April 17, 2005

第22回サラウンド塾 第47回グラミー賞授賞式5.1ch制作 中村寛

By. Mick Sawaguchi
日時:2005年04月17日
場所:三鷹 沢口スタジオ
講師:中村寛(WOWOW)
テーマ:国内初ハイビジョン + 5.1chサラウンド生放送
スペシャル講演:三村将之 Y-TVのサラウンド録音中継車




沢口:今月のサラウンド寺子屋は、2月にWOWOWで生中継しました第47回グラミー賞授賞式の放送について中村さんからお話とデモをお願いしました。さらに、今回は、なんと大阪から寺子屋メンバーでもある三村さんが休暇を利用し出かけてくれましたので、Y-TVが最近完成させましたサラウンド対応音声中継車の概要とY-TVのサラウンド番組をいくつかデモしてもらいうという2段重ねの塾となりました。では、中村さんから。

[ はじめに ]
中村:中村です。本日は、WOWOWで永年独占生中継してきましたグラミー賞授賞式が今年映像はハイビジョンに加えて初めて5.1CH サラウンドでみなさんへお届け出来ましたので、その概要をお話します。放送は今年2005年2月14日9:30-14:00生放送で再放送は21:00-24:30です。

我々が、目指したのは以下のポイントです。
1.サラウンド音声は、現場から非圧縮のディスクリートで伝送。
2.アメリカ国内で頻繁にはいるCM時間をカバーするため現地にWOWOWユニスタジオを仮設して独自の情報を加える。
3.入念なバックアップ体制を伝送・スタジオともに構築する。

[ 1 現地との交渉 ]
海外との大きなイベントを成功させる最大のポイントは、円滑な交渉と責任あるコーディネーターの確保、相互の信頼関係にあります。幸い永年グラミー賞の放送をWOWOWが手がけてきた実績もあり、今回音声も5.1CHで放送したいという提案についても前向きに検討してくれました。通常は、アメリカ国内放送向けに放送権を持つCBSがホスト局となってDolby Digitalで放送し海外配信はステレオという組み合わせでした。この実施の可能性を調査するため我々は、昨年2004年夏からリサーチを開始しました。グラミー賞を実施する主体は、アメリカのNARASという音楽芸術協会で交渉の窓口はひとつのエージェントが独占しておりここと交渉をすることになります。一方で舞台裏を実施する主体はホスト局のCBS傘下で各プロダクションが参加していますので映像、音声それぞれにそれらのプロダクションと個々の具体事例については個別交渉、確認をすることになります。音声については、EFFENEL MUSICというN.Yベースのデジタル音声録音車やスタジオを持つプロダクションが参加しています。昨年度後半は、この交渉で費やしたといってもいいでしょう。またオーストラリアのCH-9という局が我々の交渉をききつけてサラウンド配信をやりたいと打診してきたのでこちらにも対応しました。幸い彼らとは、全豪OPENテニスの放送で緊密な関係がありましたので、こちらはスムースに進めることができました。

[ 2 制作体制 ]
現地の会場は、ロスアンジェルスにあるホッチキスで有名なメーカーStaple Centerです。(注:ロスアンジェルスで開催されるAESコンベンション会場となるコンベンションセンターの手前にありドーム会場内は放送設備が常設された最新鋭センターです。)現地はメイン会場、WOWOWユニスタジオ、出演者の入り口となるレッドカーペット取材、の3ヶ所でこれらが最終的にまとめられ映像はHD-TV 1080i/59.94、音声は6CHサラウンド+2CH予備でそれぞれ本線・予備を伝送しています。通常回線コスト及び現地での情報管理のため信号が届くのは、放送30分前といったことが通常ですが、今回はサラウンドのバランスや放送するWOWOW本社の各種テストを兼ねてリハーサル時から映像音声を送ってもらい万全の準備をすることができました。本社スタジオはアナログ放送系とデジタル放送系で2専用化しアナログはステレオでデジタルは、5.1CHサラウンドで放送しています。

[ 3 感想など ]
長時間生放送を成功させるポイントH、入念な事前準備とあらゆるトラブルを想定したバックアップ構築にあります。今回もその点では、2重3重のバックアップシステムを構築しました。結果的にトラブルがなければ、一見無駄のように見えますが、こうした危機管理の認識は大変重要です。どこかで人任せにしたり確認を怠ったりするとそのミスがおおきな事故の素になるという事例は放送以外でも最近よくみられる事故原因です。サラウンドという面からみると、会場内のミキシングバランスはファンタムセンターが多かったと思います。アメリカでの一般家庭を想定するとステレオで聞いている人がまだ多いという前提でバランスをとっているように思います。この点、日本の放送の方が、サラウンドはサラウンドでしっかり作りステレオで聞いても違和感ないミキシングに積極的に取り組んでいると言えます。工夫した点は、オープニングやインサート素材がステレオであったためS-6000というプロセッサーで擬似的なサラウンドを作り本編と違和感のない音場にしたことと、これはいつも悩みですが国内CMステレオ再生時にサラウンドからステレオへモード切り替えとなる時間を考えてバンパーと呼ぶクッションを入れる点です。残りの時間でD-VHSの放送テープからハイライトシーンをお楽しみください。(了)

沢口:ありがとうございました。じゃ残りの時間で大阪から参加の三村さんからY-TVのサラウンド対応音声中継車の概要とY-TV 制作のデモをお願いします。


三村:いつも寺子屋のHPやメーリングで活動内容を読んでいますが、いつか参加する機会を考えていました。今回は、大阪Y-TVで更新した録音中継車の概要とサラウンド番組をいくつか紹介します。

[ 1 音響設計 ]
音響設計は(株)ソナさんの手により、非常に満足度の高い音環境が得られた。エアコンは前後に2機のファンコイルからダクトによる送風を行い、静かなミキシング環境を目指している。基本的に社外(映像中継車)からの電源駆動が主であるが、真夏の炎天下におけるエアコン電力増加に備えて発動発電機を搭載している。室内は全体を3重の鉛シート貼りや開口部の入念な防音ゴムなどで遮音処理が施されており、発電機の駆動時でもスポーツ中継などは問題なくオペレートできるだけの静けさが得られている。



[ 2 音声設備 ]
AMS-Neveのアナログ卓88Rをメイン卓として搭載(48ch)、サラウンド対応(ブロードキャスト用&中継車用として、センターセクションなどに若干の仕様変更を施している)サブ卓として室内後部(サブルーム)にYAMAHAのDM2000を搭載、2名でのオペレートを可能とするため、室内を2つの部屋に仕切ることができる(簡易防音)
※ 尚、DM2000は未使用時にはフロントバッフル側に跳ね上げて収納。

[ 3モニター環境 ]
メインスピーカはM&Kで、サブウーファは左右に2台をバッフル面に埋め込み、ベースマネージメントを基本とするモニター環境。リアはトライポールのSPを用い、ディフューズ・サラウンドで構成。サブルーム(DM2000)側でもM&Kの小型コンシューマーモデルによるサラウンド環境を有する。
※ メインルームのスピーカについて
L/C/R : MPS-2510
LS/RS : MPS-1525
SW : MPS-2810×2台
ベースマネージャー:LFE-5 (M&K)
モニター調整用EQ/DELAY:DME-24(YAMAHA)

Y-TVデモから:
関西の落語はお囃子がはいるという特徴があります。この番組は月に一回スタジオに寄席を仮設しお客さんは100名程度。これをサラウンドでミキシングするとおもしろいのでは!と始めました。最初は、マルチ録音しポストプロダクションでミックスダウンしていましたが、最近は、手順も固まってきたので現場で同時サラウンド制作しています。会場のリアクションや陰にいりお囃子の雰囲気がステレオ以上の音場を再現しているのではないかと思います。(了)

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「サラウンド入門」は実践的な解説書です

April 10, 2005

オリバー・ストーン監督「アレキサンダー」のサウンドデザイン

By K.Hilton 抄訳:Mick Sawaguchi 沢口真生

[ はじめに ]
1920-30年代の古き良きハリウッド時代の監督は、自らの個性と感性にもとずいて作品をつくることができた。今日その伝統を受け継いで制作しているのは。OLIVER STONEである。アレクサンダー大王はマケドニアを中心に世界を制覇した偉大な人物として有名でこうした時代設定の映画としては、「グラディエータ」「トロイ」といった近作がある。本作の内容は、豪華なキャストと視覚効果に加え、サウンドデザイナーの果たす役割が大変重要である。
今回も永年ストーン監督とチームを組んできたサウンド デザイナーのWYLIE STATEMANが担当した。彼の仕事は、
「SOUTHER COMFORT」「STAND BY ME」「FOOT LOOSE」やストーン監督が注目された「TALK RADIO」「THE DOORS」「JFK」
「NATURAL BORN KILLERS」「NIXSON」などで聞くことができる。

STATEMANが言うにはストーン監督はプリプロダクションの段階から音について「考える思考プロセス」を非常に重要視するタイプであると述べている。
アレクサンダーは特にアメリカーヨーロッパの国際共同制作チームで行われ、サウンドクルーには、フランスのチームが参加することになっていた。JEAN GOOUDIERは「The Man on the Train」にサウンド スーパバイザーとしてクレジットされており、同時に彼の希望でken yasumotoもサウンド デザインに参加することになった。

デザインの過程
ストーンのサウンドに対する考えは、先に述べたように実に知的で独自のスタイルがあり、映像的にも音響的にも異なった個性をぶつけるという方法をとっている。GooudieとYasumotoは、このために「ミュージック コンクリート」という実験音楽的な手法をサウンド デザインに導入した。これらの要素は音楽を担当したバンゲリスの作曲にも採用され、結果大変感動的で、印象の強いサウンドができあがった。Yasumotoは、ミュージック コンクリートの素材として使用したのは虎のうなり声、風、声などのリアルな素材からであったと述べている。これらから音楽的なメロディやリズムの要素を作り上げた。
古代の世界を音で再現する場合キーとなるのは、メソポタミアのバビロンで当時どんな音がしていたかを再現することにある。バビロンのシーンのサウンド デザインを担当したのは、VINCENT MONTROBERTで彼は、Gougierが世界中で録音してきた素材を使い、複合文明都市のイメージを再現した。

戦闘シーンのサウンド
現場の同録に加え我々のライブラリーから素材を集積しサウンドを構成することにした。こうした作業は、パリ郊外のAuditorium de Boulogneで行われた。
ここには、AMS/NEVE DFCを備えたダビング ステージ2室、Foley/ADRが2室と試写室が備えられている。サウンド エディターの多くは、PRO TOOLS HDを使っているがGoudierは、Pyramixを好んで使用し、ほかのセッションを再生する場合にのみpro toolsを使用した。各DAWはサーバーと接続されており映像は同じくPyramixのVCubeハードディスクビデオシステムが使用され効率的な作業がおこなわれている。

Final Mix
Final Mixも同じスタジオAuditorium de BoulogneでVicent Arnardi Alex Goosse Bruno Tarriereのチームで行われた。しかし予定スケジュールをオーバーしたため残りはロンドンのDe Lane Leaに移動して行われた。ここでは、ロスから呼んだChris David Paul Massey がFinal Mixを担当。彼らは、これまでも「Nixon」で仕事をしている。MIXは、一日16時間、一月で仕上げDavidが効果音パートをMasseyがせりふと音楽パートを担当した。それまでに仕上げた部分を試写して2つの戦闘シーンのみ修正を行い、残りの部分をMIXすることにした。
戦闘シーンの素材自体はすばらしいのでそれらを一層強調し、いきいきとしたバランスに修正し、この場面でアレキサンダーがすばらしい戦略家であることを聴衆に認識できるようにした。もうひとつの戦闘シーンであるインドでの場面は、修正ではなく、はじめからやり直すことにした。6台のPro Toolsが持ち込まれたが、それぞれが効果音 背景音 せりふ 音楽 Foleyが仕込まれ、6台目は効果音ライブラリーである。

インドでの戦闘シーンのデザインについてDavidは、「サラウンドチャンネルには、象の呼笛Elephants trumpet blastを配置しました。いままでは、映画館の再生装置に不安があったので用心のためフロントにもこぼしましたが、今回は非常に明確な定位を意図したためです」
音楽を担当したVangerisはギリシャのスタジオを根拠地にパリでオーケストラ録音を行い、両者は44.1KHz 16bitのADSL回線で接続し最終てきな仕上げを確認しながら両者で作業を進めることができた。
ヨーロッパとアメリカの上映環境の相違は、アメリカが5.1CH基本であることに比べヨーロッパは3.1CHが基本である。このため映画用の音楽MIX5.1CHもサラウンドチャンネルにはアンビエンス中心でMIX している。(了)

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