December 10, 2002

サラウンド サウンドはどこまで来たか?

By B.Owsinski 2002-12 抄訳:Mick Sawaguchi 沢口真生

・はじめに
サラウンド サウンドが注目を浴び始めて数年が経過した今、我々は、サラウンド サウンドが何を達成し、どこは発展途上なのかを振り返ってみたい。
ある人は、大いなる期待と予測をもってサラウンドの発展を希求したし、別の人は考えたよりも立ち上がりが遅いことに多少の失望といらだちを感じている。我々が今まで来た道をここで振り返ってみることで、何らかの手がかりが見えて来るはずであろうと考えてまとめてみることにしたのが本レポートである。

・制作現場
サラウンド制作の現場は、現在この方式を今までの「ステレオの兄弟」として認知し、多くの変革が生じている。機材面に関しては従来仕事をしようと思っても自分が欲しい機材が無いといった現象は減っており、ステレオ機器を選択するのと同様に、多くの選択肢がサラウンド機器に出現している。
マイクロフォンを例にすれば、SOUNDFIELD社HOLOPHONE社SPL/BRAUNER 社ATOMOS システムなど手軽にサラウンド録音ができる製品が入手できるようになった。コンソールに関しては今まで最も弱点であったが、以前に比べはるかにサラウンド機能が充実してきたといえる。製品例でいえば、EUPHONIX SYSTEM-5.AMEK MEDIA 5.1.SONY DMX-R 1000 .MACKIE d8Bなど機能とコストをバランスさせた製品群の登場が目的別の選択を容易にしている。
エフェクター関係は、サラウンド対応が最も遅れ、エンジニアを苛立たせていた分野であったが、TC-ELECTRONICS S-6000やLEXICON 960L等の機器が登場しメインツール化しつつある状況である。6チャンネル構成のコンプレッサーについてもDRAWMERやALAN SMART社を始め各種登場してきた。
96KHz、24bitといった高品質オーディオ用の製品も、この分野で各種の製品群を提供しつつある。
マスターとしてのフォーマットは、テープベースのTASCAM DA-98からMO-ディスクタイプのGENEX GX-8500や、各種ハードディスクベースのフォーマットが選択可能である。ハードディスクレコーダについては、DAW機器の初期設定機能としてサラウンド対応の機能を取り込み始め、ユーザへの利便性をアピールするまでに至っている。DIGIDESIGN社.MOTO.STEINBERGを始め各社各様の多彩な製品がサラウンド対応を競っている現状である。
サラウンドエンコード機能もプラグインソフトや、単体としてKIND of LOUD.MINNETONKA社などからDolby DigitalやDTS エンコーダーが提供されている。モニタースピーカーについても、各種サラウンドモニターシステムがパッケージとして提供されている。この中でも先進的な設計思想を持った製品例としてBLUE SKYがあげられよう。これはバスマネージャーや各種コントロール機能を一体型として盛り込んでいる点が特徴である。
既存のステレオシステムを活用してサラウンド制作を行いたいユーザーに対してはMARTIN SOUND ミMULTIMAX.ADGIL DIRECTOR.STUDIO TECH-STUDIO COMM等が有効活用の手足となってくれよう。マスタリング機器は対応が最も遅れていた分野だが、ここにもZ-SYSTEMS.WEISS.JUNGER社などが台頭してきた。既存のステレオマスターからサラウンド制作を行いたいユーザに対してはTC-ELECTRONICS UNWRAPやZ-SYSTEMなどがプロセッサーを提供している。
レコード会社の動きはどうであろうか・DVD等でのサラウンド制作は当初乗り気ではなかったようであるが、ここにきて各社ともDVDの制作を重要なマーケットと位置づけ始めている。「SPECIAL DIVISION」担当のA&Rも実現性を検討しはじめているが、動きとしてはまだゆっくりしている。
映画業界はホームシアターではサラウンド音声が当然といったユーザからの要求を受け、活発なサラウンド制作を行っている。
アーティストの中ではどうだろうか?彼らの中にも今までの2チャンネルでは表現できなかった新しい表現や、今までと別次元の手法の可能性に気づきはじめた人々もいる。こうした例ではICKY FLIX.STUDIO-VOODOO等があげられよう。


・販売 配給
サラウンド音声の供給先は、現在2カ所である。ひとつは映画館で、もうひとつは家庭である。家庭へは多くがDVDで配給され衛星やケーブルからの配給はまだ少数である。これは周知の事実であるが、サラウンドサウンドが配給された最初は映画館からであるが、今や多くのメディアで一般的な音声方式までに認知されるに至っている。DVDでサラウンド音声でないソフトを見つける事自体が難しくなったという状況がその進展ぶりを表しているだろう。
家庭での再生機器のサラウンド対応もかつてのCD再生機やVHS-VCRに比べてもはるかに急速度で拡充されている。アメリカ国内のDVD保有率は30%に及び2000万の家庭がDVDソフトを楽しんでいる。またC.E.Aの予測では2004年までに17500万家庭にまで浸透するだろうとしている。
DVDソフトの制作数は、1997年の販売開始以来46000万タイトルとなり、さらに8000万タイトルが2001年第二四半期で発売されている。これは先年同期間で比較しても2.5倍の発売数である。今現在をみても10000タイトルの映画や音楽DVDが市販中である。直近の統計ではDVD-MUSICで950タイトル、DVD-Aで165タイトルが販売されている。今やユーザは再生環境の如何に関わらずDVDではサラウンド音声を当然のこととして期待している状況である。

・カーオーディオ
今日多くのユーザは家庭再生以上に、車内で音楽を聴く機会が増えている。
しかし、多くのユーザは簡易に車内でサラウンド音声が楽しめる環境が出来るまでは機器の更新をするつもりはなさそうである。サラウンド音声に日常的に関係している我々も、カーオーディオ向けの多種多様なサラウンドの可能性が提示されることで最も実用的で受け入れやすい方法が見いだせると予測している。昨年はALPINE.SONY.PIONEER.PANASONICといったカーオーディオメーカーがDOLBY DIGITALやDTSデコード出力を持ったDVDプレーヤを投入、なかでもPANASONICは、初のDVD-V/Aユニバーサルモデルを登場させている。車の製造メーカがこうしたことに立ち後れているのは新車の設計に3-4年の期間がかかるためである。しかし、VOLVO C-70モデルではビルトインしたサラウンド対応カーオーディオが搭載されている。残念ながら搭載機器はDOLBY PRO-LOGICのため、現在のディスクリートサラウンドソフトを楽しむことはできないが・・・・
前回のCE-SHOWに行った人なら気が付いたかもしれないが、家族向けのレジャーカーやミニバンの後部座席で家族がゲームを楽しむためのサラウンド再生が話題になっていた。この流れは2002年にブレークするかもしれない。
ドライバー席で楽しめないではないか?と思うかもしれないが、車メーカーは 2003年にはカーオーディオの市場の20-30%がDVDになるだろうと予測している。さらに最新のサラウンド対応DVD-AやSA-CDモデルは2004年の登場を予測している。
これまで俯瞰してきたことから「サラウンドは活発に運動している」と言ってもいいだろう。悲観的な予言者の存在があるにも関わらず一定の地位を築いたと言って良い。「このまま進んでもいいのだろうか?」勿論答えは「GO」である。「道のりは遠いのだろうか?」「多分そうだろう」「歩みは加速されるのだろうか?」「これまで予測したよりもはるかに速い進展をしている」
でもまだ長い道のりだろう。でも来年何が起こるか早く見たい気持ちでいっぱいでもある。(了)

・付属資料
PROJECT STUDIOから(STUDIO VOODOO)
サラウンドという不思議な世界へ一歩足を踏み込んでみると、入り口のドアが大きく開いているのが見えます。3名で始めたSTUDIO VOODOOは、サラウンドが持つ技術的、芸術的優位性を認識し私たちが手がけるワールドミュージックの世界に反映したいと考えました。
こうした背景には70年代のPINK FLOYDや80年代のバイノーラル録音があり、我々はいつも2チャンネル以上の音楽表現を考えてきました。このためスタジオではSPATILIZERなどのプロセッサーを使用し立体的な音楽を創造し空間表現に努めてきたのです。しかし満足のいく結果ではありませんでした。
DTS-ENTERTAIMENT社が我々に6.1CHでの制作の機会を与えてくれて大きな経験ができました。サラウンド音声制作は、全く新しい制作工程とアイディアや手法そして挑戦を与えてくれるという点です。
新しい工程は新しいツールを必要とし、我々はその実現のために高予算から低予算まで我々のMIXをサポートしてくれるツールを見いだすという使命を持ちました。SOUNDFIELD-MICは我々が必要とする空間とアンビエンス情報を正確に録音するための道具となりました。またSONY DRE-S777やAKAI HEADRUSH- DELAY.FEDERATION BPM D-JツールなどがサラウンドMIXで有効なエフェクターとなりました。
別の面で新しいルールは、スピーカ配置の問題です。きちんと設計されたスタジオであれば、ほぼ満足のいくサラウンドリスニング環境が出来上がっていますが、我々のようなPROJECT STUDIOでは様々な場所に座って、様々な方向に耳を向けてモニタリングしてみないと良い結果が得られません。特に我々の制作する音楽のコンセプトがリスナーをいつもフロントのスピーカむきに強いているわけではなく、リスナーがどこを向いていようともセンタースピーカの音が中心点に存在するような設計をしています。
この制作が完了した時点でDTSからDVD-Aでの発売を打診されました。このためには純粋音楽以外にも付加すべきコンテンツの制作を行う必要が生じてきます。我々は音楽にあわせた写真や15分の動画、ナビゲーション画面やダウンMIX、スクリーン画面用のBGM、バイノーラルMIX等を完成させ、さらに音楽マスタリングとは全く無縁なオーサリングやスキルを経験したのです。
これは人によっては挑戦でありある人には長い苦痛でしかないでしょう。
本作品は2001年のBEST DVD-A CREATIVE EXCELLENCE を受賞しました。

・録音現場から(R.Tozzoli)
マルチチャンネルMIXが登場する前は何が起きていたでしょう?マルチチャンネル録音ではないでしょうか・・・このために必要なのは、事前計画と予測と良いマイクロフォンでした。しかし現在のPROJECTで私がプロデュースしたり、エンジニアリングを担当する場合は、当初から「マルチチャンネル サラウンド」での発売を念頭にいれた制作が行われます。
アルゼンチンのギタープレーヤーROMEROの場合は「LIVE at TRINITY CHARCH」というアルバムでサラウンド制作し、今進行中のPROJECTではいくつかの異なった響きの部屋でベーシックトラックを録音しています。
サラウンド制作で重要な点は、さりげなく部屋の響きを収録することで、そのためのマイキングは最終的な作品の質を左右する重要なテクニックです。
ROMERO の音楽はとてもたくさんのパーカッションパートがあり、私はこれらをサラウンドの要素として使いたいと考えました。これ以外のボーカルやギター、オーバーダブした SAXなどはサラウンドリバーブで空間を作りました。ベーストラックは、N.YのBEAR TRACKSスタジオの石と木で出来たすばらしいLIVE ROOMで収録し、次の曲は出来たばかりのN.Y CLUBHOUSE STUDIOで録音。ここは木張りのすばらしい響きを持ったLIVE ROOMがあります。ここではSONY DMX-R100コンソールからPRO TOOLS 48KHz/24bitへ録音しました。モニターはGENELEC 1031とLFE用に1094をセットアップしました。
サラウンドモニタリングの恩恵は、適切なマイキングを得るための修正が非常にやりやすいという点です。
パーカッションプレーヤのDAVID のキットはLIVE ROOMの真ん中にセットアップし、ROMEROはブースに、またBsのMarioの出力は2チャンネルのラインで送られてきます。パーカッションキットのマイキングはフロント正面に、B&K4007ペアをリア用にはB&K 4011をフロントと対照的に配置し、高さは少し高くしました。楽器毎にスポットマイクは使いましたが、この4本のB&Kがサラウンドサウンドのキーとなります。この4本をFL-FR/SL-SRに定位させると、あたかもLIVE ROOMで演奏している空気そのものが再現出来ます。ROMEROの収録ではSONY C-800Gを2本使い、1本は口元に他方を体の響きを録音するために使いました。我々がこの録音から得たのは、実にリアルな音楽と音場でした。オーバーダブのなかでVin,Cello violaのストリングスセクションではこのサブMIX 出力をLIVE ROOMへ返しその響きをEARTH WORKS TC-30K/QTC-1の組み合わせで再び録音しました。このことで空間表現はさらに高まったと思います。ベーシックトラックをサラウンド収録することで、MIX-DOWNでのアイディアがさらに広がり、SONYやYAMAHAやTC-ELECTRONICS社のサラウンドリバーブを付加する場合も、音質が実に無理なく馴染ませることができ、EQやコンプレッサーといったエフェクト処理も殆ど必要としませんでした。

・ツール開発の現場から(B.Michaels)
コンスーマDVDの成功はプロ用DVDのデベロッパーにどういった影響をもたらすのだろうか?この疑問は私がDVD-Aの制作に関わるようになって以来数年間頭に焼き付いていることです。いつもコンスーママーケットの動向の一歩先を見ようとしていますが、私の録音やマスタリングの経験からDVD-A へのIK移行は大変自然に感じたからです。しかしDVD-Vの開発に携わった経験から言えば、DVD-Aの開発ツールや市場への適合性にはもうしばらくの期間が必要だと感じています。まずそれを必要とする強力な要求が市場になくてはなりません。DVD-Aの中にどんなモノを入れるかで長い時間がかかりました。その中にはコピーガードをどうするかも大きな争点でしたが、それよりもDVD-Aのオーサリングやディスク製造のためのツールを誰が作るのか?がより重要な問題でした。コピーガードについてはDVD-FORUMが仕様をまとめる努力をしてくれました、ディスク製造ツールについて今は2義的な扱いとなりより内容について関心が持たれるようになりオーサリングについては様々な要素が包含された形となりました。
ソフト制作者は、コンスーマ側あるいは業務用のいずれかで何らかの前進があることを期待しています。DVD-Aを聴きたい!あるいは制作側は効率よくDVD-Aを作りたい!・・・・等です。コンスーマ側ではDVD-Aというフォーマットがあることすら周知されていませんし、制作側では効率の良いディスク制作ツールが提供されていないため制作に多くの工程を費やさなくてはなりません。また販売側はタイトル制作がDVD-V並にできることを希望していますが現実には高価な機材とオーサリングソフトさらに長い時間を要求しています。
DVD-Aのソフトは当初昔の名作マスターの焼き直しで出発しました。今はDVD-Aにむけた内容をはじめから考えた制作が行われるようになりつつあります。この観点はDVD-Aを発展させる上で重要なポイントです。

カーオーディオの現場から(D.Navone)
今年はカーオーディオ業界が「サラウンド」に関心をよせる初年度となりました。1984年にテキサスのHOUSTONで開催された第一回国際カーオーディオコンテストの規範を書いた時「もしカーオーディオで全帯域が再生可能」となればすばらしいことだと書きました。このIASCA憲章は将来のカーオーディオのあるべき姿を想像しながら書かれたものです。再生音場は家庭での再生と等価なフロントステレオ音場をイメージし、かつ家庭では後方からの反射があるため(REAR FILL)これを模してカーオーディオの配置は高域スピーカを車内の後方に設置しました。この方法は反面正確なステレオ音場再現を損なうというデメリットを持つことになりますが、後にモバイル サラウンド サウンドの出現に結びついていきます。再生機にDELAYや、帯域分割手法や、強力なDSPエンジンを採用することで、疑似サラウンド音場が出来上がったわけです。
しかし、私の考えではこのいずれも失敗だったと言えます。サラウンド情報とはあくまで全体で構成されていなければならないからです。
カーオーディオ技術が過去3年でサラウンドに取り組んだ内容はすばらしい進歩だと言えます。いまでは殆どのカーオーディオ メーカがサラウンド対応の再生機を発表しています。もとよりホームシアター並の音場が密閉空間車内で得られるわけではありませんが試行錯誤とメーカ同志の競争原理が一層の改善に拍車をかけることでしょう。
DTS技術のおかげでカーオーディオでもサラウンドが楽しめるようになりカーオーディオ品質チェックディスクにもサラウンドのソフトが入る時代になりました。我が社AUTOSOUND社はこのチェックディスクの制作に関わることができサラウンド音声がどう評価されるか関心を持っています。(www.autosound2000.com)このディスクには通常のL-R他にCやLFEそして実際録音されたリアサラウンド音声が含まれこれらの評価ディスクでカーオーディオでのサラウンド品質を向上させることができます。
実際の所カーオーディオでベストなサラウンド音場を設計することは容易ではありません。ビデオモニターや多くの調整箇所、スピーカ配置や設置方法など課題がステレオシステムにくらべ山積しています。ステレオの場合は低域成分の可否が品質の証明となりますがサラウンドの場合は低域が車内を移動しても認識できるかどうか?がポイントとなります。
繰り返しますがカーオーディオで優れたサラウンド再生環境を得るにはまだまだ解決しなければならない課題が多くあります。
しかし「サラウンド再生」というジャンルをカーオーディオに加えることでモバイル環境での再生品質向上のための重要な要素となることは間違いありません。(了)

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