April 25, 2004

第13回サラウンド塾 TOMITA ISAO サウンドクラウドの歩み 冨田勲

2004年4月25日
場所:三鷹 沢口スタジオにて
講師:冨田勲
テーマ:OMITA ISAO サウンドクラウドの歩み
Reported by 木村佳代子


沢口:今回は冨田さんにおいでいただき、サラウンド音楽の先駆者として活動されてきた歩みをお話していただきます。歴史を体験する貴重な内容をみんなでじっくりかみしめてみたいと思います。

冨田:私は、このメディアの仕事をはじめましたのが、昭和27年にNHK、まあ当時内幸町のラジオだけでしたけれども。それからすぐ近くにあるコロンビアというのが間借りしてて、日本コロンビアですね、そこで仕事をしてたわけですけれども。で、主に鑑賞用レコードのアレンジとか、大学2年の時でした、当時は作曲する者が少なかったんですねえ。結構いろんな仕事をやってました。その頃のレコーディングはダイレクトカッティングなんです。原盤といいまして、これぐらいの厚さのワックス、ロウで作った鑞盤ですか。これがミキサー室の横に山積みになっていてダイレクトカッティングをしてくんだけれども、編集はできないわけですね。だから楽団がNGをおこすとそこでストップして別な新しいのをそこにはめて又最初からカッティングするわけです。カッティング技師をいうのがいまして、で演奏が終わると最後のところあのストッパーをとめるための。あれは実は手でこうやるんですね。それを失敗すると、又演奏しなおすという(場内笑 ふっふっふ・・・)、編集できないもんですから。テイク3までつくるんですけれども、その中の一番いいやつはカッティングへいくわけですけれども、今でもレコードの、レコード会社原盤ということを聴きますけれども、今ハードディスクだとか、ていうことになってしまうと、原盤、ていうのが、何が原盤なのかよくわからない。だけどまあ、お金を出して、とにかく、その著作権とは別に、その音をつくったそのものが原盤。その原盤をやっぱり見た人間というのは、ちょ~っと古い世代の人間であると(場内笑 ふっふっふ・・・)まあ、僕らもう原盤という、あの言葉ていうのはすぐ「あれだ!」て、ピンとくるわけですねえ~。

天皇陛下がご成婚が決まったその時に皇居前で盛大な花火をあげたんですね、昼間に。それでその国税庁のビルが安普請なもんですから、花火の音が入っていちゃうんですね~録音の最中で『ド~ン!』と鳴ると、もおそれNGで(場内笑 ハハハ)。
元々音に対して子供の頃から妙な興味を持っていて。ま、糸電話をステレオで聴いた、ていうのは(場内笑 ハハハ)小学校4年ぐらいの(ハハハハ)・・・。まあ糸電話ていうのは皆さんご存知のあれですね。ところがステレオにするとですね、両方糸電話ていうのは、耳にこうつかなくちゃいけないんで、細工しなくちゃいけないんですね。竹・・・孟宗竹の筒を、先をボール紙でこう折って、うまくこう耳にあたるように。で、今みたいにセメダインとかそういうのはない頃なんで、あのーごはん粒をこう、練って、で、乾くまで手で押さえてるという。とか、絆創膏とかですね、そんなものを使って作ったんですが。これが大したもんです。菜の花なんかあって、今と違って虫や、いろんな虻とか、ていうのが来るわけですね。その音が本当にリアルに聴こえたんですねえ。で、『釣り糸』を使うと非常によく聴こえるんで。『木綿糸』なんかだと途中で音が聴こえなくなったりしてやみつきが今も続いちゃってると言う(場内笑 ハハハ)ことです。

シンセサイザーといったものが出てきて、それまでオーケストラの譜面を書いて、いろんなテレビのドラマなんかの作曲をやってたわけですけれども。モーグシンセサイザーというアメリカで考案されて。で、自分のアイデア次第によって、どんな音でも出るという装置だそうだというんで、早くそのモーグシンセサイザーを入れたいわけです。『MOOG』なんですが、あの『モーグ博士』、まあオランダ系の人だそうで、『モーグ』と発音するんだそうです。ま、普通『ムーグ』と言ってますけれども。(場内感心 へ~・・・)当時、ちょうど1970年の初頭ですねえ。演奏する音ていうのは、まあとにかく生身の演奏家が演奏する、それがあの、演奏。これが仮に録音されて、姿は見えなくても、その演奏者の姿があるという、これが常識だったものですから、そのシンセサイザーで創った音は、その演奏者の存在感がないというんで、平面的だとかなんとかまあかなり悪口を言われたんですが・・・。それじゃあ、存在感にあたる部分を、4チャンネルステレオを使ってその中に音が移動する、或いは近くにあった音が、4チャンのリバーブによって、遠くの方に離れて行ったりなんかするような事で、何かその音の存在感というものを出そうと考えて立体音響という事が始まったきっかけだったのです。とにかく自己流でやったんですが、今聴くと、ちょっと音をこう動かしすぎたかなあと思うんですけれども、当時4チャンネルのパンて言ったら大変なんですよ。2チャンであればね、パンポットなんてものがあったんですけれども。4チャンネルともなると、結局そのフェーダーがこう上げといて、次をこう上げて、こっちを上げて、こうやってこうやって(手のアクション)音を移動します。この技術は僕はかなり訓練しましたね(場内笑 ハハハハ)。今でもやらしたら結構うまいと思いますよ(ハハハハ)。

それではですね、ラベルの曲から聞いてください。これはあの、わがままな女王の周りをおもしろおかしい踊りをやって、ご機嫌をとるという、そういった曲ですが。

(曲リスニング中)

これどっちむいて聴いても大丈夫ですよ。特に正面は決めてませんから。
次は、『ムソルグスキーの展覧会の絵』の中の、まあよく僕はあっちこっちでかけているから、お聴きになった方もいるかもしれませんが・・・・ヒヨコがこう、ピヨピヨ遊んでるところをドラ猫がそれを食おうとする。すると親鶏がそれを一所懸命かばう自分の方へ猫の関心を向けてヒヨコを救おうとする。で、最後に、パッとその身体をかわしたら、勢いあまって猫がドブ池に落っこっちゃって、落ちたというところのオチなんです。これはあのお、『おそまつ君』という番組が当時流行ってまして、そこにニャン相の悪い猫が出てくるんですよねえ。それのイメージにしたんですが。

Q:すいません。その何チャンネルくらいのテレコ使ってましたか?・・・
A:えーとね、<アンペックス>の16チャンを使ってました。16チャンネルの中でやりくりしよう、ていうのはできないんでもう1つアンペックスの4チャンネルていうのを持っていたものですから予め4チャンネルに組んだもの、例えばヒヨコが逃げるようなところをその4チャンネル部分だけでいろいろ部品を作ってだから印刷と同じ、昔のオフセットの印刷のようなやり方をしたわけです。シンクロナイザーがない頃だったんで『カチンコ』ていうんですかねえ映画でいう。最初にカチンという音を入れといて、ヤマカンスタートして、それが合ってると後は大体あってるという。だから、その時のあのテープの伸び縮みとか、そういう誤差ていうのはどうしてもでてきちゃうんですけれども
あまりに長い、シーケンスは使わないで、なるべく短い範囲でいくつかまとめて、作っていきました・・・。
アナログで、クオリティを最後まで維持するのが非常にむずかしくて。弱い音の部分はその音を実際は弱い音なんだけれども、ゼロDB以上に全部組んどいて最終的な音量バランスの時に、最後に下げる。それからdbxの187を使ってました。圧縮が1/2でちょっとでも、そのテープに手垢がついたりゴミがつくと、ノイズも倍になって出てきますんでテープの扱いていうのは本当に神経使いました。だからテープを扱う時にはこの端と端しか、こう持たないという・・・。手は必ず洗うようにしてですね。だからピーナツとか塩飴なんかポリポリやりながらやったら、もお本当に大変・・・(場内/爆笑)・・・埃がつかないように。だから最後のミックスが終わるまではテープの保管にかなり気を使いました。
Q:おつくりになったのは、何年くらいなんですか?
A:これは70年代です。
Q:これはマスターは保管されてるんですか?
A:ええ、しています。
Q:オリジナルマスター?
A:部品も全部保管してます。
Q:音源はモーグだけ?
A:そうです、この頃は。この頃はそうです。ただローランドとかだったら小さなシンセサイザーも出してましたから。部分的にはそういうものも。装飾的な音で、すごくチャーミングな音のでるシンセサイザーがあったので、そういうのは利用してますけどね。ただ、当時まあ今から30年前でしたからできたけれども、もう今じゃとてもできないです。あんな作業はねえ。
Q:じゃあさっきのこうグルグルとまわるのはフェーダーをこうやって・・・。
A:フェーダーを・・・あの・・・まあ、こういう風にまわす場合と8の字にまわす場合とあるんですけれども・・・。それ、フェーダー、当時あの4チャンネルステレオを最終的に作ろうとしてましたんで。(手の動作)フェーダーをまずこっちを上げといて、まあそうすっとこうなりますよね。それでこーやって・・・するとこちらへくる。すると次にこうくる、そうすると(生徒/ああ、後ろに)つまりフェーダー4つを使ってこう・・・こう・・・(生徒/ああ、手が交差しちゃうんですね。)ええ、でもこうきてこうでしょ、で、こうくるんですが、一か所だけなんですよね(場内 ハハハハ 爆笑)。でもまあ結構馴れれば(アハハハ)それでうまくいったやつは、そのデータが残るもんですから。で、それで他にも使ったりなんかしたんですけどね。
Q:編集はできないんですよね
A:いや、アップデートはできるんです以前のデータと同じところへこのフェーダーを動かしてくると、そこに青いLEDがつきますので、そこでパッとオフにすれば、全く同じボリュームでつながるわけです(場内/ああ・・・)ところが再生ヘッドと録音ヘッドの間があるもんですからねえ。何回も繰り返すとだんだんおかしくなってくるんですが。一瞬その・・・ちょっと音が途切れて・・・そのデータが途切れても、そのままキープしてるもんですから、まあ・・・ごまかしごまかしやってました(場内/ふーーーむ・・・感心)。ただ16チャンネルのアンペックでそのデータ記録用チャンネルを2つ用意してないと・・・。まあ、1つのチャンネルでそのアップデイトして、そいで又前と同じレベルになった時にポッと元に戻す、ていうやり方もできるんですが、やっぱりそれをやって失敗することもあるので2チャンネル使って、片方のデータをキープしながらもう1つのチャンネルで修正するというやり方をしてたわけです。そうすると16チャンネルあっても、使えるのは14チャンネルですよね。それにモーグシンセサイザーを動かすクリックをよんでステップがこう動いていくわけですけれども、それのチャンネルはやっぱり2ついるとなると結局12チャンネル。そうすると12チャンネルとなると4チャンネルのマスターで3つできるわけですよね。その中でどうでもこうでも全てやりくりをする、ていうやり方でやってましたけどね。それでその3つをうまく、そのミックスしたものを別のアンペックスの方に・・・4チャンの方に入れて、それでそういう部分をいくつもつくって、後で並べるというようなやり方だから・・・まあ、dbx のノイズリダクションのおかげでアナログテープの割にはシャーノイズ出ず、済んだところですが。非常に大変だったのはアナログのマルチであるあのラクダのコブ、てやつですねえ。低音が、こう3デシ上がってしまうという(場内/ほお・・ほお・・・)。これがですね、dbxをかけると・・・まあdbxていうのは入れた時の状態・・・そのテープを入れた時の状態でかえってくるという想定で設計されてるもんですから。そうすると低音がそれだけ上がるとですね、なーんかおかしくなってくるんですよ。フワフワフワフワ。低音のあの、とまってる音ならまだいいんですけれども、こうストリングスは耳では同じような音量で聴こえても、実際メーターはこう振れてますよねえ・・・。だからその振れの通りに圧縮したりなんかしてるのが、こう・・・大きく影響してきちゃうんで。そうなるとこう低音が最後に入れ込まなくちゃいけないみたいな。だから低音入れたままコピーをやると低域がもこもこになります。スピードが76cm/secでやってましたから。多分38cm/secの場合はもっと下の方にいってしまうんで、あまり気にならないと思うんですけど76でやると、ええ・・・60ヘルツぐらいだったかなあ・・・あがってきてしまって1回コピーをしてもう1回再生に使うとその盛り上がってるヤツが又盛り上がってきますんでね。そこを下げるように工夫するんですが、うまく下げる、ていうのはうまくいかない。なーんか音が変わっちゃうんですね。

Q:それはテレコが・・・向こうのイコライザーがおかしいのでは・・・。
A:いやあ、アナログのテープていうのは必ずヘッドの形状効果があって、それはスピードで違うんですけど、100ヘルツで上がって、その下が下がってこう山場になるんですね。だからそのあるところ、60ヘルツとかが上がっちゃうんですね、アナログは必ず。うん、必ず上がる。
A:いや、だから1回録音の場合はそれでいいんですよね、一発録音の場合。こういう多重録音の場合は、ははは・・・相当辛い思いをしましたねえ。モーグシンセサイザーでこういろいろ音を作ったりなんかして、フィルターも全部意識して動かさなくちゃいけないわけですね。つまりブライトになるかアンブライトになるかっていう、こう、それを音量に合わせるとか、ていうのを。どんなにしてもオーケストラのまねをしたら、オーケストラというのができないんで、それで違った方向へ違ったアイデアの方に、えーもってったわけですけれども、例えばあの、ストラヴィンスキーの火の鳥の中これは途中に能のようなふざけた部分が出てきたりなんかして。まあ今でいうゲーム・・・ゲーム感覚ていうのかな。ゲーム音楽みたいな感じにしたわけですけれども。
Q:全部弾いてらっしゃるんですよね・・・(当然の事ですけど)。
A:ええ・・・だけど、こんな早くは弾けないから。半分の回転にして・・。
Q:すいません、テンポ管理は、さっきあのクリックでシーケンサーていうのがあったんですけども、その曲を通してのテンポがあって、それを最初に何か進行に沿ってつくる・・・
A:いやこれがねえ一番最初にクリック・・・所謂ドンカマてやつですねえ。あれを入れちゃうんですね。で、その時にはもう曲想が頭の中にできてないといけないんですけれども(生徒/えーえー)。それをですねえ、そのクリックを指示するためのアナログシーケンサーで早くなったり遅くなったりさせる事ができるんですよ。で、CVでそうなるとですね、キーボードとつないで、そのテンポの変化をそのクリックを聴きながら、譜面を書いちゃうんですね。つまりうーん、テンポがだんだんこう早くなっていく場合は、C(ツエー)からC#(ツエーシャープ)、D(デー)からていう、それをどのぐらいの早さでテンポ早くするかを聴きながら、これはもうとにかく指で弾くよりしょうがないですね。で、これは全曲やらないと。
Q:ドンカマていうと、どうしてもこう『カッコッコッコッ』ていう・・・・
A:ええ、そういう風にプログラムするわけですよ、そういう音が出るように。で、あのお、そのアナログシーケンサーていうのはボリュームで決めた電圧がそれぞれ変わって行くわけです。だからカッという音を出したければ、ちょっとボリュームを足して(場内/うんうんうん・・・)で、『コッコッコッコッ』というのにして・・・その4ステップをまあ繰り返しするわけです。ただ変拍子もありますからね。そうすっとそこの部分が、頭のあとで、耳で聴いて頭のある音、つまり一拍が高い音になる。その頭の音ていうのを決めるわけですけれども。最初はただ『プップップップ』だけなんです。だから途中で一拍見落とすと(場内/ああ・・・)あとは全部そのクックックッていうのを聴きながら、そうすると楽譜上にそのドレミファじゃなくて、いやこれはC#(ツエーシャープ)でこの辺でした方がいいだろうとかアチェランドする場合ですね、だんだんそのクックッてのを聴きながら、その通りに鍵盤を弾いてくわけ。(場内/大変ですねー・・大変・・・)アルバムつくる場合は音をこうブラインドかけといて、それで3度・・・長3度ぐらいで下におりてくと。で、最後フェルマータの場合は離れたところでキーボードを押せばフェルマータになりますからね。これはねえ、音を組んでって、いやしまったこれは・・・ていうことに気がついてももう間に合わないんですね。だから決めたテンポの中で、どうやってその・・・今度は音色とかですね、演奏の仕方でもってくかっていう。いろんなものが絡んでるんで、大事になりますね。下手すると3日・・・(場内/フフフ・・・)

どんなのやりましょうか?パシフィックなんかよくかけましたかね?蒸気機関車、SLの・・・。
Q:プラネッツか・・・。
A:まああれはさんざんかけたんで(場内/笑)。じゃあ、『パシフィック231』。で、これは劇画みたいな感じで勿論サラウンドにはなってるんですけれども、そのどっちの方向へ進むとか、そういう事じゃなくて、車輪のアップだったり、或いは汽笛を湯気を出しながらパーッとその音のしている汽笛のアップであったり、ま、そういう様な感じで描いてみたんですが。途中、駅をこう通過する時のポイントの上を走る感じとか、僕は割と鉄道マニア的なところもあったんで、非常に楽しみながら作ったわけです。まあ蒸気機関車ていうのは、なんか僕らが子供の頃は、もう全部殆ど東海道線の機関車だったわけです、あのお、なんでしょうか、猪突猛進ていうか、・・・なかなか速くならないんですよね、スピードが。だから僕らが小学校の頃は、客車の窓が自由に開け閉めできたんで、弁当売りのおじさん達や、おばさんなんかもホームにいっぱいいて、首から吊るしてですね。アイスクリームとかアイスキャンディーを売ったり、それから弁当なんか売ったりなんかしてたんですけれども。動きだしちゃってから『あれが欲しい。』と言ってもちゃんとついてきてくれるんです。ホームの端まで行ってもそんなにまだ速くならない。ちゃんとツリまでくれて。なんという時代です。ところが一旦速くなっちゃうと今度は止まるのが大変のようで、もう駅の随分前あたりから、スピードを落としてくるんです、今の電車からしたらちょっと考えられない・・・。だけどやっぱり、あの尖ってる時の・・・湯気を吹きながら尖ってる時、ていうのは、怪物がですね、これからなんかしでかす前の、じっと息をひそめてる、ていう感じがしてスリルもあって、非常に僕は好きだったんですが。・・・・。それをまあ、描いてみました。これも同じ様な行程で、テンポが途中で変わったりなんかしてますけれども。今のようなやり方で、テンポをまず決めてドンカマ『カッカッカッ』ていうのが決まれば、それをよんで、シーケンサーが『カッカッカッ』てそのドンカマの音をよんで、アナログの音を直流に変える『エンベロープ』というのがモーグシンセサイザーについてて。そうするとパルスになるわけですね。で、それを2分割にしたりすると、その『カッカッカッカッ、カッカッカッカッ』というのが『カッツカッツカッツカッツ、カッツカッツカッツカッツ』と裏がでてくるということで、それをよんでシーケンサーが自動的に動いてく。それも一台が24ステップですから、僕は、3台しか持ってなかったので、かける3でもう終わっちゃうわけです。だから、短いフレイズの間でうまくその区切りをですね、どこで区切りをつけるかってことを決めてやらないと。まあ勿論スピードを遅くして手弾きていうのもあるんですけど、シーケンサーが随分とそういうやり方をされましたね。一か月くらいかかりましたね・・・もうちょっとかかったかなあ・・・。

それでは、『源氏物語幻想交響絵巻』を、実は、モーグシンセサイザーをはじめたきっかけというのは・・・。それまでオーケストラの曲を書いてたわけですけれども。やはりその音源が誰が使っても同じ音色だ。ホルンはホルンの音だ、それからバイオリンはバイオリンの音色だ、ピアノはピアノの音、というのがですね、譜面を書いてて、今その書いてる譜面ていうのは、もう既に誰かがやってんじゃないか、なんかそういうおかしな妄想にとらわれてきたのと、確かにワグナーまで、モーツアルトの頃からワグナーまでの100年ていうのは、ものすごく楽器が改良されて、もう最高のところまできましたよね。それから現代まで楽器の改良というのは殆どなされていない。ていうことはもう、オーケストラの音はどれももう最高の音になってるということは分かってるんだけれども、じゃあ自分はどうしたらいいか、ていう時に、なんかやる事がない、みたいな・・・、その時期にモーグシンセサイザーがでてきたんで、もうオーケストラ、ていうのはもう新しい曲を作る意味がないんじゃないか、て思ったんですよ。まあ、ちょっと浅はかだったんですがねえ。それで、・・・80年代の後半になってから、又再びオーケストラをやりたくなって。今、手塚治虫さんのジャングル大帝のリメイクなんかあったりした時に、やっぱり手塚さんがオーケストラの音が好きだったんで、オーケストラの編成で、その時はシンセサイザーは使わなかったですけれども・・・・やったり、それから映画なんかも・・・大河ドラマなんかも、その頃やってましたけれども、これはやっぱりオーケストラですね。N響がテーマを演奏すると。それでやっぱりオーケストラはまだ自分がやり残してることがあるなじゃないかということで『源氏物語幻想交響絵巻』を書いてみたわけです。これはシンセサイザーも入ってます例えば生霊の部分などです。オーケストラはロンドンフィルでロンドンで演奏した時も、そこの部分ていうのは、シンセサイザーのエフェクト、それからローランドのRSS なんかを使ってやったわけですけれども、オーケストラなんかでいくらどんな表現をしても、夜中に生霊が浮遊する、ていう感じは、シンセサイザーを使って、ローランドのRSSを使って場所によっては、その座席の中で、ふっとこう耳元までその・・恨みの声が『フッ』と耳を通りすぎるみたいな効果は・・・これはねえ、まあ今までの電気のない頃に相当凝った事をやったワグナーのその連中もやってみたかった事ではないかなあ・・・と思うんですがねえ。彼らは後ろの方でコーラスが聴こえてきたり、なんかすごくその立体的な音響ということに思考を凝らしてた連中ですから。ただ電気がなかったんですね、あの頃ねえ。
冨田:じゃあ1から・・・雅の春、桜の季節ですねえ。そのあたりから・・・

(リスニング中)

Q:オーケストラの録音された時は、どのようにされたんですか。・・・。なるべくセパレーションして・・・位置は普通のオーケストラの位置ですか。
A:いえいえ、もう・・・全くこだわってないです。・・・・
Q:じゃあパートごとに・・・
A.:ブラス楽器は大きいんでブースに入れちゃったんですね。そうでないとストリングスの方に入ってきちゃうんで。だからもうオーケストラの配置は全く無視してます。やじろべえの感覚でいくとバランスが悪いような気がするんですよ。僕はオーディオの場合はやっぱり低音ていうのは均等にスピーカーが充実した低音を・・・低音ていうのはオクターブ下がる度に、倍、倍にエネルギーが増えていくから、それは負担かかりますよねえ、右の方が。それはどうも僕は・・・誰があんな配置決めたんだろうと・・・(場内/笑)。ビルでいえばやはり真ん中で支えてるから塔でもなんでもいいんで、それが片方だけにあって、ていうのはなんかこう不安定な感じがしますよね。僕だけなんですかね、そんな事思うの ・・・・


等々4時間に渡るサウンドクラウドの歩みをデモを交えて話していただきました。全てを書いてますと長ページになってしまいますので、ここら辺で中締めとします。続きは冨田勲 著「音の雲」NHK出版¥1700でお楽しみください。終了後のWINE PARTYはいつも以上に盛り上がりました。(了)


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「サラウンド入門」は実践的な解説書です

April 11, 2004

第12回サラウンド塾 自然音フィールドでのサラウンド録音について 小野寺茂樹

By Mick Sawaguchi 沢口真生
日時:2004年4月11日
テーマ:自然音フィールドでのサラウンド録音について
講師:小野寺茂(NHK)

沢口:今回は、自然音フィールドでのサラウンド録音について、NHK音響デザインの小野寺さんにお話をしていただきます。ではよろしく。
小野寺:NHK音響デザインの小野寺です、よろしくお願いします。

Part-1
NHKが「音の風景」というラジオ番組を始めて来年で20年を迎えます。その歴史の中で今回初めて、サラウンドで制作してみようじゃないか、ということになり、制作してみました。本日は「魅力あるサラウンド空間をつくるには」というタイトルで、「快適な収録と視聴者に心地よさを感じてもらう音づくり」をテーマにお話したいと思います。

1-1「楽しい収録 ~重さにマケズ、不思議な目で見られ~」
サラウンド機材というのは、非常に重たいものです。僕達が「音の風景」収録の時には、どうしてもひ一人でロケに行くことが多いのですから、機材の重さが身に染みるという事と、マイクを持っているとどうしても、いろんな人に話しかけられたりするものですから、自然の音を収録する、というのは非常に難しい、というのが現実です。それでもロケに行ってしまうのは何故でしょうか?(写真を示しつつ)この写真の場所も、機材を担いで雪山の中を1時間歩いて辿り着いた場所です。帰るのは「もうやだ!」と(笑)現場にいる時には思ったんですけども、東京に戻ると、またどこかにフィールド録音に行きたいな、と感じてしまうその理由を、みなさんにお伝えしていきたいと思います。「サラウンドによる収録はロケ場所の印象をより伝えられる」

1-2 サラウンドによるフィールド録音の魅力は何か?
なぜ、重い機材を担いでサラウンドのロケ収録に行ってしまうのか?それは「ロケ場所の印象をより伝えられるから」です。ただ単にその場所の様子を伝えるだけでなくモ印象モをモよりモ伝えられるということが、サラウンド収録の非常に魅力的なところだと思っています。ここでいうモ印象モというのは、あるロケ場所に行ったとして、(ロケ前の企画段階で)狙ったもの以外の、現地の人から得た情報によって知ったものですとか、その場で偶然耳にした音、偶然起こったことだとか、そういった音のことです。ステレオでは詰め込みきれなかったそうした音を(2ch以外の)別チャンネルに振ることによって、「音場」を再現することが可能なのです。自分がその現場で体験したこと、感じたことを音づくりに反映できる、というのが、サラウンドの大きな魅力ではないか、と思っています。例えば(千葉・久留里線のロケ収録の列車の写真を示しつつ)このロケの場合、列車の音を聴かせたいとなると、ステレオ(2ch)の場合は、メインの列車の音だけをONで収録し、まわりの音をベース扱いにしないと分かりづらくなってしまいます。しかし、サラウンドの場合は、列車の向こうで、鳥が飛び立った、ということがあったとしたら、別チャンネルにその飛び立つ音をいれてもきちんと成立します。では、1本目、「千葉・久留里線の春」という作品を聴いていただきます。

(「千葉・久留里線の春」のサラウンドMixとステレオMixを試聴)
 
この作品のポイントは「電車がすれ違う」ところです。IRTクロスのマイクを、前方に入ってくる電車、後方に去ってゆく電車、という形で置いてみました。ところが、NHKの中で、いろいろな人の意見を聴いてみたところ、「よくわからない」という意見がおおく出ました。それは何故か?というとIRTクロスで録った場合、マイク間の距離が短いのでどうしても他の音をひろってしまい、ごちゃっとしてしまいます。それを防ぐためにはどうするか、を考えたのですが、結論として「マイクを分けて収録しポスプロの段階で、はっきり定位感がわかるようにMixする」という方法しかないのではないか、と感じました。「行き交う感じ」と「現場感」をどう表現するか?については、「他のチャンネルへのモこぼしモとサラウンドリバーブを活用する」ことによって、ステレオとサラウンドのなじませ感をつきつめていく、そういった方法をとらないと、なかなか「電車が離れていく感じ」を出すのは難しいんじゃないかな、と思いました。では、この1本めについて、みなさんのご意見を伺いたいと思います。

受講者の方からの感想:サラウンドとステレオのMixで大きく違う点は、遠くの音がサラウンドだと、とっても気持ちいいんですけど、近付いてくる音に関しては、「音の持つリアリティー」が、ステレオMixの方がよりはっきりしていたと思います。サラウンドの音は広がった感じがしますね。それから、ステレオのスピーカーから出てくる音の感じに慣れているので、それで聴いた方が、「スピーカーから出てくる音だ」というのがはっきり認識できる、と思いました。サラウンドは、なんだか「異次元の体験」という感覚がありました。
Q:ステレオマイクって、どれぐらい離しているんですか?
A:ステレオマイクは、土手となった線路のほぼ下ぐらいで収録しています。
Q:マイクの間隔なんですけど
A:このマイクはCSS5なので、ワンポイントですね。MSのワンポイントマイクですね。416で距離をつけている、という感じではないんです。
Q:416を二本セットだと幅は20cmとか30cmですよね。それと比べて分離が悪いというのはなぜなのか、ちょっとわからないですね。MSマイクのほうが分離がよくなる理由というのが。基本的には、ワンポイントマイクだから、MSだと。どちらかというとMSの方が分離が悪いのかな、と思ったのですが・・・。
A:まあ、それをサラウンドにしていく段階で、擬似的な分離を作っていくとでもいいましょうか、移動感をサラウンドパンで作っていったりですとか、そういう方法の方が、効果的なのかな、と考えています。
Q:そうするとステレオマイク、MSマイクで前と後ろを4chぐらい録音するんですか?
A:そうですね。
Q:それでパンを振る、というのはちょっとどうやって振ればいいのか、というのがよくわからないのですが。
A:う~ん、それは実際やっているわけではないので、今後考えなくていけないところなのですが、もしかすると、416か何かをもっと間隔を開けて立てて、レベルで差をつけてゆく、そういう方法もあるのかもしれません。別の聴講者よりの意見:甲州街道のど真ん中、センターに立って、LRで車の往来を収録したことがあるのですが、ワンポイントを前後に振って、前後を、前がマイクのR側、後ろがマイクのL側という風に使うと分かりにくいんですね。それよりも単純に右左で分けた方が効果はでた、という経験があります。後ろと前をまったく違う間隔でやるより、R、SRマイクを右、L、SLマイクを左にという風にした方が、やってきて去っていく移動感がよく感じられたという経験があります。
Q:LFEの成分用に別のマイクを立てたわけではないんですね?
A:そういうわけではないですね。Mixの時にLFEのための成分を送りっています。
Q:電車ではない、ディーゼル車の音がよく感じられたと思います。サラウンドのトラックの方が、それがよく分かりました。ステレオトラックの時は、電車なのかディーゼル車なのかよくわからなかったのですが。

Part-2
2本めは「ベネチア」です。これは3年前に収録した作品です。基本は4chで収録しています。では、聴いてみてください。

(「ベネチア」のサラウンドMixとステレオMixを試聴)

では、解説いたします。ポイントは「音の遊び」です。まず、教会の礼拝のところの収録方法なのですが、かなり広い教会だったそうです。礼拝に来ている人たちに向けて、416のマイクを隅4カ所それぞれに立てて後はギターのの方向に1本向けています。それから、アンビエント用にセンターの高い位置に416をステレオペアで使用し、そのように録音した音をMixしている、という方法をとっています。次に、広場で子供たちがボール遊びをしている部分なのですが、子供の声は完全に「オンリー」です。ボールはIRTクロス・4chの上を、子供たちにうまく投げてもらって、方向性を後で微調整して、音をばらばらにした、という方法を用いています。これらの素材を後で、いろいろMixして作成しています。これについても、何か質問などありますでしょうか?
Q:いかにもプロロジック、という印象を受けたのですが、これはエンコードだけですか?
A:そうですね、エンコードだけです。
Q:先ほどの作品の電車の音もそうですか?
A:そうですね。
Q:プロロジックでエンコードされた音という印象は確かにありますね。全体の雰囲気に、逆位相感が強いように感じました。
Q:5本(サラウンドMix)で聴くのと2本(ステレオMix)で聴くのとで、2本だと(音で)一杯になっている、という感じがしました。特に教会の部分ででも、サラウンドで聴くと非常にリバーブ成分が強いのだけれど、ひとつひとつの音が分かる。でも、ステレオだと、ひとつひとつの音はもう分からない、という状態のように感じました。ステレオだと、鐘の音なんかもすごく小さく感じますよね。(サラウンドMixだと)ここに大きくあったものが(ステレオMixだと)小さい、という感じですね。
A:サラウンドだと、広い場所を表現するのに適している、ということだと思います。
Q:教会に立てていたマイクの四隅の距離はどれぐらいあるのでしょうか?
A:1本ずつの距離は、横にや約20~30m、縦に約40mくらいです。
Q:マイクは中央に向かって立ててあるのですね。
A:そうです。縦長の場所だったそうです。ちなみにSystem6000で、若干リバーブを足しています。
Q:それだけ離れていると、マイクの間のつながりがなくなってしまいますよね。その間をどうやって埋めるのか・・・
A:そうですね、非常に難しいところですね。(Mixする)人それぞれの感覚の部分もあります。あまり埋め過ぎてしまうと、広さが十分に出なくなってしまう、という場合もあります。録音してきた人の感覚で、「このぐらいの距離だった」という感じでしか再現できない、というのが実際のところですね。
Q:真ん中にも2本マイクを立てたんですよね。
A:ええ、アンビエント用にステレオマイクを2本。

Part-3
では、3本目はマレーシアのボルネオ島にある世界遺産「グヌンムル国立公園」の洞窟の中の音を収録した作品です。

(「グヌンムル国立公園」のサラウンドMixとステレオMixを試聴)

このロケに行った本人が書いた文章がありますので、それを見ながら解説していきたいと思います。この作品は、「ハイビジョンスペシャル」として収録されたもので、ロケ期間が6月26日~8月13日という、かなり長いロケでした。最初の予定よりも2週間ぐらい延びまして、非常に過酷な番組収録となったそうです。この収録では、音声と音響効果を同時に担当しておりますので、マイクもIRTクロス4ch、センターに416を使っています。416を同時収録のメインに使うという試みをしています。この収録での「サラウンドロケの目標」として、世界最大の空間を持つ洞窟(東京ドーム10個分)の「閉じられた空間」を表現する、すべての同時録音をサラウンドで収録する、ということでした。使用機材はPD-6という6chレコーダーと、オーディオテクニカの防滴マイクです。非常に湿気が多いところなので、まず、湿気に強くなければいけないということでこのマイクを第一に選びました。ショップス社のも持っていったそうですが、こちらは防滴マイクではなかったため1週間くらいでだめになってしまったそうです。基本セットは、IRTクロスの真ん中に416があります。そして、ポスプロ、音の整理では、NUENDO2.0を使用しました。

ここで、PD6の特徴について、簡単にご説明します。記録メディアは8cmDVD-RAMで、記録形式はWAVファイル形式で記録します。このDVD-RAMに、片面5chで収録して、16ビット48キロヘルツで25分程度収録することができます。そして、ファイヤーワイヤー端子でパソコンに接続すると、DVD-RAMドライブとして認識させることができるので、現場でその日に収録した音をパソコンに取り込み、DVD-RAMをフォーマットし直すことによって、持って行くメディアを少しでも減らすことが可能になりました。また、ホテルに戻ってからパソコンを使って音素材を整理することでき時間の有効活用の点でも威力を発揮した、と担当者は言っていました。音データの流れですが、PD6から、PowerBookG4にファイヤーワイヤーでつないで、DVD-RAMドライブとして認識させ、持って行った外付けハードディスク2台に音データを保存していく、という流れをとりました。モニターを使用するために、今回はモバイルIOを持って行きました。それを、サラウンドモニターで、確認すると、いう形です。実際にはホテルで確認する時間はなかったそうで日本に帰ってから確認したそうです。NUENDOを使用したプロダクションの利点としては、トラックの自由度、それから、ブロードキャスト・ワブ・ファイルを使用できるということです。タイムコード情報が入っていますので、何時何分に録音したというそのオリジナル時間でNUEND上に貼付けることができるので、ECS編集データをもらったらその時間軸上に本編にコピーし貼付けていく、という方法をとることができます。これは素材音を起こす時間の短縮になります。それから、オートメーション情報も書き込めますので、プリプロ段階で、ある程度オートメーションを書き込んだ状態でポスプロに臨めますのでポスプロの時間短縮をはかることができたということです。これまでの制作スタイルですと、ステラDAT4chなどで収録した後、実時間でDAWにコピーし、音を並べ替え編集作業をし、音楽を準備した後でMAに入る、という作業でした。MAで音像の移動やエフェクトや移動をつけていたのですが、今回の制作スタイルですと、ハードディスクから直接素材整理とコピーをしてしまうことによって、MAへの準備時間を非常に短縮することが可能であるとともに、音像の移動やエフェクトを含めてある程度プリプロ段階で準備をすすめることができました。この番組制作の前に「イグアス国立公園」という番組を我々が制作したのですが、その制作では、事前準備110時間、MA174時間かかっていたものが、今回の「グヌンムル国立公園」の制作では、事前準備68時間、MA124時間だったそうで、事前準備の点で、半分程度に時間を短縮できた、ということですね。実時間で音をコピーする時間が省けた以上に、大きな成果があがった、といえると思います。

まとめますと、DAWソフトを用いることで作業効率の大幅な向上と6ch収録によるリアルな表現力により番組クオリティーの向上と効率化を同時に実現でき、またコストパフォーマンスも非常によくなった、といえます。

今後の課題ですが、まず「レコーダー側の8ch以上の対応」があげられます。これからも音声兼音響効果でロケに行くことが多くなりますので、VTRと同じタイムコード上に同時収録用のマイクを用意しなければならないということが多くなりますので、チャンネルが6ch以上必要になるということが想像できます。そして「DVD-RAMの転送速度の向上」も課題としてあげられます。現在、1GBを転送するのに、だいたい5~6分かかってしまいますので、それがもっと向上していけば、早く作業が進むかな、と考えています。それから、「ECSデータの読み込みとソフトウエア開発」というのもあげられますが、これはECSという映像編集用のデータをDAW上で読み込むことによって、勝手に時間軸に貼っていってくれる、というようなソフトウエアが開発されたら、非常に楽になるということです。実はもうAvidを利用してAvidデータをNUEND上で展開して、それを時間軸に貼付けていく、ということはもうやっているのですが、それがAvidを使用していないデータも読み込めるようになれば、作業時間短縮につながるということが考えられます。8chのハードディスクレコーダーあるのですが、非常に大きい、重たい機材です。僕自身はまだこれを持ってロケに行ったことがないのですが、あまり使い勝手はよくないと聞いています。それに値段が非常に高いということでそう何台も揃えられるものではないということです。HDひとつ交換するのにも何十万円もかかってしまうので、もう少し、メーカーさんの努力をお願いしている、という感じです。

では、この作品についての質問はありますでしょうか?
Q:はじめの方で、舟に乗っているシーンがあったのですが、その時も同時録音をされていたと思うのですが、舟の音から想像するに、それほど大きな舟ではないと感じたのですが、恐らくボートサイズの舟ですよね。ボートサイズの舟だと通常エンジンは後ろにあると思うのですが、今聞いた限りでは前からエンジン音が聞こえる印象が強くて、進行方向の方にエンジン音が聞こえているような感覚が非常に強かった、というのが正直な印象です。
A:はじめのエンジン音は、LFEを特に強調したものです。音のメリハリをつけるための演出、と考えていただいければと思います。また、ダウンミックスでお聴きになる方も多いのでL,Rにも十分な音量感が必要だと判断しました。
Q:ボートに乗っている時の低音の感じは多分、こんな感じなんだろうな、とは思ったのですが、進行方向がいまひとつ分からなかった、という感覚がありました。
Q:PD6というのは、ハードディスクレコーダーですよね。そうすると、移動しながらの録音中に音が飛んでしまったりすることもあるんじゃないかな、と思ったのですが、そのあたりはどうなのでしょうか?
A:常に、メモリーに一度書き込んでからRAMに書き込んでいますので、音飛びはありませんね。基本構造は、ムービーカメラとまったく一緒です。そのため衝撃にも非常に強いです。われわれも早くハードディスクに移行したいのですが、まだまだ値段が高い、というのが現状です。
Q:PD6の録音時間が片面で25分ということで、基本的には問題ないとは思うのですが、長尺でまわしたい時なんかに「もうちょっと欲しい」ということはありますか?
A:正直ありますね。非常に思います。しかし、携帯するとなると、あの大きさ(8cm)が限界ですね。

Part-4
次は「鎌倉」です。私が録音してきた作品です。お聞き下さい。

(「鎌倉」のサラウンドMixとステレオMixを試聴)

4-1 「ひとりきりでロケに出て後悔しないためには」
今回の「鎌倉」の場合、まったく下見ができませんでした。2003年の大晦日から2004年の元日にかけて行ってきたのですが、収録ポイントがまったくもってわからない、という感じでした。まず「機材は最小限にしよう」ということで、PD6と、オーディオテクニカのマイクとマイクアーム、後はメモだとか名刺ぐらいに絞りました。それでもボストンバッグひとつ分ぐらいにはなりますので、結構重たかったですね。なぜ最小限にしようとしたか、といいますと、ロケに行っていると走らなければならない時が絶対にあるんです! 今回ですと、除夜の鐘の収録ですね。なんと、どんどん鐘をついていってしまうんですね。40分ぐらいで全部つき終わってしまうんですよ。最初に耳にした時「これはやばい!」と思いまして、建長寺から北鎌倉の駅の方まで機材を抱えて走りました。もうひとつの留意点は「イメージトレーニングをする」ということです。何故かといいますと、5chもあるとマイクを取り付けたりとかのセッティングだけで非常に時間がかかってしまって、せっかくのいいタイミングを逃す恐れがあります。なので、例えばケーブルにはあらかじめ色分けしたテープを貼っておいて、その場で接続に手間どらないようにしておくとかですね、アームにマイクをつけたままでも走れるようにしておく、と。そういうことを事前にイメージしておくと、例えばケーブルは腰にまいておく、といった工夫もできるます。また、その時思ったのは、「その瞬間」に「もう一回」というのは、「自然」の場合はありえません、できるだけ収録ポイントをはずさないように、心構えをして行くことが非常に大事です。「とりあえず」というのは禁句です。とりあえず録っておこう、と思って収録した素材は中途半端で、まず使えません。一人でロケに出ている場合は「どこにその音を使うのか」「その音は加工するのか」といった「構成」をはっきりとイメージして収録していかないと、無駄な素材ばかり増えることになってしまいます。それが対象物からの距離ですとかそういったものに関係してきますので、「とりあえず」で録るのではなくて、オフで録るのかオンで録るのか、といったことをあらかじめシビアに考えて、しかも現場に着いたら瞬時の判断で作業していくことが非常に大事だな、と思いました。

4-2 「鎌倉」編の内容について
お年寄りから小さな子供まで、いろいろな人たちがいるだろう、と思って行ってみたのですが、若い人ばかりでした。マイクの前を通っていろいろなことを言って去ってゆく、というのばかりで編集が非常に大変でした。そこにその他の音、例えば鐘の音を合成しています。最後に海の場面があるのですが、ご存じのように、鎌倉の海の手前の国道134号線というのは大晦日から元旦にかけては大渋滞でして、普通に録った状態でベースノイズがすごいんですね。鐘を録った時も、ベースノイズがきついな、と感じたのですが、134号線は暴走族が結構走り回るんですね。遠くを走り回るので、なるべく静かなポイントを探したつもりなのですが、あのぐらいが精いっぱいだった、という感じです。北鎌倉から鎌倉に至る道はすべて通行止めになるんですが、少し高台に上がるとその周囲の音まで全て入ってきてしまうので、ある程度、木などでマスキングされていて、それが切れている場所というのを歩きまわって探しました。ちなみに最後の波音は使える素材が録れなかったので、事前に収録したものを使いました。そうするしかなかったですね。民放のヘリコプターが頭上を何台も飛び回ってですね(一同爆笑)まったく収録になりませんでした。

Q:雑踏を録る時なんですが、手持ちでクロスマイクで録られたんですよね。僕らも経験があるのですが、マイクの前に行くとみんな黙っちゃうじゃないですか。でも、今回のを聞いているとみんなしゃべってますよね、あれは編集でつなげたのですか?
A:つなげたというのもありますし、若者が多かったというのと、正月ですので、酔っぱらった人が多かったということで、みなさん結構しゃべっていましたね。
Q:意外と自然に録れていましたね。あれぐらいしゃべり声が聞こえるというのはなかなかないなあ、と感じました。
A:そうですね。ただ、再生している時に感じたのですが、近くの音はよく録れるのですが、一歩離れた音、というのはなかなか録りにくいですね。そのあたりはもう一工夫必要かな、と感じました。
Q:PD6ですが、録音中は何をモニターしているのですか?
A:いろいろ切り替えられるのですが、基本的には前後2chのステレオですね。時々後ろにも切り替えてみてモニターしています。だから結果だけを聞いて、「あ、こういう音も録れていたんだ」と思うことが多々あります。ですから、ある程度モニターしていたら、一度ヘッドホンをはずして周囲でどんな音がしているのかというのを何回も確認したりすることが重要ではないかなと思います。

Part-5
「サンマルタン運河」をお聞き下さい。

(「サンマルタン運河」のサラウンドMixとステレオMixを試聴)

この素材は、サラウンドは「おまけ」といった感じで録ってきてもらったので、冒頭の街の「ガヤ」などは、ステレオ素材をいろいろ合成して、サラウンドにしてみました。水の音のところはすべてサラウンドで収録してきたのですが、他の町並みはだいたいがステレオで収録しているものをまぶしている、という感じです。ここでは、「IRTクロス」についての僕個人の印象をお話したいと思います。IRTクロスで収録すると「人声」は非常に近く感じます。なぜなのか、はよくわからないのですが、この間InterBeeでゼンハイザーの人に「off感を録るにはどうしたらいいですかねぇ」と尋ねたら「それはテクですね」と言われまして(一同笑い)、そんなこと言わずに何か方法を教えてくれ!、という感じだったのですが・・・。逆に自然音に関しては適度な広がりが得られるのですが、更に奥の雰囲気を欲しい時にどうしたらいいのかわからない、というのがIRTクロスの問題点だと思います。「ベネチア」などで使用している機材は、ステラDATと4chのIRTクロス、これが最近まで使われていたスタイルなのですが(写真1)、現在は真ん中に416と4chの防滴マイク、それをPD6で収録、というスタイルです(写真2)。更に、IRTクロスを基本に同じ幅でセンターチャンネルを追加したスタイルもあります(写真3)。今、NHKの音響デザインでつくているのが、伸縮自在のタイプで、もう少し幅広く録れるタイプです(写真4)。まだ僕はこれをロケで使ったことがないのですが、今度はぜひこれを使ってみようかと思っています。上が部分が「カクッ」となっているのがポイントで、こうすることによって、水平がずれない、という利点があります。ただ、風が吹くと接合部分がカタカタいって、非常に使いづらいですね。ですから、その部分のもう一工夫が必要です。

Q:(伸縮タイプのIRTクロス5chマイクについて)これでセンターの分離ができますか?
A:いま、センターに指向性が狭いタイプのマイクを使ってみてはどうか、というのを試しています。分離は考えどころですね。
Q:これは長くすると、分離が録れてくるということでしょうね。通常のIRTクロスだと幅20~30cmで、分離はかなり厳しいんじゃないかと思います。
A:そうですね。ただ、4chにしてしまうとちょっとだけもの足りなさを感じる、というのが正直なところです。今のところセンターチャンネルは補助的な役割として考えているところです。
Q:ちなみにこれはどのぐらいまで伸ばせるのですか?
A:これは50cmぐらいまで伸びます。更に伸ばそう、という計画もありましす。150cmぐらいが理想的かもしれませんが、あまりに大掛かりになってしまうと、今度は一人でいけなくなってしまいますので、体力との微妙なバランスを考えつつ、いろいろ使ってみて、やってみよう、といった段階です。

Part-6
最後は「プラハ」です。写真右側の天文時計を中心に収録したものです。お聞きください。

(「プラハ」のサラウンドMixとステレオMixを試聴)

 ここでは、僕自身が考えている、「今後の展開」、「音の風景」をどうしていきたいか、ということについてお話しておきたいと思います。まず、地上デジタルラジオが、サラウンド対応になっていくであろうと、それに向けてストックを増やして行きたいと思っています。また、例えば「職人技」ですとか「SL」など、日本にはもうなくなってしまった音を収録していたりしますので、そういった素材を海外に向けての「日本紹介」として使えないか、と考えています。また現在、世界で起きている日本ブームに乗れないか、と考えています。そのためには、今しか録れない音をしっかり録っていく、ということが重要ではないかと思います。
 
6-1 「ハイビジョン4000本」について
今、私が携わっている仕事で、22.2chサラウンドというのがあります。その目標としているところは、「これまでどのメディアでも体験できなかった感覚を体験したい」「前後左右上下のあらゆる方向から聞こえる音に包まれている感覚、音がいろいろな方向に移動する感覚、音が大きな群れとなって移動したり押し寄せたりする感覚を再現できないだろうか」こういったことにトライしています。将来的には愛知万博に出展する予定です。ハイビジョン4000本というのは600インチのスクリーンに投影するもので、200~300m先の観覧車に乗っているお客さんが何をしているか見えてしまう、というぐらい非常に高精細な映像を再生できるシステムです。そのスクリーン上の映像の移動にできるだけあった音像の移動を体感できるにはどうしたらいいだろうか、これまでの左右移動だけではなく、上下移動をなんとかさせてみようではないか、音がスクリーン方向から飛び出してくるのを体感してみようではないか、音が観客に近付いてきて通り抜けていく感覚というのをなんとかできないだろうか、と考えています。スピーカーの配置は、一番上の階層が9ch、中階層に10ch、最下層にセンターとLRとLFEが左右の5chで、合計22・2chです。これにスピーカーを12個縦に並べたスピーカーアレイが左右につきます。これは、レベルを下げると音が(1個1個)offになっていく、単に音量が小さくなるのではなく、リバーブ成分を足していきつつ、オフ感も一緒にだせないか、というスピーカーが両端につきます。動きに合わせた音をどれだけつけられるか、というのがポイントで、スピーカーの位置を感じさせない工夫をしてみようじゃないか、というのを考えていまして、目標としては、「音を浮遊させるにはどうすればいいだろうか」というのが、一番悩んでいるポイントです。今やろうとしていることは、NHKの技術研究所でやっているのですが、その講堂に何十個ものスピーカーを円形に並べて、そこから音を出して、それを何個かのマイクで拾う、それを繰り返すことによって、ある程度スピーカーから浮き上がった音を捉えられるのではないか、ということを考えています。

よく言われるのが「22.2chなんて家庭に入るわけないじゃないか」ということなんですが、ここで検証しようとしているのは、サラウンドスピーカーが一体どの位置にあるのがもっとも効果的なのか、家庭に持ち込んだサラウンドスピーカーは一体どこにセッティングされるのが理想的なのか、というのを探ってみようではないか、ということも考えています。まだまだ試行錯誤で、例えば右側に音を感じさせたい時、天井や左のスピーカーにも少しだけ音をこぼすことによって、実際にそこにいるかのような存在感を出していこう、といった工夫をしています。

では、全体を通してご質問はありますでしょうか?
Q:2chにおとすのはドルビープロロジック2を使用しているとのことなのですが、その意図は?
A:将来的に、家庭でデコーダーをお持ちの場合、疑似サラウンドを体験できます、ということですね。普及のためになにか方法はないかなあ、と思ってつくってみました。実際に放送はしていません。そういうものもつくっておく方が
いいだろう、ということで今回は制作してみました。
Q:デコーダーで5.1chで聴くのと、もともとの音は違いがありますか?
A:全体的に音像が前にある、という感じがします。
Q:後ろの音が定位しないということですか?
A:定位はしているんですが、目の前の後ろ、と言う感じでしょうか。
Q:比較試聴の機会がなかなかないですね。
A:機会があれば聴いていただけるとよくわかると思います。
Q:全体を通してサラウンドのフィールドレコーディングについては、モニターしていても何が録れているのかさっぱりわからない、とおっしゃていましたが、イメージトレーニングも含めて、経験による勘を養うしかない、といったところでしょうか?
A:そうですね、それしかないと思います。何かあればサラウンドマイクを持って収録に出かける、と。ステレオマイクを持っていって、いろいろ聴きくらべをしたりとか、そういうのが、理想的なかたちでしょうね。8chレコーダーがあれば、同時にサラウンドとステレオが録れるのですが・・・。そういう実験もこれからはできるようになってくると思います。僕自身は、ステレオ番組であっても、極力サラウンドで録るようにしています。

小野寺:今日は、ご静聴いただいてありがとうございました。以上で終わりたいと思います。(了)

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「サラウンド入門」は実践的な解説書です