話があったときに、まずデモテープとしてSEが来ました。
彗星が創世記の地球に降り注ぐという音で、サラウンドにしたら面白そうですねという話からやることになり、SE素材のオーディオファイルを受け取り、作業が始まりました。

・SE素材は、素材毎にステレオミックスされた最大10トラックの状態のものがきた。
→サラウンド化に、TCエレクトロニクスのSystem6000が威力を発揮すると考え京田さんに依頼しましたので最初にSE制作の紹介をしたいと思います。

京田:TCエレクトロニクスの京田です。
この話を入交さんから頂いた時、二つ返事で引き受けましたが、もらったファイルを見てびっくりしました。
今日もってきたのはSACD用のミックスで、実際の会場では動きの大胆化や配置を簡素化した別ミックスを使用しました。
会場用ミックスはSystem6000を使いましたが、SACDには、使っていません。
System6000を使わずに、もっと簡単にサラウンド制作が出来ますよというのを紹介します。

2ch素材を聴きながら、どういうイメージで立体化していくか

原音のイメージを崩さないで平面から立体へ。
*動かす音
*動かさない音
*散らす音
*曖昧な定位の音

*鋭い音
の5つの要素で素材を分類。
曖昧な定位は、空気感。ピンポイントに定位は、速度感。
曖昧に動く音は、遠景感。など。



動きの制御には、Nuendoのサラウンドパンを多用した
・ステレオ素材だが、素材によってはモノラルで振っていく

・1trに2つのパンを使い、前後半で使い分ける

・ステレオイメージでダイバージェンスを広げるパンナー
・パラメトリックEQを併用。

・XY軸に対してミラーがかけられるパンナー

京田:このスタジオは前後のつながりが非常にきれいですので、真ん中に座っている方はよくわかると思います。
ではどんな音なのかを聴いてください。


(これらのテクニックをつかったシーンのデモ)



チェロトランスフォーマー
・舞台上のチェロのソロが、広がりながら同じリズムのSEとクロスフェードしていく


(チェロトランスフォーマーのデモ)

空気感を付加するInsertEffectのルーティング

・ステレオリバーブをつかった。

・ヌエンドではインサートに対して、バスを選択できる。
→フロントの音はリアにリバーブ音、リアの音はフロントにリバーブ音を送る。

→彗星が飛び去ったあとのところに残響が生まれる。


(リバーブのデモ)

周波数と高さの関係
・周波数と移動スピードの関係
・EQにより、高さの変化をつける。

→5本の平面スピーカーでも音を立体に。

・4種類の鐘の音が回る音。低い音2つは時計回り、高い音2つは反時計回り。
→高さの表現

(鐘の音のデモ)

入交:こんなに細かいことをされてるとは知りませんでした。ここからは、それ以外の部分の説明です。



メインマイク:デッカツリー方式 DPA4006 x3

サラウンドチャンネル用マイク:
2種類のアンビエンス
フロント後ろ3mに DPA4011 x2
フロント後ろ10mに DPA4006 x2

スポットマイク:計21本

SE:ポスプロにて差し替え。

コーラス:オーバーダブ用パッチ収録。

→全体的にはFukadaTreeに似た感じにした。

SPOTの目的

*音色のディテールをはっきりさせる。

*定位のディテールをはっきりさせる。

*音楽的バランスを補助する。

→ライブなので(保険)

今回のアプローチ

*タイムアライメント
スポットマイクにディレイシステム、メインマイクに到達する時間を合わせる。
→実際にはDAWの時間軸上で移動。
→特に定位のデティールが良くなる。

*マイクの数はできるだけ減らした。

*カブリを逆用する。

SPOT実施

*木管用 x2、金管用 x3、打楽器用 x3、マレット用 x2、合唱用 x4
Hr、Tuba、VC、DB、Pf、Harp、Celesta x1



それでは各パートがどんな音をしているか聴き比べデモします。
1.All−Mix
(以下SPOT MICのみ)
2.Brass

3.Horn、Tuba
4.VC、DB

5.Pf、Harp

6.Percussion、Mallet
7.Wood winds

入交:これぐらいかぶりがあります。これは取れないので、どういう風に利用するかが大切です。(かぶりを)嫌うとマイクを近づけるしかありませんが、そうすると楽器本来の音と離れてしまいます。次はスポットマイクとメインマイクを足したものの聴き比べです。

聴き比べデモ

1.Front Only

2.Front&Brass、Hr、Tuba
3.Front&VC、DB
4.Front&Pf、Harp

5.Front&Percussion ,Mallet
6.Front&SPOT All


入交:スポットマイクの音量は、合計の音量が、メインと同じくらいまでならOKと考えています。メインマイクにデティールを足してくという方法論です。EQは、不要なところをカットするが基本です。例えばトランペットのLowを切る、などです。次に、サラウンドマイクとスポットマイクの聴き比べです。



聴き比べデモ

1.Surround Mainのみ(DeccaTree)
2.Surround Main&brasses

3.Surround Main&brasses&Percussion
4.All Mix



入交:こういうようにスポットマイクを足していくと、ディテールがでてくるということがわかったと思います。なぜスポットを足すかという背景に、吹奏楽をされる方々が参考音源にする場合などに細かいところまで聴きたいという要求があるためです。スポットの使い方として、TPOもありますが、その音楽をどれだけ聴いたかで自分の持っている技量が活かせるかが決まると思います。では次に、メインマイクと2つのリアマイクの聴き比べです。

聴き比べデモ

1.Surround Main System Decca Tree&Double Rear Pair

2.Surround Main Rear Only(Cardioid Pair)

3.Ambience Pair Only (Omni Pair)

4.Surround Main System Decca Tree & Cardioid Pair

5.Surround Main System Decca Tree & Omni Pair

6.Surround Main System All

入交:前後の広がりは、オムニペアのほうがあったと思います。なぜかというと、カーディオイドペアは特性が200Hzから下がる傾向を持っています。それと単一指向性ですので、レコーディングエリアが狭くなるために広がりが出ないのではと思います。しかし、フロントと距離が離れたオムニペアのみだとフロントとリアで全然違う音になってしまいます。オムニスクエアのみだと、ダウンミックスした場合にフロントの音が濁る結果になったので両方を用いて辻褄を合わせました。アンビエンスマイクの立て方はまだまだこれからの課題です。次に、先ほど述べたタイムアライメントについてです。


タイムアライメント
目的

*メインとスポットの距離ディレイを相殺するディレイシステムを組むこと

*ライブでは、メインマイクに一番距離の遠いマイクを起点にディレイ量を計算して、
各チャンネルにディレイをインサートする。
*実際にはDAW上で各チャンネル毎に時間軸を調整して実現する。
→今回は拍子木の音を録音して、波形上でピーク位置がほぼ同位置となるようにナッジングした。

→全てのスポットマイクの位置でやり、10分くらいかかった。

Q:距離を計算するよりも良い?
A:高さの関係などで、正確には計れないので。
ぴったり合わせるよりはスポットを時間軸で少し後ろに配置する、などのノウハウはあります。


Q:アンビエンスマイクの時間軸調整については、どう考えますか?

A:今回は入れましたが、私は無いほうが好きです。



タイムアライメント正規化の効果のデモ
1.カチンコの音のタイムアライメントBefore、After
→定位がBeforeは左寄りだったのが、中心に動いた。(だいたい25msecくらいの移動)
2.オケでのExample タイムアライメントBefore、After

3.オケでのExample タイムアライメントBefore、After

4.オケでのExample タイムアライメントBefore、After



入交:タイムアライメントを行うと、スポットを足した時、EQで触ったような感覚になる。

→上げ過ぎに注意。

今日のこういうノウハウはぜひお試しください。

入交:合唱をオーバーダブしたと言いましたが、これは苦肉の策でした。ライブ演奏なのに良いのかという話もあるとは思いますが、これはCDとして聴いた人たちが楽しいようにしたいと思ってのことです。リハーサル終了後、コーラスのみのパッチ収録セッションを行いました。順番に聴き比べていただきます。



コーラスの聴き比べデモ

1.本番メインマイクのみ(PAのカブリあり)

2.コーラススポットマイクのみ
3.コーラスパッチ収録によるコーラスの音
4.本番をスポットマイクのみ使用してミックスダウン

5.コーラスのオーバーダブ分を使用してみると...



入交:20人の合唱がさらに大規模なコーラスに化けたかと思います。

Q:これは合唱団が上手だからずれないのか?
A:タイミングは、実は修正しています。
同じ指揮者でも、最大で10%程度のテンポが違ってしまいます。

Q:本番録音時のスポットマイクは?
A:4本使いました。6パート有り、4人に1本程度です。

入交:
今回は結構大胆にポスプロ作業をしましたが、
ライブ演奏に関する編集の是非の私の考えです。

・芸術作品か。ドキュメンタリーか。

・歴史的演奏はドキュメンタリー性重視
→その場合は、あるがままのものを望まれることが多い。

・セッション録音の代用 芸術作品としての必要性重視。

→レコードは何回も聴くもの。出来ればミスはないほうが...。

・完璧性を重視と考え、TPOに応じて対処。頑なになる必要はないと考える。

では、全体では50分ですが、17〜8分にまとめたのを、お聴きください。

ではプラネットアースのサラウンド制作については一区切りとしまして,それ以外の
私の最近のサラウンド制作からいくつかご紹介します。

[ 名倉誠/Bach Beat ]

入交:これは、名倉誠さんという人のマリンバの音楽です。これは2008年5月下旬に輸入販売がされるはずなので、もう店頭に並んでる頃なのではないかなと思います。
これはクレオスレーベルというアメリカのレーベルです。名倉さんとは友人で、非常に難しい曲ばかり演る人なので、「バッハとかやりません?」というような提案をして実現したものです。

入交:場所は、京都の教会で録りました。非常に不思議な形をしていて、六角形の形で天井が斜めになっています。
響きは独特ですが、小さい割りに結構残響時間が長いというホールで、
独奏楽器には良いと思いますが、アンサンブルなどの録音にはちょっと難しいかなあという感じがします。自動車の音等の外来ノイズがどんどん入ってくるので、これが大変でした。

入交:ここではまず、ワンポイントサラウンド方式を試しました。
正面0度、LRを45度、Ls,Rsを135度で、半径1メートル(L,C,R)と1.6メートル(Ls,Rs)です。
特殊な手製のツリーを作り試した結果、これでは空気感が出ないので、アンビエンスマイクを使いました。
最終的にはアンビエンスマイクの方が音量が大きくミックスされています。
スポットマイクも3本立てました。
L,C,Rとのセパレーションのため、Ls、Rsのマイクに青い紙がバッフル効果を狙って貼ってあります。紙は円盤にしたかったんでが細工が出来ませんでしたので四角い紙を貼っています。最初はLs,Rsのマイクもフロントと同心円上に配置しましたが、あまり良くなかったので、段々延びていって、一番長い1.6メートルまで延ばしました。

演奏者側から見るとこんな感じです。


Q:LsとRsのマイクを同心円に配置すると、何が上手くいかなかったのですか?


入交:後でいわゆるITU-Rの5.1chの再生環境で聴くと明らかに、後ろに壁が迫ってきた様な感じに聴こえましたので、Ls,Rsにアンビエンスマイクを多めに使ってミックスしています。

でもそれでも上手く出来なかったので、アンビエンスマイクを主に使っています。

聴き比べデモ

1.All−Mix
2.Main Surround System
3.One Point Surround Mics
4.Front & Ambience

入交:違いが判りましたか? ここのスタジオは、ディフューズサウンドで再生していますが、ここの位置で聴くと、それほどワンポイントサラウンドも悪くないなと感じました。
いわゆるITU-Rの5.1chの再生環境で聴くと明らかに、後ろに壁が迫ってきた様な感じに聴こえましたので、Ls,Rsのマイクを多めに使ってミックスしています。

では次は、センタースピーカーが有るのと無いのでどう違うのかというところを聴き比べます。
まず、フロントのメインマイク3本をLCRとしたもの。
次に、真ん中をLとRに割ったつまりファンタムセンターにしたもの。
次に、スポットマイクも足した状態で同じことやります。
そして、最後にサラウンドで同じことをやってます。

聴き比べデモ

1.Main front only 3ch VS Stereo
2.Main & spot 3ch VS Stereo
3.All Mix Surround VS Stereo

入交:サラウンドで聴いた時とステレオで聴いた時とで、その音像感が全然違ったんです。
サラウンドで聴きますと、マリンバは2.5メートルくらいの比較的大きな楽器なんですけども、そこに有るように聴こえて、ステレオの場合はそこまで鮮明に聴こえなかったという印象がありました。これはきっとセンタースピーカーの有る無しに違いないと思って、こういう素材を用意しました。

Q:ステレオのときは、センタースピーカーをゼロにしただけで全体の音量は持ち上げていないでしょうか?
A:ファンタムセンターにするため、2dBぐらい上げています。全体の音響エネルギーとしては聴感上で同じぐらいにしてます。
Q:スポットもメインのマイクもセンターを単純にLRに振ってるんでしょうか?

A:そうです。センターを3dB下げて、パンポッドで振っています。



入交:スポットマイク付きの、センターをオフしたものを聞いてみましょう。

(デモ)

入交:これはやっぱり中抜けしてますね。サラウンドとステレオで、ステレオはもうダウンミックスと考えて頂いてほぼ差し支えない様な感じです。
サラウンドと聴き比べると、センター定位もそうなんですが、グッと向こうに平板になってしまったって感じがよく判ったかと思います。
オーケストラだけでなく、こういう鍵盤楽器みたいな単楽器でも充分にサラウンドの素晴らしさがあるんじゃないかなと感じた経験でした。
それでは、7分ほどの曲を聴いて下さい。曲は、カール・フィリップ・エマニュエル・バッハ / スペインのフォリアによる12の変奏曲という曲です。



(デモ)


入交:この教会での響きは、上に登っていくって感じがあったんですけども、そういう感じが良く出たんじゃないかなと思いました。

エピソードとは全然関係ないんですけれども、彼と編集のやり取りはmp3で送ったんですけども、プロツールスの128kbpsで送ったところ、どうも変な音が聴こえると彼から言ってきました。仔細に聞きますと、mp3というのはプリエコーというのが原理的に出ます。カカカカカッっというのがスカスカスカスカッという風に出てくるんですね。それが聴こえないようにしようと思うと256kbpsまでビットレートをあげないと駄目でした。ちなみにARIBの品質作業班でも話題となったのですが、カスタネットが一番圧縮オーディオで、それが聴こえないようにしようと思うと256kbps/perまであげないと駄目でした。マリンバも原理的には木の音ですので、圧縮オーディオに非常に向かない音となると思います。ですので、そういう時のチェックにも良いんじゃないかなという風に思います。
以上で終わります。長い間どうもお疲れさまでした。

(一同拍手)



[ Q and A ]

Q:「プラネット・アース」と「Bach Beat」の作品の両方なんですが、ポストの処理でリバーブは全く使ってないということでしょうか?

A:「プラネット・アース」では、スポットマイクに対してはDigidesignのルームモデリングリバーブのReVibeを使いましたが、メインマイクには使っていません。
「Bach Beat」では全く使っていません。
Q:録音時のモニター環境をそれぞれ、教えてください。
A:シンフォニーホールには、エクスクルーシブがあり2本あり、それでモニターしました。教会では、ソニーのスピーカーでやってます。

Q:教会では、5本でモニターしましたか?

A:いや、これも現場では2本です。
Q:2本でモニターして、後ろの壁が迫ってくるから(Ls,Rsのマイクを)1.6メートルにしよう、っていうのは、決めれるものなのですか?

A:現場では半分は想像のところなんですけども、持って帰ってのプレイバックでそういう感じがしました。現場ではダウンミックスの音色で判断出来る部分があります。
もちろん、サラウンドモニター環境を現場に持っていけば、もっと違うアプローチに変えたかもしれません。
その時もアンビエンスマイクは保険のつもりで録っていって、通常のアンビエンスマイクの録り方をしていますので、
フロント3本とアンビエンスマイクで成立できるということは想像しながら録音しています。
それでプラスアルファということでワンポイントサラウンド方式をやってみて、この場所ではあまり巧くいかなかった、という結論に達しました。
そのなかで同心円上にしてダウンミックスで聴くわけですが、
現場でダウンミックスを聴くと、まず最初、セパレーション確保用の紙が無い状態でやりますと、全て全指向性のマイクですのでカブリの結果、音が濁る感じですよね。
そうなりましたのでその紙で遮蔽してみた、と。それでも良くないのでマイクステイを延ばしていった、というわけです。
一番伸ばした状態でも膨らんだ感じがあり、要するに2本のマイクを足した時に独特のカブリで濁るという感じが聴こえるので、多分よくないだろうなという風に想像はしていましたけれど、持って帰ってサラウンドで聞いてみるとやはり良くなかったという状況です。


Q:「プラネット・アース」はPCMで録られたとおっしゃってましたが、DSDにはどのような形式で変換されたんですか?

A:具体的にはマスタリングスタジオのエフという所でやったんですけれども、まずPCMからDSDにピラミックスで変換しまして、
そのDIFFというファイルをオクタヴィアに持って行きそこでマスタリングしました。
「Bach Beat」はやはり同じエフでDIFFに変換したあとで、ピラミックス出しのSadie録りという形で、
これに同時収録しながらマスタリングしていったというような形です。
Q:編集の時にはスコアは見てやられるんですか?

A:はい、スコア見ます。

Q:スコアを見て、どこが小さいとかっていうのは確認されるんですか?
A:はい。さらに先ほどの「プラネット・アース」で言えば大体300カ所ぐらい編集していますが、それはスコア見てどれが違っているかというのを全部先に洗い出しをします。
どこが編集できるのかというのを次々にトライしていって、変えると駄目な部分も当然有りますから、そういう様な作業を繰り返します。
Q:変えるっていうのはリハのテイクとですか?
A:そうです。リハのテイクと、それでも足らない場合は、クラッシックの曲というのは繰り返しがありますので繰り返しが無いかどうか探します。
それでもどうしても変えたいというのがあると、クラシックには展開部で4度上というのがありますので、
そういうとこから4度下げて同じ様になるようなものは無いか探しにいきます。(一同騒然、笑い)(これはジョークです。実際に探したことはありますが、うまくつながりませんでした。)

Q:先ほどコーラスで何か本当に歌っているのかなって、すごい高い声に聴こえたんですけどあれは本当の声ですか?
A:歌ってます。一番最初にですね、効果音の方で後ろでコーラスが有ったと思うんですけども、あれはシンセサイザーなんですよね。
それに声に似せて歌いなさいって書いてあるんですけども(笑い)、それであの、ウーっていう、まあハミングみたいな音で歌い始めると。このコーラスはコーラスのかたに聞くと非常に難しいと。ハイCが出てくるんです。ほとんど考えられない、普通の演奏会では考えられないような音域だそうです。
たまたまですね、大阪に優れた合唱団が居たので出来たんですけれども、逆に100人集まったらもっと酷かったんじゃないかという風に言われています。
ハイCとハイBの2度とかでハモらないといけないんですけどもね。
Q:SEはPA出しですよね。PAはいわゆるサラウンドのこの並びは出来ないですよね、会場では?
京田:はい。なのでSEはフロントリアの4chなんです。
Q:クラシックだとPAを使うことを会場の人が嫌がりますが,問題はありませんでしたか?
入交:それは無かったですね。事前に根回しをしたというのはあります。
逆にですね、シンフォニーホールは非常に残響が長いので、効果が得られるかどうかっていう風な心配をして頂きまして。
で、フロントが2発、リアは1階席と2階席に2発ずつ、それと真横にですね2本、ですのでリアは6本使ってました。

Q:当然この今日聴いたミックスでなくて、その会場に合わせたミックスを作ってらしたんですか?

京田:はい。

入交:そんなに芸が細かいことをしてたとは全然私は知りませんでした。(笑い)
Q:作曲家のかたから、そこの部分はこういう風に出してとか指示はあったんですか?

京田:いや全然無しです。来てもらって、リハーサルも別会場でリハーサルしてますので同じ環境では聴けないですから、任せてもらった様なものです。
Q:音素材は全部送られてきたものなんですか?

京田:そうです。

Q:0.1(LFE)の処理はどうされてるんですか?

入交:これは5.0です。
Q:拍子木じゃなくて、DAWで何かワンパルスを作ってスピーカーで出すっていうのは駄目なんですか?

入交:良いと思いますけど、拍子木を叩いた方が早いですね。ただ拍子木なかなか難しいですよね。良い音出すのは。(一同笑い)

沢口:年季が要る。(笑い)

入交:そう、年季が要る。下手に叩くとね、拍子木を持っている手がものすごく痛い。
(一同笑い)
Q:サラウンドで、特に小さい部屋で録る場合なんですけども、後ろの方のメインマイクの2本を延ばされたって話で、
こういう場合に5本のマイクで録られて、その5本のマイクに対して、DAW上で時間をずらしたりしてミックスの時に試したことあるんですか?
入交:この録音では試していませんが、過去に一度やったことありますけども、ものすごく変になったのでやめました。それを追求して何か良い感じに出来る遅延時間があるのかどうかなど、そういう実験はやってないですね。

Q:サラウンドで、特に小さい部屋で録る場合なんですけども、後ろの方のメインマイクの2本を延ばされたって話で、こういう場合に5本のマイクで録られて、その5本のマイクに対して、DAW上で時間をずらしたりしてミックスの時に試したことあるんですか?
入交:一度、やったことありますけども、ものすごく変になったのでやめました。それを追求して何か良い時間軸があるのかどうかとか、そういうのはやってないですね。
Q:25ms以上飛ばせば、音色に関係なくエコーになっちゃうんで大丈夫だと思うんですけど、小さい部屋で平らな面が多いとどうしてもそのディレイによる 位相干渉が多分多くなると思うんで、でもマイクが重なっていけば重なっていくほど、ある中高域の帯域のホールド音が滅茶苦茶強調される様な感じが ちょっとしたんですね。


Q:もう1つ、先ほどの最初の作品の中で、メインマイクとオンマイクのタイミング合わせるのにカチンコでってお話されてましたけど、それはカチンコそのものの音を波形を見られて合わせられてるって感じなんですか?

入交:そうです。
Q:じゃあ実際に、ちょっと分かんないですけど試して頂くと良いかなって思うのは、その、オンマイクのほうにEQ掛けられると仰ってましたよね、楽器の帯域毎に。カブリを減少する為に。
入交:はい、ローカットハイカットぐらいなんですけども。
Q:それと同じものを、メインマイクとそのオンマイクで拾ったカチンコの音に掛けられると、まあ多分郡遅延持っていると思うんですよね。要するに楽器に よってピークだけ見てると、こう、ひっくり返ってくるとこっちの方が本当は正解のその帯域だと頭かもしれないんで、多分ですね、25ms以内だと エコーになっちゃうんでそうじゃないですけど、それを入交さん、厳密に合わせようとされてるんで、合わせれば合わせるほどほとんど音色の変化の領域に入っ てくるんで、もうそこまでくると厳密ならば厳密に越したことは無いと思うんですよね。だから多分そのEQも掛けられるんであればそれで見るとどのくらい変 わるのかなっていうのはちょっと興味ありますね。
入交:その場合っていうのは、一度EQ掛けた素材を多分レンダリングし直さないと判んないですよね、その波形は。
Q:そうですね、あーそうですね。波形も見ないといけないですよね。


入交:それはちょっと試しておかないとですね。

Q:そうすると楽器毎に、まああんまり変わんないかもしれないですけど、例えばマイクとかHAとかがすごい郡遅延持ってると、低い、例えばティンパニーのところのカチンコの音と、例えば他のトランペットとかそういうところのそのタイミングが変わるかもしれないなと思います。



入交:それとですね、拍子木で意外に面白かったのは、実はこれはAESの実験の時なんですけども、ステューダーの卓を何式か使ったんですけども、1つどうやら日本仕様になってないものがあったみたいで、逆相になってるチャンネルがあったんですよね。で、そこはカチンコの音を見ていてですね、反対の方向にピークがあることが判りましてですね、もしかしたら逆相じゃないかと言うことで、そのチャンネルの逆相ボタンを押してミックスしてみるとしっくりしたっていう経験があります。もちろんオールミックスでは判らないですけど、近くのスポットマイクの音を聞いてみると判りました。結構判るもんですね、ああいうもんで、っていう不思議な経験でした。
 


Q:専門的なことはよく分からないんですけど、その拍子木で思ったんですけど、例えばオーケストラでリハーサルで、例えばチェロと例えばパーカッションとか、チェロとか響くのにすごい時間掛かるからタイミング一緒に鳴らすと駄目なんですよ。チェロの人が先に鳴らして初めて合うっていうか、指揮する時に初めて、こう、合うんですよ。そうすると拍子木ってバイブレーションとか、ただカチッって鳴らしてるだけじゃないですか。バイブレーションがどこで始まって音が膨らんでいくかとか、そのタイムスパンとか別に考えないで、こう純粋に音の時間だけででしょか?
入交:そうですね。あの、マイクのアライメントというのはそれで大丈夫と思います。チェロとかがですねタイミング合わないっていうのは、まあアタックタイムっていうのがあるじゃないですか。拍子木はさっき言ったみたいにですね、ほとんどインパルスみたいな感じで立ち上がりがありますので、そこそこ叩ければ誰が叩いても同じなんですけども、チェロみたいなのはやっぱりその弓のスピードが全然変わってきますんで、弾いてから発音はすでに遅いですから、突っ込んで弾かないとオンタイムで出ないっていう特性があるんですよね。これは管楽器もそうなんですけども、例えばピアニッシモで弱く吹く場合はですね、ちょっと突っ込んで吹かないと発音タイミングが揃わないんですけども、それが難しくてですね、突っ込みすぎると自分だけ1人先に行ってしまったりとかですね、難しいもんがあるんですけども、そういう様に実際に息を吹き入れて出す楽器とかですね、弦を弾いて出す楽器、これはあの打楽器とは違ってですね発音に時間が掛かるとこがありますんで、多分そこのとこを仰ってるんだと思いますけれども。
A:はい。そうです。


Q:「プラネット・アース」のSACDのミックスですけれども、京田さんのSEと現場で録った音とが、どこであわせたのですか。すごく綺麗に入ってたと思うんですけども?


入交:5秒前ぐらいからフェードインしていって、足していっています。スーっと上げていって、それで規定レベルにしてるという感じです。
Q:実際のコンサートの時もSEと音楽が同時にやってる箇所はあんまり無いから出来たっていうことですか?


入交:そのとおりです。そしてSEを合わせるのはサンプリング周波数で合ってますので、途中で長さが変わるということはありませんので、
1トラックだけパイロットトラックをマルチに入れておいて、そのマルチをガイドにして、そこに差し替えました。ですのでズレていって音がおかしくなるということは無いです。


京田:ポン出しは、PAを大阪音研が担当されたのですが、ものすっごいタイミングですね。指揮者が“ヒュッ”と出したら“ヒュッ”と出すんですよね。チェロの効果音なんかは16分音符のタイミングで合わせないといけないのですがピタッと合ってすごいんですよ。(一同驚嘆)
 

Q:ポスプロ作業の時に、SEのカブリがサラウンド側に吊ってらっしゃるマイクと合わせる時すごく苦労されたと思うんですけど、
マイクで収録されてるSEのカブリっていうのは、どのくらい切ろうとしましたか?


入交:実際にはそれほど苦労してないんです。(笑い)あの合わせて、盗んで(フェードイン)上げていっただけでですね、多分判んなかったと思うんですけど。


Q:差し替えたSEのほうのリバーブの環境とかっていうのは合わせ込みはかなりやられましたか?

入交:いえ、リバーブはこれ特に付けてないです。SEには付けてないですね。クロスフェードだけでやってます。
Q:会場のお客さんの反応ってどうだったんですか?
入交:やっぱり、後ろが出た時に後ろを向いてましたよ。(一同笑い)おもしろかったですね。
まさか後ろから音が出るとは思ってない人が大半だったんですね。これはもう吹奏楽を超えた、とかいう声が聞こえてましたから。(笑い)

Q:この写真ですが、あれは撮影用にマリンバをLRに向けてるんですか?

入交:これはですね、先ほどマリンバ1個だけだったんですけれども、実は一番最初に、3本のマリンバのためのがありましてですね、
実は1人多重録音をしております。
Q:ということはこのトラックを聴くともっとこうLR感が?

入交:LR感出ますねそれはもちろん。今回はセンタースピーカーの聴き比べ、ということで何曲かしましたけれども。
Q:サラウンドっていうのをメインにして作られる作曲家とか、サラウンドにするってことをイメージして指揮をなさるかたっているんですか?
私も指揮勉強したことがあるんですけど、指揮をする時は絶対会場のホールがどのぐらい音響があって、どのぐらい響きがステイするかを考えながらやらなくちゃ、やっぱり響きがあんまり無いと、ある程度曲の早さを早くしないとつまらなくなっちゃうし、すごい響きがあると、割とこうゆったりして聴かせても、お客さんが満足出来るけど、もしそのサラウンドっていう環境が在って、その例えばサラウンドでもって音楽を聴くっていう人達にとっては、多分そのライブで聴く早さと、このサラウンドにした時にその音楽が持ってるこのサラウンドっていう響きの中で作られる音楽の気持ちよい早さとかって結構違ってくると思うんですよ。だから多分そういうことを意識して指揮をする人、そういう風にCDでサラウンドにするってことを意識して指揮者が指揮する曲に対して臨む早さと、ただ何もしないで、あ、結果的にサラウンドになるっていう風に思ってただこう実際にその場で指揮したり演奏するのと違うのかなって思ったんですけど。
入交:恐らくですね、再生環境でサラウンドしてるとは言ってますけれども、ここで聴いたみたいなですね、響き中心のね、サラウンドっていうのはもうホールで聴いてる時点でサラウンドじゃないですか。だからそれほど指揮者が違和感を感じるとは思わないんですけども。そうでなくて、じゃあ客席に楽団がある場合はどうかということを考えますと、これは、ベートーベンがウェリントンの勝利という曲を書いているんですけども、この時には彼自身が注釈を書いていまして、なるべく遠い所に、あれは戦争を模倣した曲なんですけども、フランス軍とイギリス軍に模した楽団を置くようにという指示があるんですね。これを演奏する為には少なくとも1名の副指揮者が必要であるという様に書いてます。これはウイーンの学友協会ホールで演ってますけども、ここでは多分一番後ろと一番前で残響感のちがいでですね、多分、音を聴いたらそこで演奏は不可能だと思います。それで指揮者は副指揮者を立てなさいという様な指示があるんだと思うんですよね。そういう風に作曲家もそういった演出上のことを考えていたと思うんですよね。更に言うならばですね、ルネッサンス時代ですね、ベネチアで、演られました楽劇と言いますか、オペラの前身ですよね、これは非常に大きなドームで演奏されてたらしいんですけれども、例えばオーケストラが2つ3つあって、それが正面とか後ろとかにあると、合唱隊が天井のほうから歌うとかですね、鳴り物が天井に仕掛けてあるとかですね、非常にサラウンド的な演出をしてますよね。ですので逆に、かしこまって前のほうを向いて聴くっていうのはおそらく18世紀以降の話だと思うんですよね。それまではもっと自由に楽しまれてたと思うんですよね。と言うのはですね、ホールじゃなくておそらく教会で演奏会があったと思うんですよね。教会っていうの賛美歌隊なんかを客席の後ろにやったりしますよね。オルガンも後ろにあるほうが多いですよね、前からの音楽のみに対峙するっていうほうがごく最近のことじゃないかなと僕は思います。それは最近ですね、古楽のCDとかが増えてきてるんですけど、それを聴いてても、おそらくそうだったんじゃないかなという風な曲が多いですし。だから意外に、古典を聴くと、ヒントが見えてくるんじゃないかなという風に最近思っているんですけども、いかがでしょうか。
(一同拍手)

沢口:入交さん、京田さん、普段は聞くことのできない製作過程の音源を沢山デモして頂き難うございました。
染谷さん、谷口さん、DiMAGICスタジオのみなさん、詳細なスタジオツアー、また、長時間スタジオを提供頂き大変有り難うございました。

セミナー終了後、染谷さんからダイマジックのサラウンド関連新製品の紹介とダイマジックのスタジオツアーを行いました。中でもFOLEY収録専用のスタジオの充実ぶりには,一同感激でした。機会をみて今度はここでFOLEY収録セミナーを開催しようと染谷さんとも企画していますのでご期待ください。(了)

[ 関連リンク ]

名倉誠人公式サイト
カトリック聖ヴィアトール北白川教会
DiMAGICスタジオ

5.1サラウンド寺子屋塾レポート ROCK ON PRO
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