August 10, 2002

5.1ch サラウンド モニタースピーカの校正手順

BY Bobby Owsinski 抄訳:By Mick Sawaguchi 沢口真生
                                      
[ はじめに ]
ステレオモニタリングにおいて部屋の特性に応じたチューニングが必要なことは、万人に良く知られた事実です。しかし、5チャンネルのサラウンドモニタースピーカーとサブウーハを設置した場合の校正方法については、多くの誤解とたくさんの議論が混在している状況です。
みなさんが、いくつかのスタジオをまわり技術担当者と話せばその事実が容易に理解できるでしょう。あるスタジオは基準レベルより10dB高いサブウーハレベルで校正し、別のスタジオでは逆に10dB低く、あるスタジオは4dB高く校正していたりします。まさにミステリアスな現象で校正に用いた正確なツールは何と、目であったり耳を頼りに校正している状況です。
ここでは、スタジオごとのばらつきの生じない校正方法と相互関係について述べ部屋がもつ特有の「鳴り」については省いて純粋に正確なレベル校正方法についてのみ述べます。

1 基準レベル(REFERENCE LEVEL)
まずやらなければならないのは、5台のサラウンドスピーカの基準レベルを一致させることです。スタジオで制作する内容によっては基準レベルについて厳密な校正を行う必要のないものもありますが、映画音響のスタジオでは基準レベルが85dBと統一されています。これは素材毎に異なったモニターレベルにすれば全体を統一したレベル管理ができなくなることと、一方の映画館での再生環境をどこでも統一しておく必要から基準化された値です。このレベルが可変されることはありません。
では、音楽ミキサーの場合はどうでしょうか?彼らは様々なモニターレベルで煩雑に変化させています。例えばまず標準的なレベルで聴いてみて(例85dB等)次に低域成分をチェックするために10dBほどレベルを大きくし、つぎに全体のバランスをチェックするのに72-75dBといった小さなレベルで聴いてみます。ですから常に一定の基準となるモニターレベルは存在せず、再生側のリスナーでも同様のことが言えます。
TVの場合は、どうでしょうか?ここでは小さなモニターレベルの方が家庭で再生された場合にバランスを維持出来るという点で、79dBのレベルが基準レベルとして用いられています。これがもし映画のように85dBといったような大きなレベルでモニターしたとすれば、家庭で再生された場合に、肝心な台詞が聞こえなくなる現象を生じます。
まとめると以下のレベルを基準として推薦します。

映画音響 :85dB SPL/CH
TV   :79dB SPL/CH
音楽   :79---82dB SPL/CH

もし小規模な部屋で、小型のサラウンドスピーカをミキシング席の近傍に設置して使用した場合、リアのレベルはフロントに比べて2dB低く設定しておくほうがバランスが良いとDolby社は推奨しています。

2 サブウーハの配置
校正を行う前に、優先すべきは部屋の中でサブウーハを、どこに設置するのが最適かを見つけることです。理想的にはサブウーハからの特性がフラットで部屋の影響で生じる定在波からの影響が最少であるポイントということになります。これを見つける唯一の手段は、スペクトルアナライザーを用いることです。
またサブウーハ自体が他のスピーカとクロスオーバーポイントで位相が同相となっていることです。これをチェックするには、部屋の最少距離ポイントに立ちサブウーハに付属している位相反転スイッチを切り替えてみて音響的な位相がスムースな方を選択します。

3 校正手順
メインモニタースピーカの校正方法は、2つのやり方があります。リアルタイムアナライザー(RTA)を用いる方法とSPLレベルメータを用いる方法です。
リアルタイムアナライザー(RTA)を用いる方法は、最も正確な校正方法です。
測定エリアは各分割帯域(バンドレベル)で70dB SPLとなるよう調整し全帯域を総合した値が85dBになれば校正完了です。
(70dB+10log31=85dB)
SPLメータを使用する場合は、スピーカから再生しているピンクノイズの各帯域で最も高いレベルを読んでいるので、正確なレベルを表示している訳ではないと言う点に留意しておかなくてはなりません。ウエイティングカーブの選択は、C-ウエイトでSLOW表示を選択しこれで85dBとなれば完了です。
ミキシング席に座りメータを胸の高さでセンタースピーカにむかって45度上向きにメータのマイク部を向けます。体から離して反射の影響を防止しフロントのL-C-Rのレベルを読みとります。リアのSL/SRについては、そのままの姿勢で体を測定する側のスピーカの方へフロントから90度振り、壁向きのレベルを測定します。
測定は、必ず各チャンネル毎に行い、不要なチャンネルはミュートしておくことを忘れないようにしてください。

4 ベースマネージャーを使用する場合のサブウーハの校正
ベースマネージャーをモニターに使用する場合は、サブウーハ成分が2つの要素の総合値となります。ひとつは、5チャンネルの信号成分から80Hz以下を抽出した信号成分と単独にLFE信号成分として創成された信号成分です。
測定には、市販のテストテープを使用するのが安全確実な方法としてお勧めです。
テストテープを基準レベル(-20dB SPL)で5チャンネル再生すると20-80Hzのフィルタリングされた信号がサブウーハチャンネルへ出力されます。RTAで各帯域毎に70dBとなるよう調整し(メインモニターレベルを85dBで調整の場合)全帯域の測定値が79dBとなるよう調整します。
次にLFE信号単独での調整に移ります。LFEレベル-30にセットしたテストテープを再生しRTAで同様に各帯域毎70dBとなるよう調整します。これで全帯域での測定値が79dBとなるよう調整します。テストテープのLFEレベルを-20dB FSで使用した場合は、各測定値は10dB増加し各帯域値で80dB、全帯域値で89dB SPLとなります。
こうしたテストテープを使用しない場合の調整は、フィルタリングしていないピンクノイズをコンソールから出して測定することになります。

5 ベースマネージャーを使用しない場合のサブウーハの校正
RTAを使用しないで、簡便なラジオシャック製レベルメータを使用する場合は、低域の応答特性に単体のばらつきがあるので注意してください。
メータはC-ウエイトで、SLOWモードにしピンクノイズにLPFをいれ20-80Hz帯域にします。この状態でメータ指示値が基準レベルより+4dB高くなるよう調整します。例えばメインモニタースピーカの基準レベルを85dB SPLで校正したとするとサブウーハの基準レベルは89dB SPLとなるわけです。
サブウーハの指示値はスピーカの設置場所やメータによって変動しますが(+3~5dB SPL)おおむね+4dB高く指示するレベルを測定値とします。
これでバンドレベルの全帯域で基準レベルに比べ10dBのゲインを確保したことになります。

6 全体のレベル関係は?
サブウーハのレベル校正には、ひとにより異なった方法が用いられておりみなさんは混乱するかもしれません。ある人は,基準レベルより-10dB低くサブウーハを校正していますが、これは-10dB低く信号を送ることで相対的に基準レベルより10dB分高いバンドゲインを確保していることになります。
また+10dB高く調整する場合は、LFEに送るレベルが、メインチャンネルと同等のレベルとなります。20-80Hz帯域でRTAの指示値をみるとバンドレベル各帯域値で80dB SPLとなり全帯域値では、89dB SPLとなります。
また基準レベルから+4dB SPL高く設定すると言う人の方法もメインチャンネルレベルにくらべバンドレベル値が10dB高く、全体値では89dBを指示しますのでメインチャンネルの全体値85dBにくらべ4dB高い指示をすることになります。
どの方法でも指示値は同じです。
まとめると、フィルター(20-80Hz HPF)したピンクノイズでメインモニタースピーカを基準レベル(例85dB SPL)に調整。
LFEレベルは20-80Hz LPFピンクノイズで、基準値より4dB高い89dBに設定し部屋の影響を極力受けない場所を選択して微調整する。

* 沢口注:RTAを用いた場合に使用する用語BAND LEVELとALL PASS LEVELとは、
  1/3octバンドで31分割したひとつひとつの帯域
(例 20 Hz 25Hzノノノ..20KHzまで31分割した各バンド域)が指示する値を意
味し, ALL PASS LEVELとはこれらの31バンド域全体を総合して指示される
値を意味している。(これがSPLメータでの指示値となる)

* RTA測定しバンド値が70dBとなればこれらを総合した全帯域値は、85dBとなる。
  SPLメータではこの全帯域値を直読した値と考えれば良い。

31 バンドで各バンド値が70dBだと総合して:70+10log31=85dB
LFEレベルでは、バンド値80dBでバンドが7バンド(20-80Hz)
なので80+10log7=89dBとなる。全体指示値で+4dB高くなるのはこの結果である。
+10dBという値は、バンド値での指示値なので混同しないよう。(了)

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