May 10, 2003

30年ぶりのピンクフロイド「Dark side of the Moon」5.1CH SACD

S.P03-05 抄訳:沢口真生

[ はじめに ]
ピンクフロイドの作品「Dark side of the Moon」が発売から30年目を迎えた。
これまでも幾度となく再発再々発が行われ、全世界での売り上げは、3500万枚にも上っている。すぐれたロック音楽はいつの時点でもその時の最高の技術で再発できることを今回も証明している。それはDSD-SA-CDによる5.1CHサラウンド版として実現した。こうした場合に困難さを伴うのは、すでにステレオ版としてリスナーのなかに定着したピンクフロイドの音楽をどう向上できるか?である。ピンクフロイドと20年来のつき合いであるプロデューサー・エンジニアのJames Guthrieは「はたして5.1ch MIX が今以上に彼らの持つ音楽のエネルギーを高められるか?単にサラウンドになっただけでは、全く価値がなくなってしまいますので。」とコメントしている。

ヒントは、1973年にAlan Personsが試みとして行った4CHのサラウンドMIXがある。これをさらに発展できるのではないかと考えたが、さらに課題は「どんなメディアに記録するのがベストであるか?」にあった。結論として採用したのは、Wレイヤー構造で通常のステレオも再生できるSA-CDであった。またこの前例として2002の8月に発売され好評であるローリングストーンズのアルバムがあった。これは2CHステレオのみであるが、そのすぐれた品質で支持されているSA-CDである。

[ 制作の実際 ]
ビートルズやビーチボーイズの録音も同様であったが、ピンクフロイドの録音も2台のアナログマルチトラックレコーダが使用されている。16トラックがすべて使い切るとこれをラフMIX したものが2台目の16トラックレコーダへDolby-Aで録音される。こうした過程を経て録音が完了したテープにはオリジナル・1回コピー音源・2回コピー音源・・・などが混在したものとなる。

CDの64倍のサンプリング周波数を持つDSDでは、この音質差も気になる点である。そこでオリジナルテープから全ての音を同期して再生することがこの点では最良の解決方法である。課題は1973年代には、複数台のレコーダをタイムコードで同期するといった方法もそうした考えもがなかったという点でこれを可能にしたのはアビーロードスタジオのアーカイビストである。

マスターテープのコピーが保存された上で、オリジナルテープはGuthrieのスタジオ「das boot」へ送られた。テープはアライメント信号も入っておらず(当時アビーロードではテープが他に持ち出されるといったことを想定していなかった)。多くの時間を費やして同期したトラックが出来上がり、いよいよMIX の段階までにくることができた。MIX に使用したモニターは、ATC SCM150ASLがメインにSCM0.1-152台がLFE用に使用された。「スピーカの選定は私のスタジオで最も最優先の機材です。これらは構成が簡易ですばらしいサウンドを再現し定位も位相特性も大変すぐれています」

5.1CH MIXはバンドのメンバー抜きで行い、その結果を個々のメンバーへ送って承認を得るという方法で行われた。経過よりも結果を重視したからでdas bootスタジオでMIX した5.1CHが同一モニターを用いて再生された。

完成したSA-CDは、Capitol recordとSONY Electronicsにより2003年3月24日にNYのHayden Planetariumで視聴会が行われた。参加したFrank Wellsは「サラウンド音楽がもはや一部の興味である時期は過ぎメインストリームになったことを示す良い例である。」と述べている。発売は3月30日からであった。(了)

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