January 27, 2008

第50回サラウンド塾 CMのサラウンド制作 1991からのアプローチ 北村早織

By. Mick Sawaguchi
2008年1月27日 1991スタジオにて持ち出し寺子屋
テーマ:CMサラウンド制作~1991からのアプローチ
講師:永田秀之社長、北村早織(株式会社1991)



沢口:
2003年よりスタートしたサラウンド寺子屋塾が、今回で第50回となりました。(拍手)当初の塾生7人から現在は、114人になり、サラウンドに興味ある人がこれだけ増えて大変うれしく思います。2008年は、2011年以降のコマーシャルサラウンド制作への準備がテーマです。2007年11月に、同じテーマでInterBEE Forumの音響シンポジウムが開催され、PROSOUND 2008年2月号(P.87~P96)には、ほぼ全体が掲載されています。FDIには井上哲さんのレポートがあり、放送技術には前編と後編と掲載しましたので合わせてお読み下さい。




[ はじめにCMを取りまく現状を ]

沢口:これまでは、サラウンドソフト本編の制作を中心にやってきましたが、制作からコンスーマーまでのパイプのバラつきを感じています。ただ作る側だけが頑張って作っただけでは自己満足ととられそれ以上の進展がありません。そのためには、エンドユーザーが楽しめるということを第一にCM制作会社
放送経営側に、サラウンドになったときのメリットを伝える必要があります。ソフトを作る側の人間は、サラウンドという表現に魅力を感じることが動機付けになっているですが、さらなる普及を考えると、経営側にビジネスメリットが得られるかどうかが大事ではないでしょうか。CMのサラウンド制作について私の方からこうした世の中の現状を紹介します。

[ アメリカの現状 ] (グラフ有り)

・CMサラウンドは、2002年に年間数本→2007年25ー30%へ増加

・制作時間は、音関係作業だけで50%程度増だが、HDTVの拡大に伴い、クライアントもアピール性を重視
→レベル競争から脱し、新たな表現としてのCMを模索した結果サラウンドに。

・現状はテープ媒体にサラウンドとステレオを収録している。だが、それをデータ化してネットや衛星で各局に配信するためのビジネスも発足した。
HDNow
(月額20ドルから、テープから配信の転換で新たビジネスチャンスでは?)
・全米で20%がHD環境(うち61%がフルHD)

・36%がサラウンド視聴環境あり(ヴァーチャルサラウンド含む)~CEA2006年統計より

普及の理由、

・クライアント・制作サイドのみでなく、メディア担当・営業にもサラウンド制作のセミナーで普及活動を行っている。

・CM音楽制作者が、サラウンドミックスでも楽曲を提供している。
しかし、配信フォーマットの不統一での問題もある。

アメリカのユーザー側の傾向、
・72%がSD+STEREOよりHD+5,1chCMのほうがいい。
・55%以上が、購買意欲が高い、ブランドイメージがより高く認識できるとの意見。
→ユーザー環境ともリンクして、全体でかなりのインフラができている。

[ ヨーロッパの現状 ](図、グラフ有り)

・日本とほぼ同等でサラウンドCMはほぼない。
→2chCMのダイナミックレンジが狭く、押し寿司状態のMix→ユーザーからクレームになっている。

[ 日本の現状 ]

・すべての広告費で年間6兆円、TVCMだけで2兆円ベース。
・TVCM制作費が年間1800~2000億円

・インターネットCMは年間で20~30%増加しています。1999年に60億円→2007年2800億円
→TVCM業界は今後の課題にすべきだ。
・CM制作会社が、CMサラウンドに関心なく、デジタル放送でのサラウンドを知らない。
しかし、ポストプロダクションスタジオは都内90室でサラウンド制作が可能な状態。
→ポスプロミキサーがサラウンドの勉強会を独自に開きはじめた。待っていても新しい世界は開けないのでこういったパイオニアたちがCM音響をリードするエネルギーになるでしょう。

[ サラウンドデモのアンケート結果 ]

・サラウンドCMはTVに効果的か?→98%YES

・サラウンドCMに将来性はあるか?→90%YES

・サラウンドCMの課題は何か?
→視聴者環境が整っていない。
→より細かいディレクションが必要となる。
→制作コストがどれくらい増加するのか?

[ 日本のサラウンドの普及率 ]

・ホームシアターは3.2%(300万台)
・サラウンド放送の放送率は、2005年で0.4%、2006年で3.4%です。
(WOWWOWやNHKなど比較的高いところもあるが、全体で割るとこういう数値になります。)
→希望的観測(目標)で2010年には10%台へ上げたい。

CETEC'06でのアンケート結果
:
・来場者のサラウンド機器保有者 22%
・放送ソフトが増えればサラウンドで聴きたい 67%
・ステレオよりサラウンドの方がいい 94%
→国内限界普及率は89%と予想される。

[ 日米欧の共通点 ]

・CMは感度の高いクリエイターが集まっていろいろな技術を投入してきた。
→映像だけでなく、音にも最新のツール(サラウンド)を導入してほしい。

・ステレオでのほかとの差別化は限界ではないでしょか。
→クオリティCMを目指すべきだと考えます。

[ 普及のためのニワトリとタマゴ ]
2008年の総務省第8次デジタル放送推進のための行動計画に初めて、制作側と機器メーカー側へ、デジタル放送普及のためにサラウンドの促進の文言が盛り込まれました。
→行政のこういった指針は大きな一歩である。
JAS(コンシューマーメーカー側の団体)が5月1日を5.1chにちなんでサラウンドの日を作りました。このように、さまざまなイベント等が企画されている。
→ブレイクスルーのきっかけになればと思います。

[ CMサラウンド制作の課題 ]

・まず現在のSD品質映像をHD映像に。そしてHD映像ではサラウンド音響がMUSTの方向へ持っていく。
・本編のサラウンド率10%になれば、CMサラウンドでもブレイクポイントになるのでは。
・大組織は新しいことをなかなか切り出しにくいのでは?→ベンチャー企業や地方からの動きも期待しています。
・ネットCMの展開が持つ可能性も大きい。 → MP3サラウンドなどの技術
・知られるための制作者への啓蒙活動が必要です。

・サラウンド制作ワークフローの確立。(予算配分、納品形態、配信フォーマットなど)
・クライアントへ、コストのメリットの説明が必要ではないでしょうか。

沢口:それではメイントピックとして1991の北村さんから1991でのCMサラウンドに対するアプローチについてお願いします。


北村:今日は、1991の北村です。2007年11月のInterBEE Forumの音響シンポジウムにパネラーとして参加したなかから今日はプレゼンテーションとデモをお聞き下さい。

[ CMの現状 ]

北村:CMとは、Commercial Messageの略です。商品をアピールするために作るCMには、画や音の相乗効果で商品をアピールする商品カットというものがあります。 CMのサウンドデザインでは、商品をよりよく見せるために音数を増やしているのが現状です。通常のステレオでは音の表現としての限界がありますが、それがサラウンドになると空間的に自由を持ったサウンドデザインができます。しかし、現在国内では、制作や放送を問わずサラウンドのCMはありません。
~デモ~ 

まず最初に、サウンドデザインの前にどうやって商品カットを活かすのかのプランを立てることが大切です。
ニッカのCMでは、炎につつまれるような感じを表現し、東京海上のCMでは、包まれるような安心感を演出しました。F1では、サーキットの臨場感を表現しました。

[ CMサラウンド化のメリット ]


・サラウンドでは空間の演出が可能です。(そこにいるような感じ)
・移動感が表現できます。(LRのステレオでも一応移動感は表現できたのですが、サラウンドでは前後の表現まで可能。)
 
・LFEで低音の迫力が出せます。(独立されたチャンネルであるから自由に使えることで、ステレオよりインパクトが強い。) 

・センターチャンネルの存在で前後左右の空間感を明確にすることができます。
 
・映像に無い音をつけられる。(映像には無いものの音をリアスピーカに配置し、音でストーリを作る。) 
これらによって、音量に頼らない質の高い音が表現できます。

[ 企画段階からサラウンドを意識する ]
 
サラウンドでテレビCMを作るにあたってのポイントは、企画段階からサラウンドを考えてサウンドデザインすることが大切です。
スポンサーの方をはじめ、スタッフ全員がサラウンドを理解し、サウンドデザインすることです。それが作品の成功につながると思います。

 

[ サラウンドでのサウンドデザイン ] 


・サラウンドの音をデザインする上で、モニター環境は重要です。きちんとサラウンドでモニターし空間を感じながら作業を進める必要があります。ステレオとは考え方を変えていくべきで、(音響シンポジウムでの他のプレゼンターからは)ステレオをサラウンドにするのではなく、ステレオがサラウンドになるという考え方が必要と感じました。
・ステレオにするか、モノにするか、状況によって音源の素材の選択します。例えば、移動感を作るためにはモノ素材も効果的です。

・素材からサラウンドで収録することで、広がり、空気感、高さを感じることができます、それにより、いっそう効果の高い作品になります。
・LCRの活用ができます。ステレオでは、真ん中に音があるとするとそれがファンタムセンターですが、サラウンドではハードセンターになり、ナレーションはもっとシャープに聞こえ、 残っている左右のスピーカで音の豊かさが表現できます。

[ サラウンドライブラリの構築 ]
 
北村:サラウンドライブラリを構築が必要です。
・限られた場面ではなく、色々な所で使えるようなライブラリを構築するのが必要です。
・サラウンドライブラリの管理は、データの量が多く、通常のCDやテープなどでは困難です。WMAのインターリーブ形式のファイルなどで管理することが効果的です。 (1991では、サーバーをレイド構成して、それをまたミラーにしてある。)
・サラウンド対応のデーターベースも必要です。(検索、視聴、ProTooLsへのインポートなどの機能が必要。)



[ サラウンドデモのアンケート結果 ]
サラウンドCMには好意的ですが、視聴環境の充実が課題のようです。

[テレビCMの危機をクォリティCMで解決] 

北村:沢口さんのお話にもありましたが、広告全体で、インターネットのバナー広告が占める割合は増えていますが、テレビCMは減っている状態です。 2011年地上波デジタル放送へ移行することで、HDTVと5.1サラウンドの時代が来るという考えがあるり、テレビCMは広告で再び飛躍できる大きなチャンスと思ってクォリティCM(質が高いCMを作って他の競争広告と差別する意味でのクォリティ)を目指すべきです。今から2011年までサラウンドの為の準備期間と考えています。

[ Q&A 北村 ]
Q:アンケートの対象は?
A: 東京、名古屋、大阪、札幌で100人を対象に、広告代理店の方、サウンドデザイナー、学生です。

Q:LCRの工夫を具体的に教えてください。

A:センターを使うと定位間がでよりサラウンドを感じることができます。 


Q:リファレンスレベルの設定は?

A:今回はデモのため、フルビットです。モニターレベルは設定しました。

Q:サラウンド制作費の増加は?

A:11 SOUNDのエンジニアのプレゼンでは、サウンドだけのスタジオ制作費は50%増とのこです。

Q:インターネット広告のサラウンドとは?

A:パソコンと小型のサラウンドスピーカーで視聴ができます。今後は増える傾向にあるのではないでしょか(沢口)
~2グルーブの分かれサラウンドCMを視聴~
(日本では、2000年のデジタル放送の初期にはヤマハとパイオニアのCMがサラウンドで放映されました。)

[今回のデモ制作の詳細]

NIKKA Whisky 

北村:炎の部分は10トラックを使っています。炎の盛り上がる瞬間の空気感を出すための効果音を使いました。モノトラックを使って炎の移動感を出しました。モノの素材は移動感がある素材を選択。そのモノトラックが無いと、横の広がりが無い感じになりました。最後は氷の音をサラウンドでなく、あえてセンタースピーカだけ使ってインパクトを残しました。

東京海上
北村:さりげない日常、安心感をサラウンドでどう表現するのか。場面に合わせて音を録るので、事前に録るイメージを作っておきました。サラウンドで録った音なのでサラウンド感があるとしてそのまま使うのでなく、必要な部分だけピックアップして重ねて作業をしました。LFEはほとんどミュートされていいます。低音があまりにも出過ぎていて、怖い印象が強かったので、保険の安心感をだすために制作過程で整理をしました。公園の平和な場面ではサラウンドの子供たちの音とモノで鳥の声を使いました。サラウンドとモノ素材でのサウンドデザインです。最初はステレオで録ったのですが、もっと空間感が欲しくて、ホロフォン(サラウンドマイク)で収録することにしまた。

F1
北村:サキットの臨場感や空気感を表現しました。最後のカットはスタート直後の盛り上がりと観客の声が合成されています。スタート直後のマシンの発信音は後ろから前に、観客の声は後半で大きくなるようにして定位感がはっきりした音で、臨場感が表現でき、聞きやすい音になりました。サキットでマシンを修理する場面で他のマシンが場面の後ろに走っていた所で、サキットを知らない人が見るとかわからないので、サラウンドでサウンドデザインするというのは色々な所で気をつけなけれなりません。絵がここにあるから音もここにあっていないといけないというのではなく、違和感のない範囲で迫力と空気感を表現しました。

[ まとめ ]

沢口:モノからステレオへの移行にも数年かかったように、CMのサラウンドについても2011年から2013年くらいまでに徐々 に移り変われたらと考えています。それに向け、問題を1つずつ解決し、業界でのルール作りをしその特徴を広める努力が必要ではないでしょうか。同時に、経営側に、サ ラウンドCMを放送することによる経営側のメリットを説明する必要があるのではないのでしょうか。今年は、持ち出し寺子屋を全国5拠点くらいで開催してこうした点をアピールしたいとも考えています。

[ Q&A Part.2 ] 

Q:制作会社とポストプロダクションの話し合いの場はありますか?
A:現状はありません。CM制作側の団体や民放連などと協議をしていく動きをしていかないといけない。メディアを通じてのプロモーションも大切です。

Q:サラウンドの音楽やSEの需要(ビジネスチャンス)はありますか?

A:はい。

Q:(CM制作者の方)CMは4:3のままで2011年以降も継続されるとの考えがあります。まず、HDやサラウンド制作でのコスト増のメリットやユーザーの視聴環境のデーター等も、クライアントには説明の必要がありますが、何かアドバイスはありますか? 

A:現在、CMの撮影は高価なフィルムで撮影されている。アメリカではフィルムからHDのカメラにシフトしている。なぜなら、コストが安価になるからです。まず、映像をHDにそれからサラウンドサウンドのになればと思います。

Q:お財布を握っている主婦向けに、キッチンにサラウンドシステムはどうでしょうか?
A:システムキッチンとサラウンドを作っている、ヤマハさんいかがでしょうか?

Q:サラウンドではスイートスポットは限定されますか?

A:サウンドデザインやミキシングの技術(ダウンミックス等)の工夫が必要です。 


Q:もう一度、アメリカでのサラウンド普及率の詳細を教えてください。

A:36%はフロント(バーチャル)サラウンドを含んだものです。5本とLFEまで設置したユーザーは26%です。

Q:衛生放送でのサラウンド音声の切り替えの時間の問題はありますか?

A:現在は、バンパー(ブランク)は必要ありません。

Q:ラジオCMのサラウンドの動きは?
A:日本の場合、ラジオびデジタル放送の立ち上がりが遅いようです。ラジオ受信機にフロントサラウンドの機能が必要です。インターネットでのサラウンドCMが先攻するのではないのでしょうか。

Q:現在、日本テレビCMの音声では15フレームのノンモン(無音)が必要ですが、今後はどうなりますか?
A:すべてデジタル化された場合などを考え、サラウンドの納品形態をきちんと決める必要があると思います。

Q:高齢者対応のCMなどのアイディアはありますか?

A:サラウンドとは別に「老人性難聴」の方々向けにも聞きやすいデザインや再生機器を考慮する時期だとおもいます。


沢口:永田社長、北村さん、株式会社1991の皆さん、長時間スタジオを提供頂き、しかもなかなか経験することのない実際のCM作品を沢山デモして頂き大変有り難うございました。

[ 関連リンク ]
PROSOUND 2008年 2月号 Vol.143
放送技術2008-01/02月号
FDI:実践!5.1chサラウンド番組制作 ~ InterBEE2007 国際シンポジウムから
HDNow
総務省 デジタル放送推進のための行動計画(第8次)

株式会社1991

「サラウンド寺子屋報告」 Index にもどる
「サラウンド入門」は実践的な解説書です

January 11, 2008

第6回 関西サラウンド勉強会報告 ネットワークを活用したポスプロ作業の事例、CMのサラウンド制作の今後の展望

By 三村 将之(関西サラウンド勉強会主催)
「関西サラウンド勉強会」は関西の各局・プロダクションを中心としたメンバー構成で2006年春から活動を開始し、年数回の「勉強会」の開催の他、メーリングリストによるサラウンド番組などの情報交換などを行っています。2008年最初の活動として、1月11日に「第6回関西サラウンド勉強会」を、大阪のポスプロスタジオ「三和ビデオセンター」にて開催しました。今回は東京のポスプロスタジオの「株式会社1991」より永田さんと北村さんを講師にお迎えし、1991におけるネットワークの活用の実例紹介や、北村さんがパネリストとして登壇された2007-11のInterBEE音響シンポジウムの内容(CMのサラウンド制作の今後の展望)について、デモを交えてプレゼンして頂きました。

また、アメリカNeural-Audio社が「Neural-THX」のブランドで展開しているサラウンドエンコーダー・デコーダーの評価デモの機会も設けました。
参加者は講演者含めて22名と、会場が人で溢れかえるほどの盛況となりました。
さて、勉強会の様子についてレポートします。

メインテーマ:InterBEE2007音響シンポジウムを振り返って~サラウンドCMの展望、他
プログラム内容
(1)ネットワークを活用したポスプロ作業の事例 :プレゼンター 1991 永田氏
(2)InterBEE2007音響シンポジウム報告     :プレゼンター 1991 北村氏
(3)Neural-THXのサラウンドエンコーダー・デコーダーの実力を探る!(デモ視聴)



準備中の永田氏・北村氏と、三和VCの筒井氏


1 ネットワークを活用したポスプロ作業の実例(1991 永田氏)
永田)1991ではAPTのISDNコーデックを用いてナレ録りなどを離れたスタジオ間でやっているが、次の段階としてIPコーデックも早くから利用してきた。映像素材・Protoolsセッションなど大容量ファイルを、社内でサーバーを設置し、インターネットを介して効率良い素材受け渡しをしている。
さて、今日はIPコーデックを使って東京とやりとりのデモをしたい。実は現在、東京の1991のスタジオとこの会場(三和ビデオセンター)を22.5kのステレオ双方向で繋いでいる。双方にプロツールスのデモ用のセッション(映像込み)をスタンバイしている。

(ここで東京の1991にスタンバイ中の桐山氏・伊藤氏(1991)を呼んでクロストークし、遠隔ナレーション録音のデモを実施。→東京でナレーションを読み、大阪で収録・ディレクション。パンチインなどの作業も行った)
永田)ハリウッドなどでは台詞の吹き替え(ADR)をロス-東京、ロス-香港などを繋いでやっている。最近はDigiDeliveryなどを使うケースも増えている。IPの場合はベストエフォートなので、ある程度速度保証されている回線の使用がベター。


質疑応答
参加者)事前にProtoolsセッション、映像素材などをftpを介して渡しておけば良いのか?
永田)そうです。今回のデモも、今朝ftpに上げたものを取り込んでやっている。
参加者)セキュリティ上は大丈夫なのか?
永田)ファイアーウォールなど設定。当然インターネットなので、100%安全とは言い切れない。DigiDeliverlyでは暗号化されている。
参加者)ネットで音を仕上げた後、別の場所で映像に貼り付ける作業をするのだろうが、同時に確認をしないで作業することになると思う。この場合の最終確認は?
永田)最終確認はテープになった時点で必ずやることになる。ただステレオのインターリーブで音声ファイルを送っての作業であり、これまでに特に問題無く行っている。
※この他、8万アイテムものSEライブラリを構築し、社内スタジオからアクセスして利用している例もご紹介いただいた

2 InterBEE2007音響シンポジウム報告 :プレゼンター 1991 北村氏

InterBEEシンポジウムのプレゼンと、CMのサラウンド制作について
北村)今のCMは、CGなど映像が凝ってきている中、サウンドデザインも多彩な表現が求められるが、ステレオでは満足に表現しきれなくなってきている中で、サラウンドは表現の幅が大きく拡がる。しかし、日本ではサラウンドCMは殆ど無い。InterBEEでは、実際にステレオで制作された日本のCMから、デモ用にサラウンドMIXしたものの再生デモを交えてプレゼンした。
(素材のプレイバック)
北村)サラウンドの魅力の一つは「空間・臨場感の表現」であると思う。立体的に包まれる音によって、CMのような時間の短いシーンでも一瞬にして「雰囲気」に引き込ませることができる。
また前後の移動感、低音の表現、ハードセンターの定位の輪郭、フロントの定位感(LCRの間の定位)など、豊かな表現が可能となる。余韻や先行音による状況・ストーリーの表現が、ステレオより自然である。
CMは商品を視聴者にどれだけ印象を与えられるかが鍵なので、サラウンドのメリットを使うことで、人間間隔に訴えかけるような、もっとハイクオリティで訴求力のあるCMを作成することができると考える。

デモ作品の制作について
サウンドデザインが最初の作業として重要だ。それに基づいて、(例えばニッカのコマーシャルでは)暖炉の炎の2秒ちょっとのカットに対して、包み込まれる臨場感の表現を、定位を明確にするモノやステレオの素材も組み合わせて試行錯誤した。「一瞬のきらめき」「シズル感」をサラウンドで表現することが効果的。
企画段階から監督・撮影チーム、その他全てのスタッフがサラウンドに理解を持ち、映像・音声を一体として考えることが重要だと感じた。
サラウンドSEのライブラリ化について
サラウンド音素材は、現場での発音体の位置がはっきり収録されてしまうと、多用途に使いにくい。ライブラリ的な汎用性の高いものは、エアノイズやガヤなど、包囲感があるものを中心にデータベース化していくことになるだろう。管理はやはりファイルベースなので、容量が大きくなる懸念はある。一番問題になるのは、検聴作業の部分。どのチャンネルを検聴するのか、波形を見るレビュアーがどのようにサラウンドに対応するのか、などが課題。

今後のサラウンドCM製作の展望
昨今のインターネット普及によって、CMは分散化し、テレビCMの位置付けが変わってきている。地上デジタル放送へのリプレースを切欠に、今までよりワンランクもツーランクも上の「ハイクォリティCM」という訴求力によって、テレビCMの価値の復活を目指すことができるのでは、と感じている。
※この他、他のパネリストの発表内容についてもご紹介いただいた。

ダウンミックスの検証
InterBEEでのデモ素材は、サラウンドミックスのみに特化して制作されているため特にステレオダウンミックスを意識してはいなかったそうだ。勉強会での話の流れから、デモ素材のダウンミックスと、オリジナルのステレオミックスとを比較してみた。

参加者)デモ作品はオリジナルのものに対して付加した音があるし、違うサウンドデザインで作成されているので、オリジナルと違った要素のものがありますね。
北村)そうですね。アプローチが違うので。例えばHolophoneで独自に収録したベースノイズをサラウンドMIXで使用したり・・。
参加者)レベルメーターを見ていたが、ダウンミックスのVUの振り切れがあった。こういう場合は放送局として納品できるのか?
参加者)今の段階ではアナログ放送があるので、ダウンミックスがアナログの放送規準に準拠する必要があると思う。ただしデジタル放送オンリーになったときはどうなるか、注意していかなくてはならない。
また、ステレオの別ミックスを(5.1ch+ステレオの形で)送出しても、デジタル視聴者が受動的に聴くのは5.1ch(の受像機ダウンミックス)のほうになってしまう。つまりCMのステレオ別ミックスをしても、デジタル放送では日の目を見ないかもしれない。いずれにしても、今後の動向を注目する必要があるだろう。

質疑応答
参加者)派手なサラウンドCMが当たり前になった時、CMはどういう方向になるか?
北村)(現在のCMのような)音圧競争ではなく、サラウンドCMでは音の大きさ以外の「空間表現」などで視聴者に印象付けるような価値観を打ち出すことが理想。
参加者)そんなに良い方向にはならないのでは?
北村)プロデューサー教育などが今後重要になる。エンジニア・スタッフからサラウンドの(本当の)価値に気付いてもらい、それがスタンダードになってくれれば。聞いた話で、代理店・プロデューサーは「サラウンドといえば重低音」とか「サラウンドは金が掛かる」とか、変な固定観念を持っているそうだ。そこらへんを変えていかなくてはならない。

3 Neural-THXのサラウンドエンコーダー・デコーダーの実力を探るデモ

アメリカのNeural社がTHXと提携して展開しているNeural-THXブランドの製品がデモで届いた。「Downmix」と「Upmix」という、マトリクス系のエンコーダー・デコーダーである。今回はこれを直結して、オリジナルの5.1ch番組を「Downmix」でステレオエンコードして、「Upmix」で5.1chに戻したものを試聴する。オリジナルとの比較だけではなく、今回はDolby-PLII(デコード:Movieモード)とも比較した。
オリジナルソースは某局のスポーツ中継(ボクシング中継)を使用。オーディエンスマイクはL/R/LS/RSの4chで構成され、8本のオーディエンスマイクが、それぞれの隣接ch間にABステレオペアを配したようなマイクアレンジである。

(A)エンコード→デコードして5.1chに戻したものの比較(オリジナル→Neural→PL-II)
A-1) 選手入場のシーン(場内音楽、湧き上がる歓声)
・PLIIは、この素材の場合、あまりステアリングの影響を受けず結構固定されている印象で良かった。Neuralは、自分が経験上知っているSRSのものと同じで、音像が移動したり定位が引っ張られる感じがあった。
・処理の遅延については、エンコード・デコードでNeuralのほうがかなり多く、映像と合わない。往復で2フレ程度になっている。PL-IIはそれに比べるととても少ない。
A-2) 試合のシーン (パンチ音、セコンドの声、観客の声援)
・オリジナルとの音質の差が気になってくる。両者とも別方向で違う。好みが分かれるかもしれない。
(B)エンコードされたステレオの視聴(オリジナルダウンミックス→Neural→PL-II)
・比較すると、PL-IIのほうがスッとしているが、位相感が違う感じ
・PL-IIは低域がちょっと減っているのかな、という気もする。Neuralのほうはステアリングに意識が行くが、低域は減っていないかも。
・ただ、音質・キャラクターは両者で結構違いがある。

デモを終えて
・マトリクス方式なので、5.1chを「完璧」に再現できる類のものではないものの、例えば「道具」としての使用方法に大きな可能性がある。
・日本テレビではPL-IIを「ひと工夫」して用いることで、追っかけ放送やハイライトVTRなどでの良好なサラウンド再現をして放送しているそうだ。サラウンド放送をやろうと思えば、いろんなアプローチがあるという良い事例である。
・サラウンド番組制作の可能性と機会を拡げる意味でも、今後検証していきたいハードだ。

まとめ
複数の演目での実施で内容・ディスカッションも多岐に渡った勉強会となりました。北村さんのプレゼンは、シンポジウムを聞き逃した人が殆どの今回の参加者にとって非常に有意義でした。ディスカッションではCMのレベル競争問題にまで話題が及び、デジタル放送の今後を考えさせられるものとなったと思います。また2次会「サラウンド夜会」でも魚ちり料理屋にてサラウンド談義に花を咲かせました。

今回、講師を快諾して下さりわざわざ東京よりお越し下さった1991の永田さんと北村さん、そして何より会場提供と事前の設営に多大なご尽力を頂いた三和ビデオセンターのスタッフの皆さんに、この場をお借りして感謝いたします。

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