July 27, 2007

第47回サラウンド塾 実践サラウンドリバーブ

By. Mick Sawaguchi
日時:2007年7月27日
場所:目黒TACスタジオ
講師:京田真一(TCエレクトロニック)榎本涼(WAVES AUDIO)
TAC INFO:山崎淳(デジデザインJAPAN)
テーマ:実践サラウンドリバーブ


沢口:今回は目黒TAC山本さんのご好意でTAC スタジオをお借りしての持ち出し寺子屋です。寺子屋のメンバーからぼちぼち実践編もやって欲しいというリクエストが出始めてきましたので、今回はサラウンド対応リバーブの使いこなしというテーマでsystem6000とWAVESのプラグインサラウンドリバーブについてじっくり基礎から応用編までをお願いしました。今回は3部構成になっています。パートー01ではTAC INFOとして最近のサラウンド対応機材の紹介をパート02でsystem6000の使いこなし、そしてパート03でWAVESのシステムの基本を解説して頂き最後に皆さんで実際に操作や聞き比べをやりたいと思います。ではパート01をデジデザイン山崎さんからお願いします。

山崎:こんにちは山崎です。私の方からは、フルHD対応モニターVIDEO SATELLITEシステム、サラウンド対応サンプラー「ストラクチャー」の概要、そして最近入手した映画「300」の予告トレーラーのサラウンドMIXをお聞き頂きます。

まずVIDEO SATELLAITEシステムですが、これは従来のポストプロダクション作業がNTSCからフルHD対応にシフトしているニーズをうけてプロツールズとストレス無く使えるHDモニターです。HD データは容量をたくさん必要としますので専用のPCを立ててプロツールズとはETHER NETで接続しています。AVIDで作成した映像シークエンスであればレンダリングの必要なくダイレクトに再生ができるので大変効率も良いHD環境ができます。次にサラウンド対応のサンプラー「ストラクチャー」を紹介します。これは従来のサンプラーに比べて192KHz-7.1chまで対応しています。またサンプラーというよりもエフェクターやサラウンドパン、リバーブも内蔵しており豊富なライブラリーと組み合わせてPRE-MIXをこの中で完結できます。従来サラウンドの効果音を作成する場合に100トラックを越える膨大なステム構成を作り上げなくてはなりませんでしたが、これを内部で完結できますのでステムのトラックを大幅に低減することができます。またキーボードにこうした素材を割り付け置くとサラウンド ポン出し機能としても使うことができます。

では最後に、公開中の「300」の予告編トレーラーを再生します。これもプロツールズで制作されています。画面を見てお分かりのようにD-M-Eそれぞれがステム構造でMIXされているのがわかると思います。それでは完成トラック、台詞ステム 効果音ステム 音楽ステムと再生しますのでお楽しみ下さい。

山本:それではTAC INFOとしてそれ以外の最近の製品ニュースをいくつかお知らせします。まずUSB接続のトランスポートというコントローラです。これはDAWなどでのマウス操作によるMIXではなく実際の100mmフェーダーつきのコントローラです。これはミレニアが秋にだすモデルでHV-3Rという8CHリモートコントロール型ヘッドアンプで1CHINに対して3-OUTを持っていますのでLIVEなどでも便利ではないかと思います。オプションでデジタルOUTもできます。次のソフトはプロツールズLEユーザーには嬉しいニュースだと思います。LE版でもサラウンドMIX が出来るMIX5.1というソフトです。これは吉田のほうからデモします。 

吉田:これを制作した会社 NEYRINCK社はこれまでにも各社のEQソフトやdts Dolbyのエンコーダーといったソフトを開発してきましたが今回自身の会社として立ち上げた最初のプラグインソフトです。従来のLE版はステレオの出力まででしたがこれはサラウンドパンニングとバス出力を追加できるソフトで、価格も大変手頃な価格となっています。

沢口:パート01関連は以上です。ではパート02としてsystem6000の基礎と使いこなしについてTCエレクトロニックの京田さんからお願いします。
京田:こんにちは京田です。サラウンドリバーブが出始めた頃の代表モデルとしてレキシコン960とTCエレクトロニックのsystem6000が登場しました。今日はsystem6000の全体構成と使いこなしについてデモを交えながら進めていきたいと思います。このリバーブは以下の機器で構成されておりこれを総称してsystem6000と読んでいます。すなわちCPU6000、メインフレーム6000そしてコントロールするTCICONの3フレームにマスタリング用のプログラム、リバーブ用のプログラムを組み合わせた構成です。それぞれのプログラム内容は図を参照してください。それではこれらのプログラムの中から代表的な機能についてデモを交えてお話していきます。

● バックドロップ
これはステレオのノイズリダクションプログラムです。ノイズの中でもハムやヒス 暗騒音といった定常波ノイズの低減にのみ有効ですので決して万能というわけではありません。これをデモしますとみなさんから「このノイズはとれるか」といったご質問を受けますが波音やセミ、噴水といった変動ノイズは効果がありませんので。まずノイズ源となる部分を2秒間程取り込みます。この中の定常波部分をノイズとして検知して除去します。除去したノイズ成分のみをモニターして必要な音とノイズの比率を再調整して追い込んでいきます。こうしてノイズを除去したサンプルをお聞き下さい。

デモ再生

● マスタリング用ダイナミックス
MD4というプログラムですがこれは5バンドの帯域分割ダイナミックスコントローラです。通常7サンプル先読みしながら入力をコントロールしています。デモではナレーションと背景に天ぷらの油がはぜる音があります。これを通常の全帯域コンプレッサーなどを使うとはぜる音のコンプとともにナレーションも叩かれてしまいますが、帯域を分割していると油のはぜる帯域のみにコンプを動作させてピークを押さえながらナレーションも適正レベルで聞かせるといった動作ができます。「system-6000はエンジニアをだめにする!」といわれるくらい何でもコントロールできます。(笑い)もう一つDXPというプログラムを紹介します。これはピークリミッターとは逆の考え方でピアニッシモ部分を持ち上げることで空気感を維持しながら全体のダイナミックレンジを整えるためのツールです。動作については図を参照下さい。

● インターサンプルピークとホットシグナルとは?
次にデジタル信号を扱う上で皆さんが是非注意していただきたい考え方をお話します。これはデジタル領域内では単にフルビットということで処理されますが民生機器で再生した場合にDAコンバータの出力限界を超える予測補間の誤動作で歪みとして発生します。特にヒップホップやロックなどのマスタリングで常に0dB FSで振らせるようなマスタリングを行う場合には注意が必要です。現在市販されているCDの70%でこうしたホットシグナルという現象が発生していますので音圧レベル競争だけでは無いマスタリングが大変重要です。(発生例のグラフ参照)System6000ではこうした場合の歪みを防止するツールも用意しています。

● サラウンド リバーブ系
VSS5.1Sourceと いうプログラムを紹介します。これは4つの独立したモノーラル入力に対して距離感と定位をコントロールしてサラウンド空間をつくるというツールで空間レンダリングともよばれています。主に音源の初期反射音と残響成分を変化させています。デモとして用意したのは4人の台詞の単独録音素材です。これを例えばあるホールで4人が芝居を行っているような空間を再現したいとします。4人を例えば舞台正面の奥 上手前 下手後ろそして客席からといった定位にしたいとすれば、それぞれのパラメータを設定することであたかもその空間の場所にいるようなサラウンド音場となります。空間の特徴を決めている要素に初期反射と残響音の最後テール部分の変調という現象があります。ここがどれくらい変調されているかで世の中の名ホールと呼ばれる響きが決まっているといわれています。System6000にはこのテールのコントロールパラメータが用意されていますので響きの音色をコントロールしたい場合に活用して下さい。逆にLIVE録音などでMIX時にもう少し響きを付加したいといった場合にはこれをOFFにすることでオリジナルの響き(テールの変調)を維持したまま響きを付加することができます。

● サラウンド パンナー
これは8chの入力に対してどういったパンニングを行うかをコントロールするツールです。デモでプロペラ機の素材で制作したフライオーバーをお聞き下さい。

● アンラップ
みなさんお待ちかねのステレオ音源をサラウンド化するツールです!(笑い)この基本的な考え方はL-Rよりセンター成分を抽出してセンターへ配置。その場合のハードセンターの割合は好みで変化できますのでハードセンターのみからファンタムセンターまで変化できます。またL-Rの差分をSL-SRへ回しています。SL-SR成分にはディコレレートとフォーカスというパラメータでリア成分をどれくらいぼかすかといったコントロールができます。また、各出力にディレイをかけられますので空間の広さを意図的に設定することも可能です。これはのちほど様々なCD素材をつかって実際にみなさんとアンラップの効果を体験して頂きます。

● デモ作品再生
では最後に台詞 効果音 音楽などの単独素材を組み合わせてサラウンド サウンドスケープを作ってみましたのでお聞き下さい。タイトルは夏祭りです。

沢口:ではパート03としてプラグインソフトからwavesのサラウンドリバーブの使い方について榎本さんよりお話し頂きます。

榎本:WAVES Audioの榎本です。ここではwavesのプラグインソフトであるM-360 S-360 R-360/IR360の使い方についてデモを交えて進めていきたいと思います。最初にWAVESのサラウンド制作環境の構築について説明します。というのはユーザーの皆さんのなかにR-360というサラウンドリバーブだけを導入すればサラウンド制作が出来ると思われている方が多いからです。我々のコンセプトは以下に述べる3つのキーコンポーネントを組み合わせることで正確なサラウンド制作環境とリバーブを使って頂きたいと言う考え方にあります。

● M-360
これはサラウンドでのモニタリング環境を構築するためのツールです。モニタリングに関連する様々な用途をマネージングする役割をもっています。ここには例えばITU-R配置からずれたモニター環境であってもそれらを補正して正確なモニタリングを行うツールやダウンMIX 機能などが含まれています。

● S-360
これは各素材トラックへ割り付けてそれぞれの音源がどういった距離感で配置すればいいかを決めるためのツールです。この中には2つの機能が入っておりサラウンドパンナーとイメージャーと呼ばれ、前者は、定位 ローテーション センターイメージ LFE出力 低域の広がり感などをコントロールし後者は、1mから最大20mまでの初期反射音をコントロールしています。

● R-360/IR360
これはサラウンド空間を決めるための残響テールをコントロールするツールです。残響のコントロールには多くのDSP処理能力が必要ですので負荷を軽減するために専用DSPとしています。またIR-360は実空間を畳み込んで作成するサンプリングリバーブでこの考え方は実音源で収録した音場のインパルスレスポンスを測定して再現するというものです。このIR360の特徴は他のサンプリングリバーブが原音場の最大パラメータ以上のコントロールは出来ないという制約を超えてユーザーの好みで様々にコントロールすることができるという点にあります。またユーザーは、WAVESのHP Acoustic netにアクセスすることで常に最新のデータを入手することが出来ます。このツールは個々の音源にアサインしたS-360 でコントロールした定位や距離感をグループバスなどにまとめてここにR-360.IR360をアサインすることでトータルの残響を負荷するという使い方になります。この点を十分認識してシステムをこれら3つのツールで構築して頂ければ失敗のないサラウンド空間が出来上がります。さらに必要に応じてダイナミックス系のサラウンドツールが必要であればL-360といったダイナミックス系のプラグインをお使い下さい。

沢口:みなさんどうもありがとうござました。それでは最後にCD 音源を使って両機種でのサラウンド化の実践編を行いたいと思います。system6000アンラップとWAVESでのサラウンド化音源の聞き比べ。ここではドライなPOPS音源からオーケストラ音源そしてシンセサイザー音源まで5種類の様々な音源を用いて両者でのパラメータの変化とサラウンド感やリアの生成成分の比較、センター成分の比較などを行いました。違った機種を同一条件で比較試聴する機会はサラウンド機器で少ないので参加者の皆さんにも良い経験になったことと思います。

Q&A
Q-01:以前寺子屋でブルーインパルスのDVD制作時の音楽をsystem-6000でサラウンド化したといってましたが、それは今日説明していたアンラップという機能のことですか?
A:そうです。パラメータも今日とほぼ同じでサラウンド化しました。
Q-02:R-360などをヌエンドで使った場合にデータの互換性は?
A: REPLACEというモードで互換性がとれます。
Q-03:DTM版だけでなくVST版は用意されているのか?
A:TC ではパワーコアというソフトがVST対応となっています。
Q-04:WAVESはサラウンド全体をローテーションするといった機能は可能か?
A:初めての質問でいままで経験ありませんが、早速今やってみましょう。

デモ

ということで可能です!(笑い)

TACスタジオをお借りしての持ち出し寺子屋はこのあと屋上でのBBQPARTYでまたまた盛り上がりました。秋には別のテーマで実践編を企画予定です。こんなのやってみたい!というメンバーは是非提案をお寄せ下さい。TACの社員のみなさんのサポートにも改めて感謝!(了)

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「サラウンド入門」は実践的な解説書です

July 10, 2007

Let's Surround No.12 サラウンド音響の今後

By Mick Sawaguchi 沢口真生 >> Download(PDF)

" 現状の5.1chサラウンドは、どう展開していくのか? についていままでのまとめと現在研究中のテーマや応用について述べる。"

1:サラウンドの展開
2:水平方向と垂直方向の充実
3:高臨場感サラウンドの再生駆動方式
4:10〜20chの再生環境は?
「ビデオ α」より

「Let Surround(基礎知識や全体像が理解できる資料)」目次
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サラウンドめぐり 岩井和久(長野朝日放送)



"サラウンドの知識、サラウンド伝送のノウハウなどまったく無く、大変な事に手を出してしまったなというのが、その当時の正直な感想でした。そして何より大変だったのが、会社の上司、事務局など周りへの説得・説明でした。"「放送技術」より

「サラウンドめぐり」 サラウンド開拓者の熱いメッセージ Index
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July 6, 2007

ミュージシャンの聴覚ダメージ調査報告

By Mick Sawaguchi 沢口真生

ヒアリング ロス調査結果 Shure listen Safe プログラムより、
june 20007 PSN 抜粋

センサフォニックの聴覚研究者M.santucciは、聴覚保護の第1歩は、聴覚検査からだと述べている。これらの研究結果は6月に開催された全米聴覚学会で発表され,ミュージシャンは一般の人に比べ聴覚障害の度合いが高いことが発表された。この研究を支援したのはマイクメーカのShure社で研究は、ルイジア 保健科学センターなど4研究所の共同研究である。同様な研究は、1995年と2003年にも行われている。

研究結果では、ミュージシャンは、全帯域に渡って最低可聴レベルが高く、障害を予防するには耳栓による保護が重要であると結論つけられた。

被験者数は、1018人に及び、評価は、ISO-7029-2000仕様の基づき、250Hz-8KHzの周波数帯域で実施し有効なデータとするため以下のようなテストや調査を行い結果887名の有効回答を得た。1018人のミュージシャンがテストグループに分けられ聴覚テスト、アンケートによる生活状況や薬物使用などの調査、聴覚神経の状態、騒音にさらされている時間などを広範囲に調査した。結果の概要は以下のようである。

1:8KHzを除いてすべての帯域で最低可聴レベルが悪化。
2:特に2K 3K 4K 6Kでの悪化が顕著である。
3:1.5KHz以上で少なくとも15dB以上悪化している割合は39%。
 60%は時々耳鳴りを起こしている。
4:77.1%の人は、聴覚障害の前兆が少なくともひとつ見られる。
  これらの人は耳鳴りは障害とは思っていないという点が興味深い。
5:特定の音が聞こえない「ノイズ ノッチ」現象は、1500Hz以上の周波数帯域でオクターブの前後ですべての年齢で見られるが、高齢者はその頻度が高い。
6:聴覚障害の原因に作用している要因の多くは、加齢、経験年数、耳栓の有無
7:逆に大きく寄与していない要素は、音楽のタイプ・騒音を浴びた長さ・家族病歴・タバコ・アルコール・カフェイン・アスピリンなどの摂取
8:高域での聴覚障害を防止するうえで耳栓は効果的である。
 

特にミュージシャン、エンジニアの方々は耳の保護に注意しましょう。

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July 1, 2007

第46回サラウンド塾 神々の響きを求めて BS-iドキュメンタリー制作から 小田嶋洋

By. Mick Sawaguchi
日時:2007年7月1日
場所:三鷹 沢口スタジオ
講師:小田嶋洋(TAMCO)
テーマ:神々の響きを求めて BS-iドキュメンタリー制作から

沢口:2007年7月は本日と27日の持ち出しと2回開催となります。今日ははBS-Iで再放送された熊野の自然に魅せられ玉置神社での奉納コンサートを行うまでの環境音楽家 長屋和哉さんをメインにした2時間のドキュメンタリー制作がテーマです。大変気合いの入ったサラウンド ドキュメンタリーでしたので是非寺子屋でお話をとお願いをして実現しました。今回はポストプロダクションを担当したTAMCOのミキサー小田嶋さんとサウンド デザインを担当したNSL宮川さん、そして環境音楽家の長屋さんにもわざわざ山梨からおいでいただきました。それでは小田嶋さんよろしく。
小田嶋:TAMCO でミキサーを担当しています小田嶋です。この企画段階から宮川さんが深く関わり熊野の自然の神秘性と長屋さんの四角形に配置した演奏型式からこれはサラウンドでやるしかない!と思いサラウンド制作が行われました。BS-Iでは2000年スタート時から映画やスポーツなどでサラウンド制作を行ってきましたが、我々は、その場の雰囲気が臨場感豊に伝えられるジャンルとしてドキュメンタリーのサラウンド制作をテーマにしていました。また熊野の奥深くに位置する玉置神社の重要文化財である建物と長屋さんが表現する響きを重視した演奏空間はステレオでは捉えきれない広さ 深さ大きさがあったからです。それでは最初にロケーション制作から説明します。

使用したマイクはアースワークスの全指向性マイクで配置はITU-Rに準拠して前方30度 リアは110度で配置したオリジナルのマイクハンガーを制作して使いっています。システム構成を図に示します。当時ポータブルでサラウンド収録できる機材としてはこうした構成をとらざるを得ませんでした。

取材時はカメラにはステレオでインタビューなどをVE/A担当が録音し、サラウンド収録は別チームでサラウンド音声を収録するといった2クルー編成です。玉置神社でのコンサート収録は図に示すような構成でこちらは据え置きしましたので機材的にはゆとりのある構成です。山の中なので電源事情が心配でしたのでバッテリードライブも用意し収録はDA-98HRとデジタルパフォーマにパラ収録しています。モニターはサラウンド ヘッドフォンを使用しLAKE社のシアターフォンでモニターしています。

サラウンドのロケが手軽に行えることがドキュメンタリーでは必須ですのでSDカメラで通常行っている1クルー体制で実施できるような機材と方式、及び収録後の通常フローによる編集作業が可能なことが条件となります。このための機材検討を我々も行っていますが、HD-カメラの2-4トラックへサラウンド音声が記録できかつ編集室のステレオモニターでも再生できることがポイントとなりますので例えばアナログエンコードでも十分つかえると考えています。デジタルエンコードで音の遅延が生じるよりはいいからです。ロケーション関係までで質問などありましたらどうぞ。

Q-01:機材は全てバッテリー駆動ですか?
A:そうです。BP-90X6でドライブしました。
Q-02:マイクを全指向にした理由は?
A:色々な組み合わせをTAMCOの桑原が実験してきました。その結果アンビエンス向きのサラウンド収録には全指向性マイクが大変スムースで特定の音源のピークディップもないので適していると判断し全指向にしています。
Q-03:風防はついてないようですが?
A:我々は風の自然な吹かれもサラウンド空間ではいいではないかと判断して風防はつけていません。
Q-04:パソコンでの収録ですがなにかバックアップ対策はしていますか?
A:機材の軽量化を優先してバックアップはしていません。時にフリーズした場合は再度録音するという方法で乗り切りました。それではポストプロダクションの説明にはいりたいと思います。ポスプロでのモニターはGENELEC 1031-AX5と7070をLFEに使っています。最終的なMIXイメージはフルレンジ小型スピーカで再生してもメッセージが伝わることを目指しました。MIXの要所要所では市販小型シアターシステムのスピーカでもチェックを行いました。DAWはプロツールズ24MIX PULS VER5.3です。リバーブ系はレキシコン960を補正程度に使用したくらいです。今回トライしたひとつにLFEチャンネルをサラウンドでの音源移動のスムース化に使ったことです。映像編集は通常のステレオモニターです。FINAL MIXのサラウンドイメージとしては
NR:センター
同録:L-Rステレオ
アンビエンス:サラウンド
ME:サラウンド
イメージモノローグ:全チャンネル+LFE
といった配置です。
 



サウンドデザインを担当した宮川さんからもコメントお願いします。
宮川:この番組は2004年11月放送でまだサラウンド制作については我々も手探りの時期でした。完プロ納品の形態も決まっていなかった時でもあります。企画の段階から関わった立場で言えば、制作側の反応は、予算内でできるか?が最優先でした。しかしBS-Iとしての特徴を早く出したいということもありサラウンドでのドキュメンタリーが決まりました。現在なら3年前に比べて機材面もコスト面もはるかに安くできる状況になっていますので我々も粘り強くアピールしていきたいと思います。番組内のモノローグバックのMEも私がイメージしてデザインしました。ついでにフィラー用のサラウンド版も作成しました。熊野という自然が持つ独特の気配や力そして聞こえていない音までもが想像できるという点でサラウンド音響は大変魅力があります。

それでは番組を再生します。

デモ

Q-05:オンエアー後の制作側の反応はどんなでしたか?
A:ドキュメンタリーでのサラウンドはあまりに自然なので耳が馴染んでくるとステレオとあまり変わらないね!といわれてしまいます。そのメリハリをどう設計するかが我々の課題です。この番組では冒頭のシーンで最初はモノーラルからつぎにステレオへそして3カット目でサラウンドへとデザインしてサラウンド感を強調しました。
Q-06:リソースの短縮化はどういったことが考えられますか?
A:現状のカメラクルーで実施できる体制をどう考えるかです。我々は1クルーでの実現と編集環境がステレオ出来ることを考え例えばSRSといったアナログエンコードでの収録を検討しています。
Q-07:別録音のサラウンド素材の編集はタイムコードベースで行ったのですか?
A:タイムコードはカメラ側からもらって記録していましたが、実際の仕込みでは力業で貼り付けています。アンビエンス素材が多いため映像とのシンクを優先しないでもよかったからです。全体スケジュールは1週間でPRE-MIXに6日FINAL MIXに1日くらいです。実際には後半かなり徹夜でしたが(笑い)。ちなみにロケーションはやはり1週間です。
Q-08:LIVEコンサートの収録は大変すばらしいサラウンド空間ですがマイクは?
A:ここも長屋さんを中心に四角に配置された楽器のちょうど真上にワンポイントでサラウンドマイクをつりました。リハーサルで長屋さんにも聞いてもらいバランスの良い場所を微調整していますが全てこのワンポイントだけで補助マイクなどは使っていません。
Q-09:電源対策は?
A:山の中で良くないと思い、トランスは持参しています。では演奏をされた長屋さんからもコメントをお願いします。

長屋:私のキーワードは「気持ちがいいことです」ですから楽器のチューニングは本来のチューニングではなく私が聞いて気持ちがいい!というチューニングに変えています。今回つかった楽器は
ヤンチン
ハガネ
チベットのシンギングボール
オリン(日本の仏具チーンとなる)
タイのゴング
けいす(日本の仏具)
5寸釘・ウインドチャイム

です。私の目指す音楽は西洋音階でなく響きがそれぞれに共鳴しあって作られるあらたな倍音やハーモニーそして差音という実際には無い音が聞こえるという響きの世界です。ここに大いなる魅力を感じています。西洋音階は倍音を削ってブロックを積み上げていく手法のように私は思えるのでこうした偶然性混沌性から生まれる空間の独特な響きを追求しています。以前はコンテンポラリーロック系のガンガンギタリストでしたが(笑い)。こうして出来上がる空間の表現はステレオでは出来ない空間なので私の表現にはサラウンドが適しており通常の音楽ではない音へ注目して作っていくと新しい音楽表現が出来るのではないかと思っています。これは作曲という行為とは対極にある作業なので一瞬一瞬を大事に作業しています。以前吉野山中で音楽制作を始めましたが湿気に悩まされ八ヶ岳にうつりました。環境も明るいので作る音楽も変わってきましたね。また生活のためのインフラコストが安いので制作しやすいというメリットもあります。

Q-10:ハガネなどのチューニングはどうしているのですか?
A:切り出して加工するのは大変なので自分がたたいて気持ちがいいと感じる音にチューニングしています。これは全ての楽器に同じです。例えば仏具の中から叩いて響きのいい音を捜していると仏具屋の人が珍しがっていろいろ出してくれたり、本来とは異なった使い方をしているので話し込んだりと・・・・これも底に穴をあけていくつかひもで吊してつかっています。
Q-11:こうした音楽制作アプローチをしている人は他にいますか?
A:私の知る限りではイギリスにややサイケよりで一人いますがそれ以外はしりません。
Q-12:いつもは演奏の場の中心で聞きながら演奏しているわけですがこれをサラウンドできいてみて感じは違いがありますか?
A:いや、いつも私が聞いている空間が良く再現できています。いつもは私が観客に比べ一番条件の良いスイートスポットで聞いていることになりますね!逆にこうして外側で聞いたことはなかったのですが外で聞くのもいいですね!

沢口:小田嶋さん、宮川さんそして長屋さん、どうも有り難うございました。今回寺子屋メンバーの野川さんがサウンドスケープのサラウンド作品を持ってきてくれましたので最後にこれをみんなで聞いてみたいと思います。
野川:これは私が仕事で色々な環境音楽をデザインしている中から最近できた六本木ミッドタウンのエントランスで流れている素材をサラウンドにRE-MIXしたものです。今日の話しを聞いていて私が追求してきた自然の音や響きのコラージュという考えに大変波長が似ているのとても共感するところが多かったです。では、お聞き下さい。

デモ(一同拍手)

この後は、様々な楽器の響き論議で大いに盛り上がりました。ハガネや砂鉄そして小田原の鈴や明珍火箸・・・・・小田嶋さんとは20年ぶりくらいですかね、なんという再会でしょう。また当日参加した永田さんや土方さんや山本さん、そして野川さんとみなさん自然の音のサラウンド収録に大変経験と関心の高いメンバーが集まったのはさすが嗅覚が鋭いですね。八ヶ岳からおいで頂いた長屋さんにも感謝です。次回是非おじゃまして自然の音を満喫してみたいですね。(了)

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