July 27, 2007

第47回サラウンド塾 実践サラウンドリバーブ

By. Mick Sawaguchi
日時:2007年7月27日
場所:目黒TACスタジオ
講師:京田真一(TCエレクトロニック)榎本涼(WAVES AUDIO)
TAC INFO:山崎淳(デジデザインJAPAN)
テーマ:実践サラウンドリバーブ


沢口:今回は目黒TAC山本さんのご好意でTAC スタジオをお借りしての持ち出し寺子屋です。寺子屋のメンバーからぼちぼち実践編もやって欲しいというリクエストが出始めてきましたので、今回はサラウンド対応リバーブの使いこなしというテーマでsystem6000とWAVESのプラグインサラウンドリバーブについてじっくり基礎から応用編までをお願いしました。今回は3部構成になっています。パートー01ではTAC INFOとして最近のサラウンド対応機材の紹介をパート02でsystem6000の使いこなし、そしてパート03でWAVESのシステムの基本を解説して頂き最後に皆さんで実際に操作や聞き比べをやりたいと思います。ではパート01をデジデザイン山崎さんからお願いします。

山崎:こんにちは山崎です。私の方からは、フルHD対応モニターVIDEO SATELLITEシステム、サラウンド対応サンプラー「ストラクチャー」の概要、そして最近入手した映画「300」の予告トレーラーのサラウンドMIXをお聞き頂きます。

まずVIDEO SATELLAITEシステムですが、これは従来のポストプロダクション作業がNTSCからフルHD対応にシフトしているニーズをうけてプロツールズとストレス無く使えるHDモニターです。HD データは容量をたくさん必要としますので専用のPCを立ててプロツールズとはETHER NETで接続しています。AVIDで作成した映像シークエンスであればレンダリングの必要なくダイレクトに再生ができるので大変効率も良いHD環境ができます。次にサラウンド対応のサンプラー「ストラクチャー」を紹介します。これは従来のサンプラーに比べて192KHz-7.1chまで対応しています。またサンプラーというよりもエフェクターやサラウンドパン、リバーブも内蔵しており豊富なライブラリーと組み合わせてPRE-MIXをこの中で完結できます。従来サラウンドの効果音を作成する場合に100トラックを越える膨大なステム構成を作り上げなくてはなりませんでしたが、これを内部で完結できますのでステムのトラックを大幅に低減することができます。またキーボードにこうした素材を割り付け置くとサラウンド ポン出し機能としても使うことができます。

では最後に、公開中の「300」の予告編トレーラーを再生します。これもプロツールズで制作されています。画面を見てお分かりのようにD-M-Eそれぞれがステム構造でMIXされているのがわかると思います。それでは完成トラック、台詞ステム 効果音ステム 音楽ステムと再生しますのでお楽しみ下さい。

山本:それではTAC INFOとしてそれ以外の最近の製品ニュースをいくつかお知らせします。まずUSB接続のトランスポートというコントローラです。これはDAWなどでのマウス操作によるMIXではなく実際の100mmフェーダーつきのコントローラです。これはミレニアが秋にだすモデルでHV-3Rという8CHリモートコントロール型ヘッドアンプで1CHINに対して3-OUTを持っていますのでLIVEなどでも便利ではないかと思います。オプションでデジタルOUTもできます。次のソフトはプロツールズLEユーザーには嬉しいニュースだと思います。LE版でもサラウンドMIX が出来るMIX5.1というソフトです。これは吉田のほうからデモします。 

吉田:これを制作した会社 NEYRINCK社はこれまでにも各社のEQソフトやdts Dolbyのエンコーダーといったソフトを開発してきましたが今回自身の会社として立ち上げた最初のプラグインソフトです。従来のLE版はステレオの出力まででしたがこれはサラウンドパンニングとバス出力を追加できるソフトで、価格も大変手頃な価格となっています。

沢口:パート01関連は以上です。ではパート02としてsystem6000の基礎と使いこなしについてTCエレクトロニックの京田さんからお願いします。
京田:こんにちは京田です。サラウンドリバーブが出始めた頃の代表モデルとしてレキシコン960とTCエレクトロニックのsystem6000が登場しました。今日はsystem6000の全体構成と使いこなしについてデモを交えながら進めていきたいと思います。このリバーブは以下の機器で構成されておりこれを総称してsystem6000と読んでいます。すなわちCPU6000、メインフレーム6000そしてコントロールするTCICONの3フレームにマスタリング用のプログラム、リバーブ用のプログラムを組み合わせた構成です。それぞれのプログラム内容は図を参照してください。それではこれらのプログラムの中から代表的な機能についてデモを交えてお話していきます。

● バックドロップ
これはステレオのノイズリダクションプログラムです。ノイズの中でもハムやヒス 暗騒音といった定常波ノイズの低減にのみ有効ですので決して万能というわけではありません。これをデモしますとみなさんから「このノイズはとれるか」といったご質問を受けますが波音やセミ、噴水といった変動ノイズは効果がありませんので。まずノイズ源となる部分を2秒間程取り込みます。この中の定常波部分をノイズとして検知して除去します。除去したノイズ成分のみをモニターして必要な音とノイズの比率を再調整して追い込んでいきます。こうしてノイズを除去したサンプルをお聞き下さい。

デモ再生

● マスタリング用ダイナミックス
MD4というプログラムですがこれは5バンドの帯域分割ダイナミックスコントローラです。通常7サンプル先読みしながら入力をコントロールしています。デモではナレーションと背景に天ぷらの油がはぜる音があります。これを通常の全帯域コンプレッサーなどを使うとはぜる音のコンプとともにナレーションも叩かれてしまいますが、帯域を分割していると油のはぜる帯域のみにコンプを動作させてピークを押さえながらナレーションも適正レベルで聞かせるといった動作ができます。「system-6000はエンジニアをだめにする!」といわれるくらい何でもコントロールできます。(笑い)もう一つDXPというプログラムを紹介します。これはピークリミッターとは逆の考え方でピアニッシモ部分を持ち上げることで空気感を維持しながら全体のダイナミックレンジを整えるためのツールです。動作については図を参照下さい。

● インターサンプルピークとホットシグナルとは?
次にデジタル信号を扱う上で皆さんが是非注意していただきたい考え方をお話します。これはデジタル領域内では単にフルビットということで処理されますが民生機器で再生した場合にDAコンバータの出力限界を超える予測補間の誤動作で歪みとして発生します。特にヒップホップやロックなどのマスタリングで常に0dB FSで振らせるようなマスタリングを行う場合には注意が必要です。現在市販されているCDの70%でこうしたホットシグナルという現象が発生していますので音圧レベル競争だけでは無いマスタリングが大変重要です。(発生例のグラフ参照)System6000ではこうした場合の歪みを防止するツールも用意しています。

● サラウンド リバーブ系
VSS5.1Sourceと いうプログラムを紹介します。これは4つの独立したモノーラル入力に対して距離感と定位をコントロールしてサラウンド空間をつくるというツールで空間レンダリングともよばれています。主に音源の初期反射音と残響成分を変化させています。デモとして用意したのは4人の台詞の単独録音素材です。これを例えばあるホールで4人が芝居を行っているような空間を再現したいとします。4人を例えば舞台正面の奥 上手前 下手後ろそして客席からといった定位にしたいとすれば、それぞれのパラメータを設定することであたかもその空間の場所にいるようなサラウンド音場となります。空間の特徴を決めている要素に初期反射と残響音の最後テール部分の変調という現象があります。ここがどれくらい変調されているかで世の中の名ホールと呼ばれる響きが決まっているといわれています。System6000にはこのテールのコントロールパラメータが用意されていますので響きの音色をコントロールしたい場合に活用して下さい。逆にLIVE録音などでMIX時にもう少し響きを付加したいといった場合にはこれをOFFにすることでオリジナルの響き(テールの変調)を維持したまま響きを付加することができます。

● サラウンド パンナー
これは8chの入力に対してどういったパンニングを行うかをコントロールするツールです。デモでプロペラ機の素材で制作したフライオーバーをお聞き下さい。

● アンラップ
みなさんお待ちかねのステレオ音源をサラウンド化するツールです!(笑い)この基本的な考え方はL-Rよりセンター成分を抽出してセンターへ配置。その場合のハードセンターの割合は好みで変化できますのでハードセンターのみからファンタムセンターまで変化できます。またL-Rの差分をSL-SRへ回しています。SL-SR成分にはディコレレートとフォーカスというパラメータでリア成分をどれくらいぼかすかといったコントロールができます。また、各出力にディレイをかけられますので空間の広さを意図的に設定することも可能です。これはのちほど様々なCD素材をつかって実際にみなさんとアンラップの効果を体験して頂きます。

● デモ作品再生
では最後に台詞 効果音 音楽などの単独素材を組み合わせてサラウンド サウンドスケープを作ってみましたのでお聞き下さい。タイトルは夏祭りです。

沢口:ではパート03としてプラグインソフトからwavesのサラウンドリバーブの使い方について榎本さんよりお話し頂きます。

榎本:WAVES Audioの榎本です。ここではwavesのプラグインソフトであるM-360 S-360 R-360/IR360の使い方についてデモを交えて進めていきたいと思います。最初にWAVESのサラウンド制作環境の構築について説明します。というのはユーザーの皆さんのなかにR-360というサラウンドリバーブだけを導入すればサラウンド制作が出来ると思われている方が多いからです。我々のコンセプトは以下に述べる3つのキーコンポーネントを組み合わせることで正確なサラウンド制作環境とリバーブを使って頂きたいと言う考え方にあります。

● M-360
これはサラウンドでのモニタリング環境を構築するためのツールです。モニタリングに関連する様々な用途をマネージングする役割をもっています。ここには例えばITU-R配置からずれたモニター環境であってもそれらを補正して正確なモニタリングを行うツールやダウンMIX 機能などが含まれています。

● S-360
これは各素材トラックへ割り付けてそれぞれの音源がどういった距離感で配置すればいいかを決めるためのツールです。この中には2つの機能が入っておりサラウンドパンナーとイメージャーと呼ばれ、前者は、定位 ローテーション センターイメージ LFE出力 低域の広がり感などをコントロールし後者は、1mから最大20mまでの初期反射音をコントロールしています。

● R-360/IR360
これはサラウンド空間を決めるための残響テールをコントロールするツールです。残響のコントロールには多くのDSP処理能力が必要ですので負荷を軽減するために専用DSPとしています。またIR-360は実空間を畳み込んで作成するサンプリングリバーブでこの考え方は実音源で収録した音場のインパルスレスポンスを測定して再現するというものです。このIR360の特徴は他のサンプリングリバーブが原音場の最大パラメータ以上のコントロールは出来ないという制約を超えてユーザーの好みで様々にコントロールすることができるという点にあります。またユーザーは、WAVESのHP Acoustic netにアクセスすることで常に最新のデータを入手することが出来ます。このツールは個々の音源にアサインしたS-360 でコントロールした定位や距離感をグループバスなどにまとめてここにR-360.IR360をアサインすることでトータルの残響を負荷するという使い方になります。この点を十分認識してシステムをこれら3つのツールで構築して頂ければ失敗のないサラウンド空間が出来上がります。さらに必要に応じてダイナミックス系のサラウンドツールが必要であればL-360といったダイナミックス系のプラグインをお使い下さい。

沢口:みなさんどうもありがとうござました。それでは最後にCD 音源を使って両機種でのサラウンド化の実践編を行いたいと思います。system6000アンラップとWAVESでのサラウンド化音源の聞き比べ。ここではドライなPOPS音源からオーケストラ音源そしてシンセサイザー音源まで5種類の様々な音源を用いて両者でのパラメータの変化とサラウンド感やリアの生成成分の比較、センター成分の比較などを行いました。違った機種を同一条件で比較試聴する機会はサラウンド機器で少ないので参加者の皆さんにも良い経験になったことと思います。

Q&A
Q-01:以前寺子屋でブルーインパルスのDVD制作時の音楽をsystem-6000でサラウンド化したといってましたが、それは今日説明していたアンラップという機能のことですか?
A:そうです。パラメータも今日とほぼ同じでサラウンド化しました。
Q-02:R-360などをヌエンドで使った場合にデータの互換性は?
A: REPLACEというモードで互換性がとれます。
Q-03:DTM版だけでなくVST版は用意されているのか?
A:TC ではパワーコアというソフトがVST対応となっています。
Q-04:WAVESはサラウンド全体をローテーションするといった機能は可能か?
A:初めての質問でいままで経験ありませんが、早速今やってみましょう。

デモ

ということで可能です!(笑い)

TACスタジオをお借りしての持ち出し寺子屋はこのあと屋上でのBBQPARTYでまたまた盛り上がりました。秋には別のテーマで実践編を企画予定です。こんなのやってみたい!というメンバーは是非提案をお寄せ下さい。TACの社員のみなさんのサポートにも改めて感謝!(了)

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