February 20, 2005

第21回サラウンド塾 塾生オリジナル聞きまくり

By Mick Sawaguchi 沢口真生
日時:2005年2月20日
場所:三鷹 沢口スタジオにて
テーマ:塾生サラウンド作品公開デモ

2005年2月のサラウンド 寺子屋は、塾生アーティストが制作を始めたサラウンド音楽を持ち寄り公開デモとしました。
参加作品は、
・ 木村佳代子
・ 坂井 達彦
・ ICHRO
・ 大嶋大輔
・ 宇津本直紀
そして特別デモとして、現在ロスのFANTAGY STUDIOでSANKENマイク100Kをメインサラウンドマイクとして使用した録音を進行中のジョージ・マッセンバーグの仮MIX「ウイスキー ララバイ」を再生。



はじめに、アーティストから曲のイメージやコンセプトを話してもらったあと、サラウンド再生を行い、参加者からそれぞれ意見やコメント・アドバイスや疑問質問を交換するという、極めて実践的なOPEN DEMOです。以下にその時のコメントを列記します。

● LFEチャンネルにどんな音源をどういれるか?
これは、いままでも多くのリポートや文献で指摘をされている重要なポイントですが、いざ自分の音楽でやってみるとおもわぬ落とし穴にはいってしまうものです。ここでの例でいえば、フロントのメイン3チャンネルでのベースやキックといった部分で基本的なバランスの構築を行ったうえで、味付けとしてLFEチャンネルを使うというアプローチの重要さを参加者が認識したことと思います。

● LFEの帯域制限はどうするのか
これも映画やDVD制作者では、一定の認知がなされてきたLFEの上限周波数をどれくらいまでで抑えるのがいいのか?
を音楽制作者も再確認する必要のある重要なポイントです。今回の作品のなかでもLFEチャンネルは他のメイン5チャンネルと同等に帯域制限せず単独で聞くとかなり上の周波数まで含まれている作品がありました。LFEに送る周波数の上限は、最大でも120HZまでにとどめておくのがトラブル防止の点でも需要だという点をみんなで認識しました。それは、メインのチャンネルにある音源と高域成分が重なることで音が汚くなること。高域まで入っているとLFEスピーカの定位が認識されるようになり、定位の面でもメインの音源との間で干渉をおこし曖昧な定位感となる。ベースマネージメントという低域チェックシステムを使った場合に本来意図していたバランスがくずれてしまい、様々な再生環境下で制作者の意図したサラウンドバランスが再現出来なくなるおそれを生じる。などにあります。知識として理解したことでもいざ自分自身がサラウンドの制作を行うとなると、ついつい忘れがちになるという良い教訓だったというのが参加者の感想でした。

● アイドル系の音楽でもサラウンドはいけるか?
現在の音楽市場では、寿命も短いアイドル系はもっぱら市場原理優先でステレオ制作が大多数です。ここでは、アイドル系の音源をステレオMIXとサラウンドMIXで聞き比べてみました。楽曲の編成やアレンジを十分に考えておけばサラウンドMIXはアイドル系でも十分かっこいい!ということです。そのためには、コーラスやブラス、シンセストリングス、パーカションなどの楽器を以下に効果的にアレンジするか?というサラウンド アレンジセンスが求められてきます。

● メインVoは、センターか?
これも大変参加者の中で盛り上がった議論のテーマでした。現在市場に出ているDVD-A/SA-CDなどを聞いてもメインボーカルの扱い方に日進月歩の変革が見られます。これは現在大別すると以下の3つのアプローチに分けられるといえるでしょう。
◎ 従来のステレオを意識してファンタム センターで表現するメインボーカル
◎ サラウンドのスピーカが小型安価であっても設置されていることを前提にハードセンターに明確に定位したメインボーカル。
◎ サラウンドで試聴することのみを前提としてハードセンターに加えてやや手前に押し出す感じをだすためリアSL/SRにもこぼして立体感をだしたメインボーカル。

このように、サラウンドをどう使うか?という経験が積み重ねられ、かつ家庭の再生環境も小型安価ながら、同一スピーカシステムが設置されつつあるという現状を積極的に取り入れて、ステレオとの両立性を崩してでも、あえてサラウンドならではの表現を行おうという動きがでてきつつあります。デモの音源もマルチトラック音源でしたので、当日メインボーカルの定位をサラウンドパンポットで色々な定位を試しながら参加者でその効果を実体験してみましたが、ハードセンターでの明快な定位もいいが、フロントに張り付いた感じを無くしながらかつ、バックの音楽よりも前面にいるという感覚をだすために、すこしリアにもこぼした定位が感じが良かったという意見となりました。

一つのアプローチとして参考にしてください。

最後にサラウンド仲間のひとりでもあるG.マッセンバーグが現在取り組んでいるブルースボーカリストの録音から「ウイスキー ララバイ」という曲をデモしました。これは、10人編成のストリングスとAGt弾き語りVoという構成で、定位はメインVoはハードセンター、AGtはステレオでL/R に、そして10人のストリングスは360度取り巻くように配置されています。LFEには、Vcチェロのみが送られています。興味深いのはメインのサラウンドマイクにsankenがNHKと共同開発したCO-100Kという100KHzまで帯域の確保されたまさにSA-CD/DVD-A向けのスーパーマイクロフォンが使われている点です。録音の時は、アル・シュミットも音を聞きに来てサウンドチェックをしていたそうです。その空気感の存在は、純アコースティック音楽の持つ力を改めて認識することの出来る音楽でした!「最後にこんなの聞かせてズルイ!」といった声も参加者からでましたが。

今回は、自らが制作したサラウンド音楽を持ち寄ったこともあり、恒例のWINE PARTYは、深夜にも及ぶ大議論でした!(了)

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